【コラボ企画桜城市】短編小説・『桜城市をさまよう男その3』
俺は幸運の黄色いアヒルを探してこの桜城市を聞き込みしながら歩き回っている。
休みの日数も残り少ない。
なかなか見つからないものだから、焦って占いを頼ったりした。
「果報は寝て待て」と言われたが、ゆっくり休んでいる訳にはどうしてもいかなかった。
駅の近くの角を曲がる。
茶色い髪の少女が赤い自転車に乗って通り過ぎていくところだった。
ふとその少女の自転車カゴに目をやると、黄色い何かが見えた。
(アヒル…?黄色いアヒル?!)
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
思いがけない出会いに焦る。
手をのばして少女を呼び止めようと、走り出した足がもつれた。
転びかけた体勢を持ち直そうと踏ん張った瞬間、腰に激痛が走る。
「あいたたたっ〜」
(これはいかん。ぎっくり腰だ。)
なすすべなく俺はアスファルトに崩れ落ち、動けなくなった。
視界の隅に風でなびく少女の茶色い髪が残っていた。
「ごちそうさま…。」
田舎料理柿の木の常連、伊那谷はいつも通りの遅い昼食を食べ終え、店の扉を開けて外に出た。
すると店の前にスーツ姿の男が倒れてるのが見えた。
(何だろう、声をかけるべきか?)
伊那谷は迷った。面倒事には巻き込まれたくない。しかし、目の前の倒れた男は苦しそうにうめき声をあげている。
(仕方ない。女将さんに頼もう。)
「女将さん、誰か倒れてるよ。」
暖簾越しにそう伝えると、伊那谷はいつも通り駅の方向へ歩いていった。
「え、誰か倒れてる?
あらあら、大変!お客さん、大丈夫?ちょっと、どうなさったの?立てる?」
「腰が、腰が…うぅぅっ…」
「わかりました、腰ですね…。
って、ちょっと、伊那谷さん?どんちゃん!何普通に帰ろうとしてんのよ!
戻ってきて、ほら手伝って!!」
伊那谷はしぶしぶ戻って来た。
女将さんを敵に回したくはない。
女将さんと二人でゆっくり男を立たせると、肩を貸して店の中に連れていった。
「どんちゃん、そっちの小上がりのほうへ寝かせてあげて。そうそう。
ありがとう、悪かったわね帰るところを。」
「いや…」
「あとは私が面倒みとくから、ね。
ありがとう。」
「うん、じゃ…」
伊那谷はやはり帰っていったのだった。
俺は畳の上に寝かせてもらったが、痛みのために身動きが取れない。何とか声を絞り出す。
「女将さん、申し訳ない。少し休んだら出ていくから。」
「あら、お客さん、こないだえるちゃんが連れてきてくれた人じゃない?
まぁまぁ、偶然?
もうこんな時間だし、たいしてお客さんも来ないから大丈夫よ。
布団敷いてあげるから、寝てなさいな。」
そう言うと、女将はさっさと布団を取りに行ってしまった。
目を覚ますと、見慣れない窓。その外には街灯に照らされた桜の花がぼんやりと浮かび上がっていた。
どうも俺は眠ってしまったらしい。
外はすっかり日が暮れている。
起き上がろうとするとまだ腰に痛みが走る。
ここは、俺が初めて桜城市にきた時にお世話になった田舎料理柿の木の店内ではなかろうか。
(そうか、俺は柿の木の店前で倒れちまったのか…)
「あら、お客さん、目覚めた?
まだ動かないほうが良いわよ。今、夕ご飯作ってるからちょっと待っててね。」
そういうと、女将は調理場へと姿を消し、中からはバタバタと威勢のいい音が聞こえてきた。
しばらくすると2人分の御膳を持って、女将が戻ってきた。俺の寝ている布団の脇の机に料理を並べだした。
「私も一緒に食べるけどいいでしょ?」
いいも何も、これだけ世話になって、断るわけにはいかない。俺は頷いた。
机にはご飯にみそ汁、野沢菜漬け、ワラビのお浸し、鯉の洗いがのっていた。
そうか、この鯉がバタンバタンいっていたのか…
女将さんがおろしたのか、さすがだな。
感心したのも束の間、今度は女将さんが眼鏡の奥の細い目に好奇心いっぱいの色を浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。
「お客さんさ、寝言でアヒル、アヒルって言ってたけど…あれは、何?
夢? アヒルがどうかしたの??」
俺は少しびっくりしたが、隠すことでもない。お世話になってる女将さんに、アヒルの事を聴いてもらうことにした。
つづく
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こちらの小説はnoteクリエイターの瑛(あきら)さんが企画した『桜城市構想』に参加しています。
瑛さんが作られた架空の都市・桜城市にオリジナルキャラクターを作って住民登録を行うことで参加ができます。
特徴は桜城市の住民となっているキャラクター達は、制作者さんに許可をもらわなくても自由にコラボレーションを行って作品を作れること!
もちろん、キャラクターの制作者同士でコミュニケーションを取りながら作品を作ることで、新たな出会いや発見もあるます。
ご興味のある方はぜひのぞいてみてください!
「さまよう男」の前回までのお話はこちら
