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闇 633(河本マンション脱出編)

闇 633(河本マンション脱出編)

2026/08/08 sat
※ダイヤのカットをするのが商業用小説。俺は原石をみんなに見てほしいと掘り続けているのだろう。
前回の章


二千二十四年一月二十一日、日曜日先勝。

自称俳優の若菜龍平ファミリーのマンションを契約したのは、失敗だったんじゃないのか?
まだ金を払った訳ではない。
キャンセルすればいいだけの話。

どうも龍平のあの偉そうな叔父の態度が、生理的に拒否反応を起こしていた。

大家なのは分かるが、面接をわざわざしたり、何の作品を書いているのか聞いてきたり、十秒の距離なのに引越し屋を使えと無茶を言ったり、今まで家賃収入で生活をしてきて、まともに働いてきた事もないのだろう。
常識も無ければ、人間としての品位に欠ける。

今回の契約で、俺が支払う金額は約四十六万円。
何だか金ばかり飛んでいくような気がした。

インカジ『レディ』の出勤時間が近付き、部屋を出て受付の前を通る。

「岩バミさん! 家賃!」

河本マンション台湾人大家が、夫婦口を揃えて怒鳴りつけてきた。
月末までに払えばいいものを一体この人たちは何なのだろう?

もちろん相手にせず外へ出て、大きく息を吐く。
やはり龍平マンションへ、まず引越ししないといけないようだ。

店に出勤すると、運試しに東海ステークスを買ってみる。
湯浅にマンションの契約が済み、あとは金を払うだけという状況を説明した。

「岩上さん、川越に実家あるんだから、自分みたいにそこから通えばいいじゃないですか」
「一時間掛かるし、歩いて来れるエリアからの通勤に慣れてしまったんですよね」

確かに湯浅の言う通りなのだが、やっとマスターの新店こなもんがオープンしたばかりなのだ。
川越から通えば、河本マンションも自称俳優も無関係になるが、そうするとこなもんへ顔を出すのが逆に大変になってしまう。

まずは地獄の不当高額光熱費から脱出し、本来どのぐらい掛かるのかを見てみたい。

仕事を終え、一息ついてから東海ステークスのレース結果を見た。

ガチガチの展開だったが、見事的中。
馬連と三連複が当たっていた。

2024/01/21 JRA 東海ステークス

一着と二着が逆なら三連単まで取れて、パーフェクトだったのに……。

まあそこまで欲張っても仕方ないか。
自称俳優マンション契約で、就業証明のダミー保証会社へ九万三千五百円の振り込み。
そして栄福建設…、自称俳優マンションの不動産へ三十六万二千四百九十八円支払いを済ませた。

2024/01/21 保証会社93500円 栄福建設362498円

すべて契約が終わる。
一月末まで河本マンションとの契約はあるので、十秒ぐらいの距離を少しずつ荷物を運べばいいか。
龍平マンションは二月からの契約であるが、金を支払ったのでもう引越しの準備をするぐらいいいだろう。

まだ鍵を受け取っていないので、俺は龍平に電話して直接頼む事にした。

「若菜さん、もうお金は今日振り込んだので、小物を少しずつ運んでいいですか?」
「とりあえず外へ出ますよ。岩上さんも出て来れますか?」
「ええ、もちろん」

部屋の鍵を渡してくれるものだと思い、外でタバコを吸いながら龍平を待つ。
十五分ほどして龍平が姿を現した。

「入居は二月…、正式には一月二十五日からになるんですけど、部屋へ少しずつなら荷物をちょこちょこ運んでもいいですよね?」

自称俳優は満面の笑顔で「では日割りで」と答える。

「……」

何というドケチぶり。
俺、おまえに散々酒や焼肉をご馳走しているよな?
契約済んだ部屋に対し、荷物を事前に運ぶのに追加料金?

金が掛かるなら、もう少し日にちが近付いてから、二十五日になってから引越しをすればいいや。

「あ、岩上さん、飲みに行きます?」
「いえ、行きません……」

俺は素っ気なく返事をして、河本マンションへ戻った。
部屋のドアにセロハンテープで貼られた手書き光熱費請求書。

九万八百二十円の金額。
これは来月の分の家賃六万八千円も入れた金額だろう。
純粋な光熱費は二万二千八百二十円。

2024/01/21 河本マンション光熱費手書き請求書 家賃68000円+光熱費22820円

また二千円ほど上げているよ、あの馬鹿大家。
こうして毎月じわりじわり上げていくんだろうな。
法的根拠の無いこんなものへ、もう金など払わないけど。
そしてもう引っ越すから家賃も払う義務すらない。

