習慣を設計するとはどういうことか|ニール・イヤール『Hooked ハマるしかけ』レビュー
トリガー、アクション、リワード、インベストメント。この4つが螺旋のように回り続けることで、人はプロダクトにハマっていく。読み返すたびに「よくこんなモデルを作ったな」と思わされます。iPhone、Netflix、Facebook。天才たちが人の行動をコントロールしていると言われますが、この本を読むとその仕組みが見えてきます。
自分自身がプロダクト開発に関わるようになってから読み返したのは3回目ですが、最初に読んだ時には感じなかったつながりが今は見えます。4つのステップが独立しているのではなく、螺旋状のスパイラルとして回っている。その全体像が腑に落ちたのは、自分で設計する立場になったからだと思います。
📖 この本を読むべき人
プロダクトやサービスの設計に関わっている人
ユーザーのリテンションに課題を感じている人
人の習慣や行動の仕組みに興味がある人
著者プロフィール: ニール・イヤール
心理学とテクノロジー、経営学を中心に執筆、教授活動を行っているコンサルタント。2003年以降、2つのテクノロジー系企業を設立し、スタンフォード経営大学院とスタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称d.school)で教鞭をとっており、カリフォルニアのベイエリアにある複数のスタートアップ企業において、ベンチャーキャピタリスト、インキュベーター顧問としても知られている。スタンフォード経営大学院とエモリー大学卒。
感想
改めて読み直すと、トリガー、アクション、リワード、インベストメントという4つに回るサイクルにしたのが本当にいいモデルだなと思います。アプリにハマるという現象をどうやって考えて、どうやってUXのデザインに落とし込んで設計していくか。よくこんなモデル化をしたなというのが一番の感想です。
今やっているプロダクトの開発で考えてみると、コミュニティの設計というのはやはり難しい。内的トリガーもあるし外的トリガーもある。承認欲求的なものもあるし、誰かとつながりたいという欲求もある。うまくバランスを取った設計が求められるのだなと感じました。
トリガーには内的トリガーと外的トリガーの2種類があります。内的トリガーは感情や欲求から生まれるもの。外的トリガーはプッシュ通知やメールのような外からの刺激です。コミュニティ型のプロダクトの場合、投稿するきっかけをどう設計するかがまさにこのトリガーの部分で、いい投げかけをすることが鍵になります。
リワードについて面白いのは、体験の振れ幅が限定されていると、長く利用するにつれて先が読めるようになり、魅力が失われていくということです。不確実なリワードがあるからこそドーパミンが出続ける。逆に言えば、毎回同じ体験しか提供できないプロダクトは飽きられるということです。
この本ではプロダクトを作る人の立場を、ファシリテーター、ペドラー、エンターテイナー、ディーラーの4つに分類しています。自分が作ろうとしているものはどこに当てはまるのか。習慣化をうながすプロダクトは人に悪影響よりも好影響を与えるべきだという著者の姿勢が、この分類の根底にあります。
最初はみんなビタミン剤だったのではないかと思います。投資家に話すと「ビタミン剤でしょ、ペインキラーでないとユーザーはスティックしませんよ」と言われる。でもこの本にも書いてある通り、習慣的なプロダクトはビタミン剤から始まって鎮痛剤になっていく。小さなハビットを積み重ねていくとペインキラーになるという考え方は、B2Cのプロダクトを作る人間にとって心強い視点です。
『ついやってしまう体験の作り方』という任天堂でゲームを作っていた人の本があるのですが、そこで紹介されている体験デザインとフックモデルはつながるところがあります。人間が仮説を立てて、それが当たった時にドーパミンが出る。マリオを右に動かしてうまくいったという成功体験が最初にあって、そこから飽きないようにバリエーションを足していく。プロダクト設計にもそのまま応用できる考え方です。
輪読会で議論したこと
MVPにリワードは含まれるべきか
コミュニティ型のプロダクトを作っている立場から、フックモデルをMVPにどこまで反映させるかという話になりました。今あるのは写真が投稿できてコメントができるというだけの最低限の機能。でもリワードの部分がまだ足りていない状態でテストしても、結局「これじゃなかったよね」という結論にしかならないのではないか。
