【AmazonPrime】「修羅の群れ」(2002)ヤクザが全員人格者! 最も「コンプラアウト」な映画
【概要】
稲川会初代会長(総裁)・稲川聖城の生涯を描いた、東映「実録路線」最後のヤクザ映画の一つ「修羅の群れ」(1984)を、主演の松方弘樹が2002年にビデオ映画でリメイクした3部作。
日本のオールスターヤクザ映画「最後の最後」の作品。アマプラ会員特典でタダで見られる。
修羅の群れ 第一部 怒濤編
横浜一帯を縄張りに持つ堀井一家三代目総長・加東伝三郎(高松英郎)は、とある柔道場で後に日本の極道社会を揺り動かすこととなる一人の若者と、劇的な出会いをする。男の名は、後の稲原会総長・稲原龍二(松方弘樹)!
修羅の群れ 第二部 風雲編
熱海・山崎屋一家の跡目を継いだ稲原龍二(松方弘樹)は、その後"横浜四天王"と呼ばれる愚連隊の実力者・モロッコの辰(寺島進)、井沢輝一(本宮泰風)、林俊一郎(隆大介)、吉永金三(山下真広)をすべて傘下に納め、稲原組は横浜から東海道にかけて一気に勢力を拡大していった。
修羅の群れ 第三部 完結編 大抗争列島!!
稲原組の名称を稲原会と改めた稲原龍二(松方弘樹)は、それに伴い、稲原会の代紋を統一した。そして、昭和四十七年、稲原会は東京・六本木に新しく本部事務所を開設。更なる事件、抗争が龍二と稲原会を待ち受けていた。
【評価】
アマプラが人目を避けるようにコソッと流しているヤクザ映画。
昨日、改めて見直していて、今、アマプラで見るべき映画は、これなんじゃないかと思った。
だって、他に見るべき映画が乏しい・・
日本が誇るヤクザ映画の伝統。
でも、もうコンプライアンス上、作れないし、作ったとしても、オモテでは流せない。
この映画も、ほんの20数年前の制作だけど、今では完全に無理な映画だからね。
その意味で、珍品だし、貴重品です。
ビデオ画質なのが惜しいけど。
松方弘樹が生涯愛着を持った「稲原龍二(稲川聖城こと稲川角二)」役だけに。
大スターを集めて、それぞれが最高の演技を見せてくれている。
日本の役者は、ヤクザ映画で最高の演技を見せるんだよ。
俺は、本音を言うと、もう日本映画はヤクザ映画だけでいいよ。ヤクザ映画だけを見て死んでいきたい。
オールスターのヤクザ映画なら、北野武の「アウトレイジ」(2010)があるじゃないか、と言われるかもしれないけど。
それはそうだけど、あれは「全員悪人」だから、ヤクザ映画としては特殊だ。
悪人を悪人として、反社を反社として描くなら、当局も許してくれるんだろう。
でも、「修羅の群れ」は、ヤクザを善人として、人格者として、ほとんど聖人のように描いている。
もう完全に「稲川会」のPR映画だからね。
いや、仮に稲川会がPR会社に作らせたとしても、「やりすぎじゃ」と恥じ入るにちがいないレベルの美化だから。
最近も横浜で、警察官を車で跳ねて逃走した男、あれも稲川会系の暴力団員でした。
その稲川会を褒め称える映画ですから。
こんなもの、今コンプライアンス上、作れるわけはありません。
でも、好きだわ〜。
こういうのがヤクザ映画なんだよ。
「アウトレイジ」を見て、あれがヤクザ映画だと誤解する若い人がいるかもしれないけど、あれはヤクザ映画のパロディというか反転映像みたいなもので。
本来のヤクザ映画というのは、「男気」の教育映画ですからね。「男らしさ」「男の目指すべき人格」を教育する。
前にも書いたけど、「修羅の群れ」とか見て、「俺も極道になって男になろう」とか勘違いした人はいたかもしれない。「アウトレイジ」を見てそうはならないでしょう。
だから今どき、こんな映画を作らせるわけにいかない。
なにしろ、この映画で松方弘樹が演じる「稲原」は大人格者で、その「人格力」で、出会うヤクザをすべて人格者に変える。
大袈裟に言ってると思われるかもしれないけど、見ればわかる。本当だから。
警察官だって、この映画では、「稲原」に頭を下げている。
この映画を信じるなら、「稲川会」は、「九条の会」より平和主義ですよ。
とくにこの2002年のリメイク版は、1984年のオリジナルより、さらに「美化」がすごい。
オリジナル版とリメイク版の大きな違いは、時間的にオリジナル版で扱えなかった1979年の「九州戦争」(工藤会VS草野一家)、1984年からの「山一抗争」(山口組VS一和会)を、リメイク版が「第三部」として描いていることです。
「九州戦争」も「山一抗争」も、稲原(稲川)が「人格力」で平定するように描かれている。
九道会(工藤会)会長役の菅原文太も、山賀組(山口組)3代目役の中井貴一も、5代目役の渡辺裕之も、松方弘樹の「稲原」の人格力にひれ伏して「お任せします」となるわけね。
だから、第3部は、「抗争列島!!」なんてサブタイトルがついてるわりに、バイオレンスシーンはほとんどない。
この場合、バイオレンスより、ヤクザの「人格」を持ち上げていることの方が、コンプライアンス的にアウトです。
このリメイク版が作られている時点では、まだ稲川聖城は生きていた(亡くなるのは2007年)。
