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「何も思わない人は、いない。」Jリーグ観戦体験アンケート890件の全記録

引退したサッカー選手に、何ができるのか。

試合には出られない。練習にも参加できない。でも、スタジアムには行ける。観客席から試合を見て、帰り道に思うことがある。「ここ、もうちょっとこうだったらいいのに」と。

それは自分だけじゃない。隣に座っていた人も、ゴール裏で声を枯らしていた人も、初めて来た人も、相手チームのサポーターも、みんな何かを思っている。

その声を集めて、可視化して、次に活かす。 それなら自分にもできるかもしれない。

そう思って、個人的にアンケートを始めた。


砂森和也(すなもり かずや)です。

元プロサッカー選手。Honda FC、カマタマーレ讃岐、アスルクラロ沼津、鹿児島ユナイテッドFC、AC長野パルセイロ。5クラブ、13年間プレーして、引退しました。

現在はAC長野パルセイロのコーポレートアドバイザーを務めながら、個人の活動として観戦体験アンケートの実施と記事執筆を行っています。

2026年シーズン、AC長野パルセイロのホーム開幕戦から3試合連続で、スタジアムの観戦体験に関するアンケートを実施しました。


第1回:開幕戦(2/21)vs コンサドーレ札幌

  • 入場者数:5,291人 / スコア:1-1(PK負け)

  • 回答数:317件(回答率6.0%)

  • 自由記述量:約3.6万字 / 締切:1週間

第2回:大宮戦(2/28)vs RB大宮アルディージャ

  • 入場者数:3,496人 / スコア:1-2

  • 回答数:158件(回答率4.5%)

  • 締切:3日

第3回:ダービー戦(3/14)vs 松本山雅FC

  • 入場者数:9,792人 / スコア:0-5

  • 回答数:415件(回答率4.2%)

  • 自由記述量:約8万字 / 締切:翌日

3試合で計890件。 自由記述は合計10万文字を超えました。全部読みました。

この記事は、その890件から見えたことを書きます。

アンケートの中身ではなく、アンケートそのものの設計と運用について。どんな質問項目にしたか。なぜその設計にしたか。3回やってみて何がわかったか。何がうまくいって、何が足りなかったか。

全文無料で公開します。

このアンケートは、答えてくれた人がいるから成り立ちました。そこで得た知見を自分の中に留めておくのはもったいない。次に同じようなことをやりたい人がいたら、使ってほしい。 サッカーに限らず、「お客さんの声を集めたい」と思っている人に届いたら嬉しいです。


💡可視化の価値 ── 何も思わない人は、いない

スタジアムに来る人は、わざわざ来ている。

休みの日に、お金を払って、時間を作って、スタジアムまで足を運んで、試合を見ている。

そういう人が、何も思わないわけがない。

「スタグルが美味かった」「導線がわかりにくかった」「スタッフの対応が良かった」「駐車場が足りない」「また来たい」「もう来ない」。

一人一人の頭の中に、何かがある。絶対にある。

ただ、その声はそのまま消えていく。 帰り道に思ったことは、翌日には薄れる。1週間後にはもう覚えていない。

アンケートは、それを消える前に拾う手段にすぎない。

やってみて思ったのは、9,792人が来ているのではなく、9,792通りの物語がスタジアムに集まっているということ。入場者数は数字だけど、その裏側には一人一人の体験がある。

わざわざお金を払って、時間を使って、現場に来た人の方が、現場のことをよく知っている。

実際、3回のアンケートを通じて見えたのは、現場でしか気づけなかったであろう問題だった。

駐車場の問題。ダービーだけで102回、自由記述に書かれていた。アウェイ側からビジョンが見えないという構造的な問題。スタグルの行列が50分を超えていたこと。

これらは、現場の人が教えてくれたことだ。


🏃 個人でやるということ

個人の唯一の武器はスピード

一人でやるから、確認のステップがない。承認も、上長への説明も、関係部署との調整もない。

開幕戦の後、「アンケートやった方がいいかも」と思って、すぐに始めた。思いついてから実行まで、ほぼゼロ距離。 これが個人の最大の強みだった。

公表するかどうかの判断も自分一人。だから集計したらすぐに出せる。

正直なところ、スピード以外に個人の強みはない。

信頼度で言えば、クラブがやった方が圧倒的に上だ。改善の実行力も、組織にしかない。アンケートで「駐車場を増やしてほしい」という声が集まっても、自分には駐車場を増やす権限がない。

