見出し画像

note創作大賞2024『君は死ぬから美しい-2174年の花屋の場合』プロローグ

この作品は2024年note創作大賞応募作品です。

▶︎あらすじ

2174年、日本。
自然環境や国際情勢の変化により、この世から人間以外の生き物が消えかかっていた。
野菜も、動物の肉も、ペットも、そして本物の花=生花も高級品となった。そんな世界でひっそりと「本物の花を売る店」を営む竹原杏(たけはらきょう)は、父親から自身の療養のため全身義体化(サイボーグ化)の相談を持ちかけられる。命の美しさは「自然に死ぬこと」によってもたらされていると考えている杏は、父親の願いをなかなか受け入れられない。同業者である農家やライバル企業である造花メーカーの営業マン、葬儀屋や常連客との人生が交差した点で、答えのようなものを見つけていく。


▶︎2記事目以降


プロローグ

「昔な、花屋がモチーフになった歌が音楽の教科書に載っていたそうだ。そうだ、本物の花だ。お前らは触ったことすらないんだろうな。まあ、先生もないな。えーと、それでだな…」

 高校2年生の竹原杏(たけはらきょう)は、退屈な社会科の授業にいいかげん飽きていた。目線を黒板から窓の外に移すと、コンクリートで隙間なく埋め尽くされた街の上を、昨年全国全線開通100周年を迎えたハイパーリニアカーが目にも止まらぬ速さで走っていく。リニアカーが開通する前は、東京から福岡に行くまでに新幹線という乗り物で5時間もかかったそうだ。杏は隣の席の秋田リンに目を移した。去年から同じクラスのリンは、福岡から通っている。いまや、福岡から東京は1時間ほどで移動できる。
「なに?」
リンが口パクで聞いてくる。
「なんでもない」
杏はリンが持っている端末に返事をテキストで送る。
生徒たちが眺めているタブレットは、教科書とノートと、生徒同士のディスカッションを促すチャット機能を搭載している。昔は、紙にペンでメモをしていたらしい。そんな高級品が高校生のおこづかいで買えた時代は少し羨ましいかもな、と教科書のページをポチポチと進めながら考える。

「えー、2090年。いまから約80年前だな。
日本は世界紛争を背景とする物価高騰、極端な人口減少、そして地球温暖化の影響を受けてあらゆるいきものが姿を消していき、食糧危機に陥った。この危機のことを、え〜、竹原」
「…」
「竹原」
「杏ちゃん!」
「竹原杏!聞いているのか!」
「えっ、はい」
「竹原、質問に答えなさい」
「あ、えっと」
回答に困っているとタブレットにリンからのメッセージが届く。
「にーぜろきゅーぜろくらいしす」
焦っていたからか全てがひらがなだった。
ああ、なんだ、そんなことを聞かれていたのか。
杏にとっては耳にタコができるほど聞いた言葉だ。何かにつけて祖父が口にしている。
「竹原!」
「はい、すみません。2090クライシスです」
「わかっているのならちゃんと聞きなさい」

杏は挑発的に肩をすくめる。
わかっているなら聞く必要はない。教師の方がよっぽど頭を使わずしゃべっているじゃないか。
「さんきゅ」
席に座って、リンにメッセージを返す。
ところが、リンから返事はない。おかしいなと思った杏が横をむくと、リンは不自然にキョロキョロしていた。
「リン?大丈夫?」
小声で問いかける。
「杏ちゃんごめん、目のデバイス調子悪くなってなんも見えなくなった」
「おっけー、デバイス取れる?チューニングする」
「ごめん、助かる」
リンは目からポロリとデバイスを外す。眼球のような形をしたデバイスの、瞳とは反対側についている小さなランプが赤く点滅している。見えている目の神経との同期ができなくなっているようだ。手早く手元のタブレットをつかってチューニングをすると、リンの目が見ている世界がだんだんとはっきり、杏の手元デバイスにも見えてきた。

「これでおっけー」
「ありがとう杏ちゃん」
リンは義眼デバイスを目に馴染ませて、何度かまばたきをした。
「さっきの借りはこれでチャラということで」
「お釣り出るよ」
「やったあ」
「杏ちゃん、将来はあたし専属のデバイスエンジニアになってよね」
「そのためにはこの社会の授業なんて受けてる場合じゃないんだよな」
「もうあと10分で終わるから」
「待ちに待った技術の時間だ〜!」

「竹原!」
リンとしゃべっていたら、また教師に指名された。
「はい」
「質問に答えなさい」
「またですか?」
今度はリンのアシストもない。
「お前がしゃべってるからだろ」
「それは秋田さんの…」
リンには悪いと思いながら状況を説明しようと思っていたら、デバイスにメッセージが届く。
『2090クライシスで半ば強制的に廃業に追い込まれた職種→ペットショップと生花店 どうせなんもきいてなかったんだろ』

まだその話をしていたのか。これも杏にとっては耳タコだった。
「ペットショップと生花店です」
「竹原…気持ちはわかるが、ちゃんと社会の時間も話を聞いてくれよ」
「はい…すみません」
しおしおと座りながら後ろを振り返る。
メッセージの送り主である九十九薫(つくもかおる)が、ニヤニヤと杏を見ていた。
なんだか屈辱的な気分だが、小声で感謝の気持ちを述べる。
「おかえしはタピオカ1杯な」
いま杏の学校では、社会の時間に取り上げられた、かつてブームになった飲み物が流行っていた。


つづき



いいなと思ったら応援しよう!

やまこし いただいたサポートでココアを飲みながら、また新しい文章を書きたいと思います。