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肥満論:カロリー一元論の落し穴


カロリー一元論の原理

ダイエット(diet)」に当たるギリシャ語はそもそも「生活様式」という意味であり、英語のdietは、もともと広義には単に「食事」という意味である。だから「肉食」はmeat dietと言い、「精進料理」をvegetable dietと言う。そして狭義には、病院などで出される「規定食」という意味の言葉である。この意味で、「ダイエット」の基本は、定められた規範に基づいて自分の生活を律し、とりわけ食事に気を付け、それを自律的にコントロールすることで健康的に生活することだと捉えることができる。

しかし、一般には、ダイエットとは、単に減量することだと勘違いされているが、この通俗的なダイエットが原理としているのは、‘肥満’は、「摂取エネルギーが消費エネルギーより過剰になるからだ」という短絡的なカロリー(エネルギー)一元論である。すなわち──

摂取カロリー量>消費カロリー量:肥満
摂取カロリー量-消費カロリー量=過剰カロリー=肥満

例えば、りんごとジャガイモは違う種類の食べ物だが、その質の違う物を比べる場合、計量秤で重さを測るという等質化=量化という行為によって比較することができるように、食べ物の質を無視してカロリーに還元することによって、カロリー量を基準にして食べ物を選択しようとするダイエット方法である。

この発想は、勿論、それなりに評価はできるが、往々にして、カロリーが少なれば少ない程良いという短絡的な考えに陥りがちな発想でもある。

70年代の資源を大量に浪費する高エネルギー大量生産・大量消費によって引き起こされた資源枯渇・環境問題に対する反省、反動から‘Small is beautiful’のエコロジー的な考えが、ダイエットにも影響していることについては⇒通俗エコロジーと痩身志向的価値観(今後、発表予定)

しかし、机上の計算通りに、カロリー計算しようにも、そう上手く行くものではない。痩せれば基礎代謝率は下がり、それに伴って消費するカロリーも少なくなり、痩せにくくなるからだ。

カロリーが少なければ少ない程良いという発想からすると、例えば、繊維質以外の栄養素はないけれど、カロリーゼロに近いこんにゃくなどは最もダイエットに適した食べ物という結論になるわけだが、こんにゃくだけを食べているなら確実に死ぬ!

本来、食物の質を無視して栄養バランスの悪い食事をしていると、必須の栄養素を摂取できるまで体が欲求しいつまでも食欲は止むことはなく、飢餓感が増し、かえって過食になってしまい、結果的には意図に反して肥満してしまうということを認識すべきである!

その点、日本人の主食であるお米は、主要栄養素である炭水化物の他に、他の穀物と比較すると相対的にたんぱく質やビタミンB・E、カルシウム、ミネラル(鉄分・亜鉛)などが豊富だ(下表参照)。

ご飯1杯150g──────他食品目安
エネルギー 222kcal──ハンバーガー1個
たんぱく質 3.9g──── 牛乳 130cc
ビタミンB1 0.05mg──キャベツ100g  
ビタミンB2 0.02mg── 大根 100g
ビタミンE 0.3mg ─── ごま小さじ 8杯
カルシウム 3mg──── トマト小1/3個  
鉄 分 0.15mg───── とうもろこし1/3本
亜 鉛 810υg────── ほうれん草 1/3束
食物繊維 0.6g──────セロリ 50g

因みに高級米になる程、たんぱく質の含有量が少ないのが通例。

脂質は少なく、食パン1枚 (6枚切り) に含まれる脂質はごはん3杯分に相当しする。太るというのは体脂肪が増えることであるということから、脂肪分が少ないことはダイエットには良いと考えられがちだが、そいうわけでもない。

例えば、ご飯だけを食べていても、お腹は膨れるけれど、いつまでも満腹感が得られないという経験はないだろうか?実は空腹感・満腹感は胃袋の問題ではなく、あくまでも脳の問題なのだ。
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空腹感が止み満腹感が得られるのは、身体の基礎代謝に必要なエネルギーおよびその他の活動に必要なエネルギーを満たす十分なカロリーが摂取されるだけでなく、バランスよく栄養が身体に満たされた時なのである。であるから逆に、必要不可欠なカロリーだけでなく必須栄養素がバランスよく摂取されない限り、いくら食べても空腹感が止むことがないということになりかねない。

