ナンパ師と占い師がバーター取引する話(バイナン 3)
これは、
現役の占い師がナンパ師に弟子入りをして、
1000人の女性に路上で声をかけた体験談の連載です。
はじめてご覧になる方は、先にこちらをご覧ください ↓
プロのナンパ師と渋谷でサシ飲み
ナンパスクールを主催し始めたワタルさんと
LINEでやり取りをしてから、
一週間ほど経った夜
私は、渋谷の個室居酒屋に向かっていた。
これは仕事の延長だから、
という顔をしながら、
どこかで
それだけではない予感もしていた。
指定された店に入ると、
彼はすでに来ていて、
ビールをジョッキ半分ほど飲んでいた。
「寒いですね」
そう言って、
私は焼酎の熱燗を頼んだ。
乾杯をして、
焼き鳥をつまみながら、
彼の近況を聞く。
彼が主催するナンパスクールは順調で、
数か月で会社員時代の年収を超えたという。
以前は、
神奈川の少し田舎から、
ナンパのために毎晩電車で渋谷に通っていた。
今は、
渋谷にワンルームを借りているらしい。
生活の重心が、
完全にこちら側に移っている。
私は、
「順調そうですね」と言って、
お客さまの紹介のお礼と
新規をこれ以上受けられないお詫びを伝えた。
プロのナンパ師を卒業した後のこと
彼の近況や、
ナンパの世界のあれこれを聞いたあと
二軒目に入ったバーで、
グラスが空いた頃、
彼がふっと言った。
「この前の占いで、
二年後に流れが変わるって言ってましたよね」
私はうなずいた。
「ナンパを卒業した先のこと、
ずっと考えてたんです」
少し間があって、
彼は続けた。
「こんなこと聞くの、
失礼かもしれないですけど……
占い師って、どう思います?」
私は、
少し考えた。
半年前の彼だったら、
勧めなかったと思う。
でも今の彼は、
自分の言葉で人と向き合える。
ナンパやスクール経営を通じて、
いろいろな人間を見ていることも、
決して無駄にはならない。
それに、
私の師匠のエミさんが
よく言っていた言葉を思い出した。
「占いは、
何を言うかより、
誰が言うか、だからね」
彼の見た目の強さと、
中身のやさしさのギャップは、
確かに、
伝える力になる。
技法さえ身につければ、
やっていけるだろう。
そう思った。
でも、
そのとき私の中で動いていたのは、
彼の将来だけじゃなかった。
プロの占い師からの提案
気づけば、
私自身が
ナンパという世界に
妙に引っかかっていた。
ワタルさんから聞く話。
彼が紹介してくる男性たちの顔。
占い師とお客さま、
という関係を外れたとき、
女性たちは何を話すのだろう。
ここ半年で起きた、
目の前の人間の変化。
・・・
占い師として独立してから、
私はずっと
「コミュニケーション」を学んできた。
会話術や心理学の本もたくさん読んだし、
学校やセミナーにも通いまくった。
それぞれに得るものはあったけれど、
いつからか、
どれも似た話に聞こえるようになっていた。
満足はしている。
でも、
このままでいいのか、
という問いだけが、
消えずに残っていた。
プロのナンパ師になるつもりもない
占い師をやめるつもりも、もちろんない
何かを変えたい、
というより、
自分の殻を割ってみたい。
壁の向こう側の自分を見てみたい。
そんなことを考えていた時期でもあった。
そしてもう一つ
わたしの「ある困りごと」を解決できるかも
しれないという期待感があった。
(その「ある困りごと」については、
後ほどの回で詳しく書きたいと思う)
グラスを置いて、
私は言った。
「じゃあさ」
ワタルさんが、
こちらを見る。
「私が、
占いを教えるから。
ワタルさんは、
私にナンパを教えてよ」
一瞬だけ、
彼は目を見開いた。
それから、
すぐに笑った。
「バーターですね。
いいっすね。
やりましょう」
即答だった。
その頼もしさに、
私は少しだけ、
背中を押された気がした。
ナンパを学べることに
わくわくした、
というよりも、
自分が、
どこまで変わるのかを
試してみたくなった。
そうそう、
あとで思い出したのだけれど、
そういえば、私が占いを初めて学んだ時も
バーター取引から始まっていた。
1週間後から「教え合い」が始まる
その場で、
いくつかのルールを決めた。
期間は、3か月。
毎週木曜日の夕方、
渋谷で二時間。
前半の一時間は、
私が占いを教える。
後半の一時間は、
彼がナンパを教える。
教え方は、
お互いに口出ししない。
それから、
呼び方。
「さん」づけは、
やめること。
「ワタル」
「ひなた」
そう呼び合うこと。
ついでに敬語で話すのもやめにした。
一週間後、
渋谷のモスバーガーで会う。
それだけ決めて、
その夜は解散した。
このときはまだ、
あの提案が、
私を路上に立たせることになるとは、
はっきりとは想像していなかった。
ただ、
戻れない線を、
一歩だけ越えた。
そんな感覚だけが、
静かに残っていた。
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