ここまで浅ましく金を取ろうとして、生きていて恥ずかしくないのかな、あの台湾人ファミリーは。


二千二十四年一月二十五日、木曜日大安。

道挟んで斜め向かいのマンションへ本日より引っ越し開始。
昼間は仕事だし、深夜から早朝の時間へ掛けてせっせこ荷物を移動する。

2024/01/25 自称俳優マンション 入居日

新たな新居。
色々と面倒だけど、今の慢性的なストレスを溜めているより、こっちの自称俳優マンションのほうが全然マシだろう。

河本マンション大家が法的効力のない手書き請求書で光熱費と、二月分の家賃払えとうるさいが、話し合いにならないので完全無視。

部屋の写真を撮ると、俺はこれまでどれだけ被害を受けてきたのか、gooブログで河本マンションから受けた被害まとめ記事を書く事にした。


【1年ちょっとで百数十万の支出】道挟んで斜め向かいのマンションへ引っ越し

一年ちょっと住んだこの河本マンションでは本当に酷い目に遭った。
二千二十二年九月に入居して、二千二十四年一月に出る事に決めた。

不動産契約金や不当光熱費で、百数十万を使った訳だが、金額よりも過度なストレスが掛かる環境から早く脱出したかったのである。

二千二十二年九月十五日の時点で、不動産タウンハウジングからもらった書類では光熱費の各電気、ガス、水道と連絡先が書いてあるが……。

2022/09/15 タウンハウジング 河本マンション光熱費説明書

契約してから後出しで、光熱費は親メーター方式により大家からの請求。元々ホテルだったらしく、郵便ポストも何もない。
入口に受付があり、早い時間はいつもそこへ大家がいて、家賃も光熱費もここで現金手渡しと言われる。

初月のみ電気、ガス、水道代合わせた光熱費が約一万八千円の請求。

大家は「うち、光熱費安いね」なんて言っていたが、どこが安いのだろうと思いながら支払う。

着替えを済ませ、ドアを開けるとセロハンテープで光熱費の手書き請求書が貼られていた。
借金をした訳じゃないんだから、こういう事は本当にやめてほしい。
俺はすぐ剥がし部屋へ戻る。
九月分の途中から十月までで、約一万九千円。
電気、ガス、水道全部込みだから、これって高いのか安いのか分からない。
財布から札を取り出して受付へ向かう。
「大家さん、光熱費はここで払えばいいんですか?」
「おー、岩バミさん、そうね。お金、ここで払う」
「大家さん、俺は岩バミでなく、岩上ですよ。い、わ、か、みです」
「おー、岩バミさん、二万円じゃなく、細かいのないか?」
「ん、ちょっと待ってて下さいね」
おそらく台湾人だから、岩上の『かみ』をちゃんと発音できないのだろうな。
俺は部屋へ戻り、千円札八枚と小銭入れから書いてある金額分を持って払った。
「うち、光熱費安いネ」
「はあ……」
手書きの領収書をもらうと、俺が持っていた手書き請求書を取られる。
「あれ、大家さん。一応控えでこれは保管しておきたいんですけど?」
「これは大家のほうで保管するネ。岩バミさん、領収書もらった。これでいいネ」
「……」
何だか変な大家だな。
「また来月同じようにお金払うネ」
「分かりました」
戻ろうとすると「あ、岩バミさん!」と背後から声を掛けられ、大家が受付から出てくる。
目の前にある冷蔵庫から五百ミリリットルの缶ビールを二本取り出して「岩バミさん、飲むネ」と手渡してきた。
「いや、大家さん。俺、ビール好きじゃないからいいですよ」
「いや、これ飲むネ」
「本当に結構ですから」
丁重に返し、部屋へ戻る。
するとドアがバンバン叩かれる。
「……」
しつこい人だな……。
無言でドアを開けると、大家が隙間から先ほどのビールを渡して「飲むネ」と帰っていく。
仕方なく冷蔵庫へビールを入れ、溜め息をついた。

翌月光熱費二万超え請求。

着替えを済ませ、外へ買い物に出ようとしてドアの外に貼ってある紙に気付く。
手書きの光熱費請求書だった。
値段を見て驚く。
二万七千円?
先月って一万八千円台だったよな。
一ヶ月で一万円近くも多く、光熱費使ったか?
ただこの紙切れをセロハンテープでドアへ貼るのは、本当にやめてほしい。
まるで俺が借金でもして悪い事をしているみたいだ。
郵便ポストが無いのは分かるけど、このマンションの住民の誰もが俺の部屋の前を絶対に通るから、みんなが目にしてしまう。
俺は丁重に請求書をドアから剥がす。
確かに風呂に入る回数は増えた。
料理でIHも入居時より使った。
それでも前の一万八千円は、九月途中から十月分の約一ヶ月半分だから納得できたが、今回は通常の一ヶ月分。
一万円も増えるものなのか?
まあ請求されたものは仕方ないので、部屋へ戻り金を用意する。
正直この出費は痛い。
「おー、岩バミさん。光熱費ね」
まずメガネザル大家は俺から請求書を奪うように取った。
財布から請求書分の金額をキッチリ用意してカウンターへ置くと、大家は紙を奥へしまう。
「あ、大家さん。その請求書返してもらえますか? 一応いくら支払ったか分からなくなるんで」
「これはこっちで管理するものね。今領収書書く」
「一ヶ月で電気代とか一万円近く上がるなんて、やっぱりロシアとウクライナの戦争とかも関係しているんですかね? 俺、光熱費で二万円以上なんて、今まで初めてですよ」
「電気代高くなったね」
手書きの領収書を受け取り一旦部屋へ戻ろうとすると、前回同様声を掛けられ、大家が受付から外へ出てくる。
また冷蔵庫をゴソゴソしているので眺めていると、缶ビールを二本取り出した。
「いや、前も言いましたけど大家さん、本当に俺ビール飲まないんで大丈夫ですよ」
「これ飲むネ」
「……」
前に断ると部屋まで強引にまた持ってきたからなあ……。
まあビールなら誰かしら貰い手いるか。
複雑な心境で部屋へ戻ってから喉が渇いていた事に気付く。
また受付の前通るの何か嫌だな。
仕方なく冷蔵庫からウーロン茶を取り出し、グラスへ注いで一気に飲み干した。
家賃六万八千円だけど、今回光熱費が二万七千円だから、九万五千もここへ住む維持費が掛かっている事になる。
考えてみれば、商売をしていた岩上整体の頃で電気代が二万円越えて当時驚いた事が一回あっただけ。
個人でここまで電気代使うものなのかな?
暖房だって入れっ放しなままではない。
コタツを使うようにしているし。
水道代も七千九百九十九円って書いてあったけど、前回の分も込みだったっけ?
請求書取られてしまったから、詳細まで比較のしようがない。
これからは風呂を一日何回も入るでなく、節制しないとな。

