闇 487(新宿デクレッシェンド編)
闇 487(新宿デクレッシェンド編)

2026/02/18 wed
前回の章
二千二十年二月二十四日、月曜日友引、振替休日。
セブンスターボックスを取り出し、一本取ろうとすると「あ、このホテル禁煙だから駄目だよ」とひろみが止めてくる。
「……」
文句を言いたいところだが、これは元々彼女が取ったホテル。
それにしても本当にこの手の禁煙が増えたなあ。
似たようなシチュエーションで、百合子に怒った時を思い出す。
あれは俺が三十代半ば。
六月末になり、百合子の誕生日を兼ねた長野旅行へ行く。
長谷川に言い、三日間の休みをもらう。
行くコースはすべて百合子任せ。
雷電為右衛門について色々下調べをしていたので、密かに楽しみだった。
彼の産まれた聖地で、俺と魂が重なり合い、強大な目覚めがあるかもしれない。
どうするよ、身長が十センチほどいきなり伸びちゃったら……。
いや、そんな事あるわけねえだろ。
しかし百合子が言っていた雷電がこの地へ呼んでいるような気がするという発言。
彼女はあの時雷電が長野出身なんて知りもしなかった。
群馬に行ってから、霊感ゼロの俺でも奇妙な体験はしている。
その先長野では、何が待っているのだろうか?
結局霊感も何も無い俺が、長野へ行っても何一つ感じる事はなかった。
あの時の旅行で最初に出した感情。
それは着いた先の宿泊先が禁煙だったのを知り、その事で大激怒をして百合子を泣かせた事。
雷電為衛門の生まれたとされる生家などを周り、海野塾の蕎麦が美味かったという記憶。
あとはホテルの階段にあったカラーボックスに漫画『ゴリラーマン』の作者ハロルド作石の『ストッパー毒島』が置いてあった程度の思い出しかない。
俺は風呂場へ行くと換気扇を回しながらシャワーを出す。
その状態でセブンスターに火をつけた。
「あ、禁煙って言ってんじゃん」
「分かった。じゃあここ出てタバコ吸えるところに泊まるからいいよ」
シャワーで火を消し、乱暴に投げ捨てる。
そのまま出ていこうとすると、後ろからガッチリ抱き着いてくるひろみ。
「離せ」
「やだ!」
本当に面倒臭い女だ。
仕方なくベッドへ腰掛ける。
タバコを吸おうとして、ここは駄目だったっけとポケットへ箱を戻す。
「抱いてよ」
「はあ? 嫌だ」
こんな状況で抱いたら、絶対に後々面倒になるのは明白。
それに横浜にいる時、すでにもう終わりなのだと説得は何度もした。
このしつこさには本当うんざりしている。
メッセージは減ったものの、それでもまだこの粘着性。
フェイスブックをブロックしたら、ツイッター。
それをブロックしたら、インスタグラム。
時代の進化と共にSNSはどんどん増え、今では俺も把握できないほど。
岩上整体の時のストーカー女ちえみのトラウマが、どうしても蘇ってしまう。
京都からわざわざ俺に会いにアポイントも取らずやってきたちえみ。
流れで一度抱いてからは本当に大変な目に遭った。
四六時中なる店の電話。
これは仕事で患者の予約を受け付ける為のものだからと断ると、今度は携帯電話。
自分一人で患者を診ているから、邪魔になるから辞めてくれと頼む。
すると今度はMSNメッセンジャー。
カルテをまとめようとして届いた数のメッセージを見て毎度疲弊する。
さすがに無理だとブロックをすると、携帯電話のメールへ。
それも受信拒否にすれば、今度はパソコンのメール。
全部を断ると、次は当時ティーカップブログの『智一郎の部屋』の俺の記事までしつこく粘着してきた。
本当に仕事の邪魔であり、人の精神を削り、それは所Ý末津の創作活動にも及ぶ。
百合子の嫉妬による束縛。
ちえみの異様な粘着。
そういった過去により、俺は必要以上にしつこくされるのを拒絶反応するようになってしまったのだ。
「私はあなたが好きなの!」
「頼むから本当にやめてくれ! 本当にしつこいの駄目なんだ」
厄介な性格。
これ以上話す事はないと部屋を出ていこうとすると、ドアを塞ぐ。
諦めてベッドで寝る事にした。
まとわりついてくるひろみを手で押しのけ追い払う。
そんな事を繰り返している内に、自然と睡魔に包まれた。
朝起きると裸になっているのに気付く。
ひろみの姿は見えない。
あの女、嫌がらせで裸のまま置き去りにされた?
俺がガバッと起き上がり辺りを見回す。
クローク棚にスーツやズボンはある。
しかし下着は?
奥からひろみが出てくる。
「おい! 何で俺が裸なんだよ!」
「起こしても起きないから、脱がせて洗濯したの。ほら、もう乾いているから大丈夫」
俺はパンツを奪い取り、すぐ履く。
「勝手な事すんじゃねえよ!」
「声ちゃんと掛けたもん」
イライラしながらセブンスターを出そうとして禁煙だと気付く。
本当にもどかしいホテルだ。
「ねえ、この子と付き合っているの?」
ひろみが見せた携帯画面は、俺が優香とシンラガーデンで焼肉を食べている画像だった。
別にあの日以来、優香とコンタクトなど取っていない。
だが、付き合っているという状況を言えば、ひろみも諦めつくだろう。
「ああ、付き合っている」
いきなり顔をクシャクシャにしながら枕を投げつけてくる。
容赦ない罵詈雑言を浴びせてくるが、旦那と子供がいる女に何故俺がこんな目に遭わなきゃならない?
どんな形であれ、こんな危険な女と会ってはならなかったのだ。
俺はキン肉マンの肉のカーテンのポーズをしたまますべての攻撃を耐え、クローク棚へ行くとスーツを装着する。
何でこんな訳分からない修羅場へ巻き込まれなきゃならないんだ。
しかし出ていこうとすると通せんぼするひろみ。
こうなると本当にただのガキだ。
よくこんな考えで結婚をして子供を産んで育てているものである。
女には絶対手を出さないという不文律がある以上、手の打ちようがない。
俺は近くの椅子へ腰掛け、ポケットからセブンスターを取り出す。
「ここは禁煙でしょ!」
「頼むから外に出してくれよ! 俺ね、おまえと違って夜仕事があるの! おまえみたいに会社をやってんじゃなく、ただの一従業員なんだよ! 遊びでやってんじゃないんだからさー!」
「もうちょっとでチェックアウトの時間だから。お願いだからちょっと落ち着いてよ」
「……」
どの口が言う?
落ち着くのはおまえだろうが……。
言い返してまた暴れられても面倒なので携帯電話を手に持ち、ちかの届いてメッセージの返信をする。
「さっきの彼女に連絡してるの?」
「そうだよ、悪いか? 自分の女へ連絡しては」
「もー!」
また手元にある枕を投げヒステリーを起こしている。
相手が優香と勘違いしての錯乱ぶりであるが、新たにちかの存在や、ルルとキスしたなんて知ったら本当に第三次世界大戦が始まりそうな勢いだ。
どちらにしてもこの女と離れない限り、今日は最悪のコンディションで仕事をするようである。
仕方なくチェックアウトまでの数十分、部屋で大人しく過ごす。
ホテルを出ると、腕に絡みついてくるひろみ。
「新宿で知っている顔多いからやめろ」
「いいじゃなーい」
本当に自分本位で、相手の立ち位置なんてこれっぽっちも考えないんだな、この女。
もう説得は散々した。
自分の気持ちはまるでない事も伝えた。
それでも纏わりつくなら、無視しかないだろう。
靖国通りを歩いて歌舞伎町エリアへ入る。
昼なので小腹が減っていた。
セントラル通りへ差し掛かり、元コマ劇場近くの牛カツもと村へ行く。

