銀河漂流記 ーー1冊目のファイル(6話)
貧困なき楽園:アダムの見えざる手
今朝は雨の音で7時に目が覚めた。朝食が終わった今も、本降りが続いている。
普通、雨の日は気分が沈むものだが、今日は違った。
雨を見るのは、本当に久しぶりだったからだ。宇宙へ旅立ってからは一度も見ていないから、1年ぶりになるだろうか。
……いや、違う。冷凍睡眠で60年も眠っていたのだから、最後に見た雨は、もはや歴史の彼方の出来事なのだ。

雨にかすむ墨絵のような窓の外の景色に、ボクは時を忘れて見とれていた。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
いつもと同じく、10時にはタニタ医師の診察、午後にはササキ氏のリハビリが控えている。その後は瞬く間に夕食、そしてすぐに消灯時間が訪れるのだ。
リョウさんが遺してくれたノートを熟読できるのは、診察までの、このわずかな時間しかない。
ボクは急いで、ベッドの机の上に置かれた1冊目のクリアファイルを開いた。
今日の章のテーマは、リョウさんが昨日の最後に予告していた通り、「所得格差を減らす秘策」だ。
このテーマは、今朝の雨以上にボクをワクワクさせた。
労働生産性を最大化するため、徹底した実力本位の採用試験が行われるこの世界において、試験に漏れた失業者の生活はどうなるのか。その難題をリョウさんがどう解決したのか。
答えを知りたくて、ボクは朝からうずうずしていたのだ。
もし失業者へのケアが充実していたら、ボクのようにやむを得ない理由で働けない者も、安心して治療に専念できる。
何度でも人生をやり直すチャンスが与えられ、セーフティネットも盤石なユートピア。それが実現していたら、なんて素晴らしいのだろう。
一度レールを踏み外せば二度とチャンスが巡ってこなかった、ボクらのいたあの時代とは大違いだ。
これでミタさんの顔が見られれば、もっとうれしくなるのだが、あいにく今日も彼女はボクの担当ではなかった。

彼女に会えれば、たとえ外が嵐であっても世界は明るく輝くだろう。
ああ、早く回復して、病室でのリハビリを卒業したい。そして、彼女の顔が毎日でも見られるようになりたい。
そのためには、「プランC」の成功に向けたこの勉強だけでなく、リハビリも頑張らなければいけない。
ボクは鼻息を荒くして、第5章のページを開いた。
第5章:所得格差の小さい社会をつくる秘策
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