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ギャビン・ニューサムは「自分を再紹介」している

――民主党が抱える本当の問題


大統領選挙の前には、必ず「プレキャンペーン」がある。次のアメリカ大統領選挙は2028年。選挙の2年前くらいのこの時期、未来の大統領候補者たちは、雑誌のプロフィール記事、トーク番組出演、政治回顧録の出版などを通じて、自分の名前と物語を少しずつ売り込み始める。

政治家の回顧録は、たいてい退屈か、あるいは恥ずかしいものだ。例えば、国土安全保障長官を最近退任した、クリスティ・ノーム (Kristi Noem) は、自著で犬を撃った話を自慢していたほどだ。しかし時には例外もある。バラク・オバマ (Barack Obama) の『Dreams from My Father』のように。そして今、その順番が現カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム (Gavin Newsom) に回ってきた。

■ニューサムの「自己再紹介」

ニューサムの新著『Young Man in a Hurry』は、彼自身が語るように、オバマのアイデンティティ論に影響を受けている。この本の中心は、自分の家族史やサンフランシスコ上流社会の描写。だが、本質的には自身の政治的再ブランディングの試みだ。多くのアメリカ人が彼に持つ「サンフランシスコのエリート政治家」というイメージを修正しようとしている。

ニューサム家は富裕層ではなかったが、富の近くにいた。彼の父は石油王 J・ポール・ゲティ(J. Paul Getty)の息子、ゴードン・ゲティ (Gordon Getty) の親友だった。その関係で、ニューサムはアフリカのサファリ旅行やスペイン王女の社交界デビューなどに同行する機会もあった。しかし彼は、自分が「銀のスプーンをくわえて生まれた」わけではないと強調する。母と暮らしていた生活は中流で、レストランで皿洗いもしていた。とはいえ、ゲティ家は彼のワイン事業やレストラン事業の初期投資家でもあり、父の人脈が彼のキャリアの出発点だったことは間違いない。

■機械政治のリアリスト

ニューサムは、オバマのようなカリスマ的なイデオロギー政治家ではない。彼を政治の世界に導いたのは、サンフランシスコの政治ボス、ウィリー・ブラウン (Willie Brown) だった。ブラウンはこう語っている。「彼が何を信じているかは重要ではなかった。忠誠心が重要だった。」と。つまり、ニューサムは典型的な「機械政治 (machine politics) 」の政治家でもある。その柔軟さは政策にも表れる。彼はカリフォルニアで石油掘削規制を進め、石油業界の敵と見られていた。しかし製油所閉鎖でガソリン価格が上昇すると、掘削許可を出した。環境団体は激怒した。石油業界は皮肉を言った、「大統領に出るために、みんなに好かれたいんだろう」と。ニューサムはある意味でプラグマティックなのだ。

■カリフォルニアという資産と負債

カリフォルニア州知事は大統領候補としては最高の訓練でもあり、同時に最大の弱点でもある。カリフォルニア州の人口は約4,000万人。GDPは日本のGDPをも凌ぐ規模だ。独立すれば、世界第4位の経済大国ということになる。ただ共和党にとって、カリフォルニア批判は半ばスポーツのようなものだ。住宅価格は全米最高水準。ホームレス問題も深刻だ。州政府は240億ドル以上を投入したが、ホームレス問題は依然として解決していない。つまりニューサムは州知事として、巨大な成功例と巨大な問題を同時に抱える州を率いているのだ。

■私の立場

ここで、私自身の立場も少し説明しておきたい。私はアメリカ政治を外から評論している訳ではない。アメリカの大学で政治学を専攻した。住んでいたフィラデルフィアという土地柄、私は特に民主党の政治思想に強い影響を受けてきた。しかも、オバマ政権の時代にアメリカに住んでいた世代。つまり、私は民主党支持者だ。特に日本に支持政党は無い。日本人ではあるが、2008年以来、ずっとアメリカの民主党を支持している。私の政治思想に最も近い。

当時も現在も、民主党は多様性、国際協調、市場経済と社会保障のバランス、そして中流階級の成功を重視する、極めて現実主義的な中道リベラル政党だ。私は今でも自分を“Obama Democrat”だと思っている。だからこそ、民主党の現状についても、外部からの批判ではなく、内部からの問題意識として考えている。


■民主党の本当の問題

民主党は2024年の大統領選挙で敗北し、上院も下院も共和党に奪われている。ニューサム自身も、「なぜ民主党が選挙で苦戦するのか?」を考えているようだ。彼の結論はシンプルで、「アメリカ人は民主党を"弱い"と見ている」というものだ。多くのアメリカ人は「民主党はリベラル過ぎる」と言う。しかし世論調査を見ると、問題は必ずしもそこではない。むしろ、弱い、エリート過ぎる、また、現実離れしているというイメージが問題になっている。つまり、民主党に必要なのは中道化ではない。強さのイメージなのだ。「なぜ民主党が弱く見えるのか?」については、過去に以下のICE関連の投稿でも触れた。


■政策ではなく政治スタイルの問題


長年に渡り、対外政策に於いては、民主党は「国際協調・法の支配・多国間主義・合意形成」といった政治スタイルを重視してきた。これは民主主義国家として健全な姿勢だ。クリントン政権やバイデン政権時代の外交が代表的な例だ。しかし、ドナルド・トランプ (Donald Trump) の時代以降、この政治スタイルはしばしば「弱さ」として受け取られる現実がある。

トランプ政治の特徴は、「過激な言葉・敵の明確化、シンプルなメッセージで扇動」だ。この政治言語のスタイルでは、民主党の慎重な政治よりも共和党が「強く」見えるのだ。つまり問題は政策の左右ではない。政治のスタイルなのだ。共和党の言動が過激になった経緯については、以下の投稿でも触れた。


■安全保障と民主党

上記の「民主党が弱く見えてしまう」点は、私自身も最近は強く感じている。なぜなら、実際に安全保障のバックグラウンドを持つ民主党の政治家は、特に信頼されている印象があるからだ。例えば、現バージニア州知事のアビゲイル・スパンバーガー(Abigail Spanberger)はCIAの出身。また、現ニュージャージー州知事のミッキー・シェリル (Mikie Sherrill)はアメリカ海軍の出身だ。こうした政治家達は、民主党の政治家でも国家安全保障を理解しているという安心感を有権者に与える。トランプ時代以降、民主党にとっての最大の課題は政策ではなくイメージなのかもしれない。

■ニューサムという政治家

ギャビン・ニューサムはオバマのような思想家ではない。ロバート・ケネディ (Robert Kennedy)のようなカリスマでもない。寧ろ、機械政治のリアリストだ。だがトランプ政治の時代には、そういう政治家が必要なのかもしれない。民主党の問題はリベラル過ぎることではない。弱く見えることだ。そしてニューサムは今、そのイメージを変えるために自分自身を再紹介している。次期アメリカ大統領選挙がある2028年の、ニューサム知事の健闘を祈る。


参考文献:

https://economist.com/united-states/2026/03/01/gavin-newsom-wants-to-reintroduce-himself

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