ここへ来るのも久しぶりだな。
以前けいこと来ようとして行列で諦めた以来。
メニューは牛カツしかないので、とろろをつけるかどうか。
初めて食べるひとみは舌鼓を打ちながら喜んでいる。

「今度うちの子たち連れてきたら、ここなら喜びそう。智リンの横浜のお店は高過ぎてほとんど無理やわー」

「はいはい、ご勝手にどうぞ。俺の知らないところでね」
店の会計を済ませ、真面目にひろみへ伝える。
夜から朝まで十二時間仕事をしなくてはならない事。
金を扱う商売だから、寝不足のままいい加減にできない事。
だから本当にここで解放してほしいと頼む。
すると彼女はあと一軒だけどこか行きたいとぐずり出す。
俺はゴジラホテルの向かいにある大きなゲームセンターへ向かう。

「プリクラ撮るの?」
「撮らねえよ!」
誰がこんな女と証拠を残すような真似をするか。
確かこの二階に、ちょっとしたアトラクションのようなものがあったよな?
以前ジョイポリスにあったような3Dカメラを装着して小部屋の中で映像を楽しむホラー主体のものが四種類あったので、二つほど試してみる。
カメラを通しての立体的な映像。
耳元で突然なる音声。
そしてシーンに合わせて強い風が吹きつける演出。
時代の進化に驚いた。
ゲームセンターを出ると、約束は果たしたと俺はAK会館のサウナへ入り、夜のラッキーハウスへ備えて眠った。
二千二十年二月二十五日、火曜日先負。
新宿のルーティン二日目が終わり、ようやくいつもの日常が戻ってきたような気がする。
ひろみに絶好調な運気吸われてないだろうな?
川越に到着し、運試しでパチンコ屋パラッツォへ入る。
地獄少女という台へ座りハンドルを回すと、最初の一回転目で当たりが来た。
そのまま連荘になり、五百円が四万五千円になる。