以降どんどん高くなり、二千二十三年一月は四万円超え。

インカジ『レディ』の業務を終えて、河本マンションへ帰る。
ドアに手書き請求書がセロハンテープで貼ってあった。
また光熱費のか。
いつもより早くねえか?
「はあ?」
金額を見て思わず声が出る。
光熱費四万円越え
さすがにこれは何かの間違いに決まっている。
一人暮らしで普通に生活しているだけなのに、何で初めに請求された一万八千円台から、四ヶ月目の請求で四万越えになるんだよ……。
大家へ文句を言いに行こうとするも、いつも受付にいるのに、今日に限っていない。
雪だるま方式に増えていく金額。
とりあえず神田へ電話をして、光熱費を事を聞いてみる事にした。
「なあ、神田。おかしくねえか? 光熱費が今回四万越えたぜ? 一人暮らしであり得ないだろ? 何で毎月万の位が上がっていくんだよ」
「戦争で燃料費も高くなってんだよ。うちなんて電気代だけで五万超えてるぜ」
プーチンの野郎が仕掛けたウクライナ戦争のせいで、俺が四万もの光熱費を支払う羽目になったのか?
単身ロシアへ乗り込んでやろうかと思うほどムカついた。
いや、冷静になれよ。
落ち着け。
いくら電気代が値上がったといって、二倍以上になるか?
神田の言っている事はいまいち当てにならない。
石川と会ったら聞いてみよう。
こんな事なら光熱費が一切掛からないアスクルームにいたほうが良かったのではないか?
だいたい河本マンションの台湾人大家はちょっとおかし過ぎる。
揉めたくないから大人しく言い値の料金を支払っているものの、明らかに手書き請求書が変だ。

それから光熱費三万から三万後半くらいの請求が続き、高いなあと思いつつ金は払っていた。

都内住みの人間に「光熱費いくら掛かっている? 高くなったでしょ?」と数名に問うと、俺だけが異常に取られているようだ。

毎回光熱費支払う度に、大家がビールを渡してくる。
俺はビールを飲まないからいらないと言うのに常に強引に渡してくる始末。

ようやく俺もこの辺で大家、光熱費ぼったくっているでしょ?という疑惑が湧き、二千二十三年九月分から写真を撮るようにして、中身もちゃんと見る事にしてみる。

二千二十三年九月分、光熱費手書き請求書。

出勤前、部屋を出るとまたセロハンテープで貼られている手書き光熱費請求書。
「……」
今のマンション住みだして、一年以上経ったけど、未だ納得いかない。
光熱費が高過ぎだろ、どう考えても……。
携帯電話で撮った画像を眺める。
先月は、三万七千七百二十円。

2023/09/22 河本マンション不当光熱費手書き請求書 37720円

十月分も同じように撮影。
今月分三万二千二十円。

2023/10/22 河本マンション不当光熱費手書き請求書 32020円

先月より五千円安いとか、そういう問題ではない。
まず水道代って毎月七千…、いや約八千円も取られるもんなのか?
二ヶ月に一度が基本のはずだし、一人暮らしで何故ここまで毎月取られる?
そろそろ仕事へ行かないと遅刻しちゃう。
受付の前を通ると大家がいて「岩バミさん、光熱費」と話し掛けてきたのを無視して素通りした。
こっちが黙っていれば、いつまでも図に乗ってんじゃねえよ、あの台湾人共……。

さすがに大家へ意見を伝えた。

「大家さん、水道代毎月八千円っておかしくないですか? それにいつも思っていましたけど、光熱費掛かり過ぎじゃないでしょうか?」
「水道代は毎月払うもの。十月特に高い」

台湾人の大家は片言の日本語で意味不明は返答をしてくる。
十月特に高いって、毎月八千円取ってんじゃん……。

まあ住んでいる以上、大家と揉めてもいい事ないかと感じ、仕方なく代金を払った。
俺は料理をするのでIHの器具を使っていたが、あまりの電気代の高さに驚きわざわざカセットコンロを買って、調理方法を変えたくらいである。
それなのに毎月三万以上の金額の請求……。

大家とは話にならないなと、不動産業者へ直接言った。
実は前に相談していたにも関わらず、まったく動きが見えなかったので、再度強めに伝える。

「その光熱費は、大家と店子の問題になるので不動産が口を挟む事ではないのですが……」と言われ、さすがに「この物件を紹介したのはそちらでしょ? 光熱費が毎月一人暮らしなのにこんな掛かっているのおかしいと思わないんですか?」と強く訴えた。
ようやくここで不動産から大家へ話をしてみるとの言葉を聞けた。

