《葬送のフリーレン》レーヴェは神話の時代に関する知識をどこから得たか(第147話)
第147話「英雄のいない地」までのネタバレと、先の展開に関する考察・予想を含みます。
はじめに
第147話「英雄のいない地」においてレーヴェ(ヘルト)は神話の時代に関する知識を披露しています。神話の時代に世界の法則が書き換えられた(そして魔法(魔力)が生まれた)と。(第147話)

レーヴェはこの知識をどこから得たのでしょう?
この点、ソリテールがレーヴェとほとんど同じことを言っています。女神様が世界の理を捻じ曲げる、と。(第12巻116話)

ですから、レーヴェはこの知識を魔族から得たとも思われます。
しかし、レーヴェは魔法を無くそうとしています。魔族がそれを望むとは思えません。これはどう理解したらよいのでしょう。
本稿では、レーヴェが神話の時代に関する知識をどこから手に入れたのか?について考えます。
見通しを良くするために、最初に結論を書いておきます。
レーヴェの神話の時代に関する知識の入手先は図書館です。
では、この結論に至る過程を見ていきます。
「趣味は占い」
舞踏会二日前の日の朝、ヴァイゼに戻ることになったデンケンは借りていた書物の返却のために図書館を訪れ、そこで司書のルティーネ(正体は影なる戦士)と会話します。(第14巻132話)

最初は顔見知り同士の何気ない普段の会話でしたが、

ルティーネがデンケンの故郷に関する知識をうっかり洩らしてしまうと、もの凄い鞘当てが始まります。

ルティーネは「誰かがどこかで話しているのを、偶然聞いてしまったのかもしれません」と誤魔化すのですが、デンケンは「儂も誰かがどこかで話しているのを、偶然聞いてしまってな」と反撃します。そして、ルティーネの出身地、戦歴から趣味まで指摘してみせます。

デンケンは国を動かす宮廷魔法使いで、ルティーネは一介の図書館司書に過ぎないのですから、デンケンのこの対応は通常なら考えられません。デンケンはルティーネを完全に「敵」として認識していて、「お前の正体は分かっているぞ」と警告しているわけです。

なぜ、デンケンはここまでルティーネの素性を把握しているのでしょう?
ゼーリエ暗殺計画に影なる戦士が関わっていること、ルティーネが影なる戦士のメンバーの一人であることまで把握していて、影なる戦士たちについては調査済みということでしょうか。
ちなみに、ゼンゼたちが影なる戦士の詳細情報を入手したのはこの日の夜の「前哨戦」の後、ラントとユーベルが帰還してからです。ですからデンケンの情報収集力は相当なものです。(第14巻137話)

※舞踏会当日までの主な出来事は次の記事で整理しています。
「儂は何も知らん」
しかし、図書館を出た後にゼンゼと会ったデンケンは、ゼーリエ暗殺計画について「儂は何も知らん」と言っています。

妙ですね。デンケンはゼンゼに嘘をついているのでしょうか?
私はそうは感じません。この場面でデンケンに嘘や誤魔化しがあるとは私は感じませんでした。
なぜなら、デンケンは「一級魔法使いになったことは後悔していない。お陰で遠い昔に失ったものを取り戻せた」と、しみじみと語っていますし、

「貴方を信じることができな」いと言ったゼンゼに対しても、ゼーリエのことが心配でナーバスになっているのを見てデザートを勧めて、「少しは気分が落ち着くはずだ。話し合いの場において焦りが見て取れるのは良くない」と親身になってアドバイスしているからです。(一級魔法使い試験の時のリヒターやラオフェンに対する態度を思い出します)
また、皇帝はゼーリエに対して「デンケンが受けた恩も返したい」と言っています(第145話)。ということは、デンケンは故郷ヴァイゼの件(黄金郷編)に関してどれだけゼーリエ(大陸魔法協会)の世話になったのかを皇帝に語っているのです。

こういったところから、デンケンのゼーリエに対する忠誠を疑う余地はないと私は考えます。
ですから、デンケンがゼーリエ暗殺計画について「何も知らん」のは真実でしょう。
では、なぜデンケンはルティーネについて詳細を把握しているのでしょう?
可能性は「ゼーリエ暗殺計画とは別件でルティーネを調査した」しかありません。
「他にも聞きたいことがあるんだろう」
そこで気になるのは、デンケンがゼンゼに言った「(ゼーリエ暗殺計画の)他にも聞きたいことがあるんだろう」です。

