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「解決策」を急ぐ上司が、部下の「言えない本音」を殺すとき:ナナメの関係が組織を救うもう一つの理由

こんにちは、Dr.Jです。

皆さんの職場には、「能力はあるのに、なぜか休みがち」「実力を発揮しきれていない」というスタッフはいませんか?

管理職やリーダーの立場にいると、そうしたスタッフに対して「どうすれば働けるようになるか」を真剣に考えると思います。
勤務時間を調整すべきか?
業務負担の少ない部署へ異動させるべきか?
それとも、もっと厳しく指導すべきなのか?

これらは全て、組織を運営する上で正しい「解決策(How)」の模索です。
しかし、その「正しさ」こそが、時に部下の「本当の思い(Why)」を封じ込め、追い詰めてしまうことがあります。

今回は、ある一つのエピソードを通じて、「タテの関係(上司・部下)」が陥りやすい対話の罠と、それを解きほぐす「ナナメの関係」の可能性についてお話しします。

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その会議は、誰のためのものだったのか

ある病棟での出来事です。
若手看護師のBさんは、入職当初は非常に優秀でモチベーションも高かったのですが、ここ数ヶ月、当日欠勤や遅刻が目立つようになっていました。

病棟の育成会議では、Bさんのことが度々議題に上がりました。
「Bさん、また今日休みだって」
「最近さすがに多すぎるよね。周りのスタッフの負担も限界だよ」
「本人のやる気の問題じゃないか?」

師長や主任、プリセプターたちが集まり、真剣な議論が交わされます。
「夜勤が負担なのかもしれない。日勤のみにシフトを調整しようか」
「いや、今の部署の重症度がプレッシャーなのかもしれない。もっとゆったりした病棟へ異動を打診してはどうか」
「一度、産業医面談を組んで、休職も含めて提案しよう」

どれも、Bさんを守るための、そして組織を回すための、善意に基づいた具体的な解決策(How)です。
会議の結論は、「Bさんのために、負担の軽い環境を用意する」という方向でまとまりました。


そして上司はBさんを呼び出し、そのプランを提示しました。「あなたのことを思って、こういう働き方を提案したい」と。

Bさんは、うつむきながら「...ありがとうございます。すみません」とだけ答え、その提案を受け入れました。

しかし、Bさんの欠勤は減りませんでした。それどころか、表情はますます暗くなっていきました。
上司たちは困惑しました。「ここまで配慮しているのに、なぜ?」と。


「解決」ではなく「理解」を求めていた

そんなある日、他部署の先輩であるA君(私が推奨する「ナナメのメンター」のような存在)が、休憩スペースで偶然Cさんと一緒になりました。

A君はBさんの直属の上司でもなければ、評価者でもありません。利害関係のない、ただの「隣の部署の先輩」です。
A君は、Bさんが最近休みがちなことをあえて触れず、何気なく声をかけました。

「Bさん、最近どう? 顔色あまり良くないけど、無理してない?」

ほんの少しの雑談のつもりでした。しかし、その一言でBさんの堰が切れたように、言葉が溢れ出しました。

「...実は、最近めまいが酷くて。朝起き上がろうとすると天井が回って、どうしても動けない日があるんです」

Bさんは、涙ながらに続けました。
「薬も飲んでるんですが、副作用で眠気が強くて...。
本当は、今の部署の仕事が大好きなんです。急性期の看護がやりたくてこの病院に来たんです。
だから、異動なんてしたくないし、シフトも減らしたくない。もっとここで頑張りたいんです。
でも、上司の皆さんには『無理しなくていいよ』『異動しようか』と提案されて...。皆さんが私のために考えてくれているのは分かるから、『実はここで働きたい』なんてワガママ言えなくて...」

これが真実でした。
Bさんは「やる気がない」のでも「仕事が辛い」のでもありませんでした。
「働きたい」という強い意志(Motivation)と、「体調がついていかない」という身体的制約(Limitation)の板挟みで苦しんでいたのです。


なぜ「タテの関係」では本音が言えないのか

ここで考えてみてください。なぜBさんは、直属の上司に「めまい」のことを詳しく言えなかったのでしょうか?

実は、Bさんは上司に「体調が悪い」こと自体は伝えていました。
しかし、それを聞いた上司たちは、その不調を「今の部署の激務による精神的な負担」と解釈してしまったのです。

「辛いなら、無理させられない」「負担を減らしてあげよう」。
その優しさゆえの「決めつけ(Assumption)」が、Cさんの口を閉ざさせました。「違うんです、仕事は楽しいんです」と言えば、「でも体調悪いんでしょう?」と返されてしまう。
それ以上の詳しい病状(持病のめまい)を説明する隙間は、そこにはありませんでした。

そして何より、上司たちは「解決(How)」を急ぎすぎていました。
「休むならどうカバーするか」「どう配置転換するか」。
その議論のスピード感と「正論」の前に、Cさんの「なぜ休んでしまうのか」「本当はどうしたいのか」という「思い(Why)」を語る余白は消し飛んでしまったのです。

「あなたのためを思って」という善意の解決策が、皮肉にも相手の「本当の願い」を押し潰してしまう。
これは、医療現場に限らず、あらゆるマネジメントの現場で起きている悲劇ではないでしょうか。


ナナメの関係だから、引き出せたもの

一方で、A君はどうだったでしょうか。
彼はBさんの人事権を持っていません。シフトを調整する権限もありません。
だからこそ、Bさんは「評価される」「異動させられる」という防衛本能を働かせることなく、一人の人間として弱音を吐くことができました。

「何もできない(権限がない)」からこそ、「ただ聞く」ことができる。
これが、ナナメの関係の最大の強みです。

面白いことに、私たち医療者、特に看護師さんは、患者さんに対してはこれが自然とできています。
治療方針を決める医師(タテの関係)に対して言えない「治療への不安」や「生活の悩み」を、看護師(ナナメの関係)がベッドサイドで傾聴し、引き出す。
「患者さんのWhy」を引き出すプロフェッショナルである看護師さん達でも、ひとたびスタッフ間の関係になると、途端に「管理的なタテの会話」に終始してしまう。

「指導」と「管理」の帽子を被った瞬間、私たちは「目の前の人間」を見失ってしまうのかもしれません。


組織に必要なのは「逃げ場」としての対話

この後、A君はCさんの了解を得た上で、師長にこっそりと状況を伝えました。
「Bさんは今の部署への思い入れが強いようです。体調のことはありますが、まずは『ここで働きたい』という意思を尊重して、短時間でも今の業務に関われる方法を一緒に考えてあげられませんか?」

事実(Why)を知った上司たちの態度は一変しました。
「そうだったのか。やる気がないのだと誤解していた」
一方的な「異動・軽減」の提案ではなく、「どうすれば体調と折り合いをつけながら、この部署で学び続けられるか」という、Bさんの願いを軸にした対話(Co-design)が始まりました。


もしあなたの組織で、元気のないスタッフや問題を抱えたスタッフがいるなら、
上司であるあなたが無理に聞き出そうとするのではなく、「ナナメの誰か」にお願いしてみるのも一つの手です。

「最近Bさん元気ないから、ちょっとご飯でも誘って話聞いてあげてくれない?」

そんな意図的な「お節介」のネットワークを作ること。
解決策(How)を急ぐ会議室の外に、理由(Why)を語れる「逃げ場」を用意すること。

それが、硬直した組織を内側から救う、確かな「処方箋」になるはずです。



Dr. J
集中治療医
「救命の先にある『人生』」を見据え、ICUという極限の現場から、組織と人の在り方を問い直す発信を続けています。
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