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業務スーパーの正体は「スーパー」ではない——工場を買い続ける会社の話

1,137店。

2026年4月末時点の、業務スーパーの店舗数です※1。北海道から沖縄まで、緑と白のあの看板は、気づけば生活圏のどこかに必ず立っています。

僕には以前から、この店に引っかかっていることがありました。「業務スーパー」という名前なのに、レジに並ぶのはプロの料理人ではなく、ふつうの家庭の買い物客が中心だと言われます。業務用でもないのに、なぜ業務スーパーなのか。そして、なぜあんなに安いのか。

運営会社を調べ始めた僕は、想像と違う答えに突き当たりました。業務スーパーを運営する会社は、そもそも自分たちを「スーパー」だと名乗っていないのです。

「業務用だから安い」という、わかりやすすぎる説明

1キロ入りのポテトサラダ、1袋20円台の冷凍うどん、牛乳パックに入った水ようかん※2。

業務スーパーの安さを語るとき、よく出てくるのがこの手の名物商品です。そして安さの理由は、たいていこう説明されます。「業務用の大容量だから、単価が安いんでしょ」「飾らない店だから、コストがかかってないんでしょ」——。プロ向けの問屋のような店だから安い。名前のイメージも手伝って、多くの人がこの説明で納得していると思います。僕もそうでした。

でも、この説明には穴があります。大容量で安く売るだけなら、他のスーパーにもできます。会員制の倉庫型店だってあります。「業務用サイズ」は、20年ちょっとで1,000店を超えて、今も増え続けている理由※1としては、明らかに弱いのです。

安さの本当の理由は、店の中ではなく、店の外にありました。

運営会社は、自分を「スーパー」と呼ばない

「食品業として日本最大の製販一体企業」。

これが、業務スーパーを運営する神戸物産が公式サイトに掲げている自己紹介です※3。「小売業」でも「スーパーマーケット」でもなく、「食品業」。つまり、作る側の会社だと自分で言っています。

先に、この記事の結論を言ってしまいます。業務スーパーの正体は「安いスーパー」ではなく、自社工場ネットワークの出口です。グループの工場で作ったものを、卸や問屋を通さず、自分の看板を掲げた店まで一直線に運ぶ。店は目的ではなく、製造直販の出口なのです。

以前この note で、ニトリの考察を書きました。家具屋が自分で工場と物流を持ちに行った「製造物流小売業」の話です。神戸物産も出発点は兵庫県の食品スーパーですが※4、その後の進み方が逆でした。ニトリが「店」を軸に工場を持ちに行ったのに対し、神戸物産は会社の重心そのものを工場側へ移し、店のほうを手放していったのです。この「手放す」の話は、後の章で書きます。

工場を、新築せずに「買って」増やす

2026年、神戸物産は日本酒の蔵元・柏露酒造をグループに迎え、国内のグループ工場は28になりました※5。

豆腐、こんにゃく、麺、パン、デザート。業務スーパーの棚の定番には、こうした国内グループ工場製のオリジナル商品が並びます※3。面白いのはその増やし方で、ゼロから工場を建てるのではなく、すでにある食品メーカーをM&Aでグループに迎え入れるやり方を続けてきました。設備も、製造のノウハウも、まとめて手に入れる方式です。日本酒の蔵元まで買うのですから、徹底しています。

総務職として、この戦略には唸りました。会社で備品や印刷物を発注するとき、僕にできるのは相見積もりまでです。3社から見積もりを取り、条件のいいところに頼む。でも、どれだけ交渉しても、相手の「原価」の中身には触れられません。神戸物産がやっているのは、その原価の内側に入ることです。仕入れ先と交渉するのではなく、仕入れ先そのものを自分の会社にしてしまう。値札の交渉と、原価の設計。同じ「安くする」でも、次元が一つ違います。

しかも、これは国内に限った話ではありません。海外からは、約50カ国の協力工場で作った商品を直輸入する体制を敷いています※6。「神戸物産」という商社のような社名は伊達ではなく、この会社は貿易会社の顔も持っているのです。

店は1,137もあるのに、ほぼ自分では運営しない

では、その1,137の店を毎日回しているのは誰でしょうか。

実は、業務スーパーの店舗の大半はフランチャイズで、神戸物産の直営はごく一部です※7。本部の仕事は、工場で作り、物流で運び、加盟店に卸すところまで。店の家賃も、レジに立つスタッフの人件費も、基本的には加盟店のオーナーが担う仕組みです。

売り場にも同じ思想が徹底しています。業務スーパーの棚では、商品が輸送用の段ボールごと並んでいることが珍しくありません※7。1点ずつ棚に並べ直す作業を省くためです。以前書いた西松屋が「広い店を少人数で回す」ことで人件費を削っていたのと同じ、「やらないことを決める」タイプの安さです。

