【連載小説】LOVERS #11 刺激を求める人々に、問う
前回のお話(第10話):
リオンとさくらから、サザン×BBの脱退を打ち明けられたメンバーは、ゆうび奏社長に説明、承認を得るため、事務所に向かった。
話を聞いた社長は、二人がやろうとしていることに理解を示し、プロデューサーのショータに面倒を見るよう指示する。ショータは、リオンが自分の腕前に強い自信を持っていることが、今後は欠点になり得ることを指摘、さくらも同意する。反発するリオンに対し、さくらは社長の協力の下、自身が紙に描く姿を間近で見させる。
即興で描く姿を見たリオンは、失敗をも作品にしてしまうさくらに刺激を受け、自らもピアノを即興演奏する。そこでリオンは改めて、さくらが自分を精神的に支えてくれるパートナーであることを認識する。
本編:
28.<リオン>
正直な話、街中にあふれる音楽はおれの耳には雑音にしか聞こえない。特に店に入るとヤバい。店内放送なんて聞いちゃいられない。だから、出かける必要があるときはヘッドホンが必須。自分たちの音楽を聴いてる方が百倍マシだ。
そんなおれに、社長から命が下った。流行の音楽を調査しろ、と。
ただでさえ聴きたくないものを意識的に聴く……。考えただけでも苦痛だ。しかし、これを乗り越えなければ二人立ちを許可してもらえない。こうなったら、さくらを巻き込んで一緒にやっていくしかない。
*
おれはさくらを誘い、敢えて休日の真っ昼間に出かけた。場所は、都内でも若者が多く遊びにいく街だ。
駅を降りるところから既にごった返している。おれの耳はヘッドフォンで塞がっているが、これだけ多くの人がいると、ヘッドフォン越しでも声が聞こえてくる。
なんとか人混みをすり抜け、改札を出る。既にうっすら音が聞こえているが、さて、一体どんな音楽が流れているのだろう。恐る恐るヘッドホンを外す。
(…………! な、なんだこりゃ……?!)
驚いた。最初に耳に入ってきたのは、確かに音楽だ。人が歌っているようにも聞こえる。だが、おれには歌い手の感情が全く感じられず、またBGMも薄っぺらに思えた。
「さくら……。今流れてる曲、分かる?」
「ええと……。確か、『未読のまま、好きでいて』っていうタイトルだったかな。いま流行りの、AIで生成した音楽だと思うけど。すごいよね。まるで人が歌ってるみたいに息継ぎまで再現できるんだもの。私なんて最初、AIで生成した曲や歌だってことに氣がつかなかったくらい」
「…………」
「もしかしてリオンくんはこういうの聞くの、初めて? 自分たちの音楽を動画にして投稿してたのに、知らないんだ? 動画投稿サイトには、この手の曲があふれてるのに」
「投稿はしてたけどブラックボックス時代の話だし、その頃はまだ、投稿されてる音楽は人の手で行われてた。少なくともおれの目に留まっていたものは」
たったの一、二年でこんなにも変わってしまうものなのか……。そして、こういうのが公共の場で流れるくらい、多くの人に受け容れられているというのか……。
聞いていたら、なんだか頭がおかしくなりそうだ……。慌ててヘッドフォンを付ける。自分が演奏する電子鍵盤の音を聞いてつかの間、癒やされる。
さくらがおれの顔をのぞき込みながら「ダイジョウブ?」と口を動かすのが見えた。会話をするため、もう一度耳を解放する。
「……さくらはこういう音楽、聴いてんの? おれには理解できないよ」
「聴いてるって言うより、耳に入ってくるから知ってる程度だよ。私の世代になると、いま聴いたような歌詞は全然響かないし、敢えて聴こうとは思わないかな……」
さくらはおれより十一個、年上だ。
「ああ、よかった……。もしこういうのが好きだって言われたらどうしようかと……」
「常日頃、間近で生歌や生演奏を聴いてるんだよ? 私は画家だけど、いい音楽かどうか、聞き分ける能力くらいはあるよ」
さくらは語氣を強めて言った。
「……でも、そういう機会がない人は、やっぱりこうやって流れてくる曲に魅力を感じてるんだろうね。いま聴いてみて思うのは、頭を空っぽに出来そうってこと。何も考えたくないときに聴くなら、きっとこういう曲だろうなって思う」
「ああ、なるほど……。みんな、脳みそを空っぽにしたいのか……。でも、なんでだ?」
「そりゃあ、現実から目を背けるためでしょう。多くの人は、やりたくない仕事や勉強、人間関係から逃げたいと思ってる。でも、自分の居場所はそこにしかないとも思っているから、せめて音楽やゲーム、動画を見ている間だけは頭を空っぽにしたい……。そういうことなんじゃないかな?」
