「治す」前に「知る」ことから始めよう:集中治療医が、あえて他施設の『ナナメのメンター』を志す理由
ナナメのメンターについてはこちらのシリーズ参照ください。
導入:私たちは「何」を見ているだろうか
ICU(集中治療室)という場所は、ある意味で「正解」の塊でできています。
モニターに表示されるバイタルサイン、血液ガスの数値、人工呼吸器の設定。私たちは常に、目の前の命を救うために「何をすべきか(Doing)」という問いに追われ続けています。
でも、ふと立ち止まったとき、思うのです。
私たちは患者さんの「病気」は見ているけれど、「その人自身」を見ているだろうか、と。
「救命」という絶対的な正義の裏側で、こぼれ落ちていくものがあります。
それは、患者さんが大切にしてきた生き方であり、あるいは、ギリギリの現場で歯を食いしばるスタッフ自身の「物語(Being)」です。
私が「ナナメのメンター」として活動を始めようと思ったのは、ICUという極限の現場で、「医学的な正解(Doing)」だけではどうしても救えない「人の思い(Being)」に何度も直面してきたからです。

3つの対話が教えてくれた「近道」
少し、私の経験した3つの対話の話をさせてください。
これらは、私が「指導」や「説得」という武器を捨て、「ただ知ろうとする」ことへ舵を切るきっかけとなった出来事です。

1. 「拒絶」の裏にあった「願い」
ある心不全の患者さんは、頑なに再挿管(延命治療)を拒否していました。
「もう苦しいのは嫌だ、管には繋がれたくない」。その言葉だけを聞けば、医療者としての正解は「緩和ケア」への移行です。
しかし、対話の中で「なぜ?」ではなく「どんな生活をしていたのですか?」と背景を尋ねたとき、意外な言葉が返ってきました。
「引退後のボランティア活動が生きがいなんだ。まだ、それを続けたい」
ご本人が拒絶していたのは「生きること」ではなく、「ただ管に繋がれて意識もなく生かされること」でした。
その「願い」を知ったとき、私たちは「期間限定の挿管トライアル」という、当初の二択(やるか、やめるか)にはなかった「第3の道」を見つけることができました。
2. 「説得」を捨てた瞬間に開いた扉
透析導入を拒否し続け、何度も緊急搬送されていた若い患者さんがいました。
主治医チームは必死に「透析しないと死ぬぞ」と説得(タテのコミュニケーション)を繰り返していましたが、彼は態度を硬化させるばかり。
私は、医師としての立場(正しさ)を一度脇に置き、「透析導入の説得には来ませんでした」と伝えました。そして、ただ彼が何を感じ、何に傷ついてきたのかに耳を傾けました。
すると彼は、透析に対する恐怖、そして「若くして病気になった自分」への絶望を語り始めました。「敵ではない(ナナメの存在)」と伝わった瞬間、彼の中で何かが溶け、最終的に自ら治療を受け入れる道を選んだのです。
3. 「解決策」を飲み込んだ先の信頼
いつも明るく前向きな看護師が、ある日相談に来てくれました。
彼女は、同僚との関係に悩み、涙を流していました。
普段の私なら、すぐに「こうしたらどう?」「もっとこう考えるべきだよ」と、解決策(アドバイス)を提示していたでしょう。
でも、その時はただ、「そうか、辛かったね」と、彼女の負の感情をそのまま受け止めました。解決策を出さないことは、指導者として無力に感じるかもしれません。
しかし後日、彼女は「話を聞いてくれて救われた」と、少し前を向いて歩き出していました。
「意図的な無力さ(ネガティブ・ケイパビリティ)」を持ち、ただそこに居ることが、どんな的確なアドバイスよりも人を救うことがある。そう痛感した瞬間でした。

なぜ今、「ナナメのメンター」が必要なのか
病院という組織は、どうしても強力な「タテ社会」です。
上司と部下、指導医と研修医。そこには常に「評価する/される」という緊張関係が伴います。
また、同僚という「ヨコの関係」も、利害関係やしがらみがあり、弱音を吐けば「愚痴」と取られかねない難しさがあります。

だからこそ、「ナナメの関係」が必要なのだと思います。
利害関係がなく、評価もせず、ただあなたの「物語」に耳を傾ける存在。
職場の上司には言えない「組織への違和感」。
同僚には言えない「将来への漠然とした不安」。
家族には心配かけたくなくて言えない「現場での無力感」。
それらを、ただの「隣人」として受け止める場所があれば、人はまた、自分の足で歩き出せる。
私は、ICUという「命の交差点」にいるからこそ、そんな「通りすがりの安全地帯」でありたいと願っています。

結び:一緒に「医療の景色」を耕しませんか?
私は、すごい権威ある教授でも、完璧なスーパー愛想よしドクターでもありません。
ただ、ICUという濃密な空間で、人より少し多く「人の迷い」に立ち会ってきただけの医師です。

もし、あなたが今、医療現場の「正しさ」に疲れ、自分の「あり方」を見失いそうになっているなら。
「治す」ことの前に、まずはあなたのことを「知る」時間を持たせてくれませんか。
それはきっと、あなた自身がまだ気づいていない「第3の答え」を見つける、小さな旅になるはずです。
📢 【期間限定】ICUの「スキマ時間」、貸します
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
私自身、たくさんの挫折を繰り返しながら、今もまだ「対話」の旅の途中にいます。
もし、職場の人間関係に息苦しさを感じていたり、一人で組織の壁に挑んで疲弊しているのなら。
少しだけ、その重荷を「ナナメの隣人」に預けてみませんか?
【こんな方へ】
自分の部署を良くしたいけれど、空回りして孤独を感じているリーダーの方
「医学的正論」と「現場のリアル」の間で板挟みになっている若手医師・看護師の方
「Dr.Jと、ただ一度チャットで話してみたい」という物好きな方(歓迎します!)

【はじめかた】
まずはメッセージから:noteの「クリエイターへのお問い合わせ」から、今のあなたの状況やモヤモヤを軽く送ってください。長文でも、一言でも構いません。
ゆるやかな文通:何度かメッセージのやり取りをしましょう。それだけで霧が晴れることもあります。
必要ならZoomで:もし「もう少し深く話してみたい」となったら、30分ほどのオンライン対話の時間を調整しましょう。

【大切なお知らせ】
現在は、私自身の学びを還元する「テスト運用期間」のため、完全無料でお受けしています。
※診療の合間での対応となるため、お返事にお時間をいただく場合がありますが、届いたメッセージには必ず目を通します。
あなたの「人となり」に触れられることを、心から楽しみにしています。
Dr.J

