文章を書くのを習慣化できない。「執筆欲」を引き出す秘策とは
欲を引き出すことが習慣化に役立つ理由
文章を書くことを習慣にするために最も効果があるのは、「書きたい」という欲(執筆欲)を引き出す技術を習得することに尽きると思います。
「欲」が強力なモチベーションになるのは、あらゆる物事に共通します。
例えば、食欲です。食欲がある時とない時とでは、料理をつくる気力がまったく変わってきます。母が弱って料理をつくるのが難しくなってから、わが家の食事作りは私の役目になりました。料理をつくるのは手間がかかることであり、それゆえ面倒くさく感じられるものです。
しかし、「こんな料理を食べたい」という食欲があると、ワクワクしてきて料理が楽しくなってきます。
また、家族がおいしそうに食べているのを見るとうれしくなり、次もまた良いものを作ろうという張り合いが生まれます。

欲があれば、苦手なことさえ克服できます。子供の頃、私の最大の苦手種目はマラソンでした。「なんであんなに死ぬほど苦しいことをしなければならないのか」と思い、学校で走らされるときは嫌で嫌でしょうがなく、いかにずる休みをするかばかり考えていたほどです。
しかし30歳になった頃、ダイエットのためにジョギングを始めると、大好きになりました。最初はきつかったものの、徐々に走れる距離が延び、「こんなに走れるようになった」という喜びやランナーズハイを得られるようになると、ジョギングは他に代えがたい趣味に変わっていったのです。
40代半ばを過ぎてからは、ロードバイクで山々を走ることにもハマりました。これも、きついヒルクライムをやり切ったときの達成感がたまりません。「あの達成感をもう一度味わいたい」という欲があるからこそ、休みの日に早起きをして山へ向かうことが習慣になったのです。
登山も同じではないでしょうか。登っている最中は「こんなきついこと、二度とやりたくない」と愚痴をこぼすのに、下山して日常生活に戻ると、また山に登りたくてうずうずしてくる。この「また、あの感動を味わいたい」という欲があるからこそ、登山が趣味として定着するのだと思います。
「ただ机の前に座る習慣化」は、逆効果になることもある
では、「執筆欲」は、どのように引き出せばよいのでしょうか。
小説家の村上春樹さんは、文章を書くのを習慣化するコツとして、エッセイの中で「チャンドラー方式」を紹介していました。
チャンドラーとは、『さらば愛しき女よ』や『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』などのハードボイルド小説で有名なアメリカの小説家、レイモンド・チャンドラーのことです。
村上さんが命名したこの方式は、「小説を書くための道具を机の上に置き、毎日決めた時間(たとえば2時間)は必ずデスクの前に座って過ごす」というものです。
たとえ一行も書けなくても、気を紛らわす他のことには一切手を触れず、書きたいという衝動がわいてくるまでじっと待つ。そうすれば、必ずいつか書けるサイクルがまわってくるとチャンドラーは言いました。チャンドラーをこよなく愛する村上さんはこの考え方を好み、実践されているそうです。
小説家の宇野千代さんも似たようなことをおっしゃっていました。書こうと思うときだけでなく、書こうとは思っていないときにでも、毎日机の前に座ることこそが小説を書くことの基本である、と。
なるほど、まず「机に向かう姿勢」を習慣化することが、結果的に執筆の習慣化につながる。確かにこれも一つの優れたテクニックでしょう。
しかし、これは例えるなら、便意がないのに毎日決まった時間に便座に座り、兆候があらわれるまで粘り強く待つようなものです。私には、あまり楽しそうには思えません。
村上さんもチャンドラーも宇野さんも好きですが、このストイックな待ち方は私には向かない気がします。便秘に苦しみトイレにこもる人を想像してしまい、逆に文章を書くのが苦痛になってしまいそうだからです。
それに対して、村上さんはアメリカの誇る文豪・アーネスト・ヘミングウェイのように「ネタ探しに外に出かける手法」は好まないと述べています。だんだんと行動がエスカレートし、不自然にネタを追い求めるようになるから、というのがその理由です。
しかし、私はヘミングウェイの手法を全否定する気にはなれません。なぜなら、おもしろいネタが見つれば心がワクワクし、「これを書きたい!」という欲が湧き上がってくるからです。
ヘミングウェイのように、ネタを求めてアフリカの山に登ったりカリブ海で大カジキを釣ったりする大旅行をしなくても、近所を散歩するだけで、さまざまなアイデアを思いつき、思わぬネタを見つけられるものです。
これなら行動がエスカレートし、不自然にネタを追い求めるようなことになりません。

