👒二つの麦わら帽子 ―丘の上の宝物―
夏の陽射しが、アスファルトの上で白く踊っています。
玄関先で、私は二人の頭に、真新しい麦わら帽子を載せました。
「アヤ、リサ。おばあちゃんにお菓子を届けられる?」
「「はーい!」」
元気な返事が重なります。
お揃いの赤いリボンが揺れるのを確認して、
私は,焼いたばかりのクッキーが入ったバスケットを、
姉のアヤに託しました。
それが、小さな二人にとっての「初めての大冒険」の始まりでした。

🍬誘惑の魔法に足をとられて
村の細い一本道には、
幼い心を惑わす魔法がいくつも仕掛けられていました。
最初に出会ったのは、街角のお菓子屋さん。
色とりどりのドロップが詰まった瓶が、
太陽の光を反射して宝石のように輝いています。
「わあ、きらきら……」
妹のリサの足が、磁石に吸い寄せられるように止まりました。
「リサ、だめだよ。おばあちゃんが待ってるんだから」
アヤはそう言ってリサの手を引きますが、
そのアヤの鼻先も、甘いバニラの香りにひくひくと震えていました。

次に見えてきたのは、ひらひらとレースが揺れる洋服屋さん。
「アヤちゃん、見て!お花のお洋服!」
リサが指差す先には、
まるでお姫様が着るような淡いピンクのワンピース。
二人はしばらく窓ガラスに顔をくっつけて、
自分たちがそれを着て踊る姿を想像しては、
顔を見合わせて「えへへ」と笑い合いました。
さらに、甘い香りを漂わせるケーキ屋さん、
可愛い鳴き声が聞こえるペット屋さん。
一歩進むたびに、二人の歩みは遅くなります。
でも、アヤはふと思い出したように、
腕に下げたバスケットをぎゅっと抱き直しました。
「リサ、お母さんのクッキー、早く届けよう。
おばあちゃん、きっとお腹を空かせて待ってるよ」
「……うん。リサ、がんばる!」

👒丘の上の、誇らしい背中
坂道に差し掛かると、リサの足取りが少し重くなりました。
「アヤちゃん、おてて繋いで」
「いいよ、ほら」
アヤは小さな妹の手をしっかりと握り、
一歩一歩、確かな足取りで坂を登ります。
二人の麦わら帽子が、夏の緑に溶け込んでは浮かび、
少しずつ丘の頂上へと近づいていく。
その背中は、家を出た時よりも、ほんの少しだけ大きく見えました。
ようやく見えた、おばあちゃんの家の赤い屋根。

「おばあちゃーーん!」
二人の声が、入道雲に届くほど高く響き渡ります。
縁側で目を細めて待っていたおばあちゃんの腕に、
二人は同時に飛び込みました。
「よく来たねぇ。二人だけで、本当に偉かったね」

差し出されたバスケットの中。
お母さんのクッキーは、
道中の揺れで少しだけ形が崩れていました。
けれど、
おばあちゃんはそれを「世界で一番美味しいね」と笑って口にし、
二人の小さな頭を、
麦わら帽子の上から優しく撫でてくれたのでした。
🎀おわり🎀
🖋 あとがき🖋
二人の冒険を見送った後、
私はしばらく門のところで立ち尽くしていました。
あの子たちの帽子が小さくなっていくのを見ていたら、
いつかこうして、私の元を離れていく日が来るんだね。と、
少しだけ胸が ”キュン” としたのです。💖
おばあちゃん家でクッキーを頬張る二人の笑顔。
それを聞いた夜、
私はまた新しいクッキーを焼くことにしました。
今度は、冒険を成し遂げた二人のために。💖

💗柊紅葉💗

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