「そんな人間にこそ、おれの音楽を聞いて欲しいし、さくらの絵も見てもらいたいね」
「それが理想だよね。でも……」
さくらはそこで言葉を句切る。
「……私たちの芸術作品と向き合うためには想像力が必要。頭を空っぽにしたい人からしたら、最も遠ざけたいものじゃないかと思う」
「……ってことは、今時の連中は、想像する力すら、なくなっちゃってるの?」
「……ないと言い切るのはどうかと思うけど、危惧する声はあるよね」
「マジか……」
いまはまだ、新しい音楽が自分たちの脅威になるとは思えない。が、AIが個々人のニーズに沿った音楽を作り始めれば、ミュージシャンが提供する音楽が聴かれなくなる日もそう遠くないように思えた。
もう一度、街の音に耳を傾ける。AIで生成されたであろう曲と音声。それは、おれにとっては耳障りな音でしかないが、別の角度から聞いてみる努力をするなら、平凡でつまらない日常を騒音で掻き消してくれる、言うなれば「つかの間の癒やし」を提供してくれるのが、いま流行りの音楽であるように感じた。
29.<さくら>
今日の命題は、ちまたで流行る音楽の調査。しかし、私は私で別の目的を持って街に繰り出している。
AIで生成されているのは音楽だけじゃない。絵も、もはや人ではなくAIが数秒で描ける時代になってしまった。
世の中を見回してみれば、見栄えのいい絵であふれかえっている。しかしその多くがAIで生成された画像。人手に依らないそれらの絵が流行る背景にあるのは、おそらく人件費の削減だろう。コストのかかるイラストレーターや画家に注文するより、圧倒的に早く、綺麗に、そして何度でも描き直してくれるAIに描かせたいと思うのは自然な流れに思える。
しかし、画家の私に言わせれば、あんなのは本物の絵じゃない。写真より劣るそれらを受け容れるわけにはいかない。けれど、残念ながらこの流れを止めることは出来ない、とも思う。
これは音楽の世界でも同じだろうが、いまや人々を取り巻く環境のほとんどが「あなたのおすすめ」で出来ている。つまりそれは、巨匠でもない限り、芸術家の作品が見聞きされる機会が減少していくことを意味する。
そんな中で、自己表現しなければ生きていけない人種である芸術家は今後、どうやって生き残っていくのか。真剣に考えていかなければならない。
現状、私たちは新しいことを始めようと意氣込んでいる。が、現実は厳しいと感じている。立ちはだかる壁は限りなく高い。
「……リオンくんは、街ゆく人にどんな音楽を聴かせたい? 理想はある?」
流行りの音楽を聴いたあとの彼がどんな世界をイメージしているのか、聞いてみたくなった。
彼はしばらく考え込んだ。
「……ごめん。今すぐには浮かばない。って言うか、この喧噪の中じゃ、うまく自分の音を鳴らせない……」
「あぁ……。そうだよね……」
かく言う私も、リオンくんに届くようにしゃべろうと思ったら、おなかに力を入れないといけない。そのくらい、周囲はうるさい。
この世界は、芸術家だけが生きにくい場所だと思ってた。でも、いつの間にか、誰にとっても生きにくい世界になっていて、だから、みんなが自分の世界に籠もっている……。
少し前までの私だったら、自分を守るためにそうするのはやむを得ないことだと言っただろう。でも、いまは違う。
こんな世界になってしまったからこそ、内側から湧いてくる想いやイメージを外に出す。そしてそれを材料に、生身の人間と繋がる。今の人々に必要なのは、リアルな人間の温もりや息づかいだと私は感じている。
*
騒々しい街の中心から離れる。狭い路地に入ると、幾分騒音も減った。これなら普段の声量で会話できる。
「少し喉が渇いたね。あそこのカフェのテラスで、何か飲みながら調査の続きをしない?」
私は目の前に見えたおしゃれな店を指さした。リオンくんは「うん、ここでならオッケー」と言って親指を立てた。
カフェ店内は人であふれかえり、話し声で満たされていた。ようやく順番が回ってきて飲み物だけ注文した私たちは、そこから逃げるように店に併設されたテラス席をめざし、座った。
「はぁ……。この街はどこに行っても耳が痛いなぁ……」
リオンくんは、仕事だから仕方がないけど、と言いながらヘッドフォンを外した。
「天才ピアニストともなると、現代社会では生きにくそうだね……」
「まったくだよ……。だけど、それはさくらだって同じだろう?」
