広告経済の次 #18: 『アテンション・エコノミーのジレンマ』についてもう少し
前に紹介した『アテンション・エコノミーのジレンマ』。
これについて考えたことをもう少し書きます。
1. 昔のKPI (重要評価指標)
昔、Google 社内の組織構造のことを聞いたことがあります。
Google はエンジニアとセールスに分かれている。
エンジニアの仕事は
サービスを作るだけでなく
そのサービスのユーザ数を獲得するところまで含む。
つまりエンジニアの KPI (重要評価指標) はユーザ数。
セールスの仕事はそのユーザ数をお金に変えること (マネタイズ)。
当時、Google が Gmail や Google Map などの新しいサービスを
次々提供し始めていたころでした。
ユーザ数というのは優れた KPI だなと思いました。
この KPI はユーザの満足度とほぼ一致するように思えたからです。
2. 「アテンション」というKPI
そのあと、KPI は「ユーザ数」から「アテンション」というものに
シフトしていったように記憶しています。
Google が YouTube を買収して、
しばらくしたころだったと思いますが、
YouTube 責任者が、
「YouTube の KPI は総ユーザ視聴時間 だ」
と言っていたのが印象的でした。
これもユーザがYouTubeを視聴するという選択をした結果なので、
ユーザの満足度と、一致しているようにも思えます。
ただ、
「彼らはユーザの時間を独占したがっている」
ということが気になりました。
ユーザの合理的判断じゃないところに、
作用する懸念があったからです。
3. アテンションはユーザの利害とズレてきた
視聴時間が長い=満足、とは限りません。
例えば、動画を見終わったあと、
いくつかの候補がレコメンされてくるだけでなく、
そのうちの一つ動画が勝手に再生されたりします。
これは多くのユーザにとって「楽」な仕様だとは思いますが、
ユーザにとって「幸せ」なのかは、わかりません。
ポイントは、もはや Google にとって「ユーザの幸せ」なんか、
二の次だということです。
実際、そのころから、
「長時間滞在させる」テクニックに磨きがかかっていきます。
反射・惰性・中毒的設計を駆使して、
全力で「滞在」させようとします。
ちょっとだけ動画を観るつもりが、
気がついたら半日費やしてしまっていた、
なんていう経験を多くの人がするようになりました。
4. 広告主の利害とのズレ
そのころはまだ、
プラットフォーマーがアテンションを追求することは、
仕方がないと思っていました。
タダの代償なのですから。
ただ不思議だったのは、
「アテンション」というKPIは
広告主の利害とも一致して *ない* ように思えたことです。
YouTube がいくら広告をスキップできなくしたとしても、
多くのユーザは、じっと耐え忍ぶだけで、
誰もその広告された商品を買いませんよね?
広告主が本当に欲しいのは「購入」や「好意形成」なはずです。
反射・惰性・中毒的設計で無理やり広告を見せても、
「購入」や「好意形成」には結びつかないと思うのです。
「アテンション」は
ユーザの利害とも、広告主の利害ともズレている
とすると、
いったいなぜ、
プラットフォーマーは「アテンション」を追求するのでしょうか?
5. 実は「仲介」ビジネスではない
もしプラットフォーマーのビジネスが
「ユーザ」と「広告主」との「仲介」をするビジネスであれば、
「ユーザ」と「広告主」を両方満足させることが最重要であり、
最適化されるべきは「マッチングの質」ということになります。
でも、実際に起きていることは違う。
実はプラットフォーマーのビジネスは
「仲介」ビジネスでは *ない* のですね。
プラットフォーマーのビジネスは、
自らが設計した「場(プラットフォーム)」に人々を引き寄せ、
その中での活動(閲覧、投稿、交流、消費など)を
継続的に生み出すことによって成立しています。
つまり、そのビジネスの価値は、
どれだけ多くのユーザが滞在し、
どれだけ多くのコンテンツ提供者が参加し、
そのエコシステムがどれだけ活発か、
にかかっています。
だからこそ、最重要のKPIは、
アテンション=どれだけユーザの関心を引きつけ続けていられるか
になってくるわけです。
6. いままでは "開拓フェーズ"
プラットフォーマーたちは、
まだ収益化の最大化よりも
「シェアの拡大」に
重きを置いているように見えます。
つまり “マネタイズ期” ではなく、
“ユーザ囲い込み期”。
競争相手に一歩でも先んじて、
ユーザの時間・関心を奪い尽くすことが最優先。
このフェーズでは、プラットフォームの価値を高めるために、
コンテンツ提供者、ユーザ、広告主を育て、取り込み、
慣れさせることが重視されます。
7. すでに始まりつつある "収穫フェーズ"
いったん競争に決着がつき、
ユーザ、コンテンツ提供者、広告主を
囲い込み終わった後には、何が起きるでしょうか?
当然「収穫」フェーズに移るでしょう。
広告主への値上げ、
ユーザへのサブスク強制、
コンテンツ提供者への課金。
これらは、すでに始まりつつあるようにみえます。
そして、それらの価格は市場原理で決まるのではありません。
競争は存在しないのですから。
「市場」を「所有」するプラットフォーマー自身が、
すべてを決めるのです。
残念ながら、ここまでの経緯は必然的だったように思います。
では、これに対して、私たちはどうすればいいのか?
引き続き考えていきたいと思います。
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