そうだ、このパチンコの収支だけでなく、横浜でのフェブラリーステークスやシンフォギアの収支も打ち込んでおかなくては……。
今年に入り賭け金合計が百三万六千八百円。
払い戻しが今の地獄少女を入れて、八十六万三千と四十円。
今年のトータル収支も、十七万負けまで回復。

ビバ横浜!
こういう上昇気流に乗った時にやる事は一つ。
俺は本川越駅前の宝くじ売場まで戻り、ジャンボ宝くじ買う。
ここらで一発デカいの当たって自身の運勢を変えたいものだ。
二千二十年二月二十七日、木曜日大安。
うう…、地方競馬なんかやらなきゃ良かった……。
二十二万負けまで広がったから、五万程負けた計算になる。

パチンコも毎度毎度勝てるもんじゃないよね。
また負け額が徐々に広がっている。
そろそろ流れが変わる頃合いなのかもしれない。
しかしそれに反比例するように、今週のGⅡ中山記念のメンツが凄い。
ラッキーライラック、ウインブライト、ダノンキングリー、インディチャンプ……。
この四頭で決まる感じがするな。
二千二十年二月二十九日、土曜日先勝。
昨日で二月も終わりかと思ったら、今年はうるう年の為二十九日まであった。
この二ヶ月間を振り返ると、これまでの平凡で退屈な日々から流れが変わったような気がする。
仕事を終え、小江戸号の中でうたた寝している内に本川越駅へ到着。
あと今日一日出れば、また休み。
ひろみという台風十九号ハギビスのような猛威が新宿から去った今、俺はつかの間の平穏無事な日常に安堵をしながら日々を楽しむ。
家に帰りゆっくり睡眠を取る。
起きてから競馬の結果を確認すると、仰天した。
土曜競馬、阪神十一レースを見ると異様にマークがついている。
え、どんな配当になったんだ?
全体的な収支を見て、ガッカリした。

