1日の食費は543円。でも絶品。究極の節約術を学べる『ムショラン三ツ星』
私は認知症を患う90歳の父と2人で暮らしています。
認知症になると直前の出来事を忘れてしまうため、ストーリーを記憶しておく必要があるドラマにはついていけなくなります。
しかし、父が唯一、楽しめるドラマがあります。NHKで毎週土曜日夜10時に放送されている『ムショラン三ツ星』です。
このドラマは録画をしておき、夕食を食べながら父と一緒に観ています。
父はテレビをつけていても食事中は無関心なことが多いのですが、なぜかこの番組には反応して、時々、笑い声をあげます。
断定できませんが、全体の話を覚えられなくても、出演者たちのテンポの良い滑稽なやり取りが、父の笑いのツボをくすぐるのでしょう。

そう推測するのは、父が楽しんで観る番組には、ある共通点があるからです。
父は『笑点』の大喜利と相撲を好んで観ます。大喜利はすぐにオチが示され、相撲はすぐに決着がつきます。つまり、どちらも「短い時間で楽しめる」という点において共通しています。これなら、長く記憶できない認知症の父でも楽しむことができるのです。
「認知症でも楽しめる番組とは何か」。これをテーマに番組を制作しているテレビマンは、恐らくいないでしょう。
けれども、高齢化が進む現代において、認知症患者のいる家族は珍しくありません。
ならば、認知症の人が楽しめる番組を研究し、製作する価値は十分にあるはずです。
多くの認知症の方は、家の中で刺激の少ない寂しい日々を過ごしています。そのような喜びの少ない生活は、認知症の進行を早めかねません。
だからこそ、テレビが重要な役割を果たせるのではないでしょうか。テレビから良質な刺激を受け、認知症の進行を遅らせる効果が認められれば、「オールドメディア」と揶揄されるテレビも、見直されるはずです。
前置きが長くなりました。『ムショラン三ツ星』の話に戻りましょう。
このドラマは、一流イタリア料理店の腕利きシェフであった中年女性が、地元の男子刑務所の管理栄養士に転職し、厳しい制約のなかで受刑者を感動させる給食づくりに奮闘するヒューマンドラマです。
「ムショラン三ツ星」というタイトルには、受刑者に喜んでもらえる料理をつくってみせるぞ、というプロ料理人の高い志が込められているのです。
主人公である管理栄養士・銀林葉子を演じるのは、小池栄子さん。困難を明るくたくましく跳ね返していく主人公の姿は、小池さんの明るく頼もしいイメージと重なり、はまり役だと思います。

このドラマに惹きつけられるのは、楽しさや感動だけでなく、多くの「学び」があるからです。
まず、刑務所での暮らしという未知の世界を教えてくれます。
受刑者1人あたり1日3食の食費は、いくらだと思います?
わずか543円です。1日3食で543円ということは、1食あたり約181円です。543円といえば、スーパーで弁当を一個購入すれば終わってしまうほどの金額です。
この費用で創意工夫をして、受刑者に喜んでもらえる献立を考えるのは至難の業です。

私も介護離職をしており生活が楽ではないので、食費の節約には頭を悩ませています。
スーパーには4日おきに買い物に行き、まとめ買いをします。
それで使う金額は6千円程度。単純に計算すると1人あたり1日3食で750円になりますが、6千円のなかにはティッシュや洗剤など食材以外の商品も含まれるので、それらを差し引いて計算しなおすと650円前後になると思います。刑務所での食費543円と107円しか変わりません。
だからこそ、管理栄養士の苦労と、限られた予算で最善を尽くす姿勢に、深く共感するのです。
また、その創意工夫をした料理の数々も学びになります。
このドラマを観て、受刑者が自分たちで給食を作っていることも知りました。
でも彼らのほとんどは料理初心者なので、失敗も多く、上手に料理をつくることができません。
それをフォローするのが、管理栄養士の役目です。彼らに料理を教え、炊所(炊事場)から呼び出しがあればすぐに駆け付け、対応に当たります。

私も正式に料理を学んでいないので彼らとあまり変わりません。料理のコツを教えてもらえて、大いに参考になっています。
食事は、人が喜びを感じられる貴重な時間です。
お腹いっぱい美味しいものを食べられなくなることは、辛いことです。
アンパンマンの作者であるやなせたかしさんは著書の中で、「戦争体験でも、何よりきつかったのは飢えだった。ひもじさには耐えられない」と語っています。
したがって、刑務所の食事では公平性が厳しく求められます。
満腹感を得られず不満を抱えている受刑者は、他人のほうが少しでも量が多いと、喧嘩になる恐れがあるからです。
刑務所の食事は「クサい飯」と言われますが、長期間にわたってそのような食生活をすると、二度とこんな経験をしたくないと思うでしょう。
だから、それも更生に役立つという見方もあります。
しかしこのドラマの主人公は、「限られた予算のなかで、少しでもおいしく、わくわくする料理を受刑者に食べてもらいたい」と必死に創意工夫して献立を考えます。
「北風と太陽」ではありませんが、受刑者が喜ぶ顔が見たいという愛情は彼らに伝わり、それも更生につながるアプローチになるでしょう。
出所後、その料理の味を思い出し、その素晴らしい料理を自分たちがつくったという達成感が蘇れば、更生への自信も湧くはずです。
何より、料理を通じて自分を大切にしてくれ、信じてくれた人たちの顔が思い浮かべば、その人たちを裏切りたくないと思うのではないでしょうか。
このドラマが感動するのは、その視点で描かれているからだと思います。

実はこのドラマは、ノンフィクションをもとに作られています。
『めざせ!ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(朝日新聞出版)という本で、著者は現役で刑務所の管理栄養士をしている黒栁桂子さんです。
実話をもとにしているので、「食」が更生に果たす役割があるのも事実でしょう。
刑務所の話でも重々しくなく、楽しめます。学びも感動もあるので、おすすめです。
今夜の深夜0:35から、全話(1話~3話)が一挙再放送されます。まだ間に合いますので、ぜひ録画してお楽しみください。
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