こう質問を促すということは、デンケンはゼーリエ暗殺計画それ自体については何も知らないけれども、関連する知識は持っているわけです。力になるから何でも聞いてくれ、と言うのです。
デンケンのこの自信はどこから来るのでしょう? ゼーリエ暗殺計画のことは「何も知らん」と言うのに。
それはこういうことです。
そもそもゼーリエは「神話の時代の大魔法使い」です。ですから、ゼーリエ暗殺計画の背景を理解するには神話の時代に関する知識が必要です。

つまり、デンケンは神話の時代に関する知識に自信を持っているから、ゼンゼに質問を促しているのです。「他にも聞きたいことがあるんだろう」というのは、「神話の時代については詳しいから、儂になんでも聞いてくれ」ということです。デンケンは「零落の王墓」についても詳しい知識を持っていたことを思い出してください。(第6巻48話)

図書館の常連デンケン
デンケンとルティーネは顔見知りですから、デンケンは図書館を頻繁に利用していることがわかります。
膨大な蔵書を持っていて宮殿の書庫も自由に使えるデンケンがわざわざ外部の図書館を利用する理由は、この図書館が自分の蔵書や宮殿の書庫ではカバーできない分野の資料を収蔵しているからです。
それは何かといえば、宗教関係の資料(神話の時代に関する資料)です。

修道院は写本により「昔の文献や神話を現代へと伝えていく」役割を持っています。(第12巻112話)
デンケンが常連になっている(ルティーネの勤務先の)この図書館は、帝都の修道院本部の付属図書館で、特別に貴重な資料を収蔵しているわけです。(公にできない秘密資料もあるでしょう)
ですから、デンケンの神話の時代に関する知識の入手先は図書館です。
そして、それはレーヴェも同じなのです。
ちなみに、修道院本部の中には聖杖法院があります。デンケンは聖杖法院でミリアルデに「根回し」をした後に、ついでに図書館に寄って書物を返却しています。詳細は次の考察を参照ください。

では、次に結論を見ていきます。
デンケンの「別件」/ルティーネの特別任務
デンケンとルティーネ
デンケンとルティーネの猛烈な鞘当ての背景には、次の様な前日譚があります。ルティーネの素性を調査するきっかけになった「別件」です。
ある日、図書館で神話の時代について調査していたデンケンは、ルティーネの怪しい動きに気付きます。ルティーネもデンケンと同じ神話の時代に関する資料を持ち出しているのです。
一介の司書に過ぎないルティーネがなぜ? デンケンは自身の情報網を使ってルティーネの身辺を調査します。経歴は真っ黒でした。ただの図書館司書ではありません。
ルティーネの出身は帝国最北端領・ロルベーア、帝国将校のレーヴェが総督を務めています。レーヴェは南側諸国で工作活動に従事していました。ここまで調べ上げるのはデンケンなら簡単です。

デンケンが陰謀の匂いを嗅ぎつけたのは当然でしょう。皇帝の右腕・デンケンは影なる戦士の存在も当然知っています。

レーヴェとルティーネ
次に、ルティーネ側から本件の前日譚を見てみます。
地下通路の下見の時にイーリスが「久々の任務だ」「楽しみだね」と話題を振りましたが、ルティーネの反応は「そうですね…」と今一つ芳しくありませんでした。(第14巻133話)

ルティーネはイーリスのことが大好きで、イーリスから構ってもらえるとニコニコしているのに。(第141話)

これは、イーリスにとっては「久々の任務」でも、ルティーネにとっては「久々の任務」ではないために、反応に困ってしまったからです。
今回のゼーリエ暗殺計画の前から、ルティーネには特別な任務がありました。(この任務の過程で消された人物もいたでしょうね)
前述した通り、ルティーネはレーヴェが総督を務めるロルベーアの出身です。レーヴェとルティーネの間には他の影なる戦士とは異なる特別な関係があります。
レーヴェはルティーネを使って図書館で神話の時代について調査させていたのです。
これがレーヴェの神話の時代に関する知識の入手先です。
※ルティーネがいくら「博識」(第14巻134話)とは言え神話の時代の資料を独力で読み込めるとは思えません。それはレーヴェもレーラーも同じです。古エルフ語(第8巻69話)の知識を持った人物が背後にいる可能性が高いでしょう。ルティーネが資料を持ち出し(いわゆる借りパク)、その人物が解読するという役割分担です。とりあえず思い付くのは、ミーヌスです(死を偽装している場合)