三連複何でこんな当たってるのと思ったら、返還で3番のビスカリアの分が戻ってきただけなのね。
まったく人騒がせな馬だ。
JRAもややこしいマークつけてんじゃねえよ。
糠喜びじゃねえか。
この日、出勤すると吉岡と内藤ノブ、香川の三人で店を回している。
何故番頭になった香川が現場にいるんだ?
状況を聞いてみると、責任者だったオカマの木下が突然店を辞めたようだ。
スカウト軍団ナチュラルの人間による新規客の増加。
俺が予想した通り、人数にも限度があるのでここ数ヶ月まるで増えていない。
むしろレトロなゲーム屋に若い人間が定着するはずもないのだ。
木下をやり手と勘違いした根間と金太郎は、手の平返しで何故こうなったのかを追及されていたようだ。
元々木下の手柄でも何でもないのである。
結局責任感も何もなく、ただその場の雰囲気だけで増長しふんぞり返った頂けのオカマは、精神的に追い込まれ今日突然責任放棄するかのように辞めた。
こんな事なら、一発ぐらいあの気持ち悪い反吐の出るような面に、拳を一発お見舞いしとけばよかったな。
遅番の時間になり、神妙な顔つきで来店してくるカマッテチャン南。
どうしたのか事情を聞く。
そこで彼から聞いた情報によると、スカウトの一部で小競り合いが置き、ケツモチのヤクザが出てきたのを手を出したらしい。
素人に手を挙げられたという暴力団の面子。
この騒動により、ナチュラルはスカウト活動などの行為を自粛させ、各自待機と命令を下されたという。
「南さん、そんな状況の中、うちへ来てて大丈夫なんですか?」
「自分は関係ないですからね」
「いやいや、南さんもスカウトの一員でしょ? ヤクザは関係ないとか言い訳聞かないよ? 駄目だって、外をうろついてちゃ!」
どこか平和ボケしている南。
過去ヤクザと絡んだ事のある俺は、いかに連中が面子と金に関してだけは面倒な組織かを肌で覚えている。
いまいち自覚のない南に対し、俺は厳しめに注意し家へ帰らせた。
最悪この店の中までヤクザが押し寄せてくる場合だってあるのだ。
橋本や山下は、そんな俺を見て大袈裟だと笑う。
コイツらは真の地獄を知らないからこそ、そう余裕を持っているだけだ。
だが、あんなものできる事なら知らないならそのままのほうがいい。
ヤクザ者の本性。
あれは基本的に金と面子だけ。
その為なら相手がどうなろうと一切気にしない集団だ。
理不尽だろうと言い訳や状況など、一切そんなものは通用しない。
インカジ新宿クレッシェンドでボロボロになったあとの〇〇会のクソヤクザ秋田から搾取された地獄のような日々を振り返ると、未だ全身に鳥肌が立つほど怒りが沸いてくる。
力も金も権力も無い俺ができる事はただ一つ。
過去の経験により学んだ危険回避。
それしかないのだ。
こんな感じで二千二十年の二月の終わりを迎えた。
クレッシェンドがだんだん大きくなるという意味合いなら、反対はでクレッシェンド。
これから待つ未来など、当時は誰一人も予測できなかった。
二千二十年三月一日、日曜日友引。
二月の重賞取れたのって、結局先週のフェブラリーステークスのみだったのか。
三月入ったので、中山、阪神、中京全三十六レース、三連単十八点勝負と割り切って頑張ろうではないか。
もしこれが全滅したら、三十四万負けになる……。
勝負決まる前に負ける事考える馬鹿いるかよ!
おいおい、ジャイアント馬場社長の全日本プロレス系の俺が、アントニオ猪木の台詞をパクるなよ。
頼みますよ、神様!
フェイスブックの過去の思い出で、四年前の今日の記事が出てくる。
二千十六年三月一日、火曜日大安。
今日から三月か、時間経つのって本当に早い。
まさか自分が会社を立ち上げ、表の世界に来るなんて、去年までは想像もつかなかった。
一昨年の十月、一千五百万出すからとの願いを受け、インターネットカジノ『新宿クレッシェンド』を出した。
自身の執筆した処女作である『新宿クレッシェンド』と同じ名前を引き下げて、新宿歌舞伎町へまた戻る。
必ず反響を呼ぶだろうと思った。
横浜で二年暮らし、新宿へいざ戻ろうとした瞬間おじいちゃんが亡くなってしまった。
これからという時の訃報。
嫌な予感を覚えつつも俺は列車が走り出してしまっていたので、そのまま走り続ける事を選択するしかなかった。
いざ始まってみると、頼りにしていた部下は遅刻の連続、間に入っている奴は店の金を抜く事と、仕事が分からないのに口だけ挟んで来る始末。
二週間で満席状態になる店を作ったのに、強引に一週間閉めさせられたり、無謀な事を言われ、俺の心は日々荒んでいった。
結局俺自身四百万の金を吐き出した状態で、新宿クレッシェンドは幕を閉じる。
その後ヤクザの〇〇会より打診を受け、四ヶ月赤字だった昔ながらのポーカーゲームの再建を頼まれた。
もう時代じゃないからなと思いつつも、やるだけやってみると、月に百万ぐらいは上がる店を作れた。
ここまでは良かった。
ヤクザのオーナーは店の売上を誤魔化し、インターネットカジノで八百万使ってしまったり、組の金二千万を使い込み、オマケにトイチの闇金から二百万、月イチ利息の闇金から百五十万を借りたままトンズラしてしまった。
残された俺に待っていたのは店の経営と言えば聞こえはいいが、ボロボロで閑古鳥が鳴く状況にさせた店を押し付けられた訳だ。
ここは二ヶ月でヤクザから百十万毟り取られ、俺は新宿という街にほとほと嫌気を差し、また横浜へ戻った。
横浜で知り合いが新しい店を始めるので、力を貸してほしい…、そういった事もあり、横浜に決めたのだ。
いざ行くと、従業員は足りない、みんな素人、それなのに思い上がり勘違いしている人間が大半だった。
こいつらと一緒に心中する訳にもいかず、俺は店のシステムを作り、従業員を教育し、客を呼んで初月三百万の純利益が作れた。
オーナーは責任者に百十万の分配金を渡し「みんなに配ってやる気を持続させて下さい」と言ったが、その責任者は相当なクズで、俺を始めとする従業員たちには何も言わず、一人でその百十万を使ってしまう馬鹿だった。
それ以外にも常に店の売上から金を誤魔化し抜いて、ダニのような性格だったので、店はどんどん悪くなっていく。
俺が横浜に来て二ヶ月も経たない内に、その馬鹿は酒の飲み過ぎで身体を壊し、二度入院をしている。
人に店を任せておいて、入院の報告も、退院してから「すみません」の一言も何もないようなクズで、口だけは偉そうに挟んでくるので、経営状況は下がる一方。
月に数百万使う太い客が六本木で店を出すので祝いの花を出してほしいなど、そういった重要な顧客に対してもいい加減な対応で信用を失い、閑古鳥が鳴く状況は続いていく。
このままでは店が潰れると思った俺は、オーナーと話し合う時間を作ってもらい、現状をすべてぶちまけた。
あの馬鹿な責任者と一緒に沈没するわけにはいかないからである。
翌日責任者は怒られたらしいが、状況は何故かそのままで、今年一月に入ってから自分らの給料が三分の一カットになった。
逆恨みで俺は責任者から散々な嫌がらせを受け、裏稼業というものに心底呆れ、辞めるではなく引退を決意した。
自分のやっている事が今まで正しいと思ってやってきたが、それが裏稼業ではクズしかいないのだ。
居場所の選択をはなっから間違えていた訳である。
正直これ以上生きていても、いい事なんか何もない。
楽に死ねるなら早く死にたい。
何度もそう思った。
でも、自らの命を絶つ勇気など、俺にはない。
だから常にそう願うぐらいしかできなかった。
俺は非常に臆病なのだろう。
そんな俺に知り合いの社長が声を掛けてくれ、色々手助けされて、表の世界で今、こうして居場所を作った。
奇しくも新宿でやった『新宿クレッシェンド』を辞めた日のちょうど一年後に『イワカミ工業』を立ち上げていた
一昨年おじいちゃんが亡くなってから始まった一年ちょっとの地獄の日々。
裏から表へ出てみたら、トントン拍子に事はいい方向へと進んでいく。
こうして体験してきたからこそ実感する。
おそらくおじいちゃんが、裏から表へ引っ張りあげるよう見ていたんじゃないのだろうかと……。
金もなくなり、ボロボロになった俺に残されていたものは、人脈だった。
俺の修行はこれから始まるのだろうな。
恥じない生き方を心掛けますよ、おじいちゃん。
それからこんな俺に呆れず、支えてくれていた方々、本当にありがとうございます!
振り返ればまだ今は、ギャンブルを自分の責任で負けてるだけだから、幸せな方か……。
あの頃はイワカミ工業を立ち上げ、毎日必死だった。
あのあとの地獄めぐりに比べれば、今なんて本当に全然マシ。
仕事を終え、休みに入るとまずはゆっくり睡眠を取る。
起きてから競馬の結果を確認。
中山記念、ガチガチの馬連と馬単をズバリ的中。