二千二十三年十一月分、光熱費手書き請求書が来る。

ドアを開けると、毎月恒例で貼られている手書き請求書。
思わず金額を見て吹き出した。
記載してある金額は八万六千六百十円。
これはいつもなら家賃を早めに払うのを、今月はまだあえて払っていないから、六万八千円分の金を加算した金額。
つまり仲介したタウンハウジングのマーが動いたから、いきなり金額が一万八千六百十円になったという事。
あれだけ文句を言っても毎月必ず三万以上取っていた業突く張り大家が、いきなり料金半額って、一体どういうつもりだ?
馬鹿な台湾人め。
馬脚を露すとはこの事だ。
何故間に人が入ると、急にこうなる?
こんな事なら最初から請求額の写真を、全部撮っておけばよかったよ。
そもそも本来の家賃の支払いは月末まで。
俺の善意でこれまで月初に払っていただけなのだ。
まだ二十二日の段階で家賃まで上乗せて請求してくるなんて、愚の骨頂もいいところ。
まずタウンハウジングのマーへ、十一月分の手書き請求書の写真を送信。
これは何かあった時、言った言わないでない確実な証拠となるだろう。
『マーさん言ってくれたから、光熱費幾分安くなりました。毎月水道代まだ取ってはいますが。 岩上智一郎』
『岩上様お世話になっております。昨日オーナー様に岩上様の要望をお伝えいたしました。 タウンハウジング』

2023/11/22 LINE タウンハウジング

『あと大家に水道代を毎月請求するなら、ちゃんとした明細出すように言っといて下さい。何故不動産が介入しただけで、いきなり光熱費半分くらいになるのか? 岩上智一郎』
『かしこまりました。私がただ岩上様が伝えて欲しいことをオーナーさんに伝いましただけで、料金は安くなるのは分かりませんでした。でもよかったです。 タウンハウジング』
何だかこの中国人頼りないんだよな。
まあ彼が俺の担当だから仕方ないが。
『お手数お掛けします。 岩上智一郎』

2023/11/22 LINE タウンハウジング

あ、そういえばでったんに、まだこっちの住所を教えていなかったっけ。
とりあえず連絡しとかなくちゃ。
『教えるのはいいんだけど、引っ越し考えている微妙な期間なんだよ。 岩上智一郎』
『ありがとう! 引越しするのは、決めたんでしょ? 物件選び中で。 出口貴行』
俺はまず河本マンションの十一月分の光熱費手書き請求書を送る。

2023/11/22 河本マンション手書き光熱費請求書 86610(光熱費18610)円

『消費者センターに連絡入れて、不動産脅しに行ったら、さすがに大家へ言いに行ったみたいで、そしたらいきなり光熱費安くなった。まだ高いけどね。何故か水道代毎月取ってるし、電気代もこんな使ってないのに、家賃も月末でいいはずなのに、いつも早めに払っていて今回はまだ払わなかったの。そしたら光熱費+家賃一緒に請求してきた。 岩上智一郎』
『電気、ガス、水道メーターは、ちゃんと101号室専用が付いてるの? それとも共用を管理者が割って請求しているのかな? ちなみによくあるパターンは、都市ガスが来ているエリアなのに、プロパンガスになっている物件。プロパンガスは、オーナーや管理会社がほぼほぼ加算して請求している。 出口貴行』
『面倒だから不動産に全部ちゃんとやらせろって言っといた。明細もちゃんと出してって。 岩上智一郎』
一日二日しか経ってないのに、今回の光熱費は約二万
相変わらず水道代は四千円ちょっと取られていたけど、本当に胡散臭い。
今まで散々文句を言ったのに、毎月三万以上の請求は一体何だったんだ?

二千二十三年十二月分、光熱費手書き請求書が来る。

食事へ行こうと部屋を出ると、またドアにセロハンテープで貼られている光熱費手書き請求書。
今月はというと、またまた謎のニ万超え
前回より二千円程度の上乗せだけど、ほとぼり冷めたらまたどうせ上げて来るのだろう。
このマンションの大家の卑しい人間性。
それはもう変わる事はない。
俺がずっと主張してきた事はシンプルなものだけで、何故一人暮らしで毎月三万から四万も光熱費が掛かったのかという理由を知りたい。
それを手書きで出鱈目な数字で高額請求され、話にならないからここを紹介したタウンハウジングへ相談したのだ。
すると突然半額にしたような金額の一万八千円。
こうなるとじゃあ今までのは何だったのだと怒りが湧いてくるのは当然の感情だった。
何故こうなったとの問いに応えようとしない大家。
明らかにやましい事をしてきた証拠。
そして今回二千円上乗せの二万四百八十円。
また払いにいけば、この請求書は取り上げられうやみやにされてしまう。
写真を証拠に撮っておく。

2023/12/22 河本マンション手書き光熱費請求書 20480円

内訳を見ると、また水道代が四千九百八十円。
何で水が毎月請求されんだよ……。
大家が何かしらの不正をしている事だけは事実。
本当に訴訟でも起こさなきゃわからないのか?
相手は日本語もいまいち通じない台湾人。
言った言わないが焦点になる為、俺はまず警察署の電話番号を調べ相談してみる。
これまでの事情を話すと、これは犯罪というより消費者センターの案件になるからと、そちらを促された。
消費者センターへ相談すると、これは訴訟したほうが案件だと言われる始末。
普通に生活したいだけなのに、何でこんな風になっていくのだろうか。
そもそも大家がまともな光熱費の金額を請求していたなら、ここまで揉める事もなかったのに……。

最悪な二千二十三年十二月二十七日。

俺が受付の前を通ると、大家が「岩上さん、岩上さん! 支払い! 支払い!」と叫んでくる。

どこの世界に光熱費を請求され、たかだか数日経ったくらいでこんな言われ方をされなきゃならないのだろうか?
俺は今まで家賃滞納も、光熱費滞納もした事が無いのに……。

どこか行った際、大家用にお土産だって何度も買ってきている俺に対し、本当に酷い扱いである。
感情的に話したくなかったので、「不動産を通して伝えて下さい」とだけ言い、部屋へ戻った。

