私の支援が合う会社、合わない会社
「熊谷さんに相談したら、答えを教えてもらえると思っていました。」
相談が終わる頃、そんなことを言われることがあります。
そして、少し笑いながら続けられます。
「でも、本当に良かったのは答えじゃありませんでした。」
私は、この言葉を聞くたびに、少し昔の自分を思い出します。
実は、私は最初から論理的な人間ではありませんでした。
むしろ逆です。
若い頃は感情で動くことが多く、論理的に考えることは得意ではありませんでした。
社会人になってからも、「なんとなく違和感がある」という感覚で動くことが多く、頭の中を整理して言葉にすることは苦手でした。
そんな自分を変えたいと思い、私は慶應ビジネススクール(KBS)の門を叩きました。
そこで、論理的に考えることを徹底的に学びました。
物事を構造化し、前提を整理し、因果関係を考える。
毎日のように議論を重ねる中で、私の世界の見え方は大きく変わりました。
「考えることって、こんなに面白いんだ。」
そう思えるようになりました。
でも、一つだけ大きな勘違いをしていました。
正しいことを言えば、人は動く。
本気でそう思っていたのです。
以前、投資先の会社で議論をしていたときのことです。
私は数字や事実を並べながら、
「こちらの方が合理的です。」
「この考え方には矛盾があります。」
そんな説明を続けていました。
すると、相手の若い社員の方が涙を流してしまいました。
私は本当に驚きました。
「正しいことを言っているのに、なぜ伝わらないんだろう。」
当時の私は、そう思っていました。
でも今なら分かります。
私は相手を納得させようとしていて、
相手を理解しようとしていませんでした。
その後も、忘れられない出来事があります。
新規事業に携わっていた頃、現場である社員の方から、真正面でこう言われました。
「熊谷さん、自分が頭いいと思ってるでしょ。」
その直後、胸ぐらをつかまれました。
かなりショックでした。
もちろん、そんなつもりはありません。
会社を良くしたい。
現場の役に立ちたい。
その一心でした。
でも、相手にはそう伝わっていなかったのです。
そのとき初めて気付きました。
私が伝えていたのは論理であって、
相手が受け取っていたのは「否定」だったのです。
あの頃の私は、
「どうすれば相手を納得させられるか。」
ばかり考えていました。
でも、本当に大切だったのは、
「相手は何を大切にしているのか。」
を理解することでした。
どれだけ正しいことを言っても、
相手が腹落ちしなければ、人は動きません。
会社も変わりません。
そのことを、私は現場で何度も教えられました。
だから今、相談の場では最初に答えを出しません。
まず質問します。
「五年後、理想通りになっていたら、どんな会社になっていますか。」
「今、一番困っていることは何ですか。」
「その判断で、一番守りたいものは何ですか。」
以前の私は、答えを準備していました。
今の私は、質問を準備しています。
質問を重ねることで、
経営者自身の考えや価値観、判断基準が少しずつ言葉になっていきます。
私は、その時間を何よりも大切にしています。
年間四百件以上の経営相談をしていると、ある共通点があります。
会社が動かなくなる原因は、
能力不足ではありません。
知識不足でもありません。
多くの場合、
判断基準が整理されていないことです。
社員が悪いわけでも、
幹部が悪いわけでもありません。
社長自身も、一生懸命考えています。
だからこそ、
一人で考え続けるほど、
同じところをぐるぐる回ってしまうことがあります。
だから私は、
「何をやれば儲かりますか。」
という相談には、あまり向いていません。
「答えだけ教えてください。」
と言われても、そのまま答えることはありません。
会社ごとに、
財務も違います。
社員も違います。
家族との関係も違います。
目指す未来も違います。
正解を渡すことよりも、
その会社にとって納得できる判断を一緒に整理することの方が大切だと考えているからです。
逆に、私の支援が合う経営者もいます。
例えば、
「会社は順調だけど、このままでいいのだろうか。」
「幹部との認識が少しずれてきた。」
「投資判断に迷っている。」
「会議をしても結論が出ない。」
「社員は頑張っている。でも会社が思うように動かない。」
そんな違和感を抱えている経営者です。
私は、その違和感を一緒に言葉にし、
優先順位を整理し、
判断基準をつくることが仕事です。
相談が終わる頃、
よく言われる言葉があります。
「頭が整理されました。」
もちろん、それもうれしい言葉です。
でも、本当にうれしいのは、その次です。
「これなら、自分で決められます。」
私は、その一言を聞くために、この仕事をしています。
伴走支援が進むと、不思議なことが起こります。
最初は、
「熊谷さんなら、どうしますか。」
と聞いていた経営者が、
ある日から、
「私はこう考えます。」
と言うようになります。
幹部との会議でも、
私ではなく、
経営陣同士で議論が進むようになります。
私は、それを見るたびに思います。
私の役割は、
必要とされ続けることではありません。
経営者が、自分で意思決定できる状態をつくることです。
昔の私は、
論理で人を動かそうとしていました。
でも、そのたびに現場で失敗しました。
だから今は、
論理で勝つことではなく、
経営者が納得して前へ進めることを大切にしています。
KBSで学んだ論理は、決して間違っていませんでした。
間違っていたのは、その使い方です。
論理は、人を言い負かすためのものではありません。
相手の考えを整理し、
自分自身の意思で判断できる状態をつくるためのものです。
それが、私が現場で何度も失敗しながらたどり着いた答えです。
今日の整理
もし今、
・社員は頑張っているのに会社が動かない
・幹部との議論が感情論になってしまう
・投資判断のたびに迷う
・会議を開いても結論が出ない
・誰に相談しても答えが違い、何を信じればいいのか分からない
そんな状態なら、
足りないのは知識ではないのかもしれません。
必要なのは、
もう一つ答えを増やすことではなく、
「自分は何を大切にして経営するのか。」
その判断基準を整理する時間です。
私は、その整理を一緒に行うことはできます。
でも、会社の未来を決めるのは私ではありません。
経営者である、あなたです。
だから私の支援が合うのは、
答えを教えてほしい人ではありません。
自分の会社を、自分の意思で前へ進めたい人。
そんな経営者と、私はこれからも一緒に考え続けたいと思っています。
※本記事の事例は、守秘義務に配慮し、一部内容を変更・再構成しています。
もし今、一人で考え続けていることがあるなら、一度整理してみませんか。
私は、事業承継後の後継者、第二創業、新規事業責任者を中心に、経営者が自分で意思決定できる状態をつくる伴走支援を行っています。
▼初回相談・お問い合わせはこちら
熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士
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