【Log.4-04】ミステリーは「未遂」がお好き~先輩が死亡フラグを秒速でへし折る件~[夏合宿編:前編]
👿〈 怪奇同好会へようこそ 〉😈
~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLラブコメ×オカルト /4話完結
森の悪霊だと思った? 残念、ただの「限界カプ厨(ファン)」でした! 恐怖演出がすべて「尊い……」という黄色い声援に変わる、ホラーの面汚しな最終回。
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第4章:森の妖怪は「ロマンチック」に弱い
夜の森は、昼間の暑さが嘘のように冷え込んでいた。
足元はぬかるみ、風が吹くたびに木々がざわめく。
「……暗いですね」
「ああ。だが、悪くない」
先輩の手は、驚くほど温かかった。
以前、手錠で繋がれていた時とは違う。今は、俺の意思で握り返している。その事実が、心臓を妙に早くさせた。
ガササッ!
茂みから何かが飛び出した。
「うわっ!」
俺は思わず先輩の方へ体を寄せた。
「……なんだ、狸か」
「大丈夫か、悠斗」
先輩が、抱き寄せるように俺の肩を支える。顔が近い。
暗闇の中で、先輩の瞳だけが月明かりを反射して光っている。
「怖ければ、もっとくっついてもいいんだぞ。……なんなら、お姫様抱っこでもするか?」
「結構です! 重いだけでしょう!」
「俺は毎日鍛えているから問題ない。……それに」
先輩の声が、ふと真面目なトーンに落ちた。
「こうして二人きりで歩くのも、悪くないだろう? 邪魔な幽霊も、殺人犯もいない」
「……まあ、そうですね」
俺が素直に答えた瞬間。
フワッ……。
森の奥から、風が吹いた。
ゾクッと寒気が走る。温度じゃない。もっと本能的な何かだ。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
俺がそう答えると、先輩は俺の手を引き寄せた。
「もっとこっちに寄れ。こういう森には、大概一匹や二匹潜んでいてもおかしくない」
「え……こわ。霊ですか? やっぱりいるんですか?」
「いや……」
先輩は歩みを止め、目を細めて前方を睨む。
「とにかく、俺から離れるな」
そう言って先輩は俺の肩を掴み、さらに引き寄せた。
近い。
体温が直接伝わってくる。心臓の音まで聞こえそうだ。
俺は緊張した。
先輩がさらに密着してくる。
……そんなに危険なのだろうか?
見ると先輩は真剣な目つきで前方を睨んでいる。
だが、その手はさらに下へと下がり、お尻あたりを変な手つきで撫で回し始めた。
「せっ、先輩!」
「しっ! 何かいる」
「……」
何かいる、じゃないだろ。やってる事と言ってることが違う。
「せんぱ……っ!」
言いかけて気がついた。俺と先輩の間で二人の手は繋がれてる。先輩が逆側の手で俺の腰を触ることはできないはずだ。
俺は血の気が引いた。恐る恐る振り返ってみると、赤い頭頂部が見えた。
「うわぁあああああ!!! ざ、座敷童子ぃいいいい!」
「誰が座敷童子だ! 我は高貴なる天狗だ!」
身を屈めていた天狗は立ち上がり、黒い羽を広げた。
「やはりいたな?! 天狗!」
先輩は即座に天狗を捕まえようと身を翻した。しかしすんでのところで天狗は飛び立った。
「先輩! 手を離してください!」
「ダメだ! 離したら思う壺だ!」
それから先輩と俺、天狗で鬼ごっこになった。
「フハハハッ! 捕まえたければ手を離して追いかけてこい!」
天狗が木々の間を縫うように飛び回り、煽ってくる。
しかし、先輩は不敵に笑った。
「お前の思う通りにはさせないぞ! 悠斗、思い出せ。『手錠生活』のコンビネーションを!」
「嫌な記憶を呼び起こさないでください! でも――わかってます!」
俺は先輩の手を強く握り返した。
言葉はいらない。重心の移動だけで意思が伝わる。
「いくぞ、悠斗!」
「はい!」
先輩が俺の手を引いて走り出す。
天狗が急旋回して、鋭い突風(カマイタチ)を放ってきた。
普通なら回避できないタイミング。だが――。
「せぇのっ!」
俺は先輩の手を軸にして、遠心力を利用して大きく跳んだ。
繋いだ手が支点となり、俺の体は風の刃をギリギリで回避する。そのままの勢いで、俺は木の幹を蹴り、先輩を前方へと引っ張り上げた。
「ナイスアシストだ、悠斗!」
加速した先輩が、空中の天狗に肉薄する。
本来なら届かない距離。だが、俺という「アンカー」がいるおかげで、先輩は限界を超えた踏み込みを見せた。
「逃がすかぁぁぁ!」
「なっ、人間如きが!?」
先輩は懐から取り出したお札を、天狗の鼻先――ではなく、その背後にある祠(ほこら)へと投げつけた。
ビシッ!
お札が祠に張り付いた瞬間、神聖な光が弾ける。
「ぐわぁぁっ! 結界が修復されただと!?」
「チェックメイトだ。この山はもう俺たちのシマ(縄張り)だぞ」
「おのれぇ……覚えておけ! リア充どもめ!」
天狗は捨て台詞を残し、悔しげに夜空の彼方へと飛び去っていった。
あとには、静寂だけが戻ってくる。
「……はぁ、はぁ。やりましたね」
「ああ。完璧な連携だったな」
俺たちは肩で息をしながら、顔を見合わせた。
繋いだままの手には、じっとりと汗が滲んでいる。でも、不思議と離そうとは思わなかった。
「悠斗。……怪我はないか?」
「ええ、先輩こそ」
先輩が、ふっと表情を緩めた。
普段のふざけた顔でも、キメ顔でもない。ただの、優しくて、少し安堵したような顔。
「お前が無事で良かった」
そう言って、先輩は俺を強く引き寄せた。
抵抗する間もなく、俺の顔は先輩の胸に埋もれる。
激しい運動の後の鼓動。温かい体温。
森の冷気の中で、そこだけがどうしようもなく熱かった。
「……先輩、苦しいです」
「少しだけ、このままでいさせてくれ。……充電中だ」
「スマホじゃないんですから……」
文句を言いながらも、俺は先輩の背中にそっと手を回した。
頭上では、ざわめいていた木々が静まり、代わりに柔らかな月光が二人を照らしていた。まるで、森の精霊たちが俺たちを祝福してくれているかのように。
***
「おかえりなさい。……あら」
ペンションに戻ると、詩音がニヤニヤしながら俺たちを出迎えた。
その手には、望遠レンズ付きの一眼レフカメラが握られている。
「良い『絵』が撮れたわよ。森の精霊たちも祝福してるみたい」
「詩音、お前まさか……盗撮してたのか」
「記録係としての責務よ。これ、冬コミの新刊の表紙にするから」
「ふむ、ならば俺に高画質データを送ってくれ。待ち受けにする」
「先輩も乗っからないでください!!」
こうして、殺人事件(未遂)と妖怪退治(浄化済み)で彩られた夏合宿の夜は更けていった。
この写真が後日、部室に飾られ、俺が死ぬほど恥ずかしい思いをするのは、また別の話だ。
――避暑地の夏は、やっぱり暑くて、騒がしい。
(完)
▶︎次回、夏合宿編後半。「美肌の湯」に出る覗き魔を捕まえろ! 湯けむりと悲鳴が交錯する、ノンストップ温泉除霊コメディ。
【Log.5-01】露天風呂の妖怪は「美肌」がお好き[夏合宿編:後編]

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