「んー。私の場合は耳じゃなくて目だけど、同じと言えば同じ、かな」
そう言いながらアイスコーヒーをすすり、周囲に目をやる。
すると驚いたことに、カフェでお茶をしているグループの多くがスマホを片手に過ごしているのが見えた。話しているのに、視線はスマホに釘付け。でも、なぜか会話は成立していて、笑ってもいる……。
「……あの人たちは一体誰と会話をしているんだろう? 目の前にいる人と、何を共有しているのだろう……?」
思わず、呟かずにはいられなかった。
私の視線を追うようにリオンくんも、少し離れた席の女性グループを見る。そして同様の反応を示す。
「おれ多分、あの人たちと年、一緒くらいだけど、あれは理解できないな……。自分の作った曲を聴くのが好きなおれでも、さくらとこうして話してる間も聴こうとは思わないよ、さすがに」
「うん、それが正常だと思う。でも、あの人たちのように、常に何かしらの刺激を得ていないと落ち着かない人が、いまは増えているのかも……。もしかしたら、会話に集中する力も失われてるのかな……?」
「それは有り得る! 電車でここに来る間も、同伴者と話すよりスマホ見てる時間の方が長いだろ、ってやつ、いっぱいいた」
「うん。私も氣になってた」
人々の目や耳が標的にされている……。消費される対象として、まるで、物のように扱われ始めている……。こんなことが、まかり通っていいのか……?
人間観察にふけっていると、リオンくんが自身の考えを述べる。
「画面をじっと見て、いったい何が楽しいんだろうな? おれは、自分の内側の音をピアノで奏でたり、こうやってさくらと対面で話したりしてる方がずっと楽しいけどな」
「私も同じ。むしろ、内側から湧いてくる想いやイメージを表に出さないと死んじゃう。外から何かを取り入れてる暇なんてないよね?」
「分かる分かる! つーか、外からの情報より、内から湧いてくるものの方がずっと刺激的だよな」
「うんうん!」
そう、リオンくんとはこういう話が出来る。だから私は彼に惹かれているし、尊敬もするのだ。
なのに先日、仲違いしてしまった。
原因は分かってる。こんな考え方をしていたのでは、この世界で楽に呼吸できないし食べていけないと、周りの大人が騒ぎ立てるから。
分かり合えないかもしれない、と言う不安もあった。でも、やっぱりリオンくんは真の芸術家だった。キーボーディストと言う枠から抜け出し、自分の才能のフルに発揮できる環境でやっていこうと決意してくれた。
有名にも、お金持ちにもなれないかもしれない。でも、いま流行りの音楽や絵を見聞きする限り、名を売っても消費材料の一部になる未来しか、私には見えてこない。
「私たちは消費されない。私たちの作品で彼らを消費させもしない。そういう音楽、絵を目指したいな」
「そうだな……」
リオンくんはそう言った後で、再び耳を閉ざした。
✨続きはこちら(#12)から読めます✨
※1:見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
※物語の補足&問い※
過去にnoteに投稿した曲の作詞は全て、いろうた自身が行っていますが、今回はあえて、若者が好みそうなフレーズを取り入れたかったので、AIに作詞させました。
「未読のまま、好きでいて」(タイトルもCopilot作):
既読つかないLINE
でもストーリーは更新してる
「今日も部活?」って聞けなくて
制服のまま ため息ループ
友達には「別に」って言うけど
ほんとはずっと気になってる
イヤホンから流れるラブソング
君のことばっか 重なってくる
未読のまま、好きでいて
返信なくても 君が好き
ちょっとだけでいい 気づいてほしい
この恋、通知オフにできない
***
また、作曲(SUNO AI)は、最新バージョン(V5 Pro Beta版)をお試しで1分間のみ勝手に生成してくれたので、それを使ってみました。V3.5(無料版)とは音質、作曲レベルがまるで違いますね……。イメージ通りの曲が出来上がる。そういう時代が来ています。
AIが台頭するこの時代、芸術家(小説家含む)に出来ることはいったい何なのか。共存? 競争? それとも……。
芸術家として尊敬し合うこちらのLOVERSが目指す世界に、今後も是非ご注目ください。
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