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人事制度|比較検討:区分を統合すれば、公平になるのか



「正社員と非正規の壁をなくしたい」。

その言葉には、もっともな切実さがある。

同じ現場で働き、同じように工夫し、責任を負っているのに、区分の名称だけで成長機会や処遇の説明が閉じてしまう。管理職も、人事も、その違和感を抱えやすい。

けれども、制度上の区分や枠組みを一つにすれば、すべてが公平になるわけではない。

勤務時間、契約期間、転居を伴う異動の範囲、担当できる仕事、責任の大きさまで同じなのか。

それとも、一定の違いは残しつつ、その違いを役割、処遇、キャリア機会のどこに反映するのか。

そこで制度の答えは分かれる。

問うべきなのは、区分を残すか消すかだけではない。何を仕事の価値として共通化し、どの条件の違いを処遇や働き方へ反映するのかを、説明できるかである。


比較する三つの事例

カルビーは2026年4月、正社員と約1,300人の無期転換社員について、これまで分かれていた等級制度を統合し、同一の等級体系へ移した。

期待役割を基準に、役割と貢献に応じて処遇する方針である。達成度だけでなく、行動と貢献度も評価に取り入れ、工場を含む多様な現場の仕事を、共通の組織目的と評価の言葉へ結ぼうとしている。

ランスタッドは2024年7月、無期パートタイム社員を正社員の枠組みに、有期パートタイム社員を契約社員の枠組みに統合した。

無期パートタイム社員を「働く時間が異なるだけの正社員」と位置づけ、時給制から固定月給制へ変更したうえで、業績や成果に基づく賞与制度を適用している。

また、短時間勤務者にも、四半期ごとに業績、能力開発、将来のキャリアについて上司と対話する機会を引き続き設け、社内公募には雇用区分にかかわらず、一定の要件を満たせば応募できるとしている。

一方、YE DIGITALは、全国転勤が可能なG社員と、選択した地域区分をまたぐ異動がないR社員という区分を残している。

制度の対象となるB~Gバンドでは、職務内容、福利厚生、等級制度、昇進・昇格要件に区分差を設けていない。

ただし、R社員が利用できるのは部長クラスに相当するBバンドまでであり、本部長層に相当するAバンドは対象外である。

また、転居転勤の可能性という条件を、基本給、賞与、定期昇給幅の差に明示的に結びつけている。社員は年1回、理由を問わず、回数制限なくG社員とR社員の間を転換できる仕組みである。