ゼンゼはデンケンに何を聞いたか?
せっかくなので触れておきます。
デンケンがゼンゼに「他にも聞きたいことがあるんだろう」と質問を促した後、ゼンゼが何を聞いたのかは描写されていません。
ゼンゼの質問として可能性がありそうなのは…
ゼンゼと帝国編と言えば、まずは魔導特務隊と一級魔法使いの交戦の件があります。(おそらくこの時にラントの両親が殺害されています)

ですから、ゼンゼがデンケンに聞いたのはまず一つはフラーゼについてでしょう。(本稿では触れませんが、デンケンはフラーゼに関連して図書館で神話の時代について調査しています)
ゼンゼがデンケンに質問しそうなこととしてもう一つあります。
それは読者も気になっていることで、ゼーリエ暗殺の目的(理由)に関してです。敵はゼーリエを殺して魔法を無くそうとしてるわけですが、そもそもゼーリエの死と魔法を無くすことの関係が分かりません。これも神話の時代に関する知識です。
まとめ
第147話を読んだ当初、レーヴェとソリテールはほとんど同じこと(女神様が世界の法則・理を変更した)を言っているのだから、レーヴェはこの知識を魔族から入手したのだろうと私は考えていました。この考え方の難点は、魔法を無くすことが魔族にメリットになるとは考えにくく、レーヴェと魔族の関係が今一つ理解できないところです。
レーヴェの知識の入手先が図書館の神話の時代の資料だということであれば、この点をスッキリ理解できます。(他方で、レーヴェの背後に魔族がいるという可能性は低くなります)
また、ゼーリエを殺害することでこの世界から魔法を無くすというレーヴェの謎理論も、どうやら神話の時代の資料に由来するようです。女神様から任されたゼーリエの役割として魔力の管理といったことがあるのかもしれません。
レーヴェが総督を務めるロルベーアがルティーネの出身地であるというあからさまな伏線は、これで理解できました。

興味深いのは「天地創造の女神様」(第11巻107話)という女神様信仰の大前提を否定する資料が存在することです。
女神様は世界を書き換える存在に過ぎない、女神様の前に世界を創造した《神》が存在しているというわけです。しかも、それが魔族側の考え方と一致しています。
これが真実なら教会の公式見解や聖典の内容にウソが含まれているという疑念が生じかねません。宗教関係者にとっては結構なスキャンダルでしょうし、一般の人々にとってもフリーレンたちにとっても世界観を揺るがす事件でしょう。当然、ゼーリエは知っていると思いますが…。
※神話の時代についてはこちらで考察しています。
おわりに
直接の描写がないため目立ちませんが、デンケンは黄金郷編に続いてかなり活躍していますね。
私の考えではデンケンにはさらに活躍の場面があって、一つは聖杖法院への根回し、もう一つはレルネンとのヴァイゼでの調査です。この二つの結果が帝国編の結末に大きく関わってくるでしょう。


本稿での推論の過程は、実際の私の推論の過程ほぼそのままです(説明のために多少はわかりやすく整理したり、物語仕立てにはしています)。「真実」(だと私が考えること)にたどり着くまでの過程はとても楽しいものでした。
難しすぎず、簡単すぎず、適切に配置された謎と手掛かりからは物語の語り手としての作者の力量を感じました。素直に感服します。これは私が《葬送のフリーレン》をミステリ好きにお勧めする所以です。
《葬送のフリーレン》に関する記事は下記のマガジンにまとめています。
150本超ありますが、最初の考察記事としてお勧めなのはこちらです。
これを読んだ上で、フランメ、ヒンメル、エーヴィヒ、ゼーリエ、大魔法使い、などで検索すると物語の全体像に関わる考察が出てきます。
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