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【Log.5】露天風呂の妖怪は「美肌」がお好き[夏合宿編:後編]

👺〈 怪奇同好会へようこそ 〉👺
〜変人先輩と巻き込まれ俺の受難な日々〜
BLラブコメ×オカルト / 1話完結

「美肌の湯」に出る覗き魔を捕まえろ! 待ち受けていたのはスケベな妖怪と、先輩の暴走(セクハラ)だった!? 湯けむりと悲鳴が交錯する、ノンストップ温泉除霊コメディ。

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「いい湯だなあ」

 先輩は手ぬぐいを頭に乗せ、呑気にお湯を堪能している。

「……先輩。一応確認しますけど、これ、『仕事』ですよね?」

 湯けむりが立ち込める、岩造りの立派な露天風呂。
 俺こと悠斗は、肩までお湯に浸かりながら、隣にいる残念なイケメン――怪奇同好会会長・真白(ましろ)先輩をジト目で見つめた。

「当然だ。正式にうちの神社で請け負ったお祓いの下見だ。我ら『怪奇同好会』の実績が認められ、その役を預かった。どうだ名誉な事だろう」

「絶対嘘だろ」

 この男は、以前にも抽選用紙を勝手に捏造した前科がある。
 無駄に鍛え上げられた大胸筋と腹筋が、月明かりと湯気の中でギリシャ彫刻のように輝いているのが腹立たしい。

 山奥にある高級温泉旅館『美肌の湯・月鏡(つきかがみ)』。

 ここ最近、女湯の露天風呂にて「誰かに見られている気配がする」「お尻を触られた気がする」という苦情が殺到しているらしい。しかし、最新の防犯カメラにも、赤外線センサーにも何も映らない。

 そこで先輩の実家である神社にお祓いの依頼が来たそうだ。

「で、なんで俺たちが『男湯』で待機してるんですか。覗き魔が出るのは『女湯』でしょう」
「甘いな、悠斗。敵は神出鬼没の妖怪だ。女湯には既に『囮(おとり)』を配置してある」

 先輩が顎で示した先。高い竹垣を隔てた向こう側が、問題の女湯だ。

「詩音(しおん)が今頃、優雅に湯浴みをしているはずだ。もちろん、スクール水着着用の上、入り口には『点検中』の看板も立ててある。万全の布陣だ」

「女子高生を囮にするなよ! 危険すぎるだろ!」

「案ずるな。詩音の霊力結界は鉄壁だ。それに、奴が現れた瞬間、俺たちがこの竹垣を飛び越えて突入する手はずになっている」

「それ、俺たちが事案で捕まりませんか?」

 俺がツッコミを入れたその時、先輩がスッと湯の中を移動し、俺のすぐ隣に密着してきた。

 肌と肌が触れ合う距離。お湯の熱さとは違う体温が伝わってくる。

「……それにしても、悠斗」
「な、なんですか。近いです」
「良い肌だ。月明かりに透けるような白さ……。これでは妖怪も魔が差すというもの」
「触るな! どさくさに紛れて二の腕を揉むな!」

 先輩の手が、ぬるりと俺の背中に回る。そしてぐいっと引き寄せられた。

(落ち着け悠斗。これは陽動作戦だ)
(は?陽動?)
(天狗は大抵こういういいムードを好む)
(天狗……!?)

 先輩は俺の耳元で声をひそめ言った。

(ああ。十中八九こういった悪戯は天狗の仕業だ)
(……ここ、令和の日本ですよね!?)

 無駄に耳心地のいい低音ボイスがこそばゆい。

(って、こっち男湯ですよ?俺たちは奇襲側のはず)

 先輩の手が腰のあたりに回り、サワサワと動く。

(言っただろう。天狗はムードを好むんだ。こっちから仕掛ければ手間が省ける)
(ちょ、先輩。やりすぎです)

 背筋がゾクっとした。先輩の手が下の方に降り粘っこく撫で回してくる。
 俺はたまらず先輩の手を掴み上げた。

「だから!やりすぎですって!」
「悠斗!その手を離すなよ!」
「は?」

 先輩はザパァっと音を立て立ち上がった。
 その両手は、頭に乗せていた手ぬぐいを呑気に掴んだままだ。
 じゃあ、今、俺が掴んでいるこの「ヌルヌルした手」は――?