総務の仕事をしていると、会社の費用が2種類に分かれることを嫌でも意識します。売上があってもなくても毎月出ていく費用(家賃や人件費)と、売れた分だけ増える費用です。店舗網というのは、前者の——固定費の——塊です。神戸物産は、その塊を自分の損益計算書にほとんど載せていません。1,137店の看板を掲げながら、本体はあくまで「作って運ぶ」会社。工場と物流に投資を集中させる身軽さこそが、「食品業」という自己紹介の意味なのだと思います。

無敵ではない——為替というアキレス腱

好調ぶりは数字にも表れています。2026年10月期の中間決算(2025年11月〜2026年4月)は売上高2,861億円で、中間期として過去最高を更新しました※8。物価高で節約志向が強まるほど、この店には追い風が吹きます。

ただし、この仕組みは無敵ではありません。約50カ国からの直輸入※6は、裏を返せば円安と輸送費が直撃する構造です。実際、直近の四半期決算では、為替関連(デリバティブ)の評価損の影響で、最終利益が前年から4割以上減る場面もありました※9。商売の実力である営業利益は伸びていても、最終利益は為替で大きく振れる。輸入と製造直販で安さを作る仕組みは、円相場という自分では動かせない変数と、常に隣り合わせです。

安さの構造を知ると、あの値札が「企業努力」だけではなく、為替と物流の綱渡りの上に載っていることも見えてきます。

出産前の家計と、「安さの作り方」コレクション

今年の11月、我が家には第一子が生まれる予定です。

正直に言うと、家計のことを考える時間は明らかに増えました。そして、「安い店」を見る目が、この1年ですっかり変わりました。きっかけは、この note で「なぜ安いのか」を調べては書き続けてきたことです。

並べてみると、安さの作り方は一社ずつまるで違います。

  • ニトリは、自分で作って自分で運ぶ(製造物流小売)

  • アイリスオーヤマは、問屋の機能を社内に飲み込む

  • 西松屋は、店の運営コストを徹底的に省く

  • そして神戸物産は、工場を買い集めて、店をフランチャイズに手放す

同じ「安い」の裏に、まったく違う設計思想があります。値札は結果であって、原因は仕組みです。だから買い物をする側は、安さそのものではなく、その仕組みが自分の生活と相性がいいか——大容量を使い切れるか、品揃えの偏りを許せるか——で店を選べばいい。安さの理由が見えていれば、「安すぎて不安」になる必要はないのだと思います。

おわりに

1,137店。冒頭に書いたこの数字は、正確には「スーパーが1,137店ある」のではなく、28の工場が持つ出口が、1,137カ所あると読むほうが実態に近いのかもしれません。

緑と白のあの看板を次に見かけたら、その奥に、買い集められた工場のネットワークを想像してみてください。値札の見え方が、少しだけ変わるはずです。

関連記事:

「なぜ安いのか」シリーズは、まだ続きます。この記事が面白かったら、スキとフォローをいただけると毎日更新の励みになります。


出典

数値・時点は2026年7月17日の執筆時点で確認したものです。最新の情報は各公式サイトをご参照ください。

  • ※1 業務スーパー店舗数1,137店(2026年4月末時点):神戸物産 月次情報・日本食糧新聞(2026年6月)

  • ※2 名物商品(1kgポテトサラダ・冷凍うどん・牛乳パックデザート等):業務スーパー公式サイト商品情報(公開前に現行商品ラインナップを再確認)

  • ※3 「食品業として日本最大の製販一体企業」・国内グループ工場製のオリジナル商品:神戸物産公式サイト

  • ※4 創業の経緯(1981年に兵庫県で食品スーパーとして創業、2000年に業務スーパー1号店):神戸物産公式サイト沿革(公開前に一次確認)

  • ※5 柏露酒造のグループ化により国内グループ工場28に:流通スーパーニュース(2026年3月・第1四半期決算報)

  • ※6 約50カ国の海外協力工場からの直輸入(2025年10月末現在):神戸物産公式サイト「業務スーパー事業」

  • ※7 フランチャイズ中心の店舗運営・段ボール陳列:神戸物産FC加盟店募集ページほか(公開前に直営/FCの比率を一次確認)

  • ※8 2026年10月期中間決算 売上高2,861億円・中間期過去最高:神戸新聞NEXT・日本経済新聞(2026年6月)

  • ※9 第1四半期(2025年11月〜2026年1月)純利益44%減(デリバティブ評価損の影響):日本経済新聞(2026年3月)


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