ストレスが溜まり、溜め息しかできないような空間。
うんざりした気分でいると、部屋のドアが何度もドンドン叩かれる。
出ると大家が当たり前のようにいた。
あれだけ不動産通せと言っているのに……。

「大家さん…、何で不動産がちょっと入ったぐらいで光熱費が半額くらいになっているんですか? それに水道代も五千円くらいになっているし。おかしいでしょ? 納得いく説明をして下さい」

すると日本語が達者ではない台湾人大家は、聞き取れない言葉でワーワー言い出し、金を払えみたいなニュアンスなのは理解できた。

「とりあえず不動産通して、自分には伝えて下さい」

大家にそれだけ伝えると、そのままドアを閉めて会話を終了させた。

数十分後、部屋のドアを乱暴にノックされながら「岩上さん! 岩上さん!」と叫び声が聞こえてくる。
しつこいなあと感じつつも、ドアを開けると大家とその息子が立っている。
見三十代後半から四十代に見える息子。
それが俺に何故光熱費を支払わないのか?と尋ねてきたので、先程と同じ事を伝えた。

分かりやすく箇条書きにしてみる。

・支払い意思がない訳ではない。少なくとも今まで滞納などまったくした事がない。
・光熱費が高過ぎる。親メーター方式っていうのは分かるけど、請求額に納得がいかない。
・何故不動産が間に入ると、いきなり光熱費が半額になるのか? 理由を説明してほしい。
・大家に電気料金にしても、水道代にしても、合計の請求書来ているのだからそれを見せて詳しく内訳を説明してほしい。
・何故水道代が毎月取られ、いきなりこの二か月間が三千円ほど下がっているのか? それも説明してほしい。

すると大家の息子は、水道代に関してはどこがどう使っているのかまでハッキリ分かっていない。だから等分で割った額にしていると言う。

「では他の住人の方の名前は伏せてもらっていいですから、光熱費の請求書を見せてもらっていいですか? 本当に等分で割っているのかを確認したいので」

「それは個人情報に触れるので」と断られる。
「では俺がここへ住んで一年ちょっと。その分の今まで支払ってきた光熱費の金額を全部教えて下さい」

受付のところから大家が「控えていないから分からない」と返答があった。
あまりにも杜撰でいい加減な対応。
日本人じゃないから、自身の言動への恥をまったく感じないのかとさえ思った。

「うちはですね…。この立地にしては家賃相当安くしています。だから水道代が他より高いのは家賃で還元しているつもりなので」と大家の息子
「もう親メーター方式とかでなく、自分で電気代やガス代いくらみたいにメーターつけてちゃんとできないんですか?」

「水道は無理ですが、電気ガスはできますよ。ただその場合の工事費は岩上さんが出すようですが」

「……」

大家はまったく話にならない狂人一家なのかと理解し、面倒なので光熱費をいい値通り払い、部屋へ戻った。
何の解決にもなっていないが、自身へのストレスが半端ではない。

不動産にも直に俺へ、大家から来させないで間に入ってくれと頼んであったのに、何故二度に渡って強引に来るのだ?
俺は不動産へ電話をすると、二十七日から会社が長期休暇に入るアナウンスだけが聞こえた。
大家へ直接また話しに行くと言っていたのに、何だこりゃ?

2023/12/27 LINE タウンハウジング

呆れた事に不動産は、大家とまた話すと言っていたのに二十七日から会社が長期休暇に入ったので、中国へ行っているようだ。
別に休暇を取る事が問題なのではなく、何故俺に連絡一つせずにこんな行動しているのだろう?
この不動産もあてにできないなと実感する。

そんな感じで俺は二千二十三年を過ごした。

新年を迎えた二千二十四年。

俺はこのマンションにいるのが本当にストレスで、物件探しを始めつつ、例のぼったくり光熱費問題に対し、消費者センターや宅建協会へ連絡を入れ相談をしてみた。
消費者センターからは、訴訟起こしてもいいレベルとまで言われた。

ただ面倒だし費用も掛かるし、できれば自分は揉めたい訳ではないと伝
る。
そういう面倒なところから早めに引っ越すのも一つの方法とアドバイスされた。

宅建協会は、そういった問題なら都庁ホットラインへと連絡先を教えてもらう。

一月五日。

都庁ホットラインへ電話をすると、調停なり訴訟を起こすなりしたほうがいいが、その前に都庁無料弁護士相談ができるから、そこでまず予約を取って相談したほうがいいとなる。
最短で一月九日の火曜日が空いているとの事で予約を入れた。

一月九日。

第二庁舎へ向かう。
受付を済ませ、三階不動産行課いざ弁護士の元へ。
状況を伝えると、弁護士は俺に「あなた、そこまでお金を返せって訳でもないんでしょ?」と言うので、普通にちゃんとしたものを請求してほしいだけと伝える。
最終的に説明されたのが、今までの手書き請求書は法的根拠がまったく無いのでお金を支払う必要性が無いとの事。
家賃は払ったほうがいいが、光熱費を払わないと大家サイドが、訴訟なり、出て行ってくれとなるだろうから、そしたら不当退去費用とこれまでの過剰な請求分も込みで、こちらは出ればいいと教えてくれた。

なるほど、少し光明が見えた気がした。
俺は今回から法的根拠のない請求書は支払わなくていい。

ただ大家の出方を待ってというのも非常にストレスが溜まり、俺は疲れていた。
なので早急に新しい物件を探す事に決める。

二千二十四年一月分、光熱費手書き請求書。

またじわりじわり金額あげてきました。
弁護士に言われた通り、支払いは無視。

2024/01/21 河本マンション光熱費手書き請求書 家賃68000円+光熱費22820円

二十五日から新しい物件の契約を済ませていたので、この日より早急に引っ越し準備を始める。
忌々しい河本マンションから道を挟んで斜め向かいのマンション。
月末まで家賃は払っているのだから、約一週間で荷物を運び出せばいい。



大きく息を吐き出した。
一体ここまでで何時間掛ったんだ?