しかし馬連配当三百六十円に対しての五千円なんて、約三倍にしかなっていない。
他の三会場全レースはすべて十二レースの結果待ちを残して外れ。
俺は重賞以外やらないほうがいいみたいだな。
そういえば香川は、早番の人員をどうするつもりなのか?
番頭になった今、いつまでも木下の代わりにラッキーハウスの現場へ入る訳にもいかないだろう。
順当に行けば、俺が早番に責任者になりそうだ。
流れがこれから変わっていくのを肌で感じる。
四年以上経ってようやくか……。
二十代の頃のワンオン系列ワールドワン時代を思い出す。
あの頃は入ってすぐどの店でも二番手。
そして豚野郎の吉田を追放し、俺が店長になったのは三十二歳だったか?
もう店があと三ヶ月で崩壊する寸前だった時に。
また責任者になった途端、警察やら問題が色々出なければいいけどな。
俺は布団へ大の字になり、ヤニで黄ばんだ天井をしばらく見つめた。
二千二十年三月二日、月曜日先負。
腹が減り立門前通りを歩く。
連繋寺の横にあった元玩具屋の『おびつ』。
その目の前にあった一時期通った元アンジーの跡地。
数ヶ月前にどこかへ移転したのか、アンジーは無くなった。
あの時の忌々しい記憶。
目を覚ますと夕方五時四十五分。
アンジーって確か六時までだよな?
急いで支度をし、店まで向かう。
ここが定休日でもない限り、休みはほとんど来て食事をしていた。
もはや休日のルーティンになっている。
カフェアンジーへ到着しドアを開けようとすると、いづみさんが近付いてきて「すみません、今日六時までなんですけど」と断ってきた。
時刻はまだ十分前。
「じゃあワインだけでも……」
「ごめんなさい、今日六時までなので」
「……」
俺、何かこの店に変な事したか?
ギリギリとはいえ営業時間内。
これまで率先的に客として貢献しているつもりだった。
何故このような門前払いを喰らわねばならないのか?
結局フォローの一つもないまま、アンジーは無くなった。
俺、かなり貢献したし、四周年記念の花だってお祝いに送ったんだけどな……。
まあ所詮地元民じゃないから、人情が希薄なのだ。
この辺に昔から住んでいる人間なら、そんな事はまずない。
その場所に新しくできたダイニングキッチン『ライフ』。

