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If小説「LOVERSサクライロ編」① 〜インターネットが繋がらなくなった世界。大切な人と繋がれる場所を探して〜


これは、あなたが読み終えた直後、本当に起きるかもしれない物語――


第一話:液晶画面上の誰とも繋がれなくなった日

<さくら>

 その瞬間、人々は画面の向こうの人とつながる手段を失ってしまった――。

 唐突に、“世界の蜘蛛の糸インターネット” が切れた。私だけかと思ったが、どうやら周囲の人々の様子から想像するに、少なくともこの一帯のネットワークが切断されてしまったようだ。しばらく待ってみたが、回線が復活する様子はない。三十分、一時間と経つうちに、人々の顔からどんどん血の氣が引いていく。

 さすがの私にも焦りが生じる。いまや、電話すらもインターネット経由。これでは、すぐに連絡を取りたくても手段がない。

(リオンくんに、どうやって連絡しよう……?)

 私はライブペイント画家として、彼は即興ピアニストとして『サクライロ』というユニットを組んでいるアーティストだ。普段、福岡の田舎に構えたアトリエ兼集い場『ワライバ』で生活をともにしている私たちだが、今日みたいな日に限って別行動。私は絵の個展を開くため東京の画廊に、彼は自身のきょうだいも属するバンドのライブに飛び入り参加する目的で都内のコンサート会場に行っている。

 互いに、いる場所はわかっている。しかし、ここは東京。時間のすり合わせなしに待ち合わせるのは極めて困難。電子ツールでやり取りするのが当たり前の日常で生きてきた私たちにとって、この状況はまさに、いきなりサバイバルゲームに放り込まれたようなものだった。

 ひとまず冷静になろうと、今日の個展は閉めることにした。通信網を絶たれた人々が、私の個展会場に足を運ぶことは考えにくかったし、私自身も不安を抱えた状態でいつまでもここにいたくはなかった。

 時刻は午後4時40分。幸いにしてアナログの腕時計をしていた私は現在時刻を知ることが出来る。しかし、時計を見たのは心の不安を取り除くため。実際には、この状況下で正確な時刻を知ることに何一つ意味はない。

(リオンくんに逢いたい……。)

 今いる場所から電車で30分ほど行ったところにあるコンサートホールが今日の会場。生演奏をする彼らへの直接的な影響はないと推測し、彼との合流を目指す。

 だが、その見通しは甘かった。最寄り駅は、改札から出られないICカード利用客でごった返していたのだ。

「入場記録はあるんだから、出られるだろうが! なんでこんなところで足止めをくらわなくちゃいけないんだ?!」

 どうやら、ネット回線の断絶により運賃の計算が出来ないらしい。それを見て、これから乗ろうとしている人が券売機に殺到するも、普段は使わないであろう人たちが、購入の仕方に手間取る姿が見受けられる。

 行列から離脱し、バスやタクシーを使おうと乗り場に走る人々もいる。しかしこちらにも同じことを考える人が殺到し、どちらにしろ並ぶ羽目になる。そして電車同様に、現金を持たずICカード決済しか出来ない人たちが「ここにチャージしてあるのに、なんで支払いが出来ないんだ!」と泣き叫んでいる。

(リオンくん、こんな時、どうしたらいいの……?)

 問いかけると、リオンくんの声が聞こえた氣がした。胸に手を当て、空を見上げる。春の夕焼け空は、地上の混乱など知る由もなく穏やかに澄み渡っている。

 そっとまぶたを閉じる。渡る風がリオンくんの奏でるピアノの音に聞こえた。




<リオン>

 音響トラブルの影響で入場開始時刻を遅らせたのがアダとなった。その間にネット回線が断絶し、オンラインチケットの認証が出来なくなるなんて、いったい誰が想像しただろう? 既にチケットを購入しているのに、時間を過ぎても席につくことが出来ないファンたちが苛立ちをつのらせ始めている。

「目視でチェックできないの?」
 ボーカルのメンバーが暢気なことを言った。スタッフが申し訳なさそうに言う。

「当ホールのチケット認証システムは完全デジタル化しておりますので、目視などという旧来の方法は……」

「じゃあ、このままネットがつながるまで待てと言うの? あたしたちは準備万端なのに!」

「申し訳ありません……」

 そのやり取りを見てため息をつく。これが、便利さを追求した人間に突き付けられた答え。柔軟に対応するという発想すら湧かず、あくまでも現状のシステムで対応しようとする。おれにはその姿が、プログラムどおりにしか動けないロボットに見えた。

(さくらは、どうしているだろう……? まさか、こっちに向かってるなんてことはないよな……。)

 普段なら、別行動をしていても、彼女がどこで何をしているか、氣にすることはほとんどない。けど、今は非常事態。

「……あのさ、近くに、公衆電話ってある?」
 スタッフの一人に声をかけてみたが、「近くにはないかと……」と小さな声で返された。

「っていうか、公衆電話があったとしても、掛けるには小銭がいるだろう? リオンって普段、現金持ってたっけ?」

「少しくらいは持ってるよ!」
 エレキギタリストの兄貴の何氣ない一言も、こんな状況下ではイライラさせる材料になる。

「……ちょっと一人にさせて」
 冷静になるべく、聴衆のいないホールのステージに一人、立つ。グランドピアノの前に座り、呼吸を整える。

 ホールの外は混乱に満ちている。けれど、ピアノと向き合うおれを包む空氣は静寂に満ちている。

 鍵盤に指を置き、さくらを想いながら弾く。
(さくら、この音が聴こえる? おれはここにいる。ピアノと共に。だから何も不安に思う必要はない。おれたちはいつでも繋がっている。必ず逢える。そう信じて。)

 どんなに離れていても、おれの弾くピアノの音は、光の粒となって瞬時にさくらのもとに届く。これは「そうであってほしい」という願望なんかじゃない。おれとさくらの細胞は、ピアノの音、キャンバスに描かれる色彩を通していつでも共鳴し合う。

 瞑った瞼の裏に、さくらの顔がうかんだ。少し不安そうだ。そばでそっと語りかけるように、そよ風のような旋律を奏でる。

(さくら。もしおれの姿が見えなくて不安になったらどうするか、湖畔のワライバで語り合っただろう? 約束の場所、再会の場所を思い出してごらんよ。)

 すると、まぶたの裏側に映ったさくらは、胸に手を当て空を見上げた。まるでおれの声が聞こえたみたいに。

(そう、それでいい。おれの音は宇宙に放たれている。さくらが空を見上げれば、ちゃんとキャッチできるはずだよ。)

 たぶん、インターネットが切れている今ならあっさりと受信できるだろう。人は本来、感覚さえ研ぎ澄ませれば、思いを飛ばすことも感じることも自在に出来る。だが、ノイズまみれの日常に身をおいていると、その力が発揮できない。もしかすると今日のこの出来事は、人が本来持つ能力を思い出すための試練、あるいは実験なのかもしれない。



「第二話:外側のコンパスに頼る者、心のコンパスを信じる者」はこちら


思いつきで、「もしたった今、インターネットが繋がらなくなってしまったら?」という世界線で物語を書いてみたくなり、筆の向くままに執筆してみました。

あなたがさくら、あるいはリオンなら、大切な人とどのようにコンタクトを取って『再会』しますか? また、待ち合わせ場所はどこにしますか? 是非コメントをお寄せください(*^_^*)


↓↓ さくらとリオンのメインストーリーはこちらから読めます ↓↓


気まぐれな投稿なので、もしかしたらメンバー限定公開に切り替えるかも笑

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