そろそろインカジ『レディ』へ行く時間だ。
幸いこの日は暇で客もいなかったので、業務中睡眠時間に当てる。

仕事を終え、中国人のリオに部屋の写真を送ってみた。
誰かに新しい部屋を自慢してかったのだ。

『部屋借りたよ。 岩上智一郎』

『すごい、綺麗だね。 リオ』

この部屋で、リオとセックス三昧もいいだろう。

『リオも来るかい? あとリオ用に買ったプレゼント、どうすんだよ? 岩上智一郎』

2024/01/25 LINE リオ

『くださいよ、プレゼント欲しいよ。 リオ』

『もちろん、リオにあげる為に買ったんだから。いつがいい? 部屋はどうするの? 岩上智一郎』

『は? 部屋あなた自分住むでしょ。 リオ』

えーと、プレゼントだけこの女はもらうつもりなのか?

『二つあるんだよ、部屋は。 岩上智一郎』

2024/01/25 LINE リオ

結局この日、夜まで待ってもリオからの返信はないまま。
代わりに九州のでったんからメッセージが届く。

『清潔感があって、良さそうな部屋だね。 でったん』

猛烈な睡魔が訪れ、俺は眠ってしまった。


二千二十四年一月二十六日、金曜日赤口。

夜中に目を覚まし、まずでったんへ返事を送る。

『まだ何もないからね。前のところは綺麗にしてるのに、風呂場とかゴキブリが一匹とか出てくるの。多分排水溝からなんだろうけど。 岩上智一郎』

それから深夜足音を立てないよう慎重に引越しの準備を進めた。
徒歩十秒で着く距離なので、今月いっぱい時間を使ってゆっくり運べばいい。

仕事へ行く前、俺の顔を見た河本マンション大家が、またギャーギャー騒ぎだす。
無視して仕事へ出勤。

業務中、河本マンション大家騒動を誰かに伝えたかったので、自称俳優へ連絡をした。
こんな奴とやり取りは嫌だったが、河本マンションの内情を直に知る人間がいなさ過ぎるのも問題だ。

『あのキチガイ大家、今回の光熱費二万二千円と二月分の家賃払えって請求書をドアに貼ってあったので無視しています。 昨日ギャーギャー部屋まで来たけど、無視しました。 岩上智一郎』

『ゴミ大家だぁ! ほんとアホっすね。 若菜龍平』

この馬鹿、ゴミを頭につけるの本当に好きだな。

『訴訟とか向こうからしてきたら、面白いんですけどね。 岩上智一郎』

『そんな根性無いんじゃないですか。 若菜龍平』

『やる前に自分たちの行いが晒されますからね。 岩上智一郎』

『ごもっとも。 若菜龍平』

2024/01/26 LINE 若菜龍平

コイツとの会話は文字でも本当につまらないな。
こんな調子で仕事を終える。

インカジ『レディ』から河本マンションへ帰っても、リオから返事がないので、夜になってからLINEを打つ事にした。

『別にリオが嫌だったら無理には誘わないよ。返事ぐらいはほしいな。 岩上智一郎』

2024/01/26 LINE リオ

『はーい、いる。 リオ』

いる?
部屋に住むという事か?

『一度部屋見に来る? 岩上智一郎』

2024/01/26 LINE リオ

この日結局リオからの返事はないままだった。


二千二十四年一月二十七日、土曜日先勝。

深夜荷物運びをしていると、リオがLINEが届く。

『怖い。 リオ』

何をもって怖いと言うのだ?
会う度何度もセックスはしているし、これ以上自分の部屋へ連れ込んで何をするというのだろう?
結局一緒には住みたくないという事?