三社は、雇用区分に連動していた制度をどこまで共通化し、どの違いを働き方の条件として残すかについて、それぞれ異なる選択をしている。


カルビーは、等級体系を共通化した

カルビーで中心に置かれたのは、正社員か無期転換社員かという入口の違いよりも、工場を含む現場で期待する役割と貢献である。

会社の発信では、従来の制度が数字の達成へ寄りやすく、日々の工夫や、将来につながる取り組みを十分に捉えにくかったという問題意識が示されている。

そのため、成果だけでなく、行動や貢献度も評価の対象に加えた。

等級制度の統合は、正社員と無期転換社員を、雇用上の呼称だけを理由に別の等級表へ置き続けず、期待役割と貢献を共通の基準で捉え直す選択だったと読める。

ただし、等級制度を統合したことと、雇用契約上の区分、勤務地、配置転換範囲、福利厚生、退職給付などを完全に同一化したことは別である。

公開情報から確認できるのは、同一の等級体系へ移し、役割と貢献を基準に処遇する方針までである。

この事例から見えるのは、区分の名称を消すことではなく、同じ現場で生まれている価値を、共通の評価言語へ置き直そうとした点である。


ランスタッドは、勤務時間とキャリア機会を切り離した

ランスタッドで重視されたのは、勤務時間の短さを、補助的な仕事や限定的なキャリアと直結させないことである。

短時間勤務であっても、能力を発揮し、成果を上げ、役割を担うことはできる。

そう考えるなら、勤務時間の長さだけを、役割の重要性、成長機会、キャリアの上限を決める代理指標にはしにくい。

ランスタッドは、無期パートタイム社員を「働く時間が異なるだけの正社員」と位置づけた。

勤務時間の違いそのものをなくしたわけではない。

短時間勤務という働き方を残しながら、固定月給、業績連動賞与、キャリア対話、社内公募などの制度を、正社員の枠組みの中で扱おうとしている。

人材サービスを事業とする会社として、柔軟な働き方とキャリア機会の両立を、人材獲得や活躍支援上の重要な方針として位置づけたものと読める。

ただし、制度改定によって採用数、定着率、昇進、報酬、エンゲージメントが改善したことまで確認できるわけではない。

会社が示した狙いと、制度導入後の成果は分けて見る必要がある。


YE DIGITALは、配置変更範囲を差として残した

YE DIGITALでは、プロジェクトの要員配置などに応じて、異動が発生する事業上の事情がある。

勤務地の希望を個別配慮だけで処理すれば、判断基準が見えにくくなり、不公平感が生じる可能性がある。

そこで同社は、全国転勤が可能なG社員と、選択した地域区分をまたぐ転勤がないR社員という選択肢を制度上明確にした。

この制度では、対象となるB~Gバンドの範囲で、職務内容、福利厚生、等級制度、昇進・昇格要件を共通化している。

一方で、転居転勤の可能性を処遇差へ反映している。

厚生労働省の事例によれば、G社員と比べてR社員は、基本給と賞与が管理職層で約10%、一般職層で約6%低く、定期昇給幅は一律約20%低く設定されている。

ここでは、役割や職務の価値を大きく分けるのではなく、配置変更の範囲という働き方の条件を、明示的な処遇差へ結びつける選択がなされている。

ただし、R社員が利用できるのは部長クラスのBバンドまでであり、最上位層まで同じキャリア経路が開かれているわけではない。

また、年1回、理由を問わず、回数制限なく相互転換できる仕組みはあるものの、希望地域に適切な仕事やポジションがない場合など、必ずしも希望どおりの時期や配置が保証されるわけではない。

制度上の選択肢があることと、実際に希望どおりの働き方へ移れることは分けて考える必要がある。


三社で答えが分かれた背景

三社が異なる制度を選んだのは、公平性に対する考え方が単純に違うからではない。

事業、仕事、配置、働き方の条件が異なるからである。

カルビーでは、工場を含む現場で、雇用上の呼称が異なる人たちを別の等級体系へ置き続けることが、役割や貢献を共通の言葉で捉える妨げになっていた。

ランスタッドでは、勤務時間の短さが、能力発揮やキャリア機会の制限へつながることを見直した。

YE DIGITALでは、広域異動の可否を曖昧な個別配慮にせず、制度上の選択肢と処遇差として明確にした。

公平性は、制度をどこまで一律化したかだけでは測れない。個々の待遇について、何を仕事の価値として共通化し、どの条件の違いを処遇へ反映するのかを、職務内容、責任、配置変更範囲などの実態に照らして検討する必要がある。


共通して必要になる条件

区分ごとの違いを、事実へ戻して説明する

第一に、区分ごとの違いを、仕事と働き方の事実へ戻して説明できることである。

「正社員だから」

「パートだから」

「地域限定社員だから」

という名称だけでは、処遇差や機会差の理由にはならない。

少なくとも、次の何が実際に異なるのかを分けて考える必要がある。

  • 契約期間

  • 勤務時間

  • 職務内容

  • 責任の程度

  • 勤務地

  • 配置変更の範囲

  • 転居転勤の可能性

  • 育成機会

  • 昇進・昇格の範囲

  • 労働量

  • 求める技能

雇用区分を設けるなら、こうした実際の条件の違いを示すものとして整理したい。

人の格や能力を表す箱として区分を使うほど、制度の説明は難しくなる。


統合しても、残しても、選び直せる道をつくる

第二に、制度を統合する場合にも、区分を残す場合にも、本人が次の選択肢へ移れる道筋を用意することである。

ランスタッドは、雇用区分にかかわらず、一定の要件を満たせば社内公募へ応募できるとしている。

YE DIGITALは、G社員とR社員の相互転換を制度化している。

カルビーについても、等級制度の統合後、どのような役割を担えば昇格できるのか、どの職務へ進めるのかを、初回の評価や昇格で具体的に示せるかが重要になる。

入口の区分や制度上の名称を変えるだけでは、キャリア上の壁は消えない。

本人が、

  • 何を満たせば次へ進めるのか

  • どの時点で転換を申し出られるのか

  • どのようなポジションが用意されるのか

  • 転換によって処遇や役割がどう変わるのか

をたどれる必要がある。


評価と対話を切り離さない

第三に、評価と対話を切り離さないことである。

役割や貢献の基準を共通化しても、管理職が日常の仕事を観察し、評価理由を本人へ説明できなければ、新しい制度の中に別の見えない壁が生まれる。

同じ等級表に載っていても、上司によって期待や評価の基準が違えば、公平感は高まりにくい。

必要なのは、

  • どの仕事の事実を見たのか

  • どの役割を果たしたと判断したのか

  • なぜその評価になったのか

  • 次に何を変えれば昇格や役割拡大につながるのか

を本人へ返すことである。

制度上の共通化と、日常の評価運用は、分けて考えられない。


待遇差を項目ごとに点検する

第四に、待遇差を一括して説明しないことである。

厚生労働省は、基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練などを項目ごとに点検するためのマニュアルや自主点検ツールを示している。