MVPとは何の仮説をテストするものなのか。リワードに対してアクションしてくれるかどうかを見るものだとしたら、リワードがないとそもそも始まらない。トリガー、アクション、リワード、インベストメントのループを1回転させられて初めてMVPと呼べるのかもしれない。定義が広いからこそ、何をテストしたいのかを先に決めておかないと空回りするという話でした。
インベストメントの力とIKEA効果
インベストメントの段階がすごく大事だという話になりました。IKEAの家具を自分で組み立てると、同じ製品でも愛着が湧いて価値が上がるように感じる。レゴも同じで、自分が作ったものには他の人が感じる以上の価値を見出す。この差分こそがスティッキネスなのではないか。
面白い例として、パンケーキミックスの話が出ました。粉に水を混ぜて焼くだけという製品を売っていたら全然売れなかった会社がある。そこにユーザーに卵を入れさせるという工程を追加したら売れるようになった。やっていることの本質は変わらないのに、自分が何かをやるという行為と、そこに対するアタッチメントが加わるだけで人は愛着を持つ。
だから全てを自動化するのではなく、あえてちょっとしたフリクションを残しておくことも戦略としてありうる。Dispoというカメラアプリが翌朝9時にしか写真を見られないという不便を入れたのもその一例です。シンプルに不便なのだけど、逆にそれがエモさや価値をまとっている。
習慣が崩れる瞬間
フックモデルがうまく回っている時はプロダクトが伸びている時。でもプロダクトは必ずいつか死ぬ。どういうパターンで崩れていくのかという話になりました。
いくつかのパターンが出ました。プロダクト自身に問題があるケース、つまり改悪してしまうとか嫌われてしまうパターン。もう一つは人ベースで、ライフステージが変わってその習慣が役に立たなくなるとか、それ以上の価値を提供できなくなるケース。ライザップのように短期では習慣化できても、やめた瞬間にフックが外れてしまう例も出ました。
根本的には、慣れと飽きの問題がある。最初の感動や驚きは時間とともに薄れていく。そこに新しいスパイスが来ると面白そうだと感じるけれど、それがなければユーザーは離れていく。だからこそ既存のプロダクトからパイを少しずつ取っていく新しいスタートアップが生まれ、世代交代が起きるのだという見方もできます。
ドーパミンと不確実な報酬の仕組み
ドーパミンに関して、猿の実験の話が盛り上がりました。ボタンを押せば毎回バナナが出てくる状態だと猿は飽きてやめてしまう。でもたまに出てこないようにすると、ドーパミンが止まらなくなって無限に押し続ける。これはまさにギャンブルの仕組みで、ドーパミンとノルアドレナリンが交互に出ると依存が生まれる。
順番が大事だという指摘もありました。まず成功体験がないと始まらない。バナナが出るとわかった後に、たまに来ないという不確実性が加わることでハマっていく。最初からストレスだけだったら誰もやらない。プロダクトに置き換えると、まずしっかり成功体験を作ってあげるところがベースにあって、その上で意図的な不確実性やストレスを設計するということです。
ゲームの広告で、簡単そうに見えてあえて失敗しているプレイを見せるとインストール率が上がるという話も出ました。「自分ならできるのに」と思わせることでトリガーを引く。人間の行動を理解して設計に落とし込む手法は、知れば知るほど奥が深いです。
Glasp自身のフックモデル
自分たちのプロダクトに当てはめてみると、ハイライトをすればするほど自分のナレッジが溜まっていくというバーチャスループ(好循環)がある。使い続ければ続けるほど抜けられなくなるという設計は、事前に考えられるところでもあります。
実際にデータを見ると、記事を5ページ以上でハイライトを30以上している人は1年後も戻ってきている傾向がある。このマジックナンバーをどう達成させるかがリテンションの鍵です。ニュースレターで1週間のサマリーを送ったり、フォローしている人のハイライトを見せたりすることで、外的トリガーとして機能させられるのではないか。自分の情報を探したい時に自分のページで検索するという習慣ができたら、もっとハイライトしていこうという動機が生まれる。その好循環をどう回していくかが課題です。
引用
習慣的なプロダクトは「あったら嬉しいもの(ビタミン剤)」から始まり、やがて、「なくてはならないもの(鎮痛剤)」になる
新規参入者がチャンスを狙いたいなら、ただ優れているだけではダメで、既存の9倍は優れていなければならない
習慣は作り出すものではなく、積み重ねで
この記事で掲載した引用は、Glaspの機能を使ってエクスポートしています。 Kindleのハイライトをエクスポートすることに興味がある方は、以下の記事をご覧ください。
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