まあさすがにアンジーの経営とは別だろう。
初めて入り、ハンバーグを食べてみた。

結構美味しいぞ。
また来よう。
こうやって俺は近所で行く店のルーティンがまた増えていくのだろうな……。
写真を取りフェイスブックへアップすると、元ホームラン劇場社長の櫻井さんから、松永さんもよく行くと情報が入る。
まったくあの人は笠間真理子に言われた入学金を用意できたのかと、今度会ったらまた突っ込んでやろう。
そういえばあの人ともしばらく会っていないよな。
新宿での裏稼業の繋がりよりも、はやり地元の人間の絆を大事にしないと。
二千二十年三月三日、火曜日仏滅。
世の中ではコロナウイルスの話題がどんどん拡大している。
所詮風邪だろという意見。
かなり危険なウイルスだという意見。
実際に被害を目の当たりにしていない俺から見れば、どうでもいい事だった。
“一斉休校”は「場当たり的」蓮舫議員が国会で追及。
ニュースで蓮舫が連日安倍を追及してる姿は見苦しい。
国難に騒ぐだけじゃなく、まともな代替案を出せって思う。
ギャーギャー騒いで与党に反対しているだけなら、どうすればいいかまっとうな意見を言えって。
コイツが政治家でいる意味がまるで分からない。
何か日本という国に対し、役に立っているのか?
まず自分の国籍問題をしっかりしてから物事抜かせよ。
日本にもコロナという脅威が押し寄せてくる中、安倍首相なりに考えての対策なんだろ?
小学三年生の時掛かったおたふく風邪。
俺は頬が妙に腫れているなと思いながら投稿し、クライメイトに移した記憶が蘇る。
感染って舐めているとヤバいもんな。
だから俺も、安倍首相の言うように一斉休校はいい処置だと思う。
このフェイスブックの俺の投稿に対し、先輩の吉岡さんがコメント。
『同感。こういう時に何だかかんだ言ってる場合かよな。検証なんて、終息してからやれよ。今はこの国難に立ち向かうのが先だろ。先週までは桜、桜って騒いでた野党がな。 吉岡 裕祐』
続いて横浜の石川雅之も追従する。
『投票してる人たちはクレーマーですね。 いしかわ まさゆき』
これまでは対岸の火事だと思っていたコロナ。
その脅威が間直に迫っているんだなと思う。
まだ実害が無いから、俺はどこか他人事なだけ。
仕事中、番頭の香川から事務所へ呼び出される。
内容は予想していた通り、俺が早番の責任者となっての移動。
明日は時間調整で一日休み、五日から早番の朝九時に出勤してほしいようだ。
時流の流れに沿って。
物事はなるようにしかならない。
「赤崎さん、本当に大丈夫ですか?」
人の仕事意欲をへし折るかのような香川の問いかけ。
おまえよりもこの業界長いし、誰よりも一番ゲーム屋を知ってんだよと怒鳴りたかった。
まだ入って一年経たない内藤ノブと、週三でしか働けないポンコツの吉岡の二人で回せると思っているのか、この馬鹿が……。
今は亡き盟友斉藤弘一も言ってくれたが、俺はやはりこの香川という男の人間性をどうも好きになれない。
「昔顎で扱き使っていた部下が、他の店ではトップ。かたや赤崎さんはこの店で一番下っ端。それを聞いて、今どんな気分なのかなーと」
ワールドワン時代の部下の大倉が、当時ジョーカーの店長であり元ラッキーハウスで香川より上の店長だった事を知った俺に対し、卑しい薄笑いを浮かべながら言った浅ましい台詞。
斉藤と食事中にラッキーハウスの愚痴をこぼした俺。
すると彼はあの時神妙な顔つきになり、静かに口を開いた。
「岩上さん…、その香川って男…、私は名前ぐらいしか知りませんが、最低な人間ですね。大倉は確かに今ジョーカーの店長という名目ですよ。ただそれをどう思いますなんて、いちいち聞いてくるなんて、人間の所業じゃありません。少なくとも私はそういった人間は本当に真から軽蔑するし、大嫌いですね」
どれだけあの言葉に俺は癒され、勇気づけられただろう。
亡くなって何年経ったんだよ、斉藤さん。
やっぱさ、あんたがいなくなっちゃって、俺は本当に淋しいよ……。
どちらにせよ、俺はまだ生きて明後日からラッキーハウスの責任者だってさ。
天国からこの様子を見て、ニヤニヤしてくれるかい?
あの馬鹿な山下も一応この店で働いているからね。
二千二十年三月四日、水曜日大安。
遅番最後の仕事を終え、川越へ帰る。
時間調整で明日の朝九時からの仕事に身体のルーティンを入れ替えねばならない。
つまり今は眠くても、無理して起きて夜に寝るようにしないと。
クレアモールをひたすら歩き、川越駅方面へ向かう。
単なる時間潰し。
パチンコ屋が見えてきたので入る。
たまたま座ったヤッターマンで二十六連荘もした。

換金所で交換すると、九万ちょいになった。

早番へ移る前にこれって、何だか幸先いいな。
競馬の負けが、少しは補填できた。
さて、運気はある。
あと何が足りていない?
簡単だ。
俺には肉が足りない!
そんな訳でいきなりステーキへ入る。

肉の塊を食ってこそ、生命の源となるのだ。

ちかからLINEが届く。
明日から働く時間帯が変わる事を伝える。
送信してから少し失敗したかと思う。
何故なら今までなら、彼女の働くキャバクラの時間帯と被るから必然的に行けないという防止にもなっていた。
それが今度は終わるのが、ちかの営業時間真っ最中。
まあ店に来てと一切言ってこない彼女なので、特に問題はないか。
肉をナイフで切り分けていると、今度は九州のひろみから。
返事をせずにいると、電話まで掛かってくる始末。
内容は娘が以前送ったミッキーマウスのウォールグラスを割ってしまったようで、まだストックがあるかという内容。
食事中面倒だったので、残っているグラスを全部送ると約束して電話を切る。
まあ二度目の博多旅行の帰り、凄い数の土産を貰った借りがあるからな。
このぐらいは義理で返さないと男としての沽券に関わってしまう。
でも、あのグラス、周り近所へ配ってしまってあと二つぐらいしか無かったよな?
以前よく通ったゲームセンターへ寄り、久しぶりにUFOキャッチャーをする。