個人にできるのは、組織が手の回りにくいところを、スピードで補うことだけだ。

組織には組織の強みがある。クラブがやれば改善を直接実行できるし、回答者の信頼も得やすい。ただ、どうしても関係者間の合意が必要になるぶん、動き出しには僕の方が速い。

個人と組織は対立するものではなく、補い合うものだと思っている。 組織が拾いきれない声を個人が拾って、それを組織に届ける。改善するのは組織の力。その循環がうまく回ることが一番いい。

今回の座組

自分の場合は、元選手という立場が効いた。クラブ側の事情もある程度分かるし、サポーター側の気持ちも分かる。両方を知っている人間が間に立つ形になった。

現場の人には申し訳ない気持ちもあった。自分がアンケートで問題を可視化することで、現場の負担が増えるかもしれない。でも実際にアンケート結果を踏まえて現場が改善してくれた時は、素直に嬉しかった。

現場が忙しくて手が回らないところに、自分のスピードで入り込む。 それが個人でやることの意味だった。


⚡️スピードがすべて

アンケートには4つの工程がある。集める、分析する、公開する、改善する。

全部、早い方がいい。

STEP1:早く集める

回答の質は、鮮度で決まる。

試合直後に書いてもらえれば、感情も記憶もハッキリしている。「あの場面で導線が混んでいた」「スタグルの列が長すぎた」「スタッフの対応が嬉しかった」。具体的な体験が出てくる。

仮に「1週間前の夜ご飯に何を食べたのか?」のアンケートをしても、なかなか思い出せないのと同じだ。

実際、開幕戦では締切を1週間に設定したが、回答の大半は48時間以内に届いていた。1週間待っても、その間にほとんど回答は増えない。

3回目のダービー戦では、締切を翌日にした。翌日23時59分まで。これが一番よかった。

  • 開幕戦:締切1週間 → 317件

  • 大宮戦:締切3日 → 158件

  • ダービー戦:締切翌日 → 415件

締切を短くしても、回答数は減らなかった。 むしろダービー戦は最多だった(入場者数の差はあるが)。

短い締切は、回答者にとっても「今すぐ書こう」というきっかけになる。 長い締切は「あとで書こう」になって、結局書かない。


STEP2:早く分析する

集まったデータを寝かせない。

鮮度が高いうちに分析して、傾向を掴む。

自由記述が10万文字を超えると、全部読むだけで時間がかかる。でも、ここを後回しにすると、どんどん関心が薄れる。自分の関心も、回答者の関心も。


STEP3:早く公開する

アンケートに答えた側の気持ちを考える。

自分がアンケートに答えて、その結果が公開されたら嬉しい。「自分の声がちゃんと集計されて、形になっている」と分かる。面白いし、次も答えようと思える。

逆に、公表されなかったらどうか。アンケートに答えた意味があったのか分からない。 次の機会があっても、たぶん答えない。

アンケート結果の速報性は、アンケート自体の信頼に直結する。

今回は、速報版と詳細版の2段階で出す設計にした。

  • 速報版はXで。 件数が少ないデータや、すぐに共有できるグラフ・数値。速さが命。

  • 詳細版はnoteで。 自由記述の分析、テーマ別の整理、3試合の比較。時間をかけて丁寧にまとめる。

公表する場合は、最初から「いつまでに、どこに、どの形式で出すか」を設計しておくことが大事だ。集計が終わってから公表方法を考えていたら、遅くなる。


STEP4:早く改善する

アンケートの声を受けて、改善が早いほどいい。

次の試合までに直せるものは直す。直せないものは、理由を含めて伝える。

これは個人ではコントロールできない部分だが、スピード感は意識していた。

全工程において、早さが正義。


🎯何を聞くか ── 目的の設計

アンケートは、目的から逆算して設計する。

「何でもいいから声を集めよう」で始めると、データは集まるが、改善にはつながらない。何を改善したいのか。そのために何を知る必要があるのか。知るために何を聞くべきか。この順番で考える。

