ロジックの限界を超える:次世代教育に「構造・感性・変換」を取り入れる:いまのたかの組織ラジオ#279
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第279回目「次世代教育体系の種~ロジックを超える「3つの思考法」」でした。
論理的思考の限界と「正しさ」の弊害
これまでの企業教育は、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングといった「言語中心」の思考力を鍛えることに重きを置いてきました。仕事を円滑に進める上で、論理性や合意形成のしやすさは大きな強みとなります。しかし、言語による論理に偏りすぎると、常に「唯一の正しい答え」を探そうとする思考に陥りやすくなります。
例えば、完璧に構造化された指示書は、アクションプランとしては優秀ですが、受け手のワクワク感や内発的な動機付けを削いでしまう側面があります。既存の枠組みの中では「正しい」けれど、そこからはみ出した豊かな発想や、新しい価値を生み出す創造性が生まれにくいという限界が見えてきているのです。今の教育体系は、ともすれば「正しいけれどつまらない人間」を量産しているのではないか、という問いが立てられています。
人間の思考を支える「三層構造」
本来、人間の思考は「言葉(ロジック)」「視覚(イメージ・構造)」「感覚(直感・感情)」の三つの層で成り立っています。しかし、従来の企業研修の多くは、この「言葉」の層に偏っています。管理職の役割を説明する際も、何十ページものテキストを読み解かせるような手法が一般的であり、一目で全体を把握させるような教え方はあまりなされてきませんでした。
この現状を打破するためには、従来のロジカルな思考力に加え、残りの二層である「視覚」と「感覚」を磨くトレーニングを教育体系に組み込む必要があります。これらを鍛えることで、左脳と右脳がコラボレーションし、より本質的で力強い発想が可能になるといえるでしょう。
次世代教育の柱となる「3つの思考法」
次世代の教育体系を構成する要素として、以下の三つの思考法が提案されています。
構造思考(俯瞰する力)
物事を箇条書きにするのではなく、A3用紙一枚に図解し、関係性を矢印などで表す力です。特に管理職にとって、組織戦略とビジネス戦略の関係を俯瞰することは、部分最適に陥るのを防ぐために極めて重要です。一目で全体像を確認できる図解は、自身の偏りに気づくための強力なツールとなります。感性思考(アート化する力)
ビジョンや理念を、言葉で唱和するのではなく、感じたままに「絵」や「アート」として表現する手法です。アートは言葉以上に情報量が多く、見るたびに新しい解釈が生まれます。これにより、他人から与えられた正解ではなく、自分なりの腹落ち感や内発的なエネルギーを引き出すことができます。変換思考(図解通訳の力)
耳から入った情報を、頭の中で構造化し、図としてアウトプットする習慣です。これは、単にノートを取る作業ではなく、情報のインプットとアウトプットの間に「図解」というプロセスを挟むことで、思考力を飛躍的に高める訓練になります。
実装への課題と「グラフィックレコーディング」の可能性
これらの新しい教育手法は、時に「効果が不透明である」として、予算や継続性の面で壁にぶつかることがあります。単発のイベントに終わらせず、職場のルールとして習慣化することが求められています。
そのヒントとなるのが、会議などの議論をリアルタイムで絵や図にする「グラフィックレコーディング」です。抽象的な議論が可視化されることで、参加者の理解が深まり、より本質的な対話が可能になります。また、優れた経営者は、自身のビジョンや戦略を常に図で表現し、社員に直感的に伝えているという共通点もあります。言語によるロジックを超え、視覚と感覚を統合した思考習慣をいかに組織に定着させるかが、これからの教育体系の鍵となるでしょう。

人事視点からの考察と活用の一手
「正しいけれど動かない」からの脱却を目指して
これまでの研修体系を振り返ると、いかに「漏れなく、重複なく(MECE)」情報を伝えるかに腐心してきたように感じます。しかし、現場から聞こえてくるのは「内容は理解できたが、実践するワクワク感が湧かない」という声です。論理的な整合性を追求するあまり、人の感情を動かす「余白」を消し去っていたのかもしれません。
そこで検討したいのが、教育プログラムの評価軸を「理解度」だけでなく「共鳴度」や「自己解釈の深さ」にシフトさせることです。指示書を完璧にこなす能力も大切ですが、その枠を超えて「そもそも自分たちは何を成し遂げたいのか」を感性で捉え直す機会を提供したいところです。
研修を「知識の習得」から「思考の変換訓練」へ
具体的には、従来の管理職研修の中に、あえて「非言語」の時間を組み込むことが考えられます。例えば、自部署の3年後の姿を100文字で説明するのではなく、色や形で表現するワークショップです。一見、ビジネスとは遠い作業に見えるかもしれませんが、言葉にできない違和感や熱量を可視化することで、メンバー間の対話は格段に深まるといえるでしょう。
また、日々の実務において「箇条書き禁止、図解1枚ルール」を導入してみるのも面白い一手です。情報を羅列するだけの報告書から、因果関係を矢印で結ぶ図解へと移行を促すことで、現場のリーダーたちの「俯瞰力」を実地で鍛えることができます。これは、特別な研修時間を設けずとも、日常のコミュニケーションの中で思考のOSをアップデートしていくアプローチです。
「図解通訳」を共通言語にする
情報のキャッチボールが上手くいかない組織では、受け手が情報を自分なりに咀嚼し、再構成する「変換力」が不足しているケースが多々あります。会議の議事録を文字だけで残すのではなく、ホワイトボードに図を描きながら合意形成を行う「グラフィックファシリテーション」のスキルを、全社的な基礎リテラシーとして位置づけるのも有効かもしれません。
取り上げられた優れた経営者が図を多用するように、複雑な事象をシンプルに構造化して伝える力は、これからの不確実な時代において必須のスキルです。人事は、こうした「図解通訳」の習慣が、単なるスキルの向上だけでなく、コミュニケーションコストの削減や、創造的なアイデアの創出に直結していることを、事例を通じて社内に浸透させていきたいものです。
数値化できない「感覚」の価値を正しく評価する
視覚や感覚に訴える教育は、その効果が即座にKPIに現れにくいため、組織内での理解を得るのが難しいという側面があります。しかし、社員が自社のビジョンに対して「自分なりの色」を見出し、心から納得して動いている状態は、長期的には強固な組織力に繋がります。
教育体系を設計する側として、目に見えるスキル習得だけを追うのではなく、社員一人ひとりの内面で起きている「思考の質の変化」に目を向けたいところです。アートや図解を通じて生まれる、多様な解釈や発想の広がりを許容する文化を醸成すること。それこそが、ロジックだけでは辿り着けない、次世代の強い組織を作るための土壌になるのではないでしょうか。
現場のリーダーへの「俯瞰」の処方箋
特に、プレイングマネージャーとして多忙を極める現場のリーダー層にとって、この「構造思考」は救いになる可能性があります。目の前のタスクに追われ、部分最適の罠にハマっているときこそ、一度立ち止まって「自分の役割を図解してみる」ことが有効です。
人事としても、彼らが迷ったときにいつでも立ち戻れる「A3一枚の地図」を自ら描けるよう、伴走していく姿勢を大切にしたいと考えます。正解を教えるのではなく、正解を導き出すための「思考の補助線」としての図解やアートを、教育体系の中にそっと忍び込ませておく。そんな、しなやかで奥行きのある人財開発のあり方を模索していきたいところです。