なお、栄養のバランスは、三大栄養素が通常次の割合の時に取れると言われる。

炭水化物6・たんぱく質2・脂質2

いくら栄養的に優れていると言っても、米単品だけでは栄養のバランスは良くない。従って、食事は主に炭水化物であるご飯に、たんぱく質や脂質を考慮したおかずを組み合わせることがベターだ。
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従って、生命維持のための最低限のエネルギー量である基礎代謝量以下のカロリーを一日の摂取目標に設定するような低カロリー・減食ダイエットは言語道断だが、炭水化物しか摂らなかったりたんぱく質しか摂らなかったり、あるいは油を全く摂らないような、栄養バランスの悪い単品・偏食ダイエットも良くない。断食や単品だけ食べる、間違った禁食・節食あるいは偏食‘ダイエット’をすればする程、むしろ怠けるどころか努力すればする程、かえって逆に肥満したり、一時期は体重が減ってもリバンドしてしまう悲劇が起こってしまうのである。

そもそも、「肥満」の原因には色々あるのであって、このような単純な過剰カロリー一元論だけで説明できるものではない。ところが、このような通説が流布しているが故に、‘肥満者’は、‘食っちゃ寝、食っちゃ寝’して、食べて(摂取カロリー過剰)、かつ寝てばかりいて、ろくに運動もしない(消費カロリー過少)怠惰な人間であると短絡的に考える人々が多くなるわけだ。すなわち──

食っちゃ+寝
=過食(摂取カロリー大)-運動不足(消費カロリー小)
=肥満者
=自己コントロールのできない怠け者

過食嘔吐──許せないカロリー

この単純な過剰カロリー一元論にとり憑かれているものだから(単純故に憑依しやすいわけだが…)、過食したら、密かに嘔吐するという摂食障害も起こり得る。

森川那智子氏は『みんな、やせることに失敗している』(JICC出版局)で、‘過食・嘔吐’の摂食障害を次のように規定している。

「過食後の嘔吐は、食べてはいけないのに食べてしまったその“許せないカロリー”と“許せない行為”を、いったん帳消しにしようという企てです。そうすれば振り出しに戻って、もういちど、今度はやり直せる気がします。」(104頁)

しかしこれは、「“やせたい”願望の輪廻」に陥っているに過ぎない!
(森川那智子「“やせたい”願望の輪廻から抜け出そう!──ダイエットすればするほど太っていく不思議」『もっとヤセたい!(特集アスペクト16号)』)

ジェニーン・ロスによる根源的批判

自らの過食症の体験から、非常にラジカル (根源的)な批判を、カロリー計算に翻弄された‘ダイエット’に加えているのはジェニーン・ロス(『食べ過ぎることの意味──過食症からの解放』誠心書房、斎藤学監訳、佐藤美奈子訳) である。

「カロリー消費にもとづいたダイエットには、寂しいとか悲しいとか、腹が立つとか、嬉しいといった感情の入り込む余地など残されていないのです。自分自身や人間関係、人生について私たちは一週間、毎日同じように感じているという仮定にもとづいていますから、私たちの心理的、情緒的な欲求は、排除されてしまうことになります。ダイエットは、私たちをほかの動物から区別する特徴の一つ──選択という権利を奪ってしまうのです。」(34頁)

「もう何年もの間、カロリーを計算し、何を食べたらいいのか人から指示され続けてきたために、私たちは食べてもいいものとそうでないものの厳密な区別をし、低カロリー食品なら何でも食べていい、というようにしてきてしまったのです。」(同上、35頁)

一元的なカロリー計算によってしか、食物を選択しないということは、言い換えれば、家畜が餌を与えられて、それを受動的に食べているのと同じであり、実は何も選択の余地のない行動なのである。ジェニーンの、「カロリーのことは忘れてしまいましょう」という提案は、人間にとって「食べることの意味」とは何かに関わる根源的な提案であると言っても過言ではないだろう。

ミコのカロリーBook

特記:因みに、日本でダイエット本として初めてベストセラーになったのが『ミコのカロリーBook』だった。この著者は、‘ミコ’こと弘田美枝子さん。

彼女は十代でポップス歌手としてデビューした当時(「子供ぢゃないの」1961年)のイメージ (タイトル画像) は、あのインスタントラーメンの「エースコック」のイメージキャラクターである ‘子豚ちゃん’に似て、ぽっちゃりして元気はつらつだった(‘ふとったパンチ娘’)。そのイメージからか、田辺製薬のCMでは、‘今日の疲れもアスッパラ’と歌っていた (1964年)。

その彼女が数年後、18kgの減量をし、かつ美容整形もして、すっかりスレンダー体型の‘大人の女’に‘イメージチェンジ’してカンバックした時(1969年)、ヒットさせたのがメランコリー調の「人形の家」という曲であったが、何かこの曲名には象徴的な意味があるように思う。

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