今回の目的

今回の目的は「スタジアムの観戦体験を改善すること」だった。

試合の勝ち負けではなく、スタジアムに来た人がどんな体験をしたか。入場はスムーズだったか。スタグルは楽しめたか。スタッフの対応はどうだったか。また来たいと思えたか。

この目的に沿って、質問を設計した。


改善が目的なら、良い声だけ集めても意味がない

「良かったです」「楽しかったです」だけ集まるアンケートは、気持ちいいけどあまり役に立たない。

改善したいなら、気になった点を聞く必要がある。ただし、自由記述だけだと「何が問題か」の全体像が見えにくい。選択式で定量的に拾いつつ、自由記述で定性的に深掘りする。 この組み合わせが大事だった。


目的が変われば、設計も変わる

たとえば目的が「離脱の防止」なら、設計はまったく違うものになる。

「過去に1回来て、来なくなった人」に聞くべきだ。なぜ来なくなったのか。何がきっかけだったのか。それはアンケートの接点を作ること自体が難しいかもしれないが、設計としてはそういう方向になる。

アンケートは手段の一つにすぎない。新規のお客さんを増やしたいなら、そもそもアンケートの接点すらない人にアンケートのしようがない。目的によっては、アンケートではなく別の施策の方が適していることもある。


細かすぎると答えづらくなる

「試合前のスタジアム到着時に最初に目にしたものは何ですか」みたいな質問は、答えるのが面倒くさい。

質問が多すぎても離脱する。試合後の疲れた体で、帰りの電車の中で、3分で答えられる分量。これが今回の目安だった。

改善に必要な情報を拾えて、かつ、答える側に負担をかけない。このバランスが一番難しい。


📋実際のアンケート項目 ── 何を、どう聞いたか

ここから、今回使ったアンケートの全項目を公開する。

同じようなアンケートを作りたい人が、そのまま再現できる粒度で書く。

質問の全体構成

全8問。所要時間は約3分。

Q1. 観戦日を教えてください(日付入力・必須)

試合ごとにデータを切り分けるための質問。同じフォームを使い回す設計にしたので、どの試合の回答かを判別するために入れた。

Q2. あなたの立場を教えてください(単一選択・必須)

  • パルセイロサポーター(5年以上)

  • パルセイロサポーター(1〜4年)

  • パルセイロサポーター(今シーズンから or 初観戦)

  • 相手クラブのサポーター

  • どちらでもない(サッカーファン・地元住民等)

同じ試合を「誰の目線で見たか」で分ける。 これが一番重要な属性データだった。

実際に集計してみると、ホームサポとアウェイサポで満足度が大きく異なった。開幕戦では、ホームサポの満足度が3.69に対して、アウェイサポ(コンサドーレ)は4.15。大宮戦はさらに差が開いて、ホーム3.91、アウェイ(大宮)4.57。

ホームサポーターは改善への期待が高いから厳しくなる。アウェイサポーターは「初めて来た場所」として新鮮に体験するから高くなる。 この違いを可視化できたのは、立場を聞いていたからだ。

Q2.5. 今回の遠征について教えてください(単一選択・必須・相手サポのみ表示)

  • 前泊して観戦

  • 当日入り・当日帰り

  • 当日入り・泊まって翌日帰り

  • 長野近辺に在住

相手サポーターにだけ表示される質問。条件分岐を使った。

これは地域経済への貢献度が見えるデータになる。大宮戦では79.3%が日帰り。開幕戦(コンサドーレ)では約47%が宿泊を伴う遠征だった。距離が遠いチームほど泊まる。当たり前のことだが、データで可視化すると説得力が出る。