『何が怖い? 部屋は住まないという事でいいのね? 岩上智一郎』

『うん。 リオ』

2024/01/27 LINE リオ

即答されるとさすがにイラッとするな。
まああんな中国人女にミラノコレクションをわざわざプレゼントする必要性などないか……。

気分を切り替えて、ちょっとずつの引っ越し。

ゲームセンターで撮った競馬のぬいぐるみはサクラローレル、ディープインパクト、スペシャルウィーク、ナリタトップロード。

2024/01/27 自称俳優マンション 競走馬ぬいぐるみコレクション

俺はこの競走馬ぬいぐるみコレクションを一番上にある押し入れの引き戸を開けて飾る事に決めた。


二千二十四年一月二十八日、日曜日友引。

そういえば冷蔵庫などの大物は、若菜龍平と一緒に運ばないといけないんだよな。
あとは大きなものだけなので、龍平へ連絡しておくか。

『若菜さん、明日の二十九日、申し訳ないですが、手伝ってもらってもいいでしょうか? 岩上智一郎』

これもコイツの叔父が、業者を頼めと余計な事を抜かすからである。
本当は一人で済むのに。

『もちろんでぇす。 若菜龍平』

その言葉遣い五十五歳にもなって本当にやめろ、気持ち悪い。

『ありがとうございます。 岩上智一郎』

2024/01/28 LINE 若菜龍平

引越しの為、明日を休みにした。
先週同様運試しで、競馬のシルクロードステークスを当てるも、ガチガチな結果過ぎて、マイナス収支という結果に終わる。

意気消沈しつつ、帰り道サブナードの洋食屋『バンビ』へ寄って、心を癒す事にした。

2024/01/28 新宿サブナード バンビ

新宿ではマシな洋食屋さん。

2024/01/28 新宿サブナード バンビ

それにしてもほとんどのメニューが、千円を超えるほど値上がりしたよね。
Aセットのハンバーグ、エビフライ、カニクリームコロッケを注文。

2024/01/28 新宿サブナード バンビ

本当は海老フライなどでなく、もう一つハンバーグとかのほうがいいんだけどなあ……。


二千二十四年一月二十九日、月曜日先負。

そういえばせっかく休みを取ったのに、龍平の奴全然連絡してこないな。
俺は返事を待っている間、新居へ来てうとうとと寝てしまう。

『何時からやりますか? 若菜龍平』

龍平から連絡があったのは朝十時過ぎ。
俺が気付いたのは昼過ぎだった。

『ごめんなさい、新居の方来てて、うたた寝してました 何時からでもいいですよ。 岩上智一郎』

『二時くらいからで大丈夫ですか? 若菜龍平』

『はい。 岩上智一郎』

2024/01/29 LINE 若菜龍平

結局引っ越しといっても、ほとんど俺が一人で運び、自称俳優は壁に冷蔵庫をぶつけないかチェックだけ。
冷凍庫、洗濯機、大型モニタを運び、パソコンを設置しようとする。

その時モニタがバランスを崩し、こちらに倒れてきたので頭で受け止めると画面にヒビが入った。

2024/01/29 自称俳優マンション 割れた大型モニタ

コイツ…、近くにいるなら支えるなりしろよ、ボケナスが……。

また新しいモニタを購入する羽目になってしまった。
それでも俺は「今日はありがとうございます」と手間賃で一万円札を渡すと、龍平は烈火の如く即座に財布へしまう。

呆気に取られていると、手で酒を飲むジェスチャーをしながら「岩上さん飲みに行きます?」と催促してきた。
断りたかったが、さすがに引越しの件で時間を取らせているので断りにくい。
仕方なく了承した。

但しまだ時間帯が昼の二時台で、どこも酒を出すような店は開いていない。
久しぶりに新大久保駅前のシュベールへ向かう。

俺はランチを頼み、龍平はコーヒーだけ。
ここで生まれて初めて自称俳優が俺のランチ代含む千六百円を奢ってくれた。
しかしさっき何もしていないのに一万円札をあげているので、このぐらい当然な行為だろう。

「まったくバ河本のゴミ外人はどうしょうもない奴らですね。そういえばあのゴミケバブ屋もですね……」

また龍平のゴミトークが始まる。
五分聞いているだけで、全身に鳥肌が立つほど拒絶反応を示していた。

シュベールのゆったりした空間が逆に仇となった俺。
考えてみれば大明飯店なら酒も出るだろうと、龍平を促して向かった。

ここでも酒以外、食べ物を注文しない自称俳優。
俺は適当につまみを頼み、龍平へ勧めると「ゴチになります!」と食べ出す。

「……」

これってまた俺がこの店の金を出す流れ?
彼は先ほど千六百円を払っても、まだ八千四百円浮いている計算になるんだよ?
俺、君のマンションの経費諸々で五十万ぐらい使ってんだよ?

会計時想定通り金を出そうとしないので一万円札を出すと、それを見た龍平は「ゴチになります!」と頭を下げて店を出ていく。

外へ出ると「次どこ行きます?」とまた手で酒を飲むジェスチャーをする自称俳優。
自分で誘うぐらいだから、二軒目はコイツが奢るつもりなのか。

夕方になっていたので、小滝橋通りのしょうちゃんへ向かう。
また店内でお通しを断ろうとしていたので、真剣にやめてくれと止める。
おまえにさっき一万円を何もしていないのにあげたばかりだろと怒鳴りつけたかった。

柏原との共有ボトルを出したのに、ハイボールを別に頼む龍平。
つまみもまた自分から頼まず、俺が何かを頼み勧める図式は変わらない。

ここもタカるつもり満々だったのか……。

三分の一まで減ったボトル。
柏原が来た時気分悪くならぬよう、おれはしょうちゃんでもう一本新品のボトルを入れておく。

会計時また財布を出そうとしないので、俺が一万円札を出すと「ゴチになります!」と頭を下げていた。
うん、もう二度とこの男と酒を飲みに行くのは本当にやめておこう。
いい勉強になったものだ。