すみっこぐらいのおみせやさんごっこセットという意味不明な景品をまずゲット。
続いてピンク色のクッションも取れた。
まだまだ俺の腕も落ちていないようだ。

家に帰ると、九州のひろみへ向けた荷物の発送を済ませ、郵便局から送った。
あとは睡魔と戦いながらプレステーション4をプレイして、何とか起きているよう努める。
夕方になり、呑龍へ向かう。

立門前通りの連繋寺側にあった時は隆盛を誇ったこの店も、反対側の寂れたほうに移転してからはすっかり暇になってしまった。
時代の流れもなるのだろうか。
連繋寺横にあった玩具のおびつも、今は呑龍の隣りへ移転した。
店じまいをしていたので声を掛けると、おじさんから「あの土地を騙された」と小一時間愚痴を聞かされる羽目になる。
俺が子供の頃からの付き合いなのだ。
とりあえず同情しながら大変ですねと話を合わせた。

店内の壁に貼ってある歴代の川越祭りのポスターを眺める。
毎年十月の第三土曜日曜と開催されてきた歴史。

店内のメニューを眺めながらワンタン麺にしょうが焼き定食両方大盛り、そして餃子を注文。
軽く酒も入れておくか。
レモンサワーも頼む。

こういった大好物の料理が家から徒歩一分で食べられる俺って、本当に幸せだ。
さて、英気を養ったし、明日から心機一転頑張るとするか。
二千二十年三月五日、木曜日赤口、啓蒙。
ラッキーハウス早番責任者として初日が始まる。
共に働く面子は橋本紹介でこの店に入った内藤ノブ。
そして俺のプロレスの過去を小馬鹿にした吉岡。
「赤崎君はプロレス時代に受け身をし過ぎて、ちょっと頭がいっちゃってるって本当なの?」
「……。誰がそんな事抜かしたんです?」
必然的に声のトーンが落ちる。
俺は確かにプロレス業界では大成しなかった。
だが裏稼業で働いている人間に、嘲笑されるような生き方などしていない。
「やだな、赤崎君。顔付きも目つきもそれは仕事中にマズいぞ。吉岡君から聞いたんだよ」
「……」
あのクソ野郎……。
透析を患っているというハンデ。
俺より先に入っているという時系列での先輩。
だから早番のオカマの木下が、図に乗って吉岡を理不尽に責めている時に俺は彼を庇ったのだ。
まだ最近客の高山から聞いたあの侮辱的な言葉。
個人的には大嫌いだが、店を預かる責任者として私怨を持ち込んではならない。
感情をグッと飲み込み、笑顔で従業員へ接する事に決めた。
早番の時間帯は本当に暇だ。
基本的に夕方ぐらいまでノーゲストが当たり前。
俺は今年に入ってからの競馬成績で重賞レースだけを取り上げ、フェイスブックへ投稿してみた。
2020年
【G2】3戦2勝
×日経新春杯
○ AJCC杯
○ 中山記念
【G1】1戦1勝
○ フェブラリーステークス
俺はG2とG1だけやれば、競馬負けないと思う。
平レース、G3、地方競馬は今後無し。
こんな事をいつも俺は決めてルールを作ったりしているけど、気付けばいつも尻切れトンボに終わるんだよな……。
まあ最低限、人様に迷惑を掛けずに生きていければそれでいいか。
二千二十年三月六日、金曜日先勝。
日本に失望「過激な措置」韓国高官が厳重抗議の方針。
フェイスブックの記事で、こんな見出しのものを見つける。
またお騒がせ国家の韓国かよ……。
できたら二週間と言わず、永久にお願いしたいものです。
日本に失望するのはいいですが、この判断は大変な素晴らしい処置かと。
俺は皮肉を込めて、この記事にコメントを残す。
今日も早番は本当に暇だ。
二千二十年三月七日、土曜日友引。
土曜競馬が始まる。
俺は買い目を投稿した。
阪神11Rチューリップ賞(G2)
私的見解
1 クラヴァシュドール
4 レシステンシア
阪神JF(G1)3着馬と1着馬の2頭で固いと思いましたが、気になるのが…
14 ピーエムビンコ
この1-4-14馬連BOX
三連単フォーメーション
上記3頭に加え、三着固定で
5 チェーンオブラブ
7 ウーマンズハート
10 スマイルカナの24点
最近深谷さんというおじいちゃんの客が、よく来てくれるようになった。
俺が遅番の時は週に来ても一度だったのが、早番になると毎日のように来店してくれる。
どうも彼に気に入られたようだ。
「何でマスクしないんだ! 俺を殺す気か?」
面倒なのが世の中のコロナニュースを真に受けて、マスクをつけろと言ってくる部分。
そこを除けば無邪気で可愛いおじいちゃんなんだけどなあ……。
深谷さんは大久保近辺の不動産屋を営み、現在は息子に任せて隠居しているようだ。
暇を持て余し、時間を潰す為ラッキーハウスへ顔を出す。
とにかく話好きなので、俺は居心地いい空間を提供するよう努めるだけ。
そろそろ競馬も終わったかな?
深谷さんに断り、一服休憩へ行き結果を確認する。
自信あったチューリップ賞は見事外れ。
明日も外したら負け額三十万台になってしまうのか。