Q3. 今回の観戦方法を教えてください(単一選択・必須)

  • 現地観戦(メインスタンド)

  • 現地観戦(バックスタンド)

  • 現地観戦(ホームゴール裏)

  • 現地観戦(アウェイゴール裏)

  • DAZN等の配信視聴

  • 見ていない(SNS等の情報のみ)

座席エリア別の体験差が見える。「バックスタンドの音響が聞こえにくい」「アウェイゴール裏からビジョンが見えない」といった問題は、この質問があるから座席と紐付けて分析できた。

DAZN視聴者や「見ていない」人は、スタジアム体験の評価(Q4〜Q6)をスキップさせる条件分岐を入れた。現地にいない人に「入場導線はどうでしたか」と聞いても意味がないから。

Q4. 今回の観戦体験の満足度を教えてください(均等目盛り1-5・必須)

唯一の定量指標。

ここで一つ、意識して設計したことがある。フォームのセクション冒頭に「試合の勝敗ではなく、スタジアムでの体験についてお答えください」と明記した。

これがないと、満足度が試合結果に引きずられる。0-5で負けたダービー戦では、それでも影響を受けたが、明記していなければもっとブレていたはずだ。

Q5a. 特に良かった点を教えてください(複数選択・任意)

  • スタッフの対応

  • スタジアムグルメ(スタグル)

  • 入場・導線・座席案内

  • イベント・演出

  • グッズ販売

  • 選手とファンの接点(ハイタッチ等)

  • スタジアム全体の雰囲気

  • 特になし

Q5b. 気になった点を教えてください(複数選択・任意)

Q5aとほぼ同じカテゴリで聞く。

これが設計上のポイントだった。同じ軸で「良い」と「悪い」を聞くことで、項目ごとの満足/不満バランスが一目で分かる。

たとえば「スタグル」は、良かった点でも気になった点でも上位に来る。美味しかった人と、行列が長すぎて買えなかった人が同時にいる。その構造が見える。

Q6. 前回の長野Uスタジアム(or 普段のホームスタジアム)と比べて、今回の体験はどうでしたか?(単一選択・必須)

  • 良かった

  • 同じくらい

  • 物足りなかった

  • 比較対象がない(初観戦等)

改善が伝わっているかどうかの指標。 ホームサポには「前回の観戦」と比べてもらい、アウェイサポには「普段のホームスタジアム」と比べてもらった。

Q7. スタジアムでの体験について、ご意見をお聞かせください(長文テキスト・任意)

事実ベースの体験を書いてもらう欄。

Q8. 試合の感想やクラブへのメッセージがあればどうぞ(長文テキスト・任意)

気持ちや応援メッセージを書いてもらう欄。

Q7とQ8を分けたのには理由がある。事実と感情を分けるためだ。

分けないと、「入場導線が混んでいた。あと、選手にはもっと頑張ってほしい」のように、体験の事実と感情が一つの回答に混在する。分析する時に、観戦体験の改善点と、試合内容への感想を切り分けるのが大変になる。

2つに分けたことで、Q7は「何があったか」の事実ベース、Q8は「何を思ったか」の感情ベースとして集計できた。


設計で意識したこと

回答ハードルを徹底的に下げる。

メールアドレスの収集はOFF。Googleアカウントへのログインも不要にした。回答は1回に制限しなかった。

これには理由がある。ログインを求めると、それだけで離脱する人がいる。メールアドレスを聞くと、警戒する人がいる。回答の正確性よりも、回答の絶対数を優先した。

匿名で、ログインなしで、3分で終わる。 試合後の帰り道、電車の中で答えられる。このハードルの低さが、890件につながったと思う。


3回やって変えたこと・変えなかったこと

フォーム自体の質問項目は、3回とも変えなかった。

同じ質問で聞き続けることに価値がある。 質問を変えると、試合間の比較ができなくなる。「入場導線が改善されたか」を知りたいなら、同じ聞き方で3回分のデータが必要だ。