重要なのは、「区分が違うから待遇も違う」と一括して処理しないことである。

基本給の差は何に対応しているのか。

賞与の差は成果や役割の違いと結びついているのか。

教育訓練の機会を分ける必要はあるのか。

福利厚生の目的に照らして、区分差を設ける理由はあるのか。

一つずつ確認する必要がある。

また、待遇差について説明可能な理由を整理することは必要であるが、説明ができるだけで法的に問題がなくなるわけではない。

個々の待遇の性質や目的に照らし、職務内容、責任、職務内容・配置変更の範囲、その他の事情との関係で、その差が不合理でないかを検討する必要がある。


確認できる成果と留意点

カルビーは導入直後の事例である。

等級制度統合後の昇格、昇給、賃金、定着、採用、生産性、品質、エンゲージメントへの影響は、公開資料から確認できない。

会社が現場との対話を重ね、評価の方向性を説明していることと、制度が長期的に機能することは分けて見る必要がある。

ランスタッドについても、制度改定の方針、対象範囲、固定月給、賞与、キャリア対話、社内公募に関する考え方は、会社のニュースリリースで確認できる。

一方、短時間勤務者の昇進、報酬、採用、定着、エンゲージメントが、制度改定後にどのように変化したかを示す独立した数値は確認できない。

会社が示した狙いを、そのまま成果と見なさないことが重要である。

YE DIGITALの事例は、厚生労働省サイトに掲載された2019年時点の取り組みである。

同サイトでは、対象者の2割弱に当たる94人がR社員を選択し、離職者数も減少傾向にあると紹介されている。

ただし、離職者数の減少は、地域正社員制度だけの効果ではないと明記されている。

また、現在も同じ制度内容が継続しているのか、利用者数がどう変化したのか、処遇差を社員がどう受け止めているのかは、この資料だけでは分からない。

三社を優劣で並べる根拠はない。

制度内容と成果を混同せず、どこまで公開情報で確認できるかを分けて読むことで、自社の検討を急がずに済む。


他に取り得る選択肢

いきなり雇用区分や制度体系を全面的に統合しなくてもよい。

まず、仕事の価値や成長機会に関わる項目だけを共通化する方法がある。

たとえば、

  • 等級

  • 評価

  • 教育訓練

  • 社内公募

  • キャリア面談

  • 福利厚生の一部

  • 表彰

  • 改善提案制度

などを共通化し、勤務時間、契約期間、賃金、勤務地、配置変更範囲については、実態を確認しながら段階的に見直す方法である。

逆に、すでに区分が多い会社では、新しい限定区分を増やす前に、現行区分ごとの役割、処遇、転換条件を棚卸ししたい。

違いを説明できない区分は、名称を残しても、実際には管理職の個別判断へ依存する。

また、地域や時間の制約が変わりやすい職場では、区分を固定するよりも、本人の希望と組織上のポジションをすり合わせる転換制度を先に整える方法もある。

統合か細分化かの二択ではない。

選び直せる仕組みを持つことが、働き続けやすさとキャリアの見通しを左右する。


会社条件ごとの考え方

似た役割を担う人が、区分で分かれている会社

工場、店舗、事務、営業など複数の現場があり、実際には似た役割を担う人が雇用区分によって別の等級、評価、育成制度へ置かれている会社では、役割、評価、育成の共通化を優先したい。

