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「キリエのうた」(備忘録的感想)

※2023年10月執筆

この秋最大の期待作で、期待通りの素晴らしい作品であった。

深夜の新宿、路上でギターを抱えたミュージシャンがうずくまっていた。
仲間と次の店に行く途中だったイッコ(広瀬すず)が声を掛けて、中華料理屋に誘う。
ミュージシャンは名刺を取り出し、そこには「kyrie」と書かれていた。
キリエ(アイナ・ジ・エンド)はある事がきっかけで、歌う時以外はほとんど声が出せずに筆談をする。
イッコはキリエが今夜泊まる場所がない事を知ると、自分の部屋に来るように言う。
会ったばかりの人に泊めてもらうなんてできません、とキリエが言うが、イッコはもう友達じゃない、と言って自分の部屋に連れ帰る。

翌日から、イッコはキリエのマネージャーとなりプロデュースも始める。
路上ライブで着る服、歌う曲を考え、ライブ中は観客も集めた。
イッコのプロデュースが巧くハマり、キリエは路上ライブでも人気のミュージシャンとなった。

2011年大阪、小学生の女の子が歩いていた。
彼女はしゃべることができず、木の上で暮らして教会の炊き出しで食事を取っていた。
教師の風美(黒木華)は自分の生徒から少女の存在を確認し、彼女を自分の部屋に招く。
少女は筆談で、名前を小塚路花(こづかるか)だと言った。
しかし路花は、住んでいた場所を含めて自分の事をあまり覚えていない。
路花が寝ている間に風美はネットで「小塚路花」を検索、すると「なっちゃん」というHNが「小塚希を探しています」とtwitterに書き込んでいるのを発見した。
路花が起きた後に尋ねると、「希」は「きりえ」と読み、彼女の姉だという。
そして「なっちゃん」は、姉のフィアンセだという。
風美が「なっちゃん」に連絡を取ると、仙台から潮見夏彦(松村北斗)という20歳前後の青年が路花を迎えに来た。

イッコの本名は広澤真緒里と言い、帯広で母(奥菜恵)と祖母(浅田美代子)の3人で暮らしていた。
母は3代続くスナックのママで、真緒里も4代目としてスナックを継ぐつもりでいたが、あることがきっかけで大学進学を目指すこととなる。
そのため家庭教師を紹介してもらうのだが、それが潮見夏彦(松村北斗)だった。

上映開始30分で、イッコとキリエの最初の出会いが描かれる。
かなり意外で、予告編やトレイルなどで描かれていないため、ネタバレにならないようここでは詳細は触れない。
しかし二人の関係は、そこから始まっていた。
そして夏彦と希(きりえ)の関係についても語られる。
希と路花姉妹、そして夏彦、イッコ(真緒里)の4人の切ない過去がとつとつと語られる。
ネタバレが多くなってしまうため、ストーリーについてはほとんど書くことができないが、キリエとイッコの友情が4人の悲しい過去の上に成り立っており、観ているうちにどんどん胸が苦しくなってくる。

中でも、やはりアイナの歌声が作品に厚みを出している。
絞りだすようなハスキーな歌声が、この作品にぴったりマッチしている。
イッコの「感動した事は、何と言ってもあなたの歌ですよ」と言うセリフも実感がある。
そしてアイナの演技力だ。
アイナは昨年ジャニス・ジョプリンのミュージカルに主演しているので、元々演技力はあるのだとは思うが、つらい目にあって自分を前に出すことができない押し殺した演技と、夏彦にぐいぐい迫って甘える好対照の演技はどちらも見事だった。
初主演にして、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞しても、まったく不思議ではない。
もちろん、このアイナの演技を引き出したのは岩井俊二の力量だろう。
アイナに着目して主演に抜擢したキャスティングを含めて、岩井俊二という監督の才能を再認識した。
また、子供時代の路花を演じた矢山花という子役の押し殺した演技も素晴らしかった。
広瀬すずも、挫折して世の中を斜めに見ながらも、キリエを希望とする演技が見事だ。
これまでは、ピュアの頑張り屋さんや超天才の主人公などの役が多かったが、ここで一皮むけた感じである。

希と路花の母(大塚愛)が熱心なクリスチャンがゆえに、二人の名前が付けられるのだが、この母が姉妹の人格形成に大きな影響を与えたことも、ストーリーに大きく寄与している。
このあたりも岩井俊二の見せ方の巧さだ。

観終わった後は、同じミュージシャンをテーマにした岩井作品の「スワロウテイル」を思い出した。
ラストもちょっと似ている気がして、久しぶりに「スワロウテイル」をもう一度観てみたいと思った。

99.キリエのうた

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ラーメンと競馬と映画がたまらなく好きです。 こんな辺境の文章を読んでいただきまして、本当にありがとうございます!

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