変えたのは2つ。

  1. 締切。 1週間 → 3日 → 翌日。前述の通り。

  2. 告知方法。 事前にXで「試合後にアンケートがある」と周知するようにした。試合が終わってから急に「アンケートに答えてください」と言っても、知らない人は答えようがない。


🔄1回 vs 継続 ── 改善データと構造的問題の切り分け

アンケートを1回で終わらせるか、継続するか。

どちらにもメリットがあるが、3回やってみて、継続する意味が明確に分かった。


1回で終わらせる場合

その時点の問題点を洗い出せる。

ただし、リスクがある。その試合特有の環境要因(天候、対戦相手、スコア、来場者数など)によって、たまたま発生した問題を「大きな課題」として過大に評価してしまう可能性がある。

たとえば、雨の日に1回だけアンケートを取ったら、「雨よけの設備が足りない」が最大の課題になるかもしれない。でもそれは晴れの日には出てこない。


3回連続で取った場合

構造的な問題が見える。

3回とも指摘されている内容は、天候や対戦相手に関係なく発生している問題だ。つまり、スタジアムにおける構造的な問題であると判断できる。

逆に、1回だけ出てきて2回目以降は消えた問題は、一時的なものだったと分かる。

この切り分けが、1回のアンケートではできない。


実際に3回で見えたもの

改善された項目

「気になった点」に選んだ割合の推移:

入場導線 ── 大幅改善

  • 開幕戦:38.1% → 大宮戦:11.2% → ダービー:17.1%

グッズ販売 ── 3試合連続で改善

  • 開幕戦:24.4% → 大宮戦:13.7% → ダービー:8.4%

「特になし」 ── 気になる点がない人が増加

  • 開幕戦:23.1% → 大宮戦:37.9% → ダービー:38.3%

入場導線は、開幕戦で38.1%が「気になった」と答えていた。最大の課題だった。

大宮戦では11.2%に改善。ダービーでは来場者数が約3倍(3,496人→9,792人)に増えたため17.1%に微増したが、それでも開幕戦よりも低い。

人が3倍になっても、改善が効いている。

グッズ販売は3試合連続で改善。24.4% → 13.7% → 8.4%。

そして「特になし」──気になる点が特にないと答えた人の割合──は23.1%から38.3%に増加した。0-5で大敗したダービー戦で、だ。試合結果には不満があっても、運営面では気になることがなかった人が最多。

これが、フィードバック→改善の循環が実際に機能した証拠だ。

1回目のアンケートで指摘された項目が、2回目・3回目で改善されている。声を集めたら、改善された。改善されたことが、次のアンケートで確認された。

この循環が回ること自体が、3試合続けた最大の成果だった。

構造的課題

3試合すべてで指摘された項目がある。

  • 駐車場。 ダービーだけで102回、自由記述に書かれていた。320台のキャパシティに対して約1万人。構造的に足りない。

  • アウェイ側ビジョン。 アウェイゴール裏からビジョンが見えない。施設の問題であり、すぐに解決できるものではない。

  • スタグルのキャパシティ。 約1万人規模の試合では出店数と動線設計の両方が不足。50分待ちの報告も。

1回のアンケートでは、「この試合だけの不満」か「構造的な問題」かを判別しづらい。3回取ったことで、この切り分けができた。

どう対処するかは運営次第だ。でも、構造的に発生する問題を把握すること自体に、まず価値がある。


🧭アンケートの限界と、その先

ここまで、アンケートの設計と運用について書いてきた。

最後に、大事なことを書く。

アンケート結果は「判断材料」であって「正解」ではない

ここまでアンケートの価値を書いてきたが、盲信してはいけない。

アンケートに答えている人は、判断に必要な情報が限られた状態で回答している。

  • 予算の制約を知らない

  • 運営上の事情を知らない

  • 他の施策との優先順位が見えていない

  • 「どうしてもそうせざるを得ない」背景を知らない

だから、回答者の声は「こうしてほしい」という施策提案としては不完全なことが多い。

「駐車場を増やしてほしい」という声が100件あっても、土地がなければ増やせない。「スタグルの出店を増やしてほしい」と言われても、出店者の確保や場所の制約がある。回答者にはそれが見えていない。