その際は、現場で価値とされる、

  • 品質

  • 安全

  • 改善

  • 協働

  • 顧客対応

  • 後輩育成

  • 標準化

  • 異常の早期発見

などを、役割や評価の言葉へ具体的に落とす必要がある。

同じ等級表へ移すだけではなく、同じ基準で仕事を見られる状態をつくらなければならない。


短時間勤務者が専門性や責任を担える会社

短時間勤務者が専門性を発揮し、成果や責任を担える会社では、勤務時間をキャリアの上限と直結させない設計が有力になる。

時間に応じた労働量の違いと、役割の重要性、能力、成果、成長機会の違いを混同しないことが前提になる。

フルタイムでなければ管理職になれない。

短時間勤務者には補助業務しか任せない。

そうした運用が、実際の能力や仕事の必要性ではなく、慣習だけで続いていないかを確認したい。


広域異動が事業運営に必要な会社

広域の異動やプロジェクト配置が事業運営上必要な会社では、勤務地や配置変更範囲を差として残すこと自体はあり得る。

ただし、その場合は、

  • どの処遇へ差を設けるのか

  • 差の水準は何を根拠にするのか

  • 区分を変える機会があるのか

  • 転換回数に制限はあるのか

  • 希望地域に仕事がない場合はどうするのか

  • 昇進できる階層に違いがあるのか

  • 転換後の処遇をどう扱うのか

をあらかじめ説明できなければならない。

配置変更範囲の違いを制度化するなら、その違いがどの処遇やキャリア機会に反映され、どこには反映されないのかを明確にする必要がある。


今回見えてきた判断軸

今回の比較から見えたのは、雇用区分を「人の格」を表す箱として使うほど、制度は説明しにくくなるということである。

雇用区分を設けるなら、契約期間、勤務時間、職務・責任、勤務地、配置変更範囲など、実際に異なる条件を示すものとして整理したい。

一方で、役割への期待、評価、育成、キャリア機会まで自動的に区分へ連動させると、

「なぜ自分はここまでしか任されないのか」

「何が変われば次へ進めるのか」

が見えにくくなる。

これを、区分の説明負債と呼びたい。

区分を残すこと自体が問題なのではない。

区分が、説明できない処遇差や機会差を抱え込み、仕事の価値まで見えなくすることが問題なのである。

制度改定の前に、各区分について一文で答えてみるとよい。

「この区分で異なるのは何か」

「その違いは、どの処遇や機会にだけ反映するのか」

「反映しない項目は何か」

「本人は、どの条件を満たせば選び直せるのか」

答えが散らばるのであれば、統合や再設計の検討を始める合図になる。


この事例から、自社で問うべきこと

  • 自社の雇用区分は、契約期間、勤務時間、役割、責任、勤務地、配置変更範囲のうち、何の違いを表しているか。

  • 等級、評価、基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、社内公募のうち、区分差を設ける理由を項目ごとに説明できるか。

  • 同じ仕事や責任を担っているのに、区分によって成長機会や評価の言葉が閉じている人はいないか。

  • 勤務時間の短さを、能力、役割、キャリアの上限と一律に結びつけていないか。

  • 配置変更範囲の違いを処遇へ反映する場合、その差の対象と水準を説明できるか。

  • 区分を残すなら、どの条件が変われば本人は転換できるのか。その手続き、頻度、実際のポジション確保は現実的か。

  • 区分や制度体系を統合するなら、統合後の役割定義、評価者の観察、昇格基準、個人別の処遇影響を説明できるか。

  • 改定後の初回評価、初回昇給、初回登用、初回転換で、どの集団に不安や納得しにくさが現れるかを把握できるか。

  • 区分差について説明できることと、その待遇差が不合理ではないことを混同していないか。

制度の公平さは、すべての人を同じ名称の区分へ入れることで生まれるのではない。

自分の仕事がどのように見られ、どの違いが処遇へ反映され、何が変われば次の選択肢が開くのかを、働く人がたどれるところから生まれる。


確認した資料と留意点

  • カルビー公式ニュースリリースと人事担当者インタビューで、2026年4月の等級制度統合、対象人数、期待役割と貢献に応じた処遇、評価の考え方、現場との対話を確認した。
    https://www.calbee.co.jp/newsrelease/260401.php
    https://note.calbee.jp/n/n41e76f53b407

  • ランスタッド公式ニュースリリースで、2024年7月の無期パートタイム社員の正社員枠組みへの統合、有期パートタイム社員の契約社員枠組みへの統合、固定月給、業績連動賞与、上司との対話、社内公募に関する方針を確認した。
    https://www.randstad.co.jp/about/newsrelease/20240619-career.html

  • 厚生労働省「多様な働き方の実現応援サイト」のYE DIGITAL事例で、G社員・R社員の区分、B~Gバンドにおける共通の職務内容、福利厚生、等級制度、昇進・昇格要件、転居転勤の範囲、基本給・賞与・定期昇給幅の差、相互転換、2019年時点の利用状況を確認した。R社員はAバンドの対象外である。
    https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/cases/case_0133/

  • 厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」で、基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練などを項目ごとに点検するための手順、マニュアル、自主点検ツールを確認した。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

  • 各社の制度は、導入時期、事業、対象者、労働条件が異なる。個別の待遇差の法的な可否、各制度の現在の運用、社員の受け止め、統合後の成果を、この比較だけで判断することはできない。

  • 待遇差について説明可能な理由があることと、その差が法的に不合理ではないことは同じではない。自社で検討する際は、規程上の名称だけでなく、実際の職務内容、責任、職務内容・配置変更の範囲、個々の待遇の性質・目的、個人別の処遇影響、説明・相談の運用を確認する必要がある。


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