 俺は一瞬きょとんとしたが、青くなってゆっくりと振り向いた。そこにいたのはいやらしい目つきで湯船から顔を出す、ニヤニヤ顔の妖怪だ。俺に腕を掴まれ半身を湯船から出している。

「うわあああああ!!! カッパだぁあああ!」

 俺は叫び声を上げた。

「誰がカッパだ! 我は高貴なる天狗だ!」

 天狗もザパァっと立ち上がった。

「またお前か! 逃さんぞ!」

 先輩の動きは早かった。天狗に飛びかかったが、すんでのところでバサァッ! という大きな羽音と共に、竹垣の上へ飛び乗った。

 赤い顔に長い鼻。一本歯の下駄。そして背中には黒い翼。
 まごうことなき、天狗の妖怪だ。
 しかし、奴はどこか様子がおかしかった。懐からオペラグラスを取り出し、食い入るようにこちらを見ているのだ。

「オホホ……! なんというキメの細かさ! 毛穴が見当たらないではないか!」

 天狗は女湯の方へ――行かなかった。
 奴の視線は、真っ直ぐに男湯の、それも俺の肌に固定されていた。

「え?」

 天狗が翼を広げ、俺に向かって急降下してくる。

「見つけたぞぉぉ! 女の肌も良いが、その少年の『ゆでたまご』のようなツルツル肌! この前見た時から、我の中で美肌が鬼バズっておるのよ」
「そっちかよ!?」

 俺は叫んだ。覗き魔の正体は、ただの美肌マニアの天狗だったのだ。

「頼む! そのほっぺたを一度プニプニさせてくれ! スキンケアの秘訣を教えろぉぉ!」
「来るな! 俺は牛乳石鹸しか使ってない!」
 天狗の鉤爪(かぎづめ)が、俺の肩を掴もうと迫る。

 だが。

「……俺の悠斗に、指一本触れさせるかああああ!!」

 ドガッ!!

 真白先輩が湯の中から飛び出し、洗面器(ケロリン桶)を天狗の顔面にフルスイングで叩きつけた。

「グベッ!? な、なぜ邪魔をする! 美の追求は罪ではないぞ!」
「貴様、覗き魔だけでなく美容系インフルエンサーみたいな口調になりやがって! 地獄へ落ちろ変態!」
「お前が言うな!」

 俺のツッコミを無視し、先輩と天狗の死闘が始まった。

 戦いは一方的だった。

 なにせ、「愛する悠斗の裸を見られたくない(&守りたい)」という真白先輩の執念は、妖怪の妖力を遥かに凌駕していたからだ。

「喰らえ! 源泉掛け流しスプラッシュ!」
「熱ッ!? 貴様、温泉を霊力で圧縮してぶつけてくるとは……!」
「さらに追撃だ! 邪気払い・タオルウィップ!」
「痛ッ! 地味に痛い!」

 先輩は腰に巻いていたタオルをヌンチャクのように操り、天狗をしばき回している。(※現在、先輩は全裸ですが、湯気とアングルのご都合により見えません)

「くそっ、なんだこの人間は! 変人のくせに強い、強すぎる……!」

 天狗は空中で体勢を立て直すと、忌々しげに俺たちを睨みつけた。

「ええい、こうなったら強制的にムードを作ってやる! これで愛を深めるがいい!」
 天狗は懐から、ハート柄の描かれた怪しげな瓢箪(ひょうたん)を取り出した。

「これでも吸って、のぼせ上がれ! 『うっとり・ラブ・ロマンスの霧』!!」

 プシューッ!