アンケート結果 = やるべきことリスト、ではない。

アンケート結果 = 判断材料の一つ。

「サポーターはこう感じている。その上でどうするか」を考えるための素材だ。

現場には現場にしか見えない制約や事情がある。それを踏まえた上で判断するのが運営の仕事であり、現場の責任とも感じた。

アンケートを取る側も、この前提を持っていないと危うい。「なんで改善しないんだ」という一方的な批判になってしまう。声を届けることと、改善を強制することは違う。


運営とファンの関係 ── これはサッカーだけの話ではない

ここまでサッカーの話をしてきたが、少し抽象化する。

今回やったことを構造で見ると、こうなる。

  • 運営がサービスを提供する

  • ファンがサービスを受ける

  • ファンの声を可視化する

  • 運営がそれを見て改善する

  • より良いサービスができる

  • 新しいファンが来る、既存のファンが定着する

この循環は、サッカーに限った話ではない。

ゲームのユーザーコミュニティで「ここを改善してほしい」と声が集まる構造。YouTuberがゲームの改善点をまとめて発信する構造。飲食店の口コミを見て改善する構造。全部同じだ。

運営とファン。提供する側と受け取る側。この2者の間に、声を可視化して届ける人がいると、循環が回り始める。

従来は一方通行だった。運営が作る。ファンが受け取る。それで終わり。

でも今は、ファンが情報を返せる時代になった。ツールは揃っている。Googleフォームは無料で使える。Xで共有できる。noteでレポートを出せる。

あとは「やるかやらないか」だけだ。

わざわざお金と時間を使って現場に来た人は現場を知っている。その声を可視化して、改善につなげる。もっと良いものを作って、もっと快適にして、もっと多くの人に来てもらう。

この循環を回す仕組みを作ること自体に、価値があると思いたい。

個人でもできる。今回、自分がやったように。


✍️おわりに

890件。全部読みました。

開幕戦317件。大宮戦158件。ダービー415件。

怒りの声も、感謝の声も、提案も、諦めも、エールも。全部受け取っています。

アンケートで最も大切にすべきことは何か。3回やってみて、はっきり分かった。

答えてくれる人の信頼を裏切らないこと。

答えてよかったと思ってもらえるよう、最大限誠実に結果を公表した。個人を特定できる内容や誹謗中傷は公開しなかった。ただし、あまりにも多くの人が指摘していて、公表しないことが回答者に対して不誠実になる場合は、公表した。

このアンケートは、答えてくれた人がいるから成り立った。

試合後の疲れた体で、あるいは0-5の悔しさの中で、それでも時間を使って書いてくれた人たちがいる。その一つ一つがこの活動の全てだ。

あの日、観客席で何を感じたか。それは別の記事に書きました。                         

だからこそ、この経験を自分の中だけに留めておくのはもったいないと思ってこの記事を書いた。

ファンの声を信じて、聞いてみること。そこにヒントがある。


砂森和也(すなもり かずや)

元プロサッカー選手。Honda FC → カマタマーレ讃岐 → 鹿児島ユナイテッドFC → AC長野パルセイロ。5クラブ13年間のキャリアを経て引退。現在はAC長野パルセイロのコーポレートアドバイザーを務めながら、個人の活動としてサポーターアンケートの実施・記事執筆を行っています。

仕事や講演のお問い合わせは歓迎しています。今回のアンケートも、自分なりに自分の立場でやれることを精一杯やろうと思って始めたものです。もし「この人と何かできそうだな」と思ったら、気軽にメッセージください。

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