三月始まってまだ一週間なのに、一ヶ月十万ずつ負けている計算になる。
競馬をやらなきゃ、年間百万以上貯まっている訳だ。
いつだって俺は懲りない大馬鹿のままだなあ。
二千二十年三月八日、日曜日先負。
昨日の雪辱を思って臨んだ日曜競馬。
弥生賞、当たったけど、こんだけ固いの来たらマイナス収支。
ギャンブル熱が一気に冷めた感じがする。
呆気なくこの日も惨敗。
それでも業務には関係無いので、今日もINキーを元気よく回しながら接客に努める。
自分のせいであるが、財布の中が空っぽになった。
さあ、お家へ帰ろう。
二千二十年三月十日、火曜日大安。
いつものように出勤し、呑気な時間が始まる。
まだ昼手前。
いきなりガジリ屋のヤスを始め、知り合いからの着信があった。
どの人間の情報も、酒井さん系列の渋谷のインカジ、そして新宿に二店舗ある『ボヤッキー』と『三四郎』が一斉に摘発されたという情報。
俺は店内に一人ダラダラとポーカーを打っていた客の山田太一に向ってすぐ店を出るよう大声を出す。
吉岡とノブに対し、店内のゲーム機のコンセントを全部抜けと指示。
警察情報に疎い酒井さんの系列。
複数の俺個人に入った情報は、どう考えてもガセではない。
「吉岡さん、ノブ! 自分の貴重品持ってすぐ外に出て」
「え、赤崎さん、何で……」
「いいから言われた通りにしろ!」
時間との勝負。
俺は過去のゲーム屋ワールドワンの警察が来た時を覚えている。
まず従業員を外に出し、俺は各台のメーター表をプリントアウトしてから金庫にある金をすべてバックへ詰め込んで外へ出た。
落ち着けそして迅速に……。
アタックビルを出ると、案の定向かいの桃太郎寿司のスペースに刑事らしき人間が数名見えた。
賭博は現行犯逮捕が基本。
警察が踏み込んでくる前に店を出てしまえば捕まえようがないのだ。
間一髪セーフ。
こちらをジロリと睨む刑事に気付かぬよう手で吉岡の尻を軽く叩き先へ進むよう促す。
「赤崎さん、一体何が……」
「まだ喋り掛けるな。いいから先へ行け」
尋常じゃない様子に二人も黙って歩く。
従業員たちを独断でひとまず帰らせた。
俺は外を歩きながら刑事があとをつけていないか用心しながらタバコに火をつける。
しばらくして番頭の香川から連絡が入った。
「赤崎さん! すぐ店を出て下さい!」
「もう出てます。店は今鍵を閉めた状態でもぬけの空です。ゲーム機の電源も落としているし、各台メーターと現金は今俺が持って外にいます。一斉に系列全部に手入れが入ったんですよね?」
「……。はい……」
「とりあえず店とか事務所だと足がつく可能性あります。区役所通りへ向かいながら花道通りを歩いていますので、外で落ち合いましょう」
以前酒井さんは脱税でテレビのニュース映像に取られる形で逮捕された。
あの頃は俺にとってインカジ新宿クレッシェンド崩壊のあとの話。
当時犠牲になったのは俺が横浜へ行くきっかけになった『バラティエ』でなく、事前に情報をキャッチして同じビルの下の階で構えた新店のほう。
俺が辞め、坂田が店内で自爆して番頭になった高田があの時は捕まった。
今回も前回も俺がギリギリ交わした事になる。
今の自分の立ち位置だと、むやみにこちらから電話はするのは避けたほうがいい。
香川からの連絡待ちだけ。
あとはこの店の現金と、あとで計算すれば〆が合うようにメーターの死守だけ考えろ。
道端で香川と合流。
まずは店のものをすべて渡す。
現時点の情報では、渋谷や新宿の系列の店へ一斉に摘発が入り、オーナーである酒井さんを始め、番頭の根間、吉田、猪狩など他の従業員もほとんど検挙されたようだ。
「どうします?」
「とりあえず金太郎さんは無事なんで、これから会って話します。赤崎さんはみんなに連絡をして、明日どうするか決めるので、今日はみんなに店は休むと伝えて下さい」
「了解です」
裏稼業をしていれば、いつかはこういう日が来る。
しかし、まさかここまで大規模な検挙をしてくるとは……。
たまたまラッキーハウスは、俺個人の機転と情報網によりタッチの差で助かっただけ。
運が良かったのだ。
まあしばらく店は休むだろうな。
俺はつい先日競馬で馬鹿をやって負けた落胆していた自分を呪った。

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