昔は、ヤクザが映画の撮影現場に視察に来ることもあったらしいから、そういう「睨み」も効いていたんだろうけど、松方弘樹が稲川に惚れ込んでいたのも本当ではないかと思う。
オリジナル版については、以下の過去記事で論じています。
オリジナル版もオンデマンドで見られるから、オリジナルとリメイクを比較しても面白いかもしれない。
主な役柄を演じた役者を比べると、以下のとおり。( )内はモデルになった人。
オリジナル(1984)→リメイク(2002)
稲原龍二(稲川聖城) 松方弘樹 → 松方弘樹
横山新二郎(横山新次郎 稲川の後見人)鶴田浩二 → 夏八木勲
鶴岡政次郎(鶴岡政次郎 横浜の大親分)若山富三郎 → 丹波哲郎
モロッコの辰(出口辰夫 稲川の若衆)北島三郎 → 寺島進
井沢(井上喜人 稲川の若衆)菅原文太 → 本宮泰風
石河・石井(石井隆匡 稲川の若衆)北大路欣也 → 名高達郎
大島・町村(町井久之 在日ヤクザの大物、東声会設立者) 天知茂 → 小沢仁志

この映画は、横山と稲原(稲川)の「師弟愛」が大テーマで、主題歌「神奈川水滸伝」で歌われる「光り輝く表の顔を裏で支えるバカ」である横山が、稲原に次ぐ準主役です。
その点で、オリジナル版の鶴田浩二も、リメイク版の夏八木勲も、それぞれ晩年の名演を残しています。甲乙つけ難い。
このドラマで最も印象的なキャラ、チビだがヒロポン中毒で喧嘩っ早い「モロッコの辰」役の北島三郎と寺島進も、どっちも好きですね。


リメイク版井沢役の本宮泰風が意外によくて、今の「日本統一」の彼よりもヤクザ的魅力がある。
一方、山賀組(山口組)3代目、「田岡一雄」に当たる役の中井貴一が、不思議なほど精彩を欠いている。何かあったのか、というくらい。
あとリメイク版で弱いのは女優陣かな。まあオリジナル版の稲原の妻は、酒井和歌子だったからねえ。
リメイク版で、稲原龍二の息子、「稲原裕之」(三代目稲川会会長・稲川裕紘)役を、松方弘樹よりも年上の渡哲也がやってる不自然さは、さんざん指摘されてるとは思うけど、どうしても渡哲也に出て欲しかったんだろうね。
その他、リメイク版には、梅宮辰夫、小林旭などがカメオ的に出演。稲原の娘役の貫地谷しほりは、これがデビュー作です。
リメイク版に出ていた小沢仁志(短い出番でしたが名演)が最近、ヤクザ映画「珠玉の5作品」を選ぶ動画をアップしていた。
【ヤクザ映画】小沢仁志が本気で厳選「これは見ておけ!」珠玉の5作品を語る|ヤクザ映画が減った「本当の理由」とは?(笑う小沢と怒れる仁志 / 小沢仁志 2025/4/2)
オリジナル版の「修羅の群れ」は、「珠玉の5作品」に入ってるだろうと思ってたけど、入れてなかったね。
小沢仁志のヤクザ映画5選
「仁義なき戦い」(1973)
「日本の首領」(1977)
「仁義の墓場」(1975)&「広島やくざ戦争」(2000)
「極道の妻たち 三代目姐」(1989)
「制覇」(1982)
小沢さんはこの動画で、ヤクザ映画が作られなくなった現状を、以下のように批判しています。
ヤクザ映画と時代劇って、今作るのはなかなか難しいんじゃないかな。
昔の先輩たちは、時代劇がベースにあったような、あの映画業界の中にいたから、みんな立ち回りでも所作だったり、すごいじゃない。
でも、今あまりにも時代劇がなさすぎて、若手が(そういう)場を踏むところがない。
時代劇もヤクザ映画と似てて、存在感なんだよ。芝居だけじゃなくて。そういうのが、現代では、なかなか難しんじゃないかな。
ヤクザ映画も、一つのピースとしては、普遍でないといけないと思うし。本当は時代劇もね。
ていうか、今ヤクザ映画って、劇場でかかりにくいらしいからね。コンプライアンスで。アホみたい。
ヤクザが活躍する映画は、かけてくれるコヤ(映画館)がない。
ヤクザ対警察で、警察がメインだったら、かかる。
ヤクザが、刑務所から出てきて、新しい世界に生まれ変わって、人生やり直そうとしている映画は大丈夫なの。
あと、ヤクザと家族、「家族愛」という括りならいい。
もっとこう、映画館とかそういうのって、コンプラ関係なく、自由でいいんじゃねえのかな、とか思うんだけどね。
私は九州のヤクザの街で育ったから、ヤクザに一切の幻想はないけどね。
暴力追放大賛成ですよ。
でも、ヤクザ映画と戦争映画でしか描かれない「男」というのがあって、それが日本映画の宝だったと思うんですね。
それは、小沢さんが言う「存在感」に近いのかもしれない。
まあ、劇場でかからなくても、配信でずっと見られるようになっていたら、それでいいけれども。
しかし、新作が作られないのは寂しい。
実は今、私がいちばん見たいのは、清水健太郎のVシネだ。
もうコンプラ的に、2重3重にダメなやつ。
そういうコンプラアウトな作品ばかりを流す、「ノンプラ」チャンネルがあってもいいのではないか。
コンプラアウトな芸人も集めて。
まあ、清水健太郎については、また別の機会に語りたい。
「修羅の群れ」主題歌「神奈川水滸伝」(映像は1984年版)
<参考>私のヤクザ映画愛