 瓢箪から、ピンク色の甘ったるい煙が噴き出した。バラの香りがする。  風下にいた俺は、それをモロに吸い込んでしまった。

「うっ……! げほっ、げほっ!」
「悠斗!?」

 先輩がタオルで煙を払うが、天狗はその隙に高笑いを残して夜空へと消え去った。

「さらばだ! 次回は美容液を持って出直してくるからなー!」
「待て貴様! ……チッ、逃げられたか」

先輩は舌打ちをすると、すぐに俺の方へ振り返った。

「悠斗、大丈夫か!?」

 俺は湯船の縁に手をつき、荒い息を吐いていた。

 おかしい。

 煙を吸った瞬間から、体中の血液が沸騰したように熱い。のぼせたわけじゃない。体の奥が疼くような、妙な感覚。視界が揺れ、力が抜けていく。

「はぁ、はぁ……なんか、熱い……変だ……」
「顔が赤いぞ。まさか、さっきの煙……毒か?」

 先輩が心配そうに近づいてくる。

 その鍛えられた胸板が視界に入った瞬間、俺の視界にピンク色のフィルターがかかったように見えた。
 いつもなら「ウザい」としか思わない先輩の顔が、なぜか無性に「カッコよく」見えてしまう。

 やばい。今先輩に触られたら、ときめいて死ぬかもしれない。そんな理性のタガが外れそうな衝動がこみ上げてくる。
 これは、あの天狗が言っていた『うっとり・ラブ・ロマンス』の効果……一種の吊り橋効果強制発動呪いだ!

「こ、来ないでください……!」

 俺は必死に後ずさり、お湯の中で身を縮こめた。

「俺……なんか変なんです……。先輩が近づくと、その……無駄にキラキラして見えて……直視できない……!」
「悠斗……?」

 先輩が目を見開いた。

「ガラガラガラッ!」

 その時、脱衣所の戸が勢いよく開いた。

 入ってきたのは、色とりどりの浴衣を着て、右手には特大のソフトクリーム、左手にはうちわを持った詩音だった。

「ふぅ、お風呂上がりのアイスは最高ね。……あれ? 何か取り込んでる?」

 詩音は状況を見て、ペロリとクリームを舐めた。完全に他人事だ。
 てか、ここ男湯なんだか?

「あ、気にしないで。この『対・猥褻(わいせつ)物フィルタリング・結界サングラス』をかけてるから、モザイク処理済み」

「便利グッズすぎるだろ!」

「それより、状況は把握したわ。悠斗が天狗の『うっとり・ラブ・ロマンスの霧』を吸ったのね? 症状は発熱、動悸、そして……先輩に対する過剰なフィルター効果」

「その通りだ。 悠斗を救うにはアレしか……」

 先輩は俺をジリジリと追い詰め、俺の腕を掴んで強引に引き寄せた。

「仕方ない。奥の手だ!」

「あっ」

 何かを察した詩音の声。

 俺は先輩に抱きすくめられた。そして唇を覆われた。
 必死に押し戻そうとするが、びくとも動かない。

「でた。会長の奥義『口移し除霊』」
「んんんんんんんん!?」(口移し除霊!?)

 カッッッ!!!

 先輩の体から、凄まじい霊力の波動がほとばしる。
 きゃあ、という声と共にパリンとガラスが割れる音がした。

「やだ……いきなりやらないでくださいよ。もう……」

 詩音は赤面し、慌てて目を覆うが指の隙間からガッツリ見ている。

「!!!!!!!」(タスケテ!)

 バンバン、と先輩の腕を叩く俺の音だけが、虚しく湯船に響く。

「悠斗、抵抗すると長引くわよ。おとなしくしてなさい」

 詩音のしれっと発した残酷な宣告が、湯煙へと溶け、獅子落としがカポーンと鳴った。

(……俺の唇、変態天狗のせいで……しかも味はソフトクリームって……あんまりだ……)

 後日、お祓いは無事執り行われ、温泉地の怪奇現象はおさまった。
 俺は湯あたりでしばらく寝込んだ。

(夏合宿編・完)


▶︎次のシリーズは?!悠斗が毎晩「全裸」にされる怪奇現象が発生! 犯人はまさかのイケメン幽霊?真白先輩の嫉妬メーターが振り切れる!
「ストーカー幽霊は転生しても諦めない」(全3話完結)

ありがとうございました♡(怪奇同好会一同)

🔗【完結】Log.4・5『怪奇同好会夏合宿編』全話まとめ&おまけ資料室etc


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因習村の生贄に選ばれたんだが~相手が変人先輩(男)な件~



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