結局飲み代とあげた一万を考えたら、引越し業者を使った方が安く済んだと気付くも後の祭り。
それでも俺はフェイスブックへ慈愛に満ちた投稿をしてあげた。


俳優の若菜龍平さんが手伝ってくれて、冷蔵庫、冷凍庫、モニター、洗濯機一緒に運んでくれて、あとちょっとになりました。

やっとあのキチガイ大家から解放される。



あと二日の内に河本マンションの脱出。
ここまでの道のりが本当に永かった。

あの馬鹿な自称俳優が二度も梯子外しをしなければ、こんな風にならなかったものを……。


二千二十四年一月三十日、火曜日仏滅。

深夜荷物運びをしていると、でったんからメッセージが届く。

『本当に引越しの手伝いに行けそうだよ。大学の恩師が亡くなったって連絡が入ったんだ。師匠だからいかなきゃ。 でったん』

『気持ちだけで。もうあとちょっとで引っ越し完了なとこまで来てるの。宿、うちで良ければ勝手に使ってね。 岩上智一郎』

まさかでったんも徒歩十秒くらいの距離へ引っ越したなんて思いもよらないだろう。
でも、ここなら二部屋あるから、誰か泊まりにきても全然大丈夫。

明日で布団類を運べばほとんど終わり。
俺は仕事時間まで軽く睡眠を取る事にした。

業務中、自称俳優より河本マンション盗撮報告が入る。

『岩上さん!お疲れ様です。今朝八時頃、河本屋のキチガイ夫婦がウチの三階にカメラ向けて写真撮ってたそうです。ウチのかぁちゃんが目撃しました。もしかしたら何かしら嫌がらせとかやってくるかも知れないので、気に留めておいて下さいませ。 若菜龍平』

どうしても河本マンションの話になると、感情的になる俺。
本当に気持ち悪い連中だ。

『了解しました。訴えるにしても、向こうが加害者であって、被害者ぶってんじゃねえよって感じですよね。 岩上智一郎』

『全く持って、キチガイ大家は何も出来ないですよ。 若菜龍平』

2024/01/30 LINE 若菜龍平

このあと龍平から飲みに誘われるが、当たり前だがやんわり断った。
できればこの人とも縁を切りたいんだよね。

あ、俺の新宿クレシェンドをそろそろ返してもらいたいな。
それを伝えると、まだ読んでいる途中だと言われた。

あの小説を読むのに、何日…、何ヶ月掛かっているんだ?
あんな奴に、俺の生み出した長男を貸すんじゃなかったよ。


二千二十四年一月三十一日、水曜日大安。

河本マンション退去最終日。
引っ越し完了!

俺は布団をまだ薄暗い朝方に運び終えると、プリンター用紙を用意した。
フザけた大家だったので、俺もフザけた対応で退去する事にしよう。

ここ一年ちょっとで光熱費二十から三十万は多く毟り取られた計算になるのだ。
あのようなふざけた悪徳台湾人は、日本から追放したほうがいい。

俺はわざと下手糞な字で書きだした。


101号室岩上より

二千二十四年一月三十一日。

2024/01/31 河本マンション 退去告知貼り紙

本日付で退去致します。
去年までに不動産へ退去する事は伝えてあります。
光熱費に関しては弁護士曰く、法的根拠が無く、支払う必要性は無いそうです。
請求するなら、住居期間の過剰請求分の差額を払ってからにして下さい。

鍵は部屋の入口に置いておきまっせ。



吹き出しそうになるのを堪えつつ、ガムテープでドアへ紙を貼り付ける。

フェイスブックにはこの貼り紙と、モニタが倒れてきて頭突きする形で画面が割れてしまったモニタを載せる。

2024/01/29 自称俳優マンション 割れた大型モニタ

河本マンション最終日が、皮肉な事にジャイアント馬場社長の命日か……。

未だあの時の様子はハッキリ覚えていた。

みんなが格闘技に走るので、私プロレスを独占させていただきます。
そう謳っていたジャイアント馬場社長が、入院したという情報は聞いていた。
誰もが知っているプロレス界の重鎮。
スナックで飲んだあと、チーママの渡辺と一緒に家の隣のトンカツひろむへ行った時だった。
うちらの五つ年上の先輩である岡部さんに向かって「お兄さん、おかわり。それと刺身ちょうだい」と気安くタメ口で話す渡辺に俺は注意する。
「私はね、この店に客で来ているの。中学の先輩かもしれないけど、客という立場のほうが上でしょ」と偉ぶるので「ここの支払いは俺が払う。だからおまえは客と偉そうにするべきではない。俺が先輩に対し敬語を使っているんだから、少しはおまえも気を使え」と怒った。
「岩上あんたねー、女に中出しした事ないでしょ?」
意味不明な台詞を抜かす渡辺。
先輩に対する口の利き方と、女へ中出しする共通点の主張。
まるで意味が分からない。
「意味不明な事抜かして誤魔化すな! 俺は岡部さんに対する口の利き方を気を付けろって言ってんだよ!」
「ふん…、これだから中出しのした事がない男は……」
会話にならない状況の中、岡部さんが口を挟んできた。
「智一郎! 馬場死んだぞ!」
最初何を言っているのか理解できなかった。
ジャイアント馬場社長は永眠。
正直俺はあの人に対して世話になっていない。
俺が感謝を覚えているのはジャンボ鶴田師匠であり、三沢光晴さんだ。
それでもこんな俺をあの時迎え入れてくれたのは、ジャイアント馬場社長。
そして敬愛するジャンボ鶴田師匠と三沢光晴さんを一から育てたのも社長なのだ……。
俺はその場で突っ伏して大泣きする。
渡辺結姫はそんな俺を見て「何で岩上が馬場死んで泣くのよ?」と不思議そうにしていた。
何故涙が出たのか?
おそらくそれが分かってくれるのは岡部さんだけだろう。

「……」

千九百九十九年だから、あれから二十五年も経つ。
鶴田師匠の歳を超え、このままいったら馬場社長すらも超えてしまう日が来るなあ。

何だかこんな俺でも未だ五体満足元気で生きていますよ、馬場社長。





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