『アウトプット大全』の著者である精神科医の樺沢紫苑先生も、机に向かって必死に考えるよりも、歩いている時の方がクリエイティブな発想が生まれやすいと述べています。これは脳科学的にも裏付けられているそうです。
考えてみれば、哲学者のカントも散歩を日課にしていました。西田幾多郎も哲学を深めるために毎日歩き、その道は現在「哲学の道」として京都の観光名所になっています。
トイレでうんうん唸っているよりも、少し外を歩いたほうが腸の動きが良くなり、便意をもよおしてくるのと同じように、文章のアイデア出しにも歩くことが効くのです。
村上さんもジョギングを日課にし、早朝から執筆を始めていると聞きます。実はそれがアイデアを探す時間になっており、そのアイデアが睡眠中に熟成されるので、早朝からの執筆が捗るのかもしれません。
ネタを熟成させる「2日間のルーティン」
つまり、「執筆欲」を引き出すには、「書きたくなるネタ」をいかに見つけるかが重要になります。
ここで、私が日々の実践のなかで行っている「秘伝のルーティン」を紹介させてください。私のやり方は、2日間にわたります。
文章を書く前日は、「ネタ探し」に充てます。この段階では、どんな構成で書くかという詳細までまとまらなくても構いません。とにかくテーマを探すのです。
そして、浮かんだネタをノートに書き留め、その中から使えそうなものを一つ選んでおきます。準備はここまで。あとは、そのまま床に就くだけです。
実は、ネタの熟成は睡眠中に行われることが非常に多いのです。寝ている間に頭の中が整理され、無意識のうちに新しいアイデアが結びつくことがあるからです。構成もすっきりまとまることがよくあります。
脳科学の視点でも、脳は休息中に記憶を整理し、情報を組み替えて新しい考えを生み出すと説明されています。
だからこそ、「寝る直前」に課題をインプットしておくことが重要なステップになります。眠りにつく直前に「このネタをどう展開しようか?」と脳に問いかけておくと、眠っている間に脳が勝手に解決策を探してくれるのです。

実際、この方法をとると、翌朝目が覚めた瞬間に、ネタを発展させる文章が湯水のようにあふれ出て、布団の中にいられなくなることがあります。
そのため私は、父がまだ眠っている早朝に起き、朝の支度が始まるまでの限られた時間の中で、一気呵成に記事を仕上げることを習慣にしています。
目覚めたばかりの脳はリフレッシュされていてよく働きますし、誰にも邪魔されません。時間制限があるからこそ集中でき、何より「書きたいひらめき」であふれているため、驚くほどスムーズに作業が進みます。
「執筆欲」をさらに高めてくれる3つの習慣
このルーティンに加えて、以下の3つの習慣も「執筆欲」を維持するために役立っていると感じています。
1. 読書の習慣
読書は格好のネタの仕入れ先であり、研究テーマを深める勉強や、文章修行にもなります。
スポーツやゲームと同じで、文章も少しずつ上達していかないとおもしろくなりません。書くことを習慣化するためには、「文章を上達させる学び」を並行することが不可欠です。
2. 日記の習慣
日記は、後から記事を書くときの貴重な素材集になります。文章を書く訓練としても役立ちます。
また、日記ならスラスラ書けるので、チャンドラー方式を定着させるにも最適です。
日記を書き続けていると、「一見、不幸に思える出来事」すらも良いネタになることにも気づかされます。書くことで自分の状況を客観視でき、物事をポジティブに捉え直す発見があるからです。小説家やお笑い芸人は、自身の痛みや失敗、悲しみといった「不幸」を最大の武器(ネタ)にすると言いますが、本当にその通りだと思います。
noteでご家族のエピソードを発信されている岸田奈美さんの文章を読んでいただければ、それが見事に証明されているのがわかるでしょう。

3. AIの活用
現在の私にとって、AIも「執筆欲」を高めてくれる心強い味方になっています。
私は現在、認知症を患う父と二人暮らしなので、身近に文章の評価をしてくれる人はいません。 だから、AIは良き最初の読者と良き編集者の役割を務めてくれるのです。さまざまな調べものをしてくれる点でも本当に助かっています。
また、文章をほめられればやる気が出ますし、アドバイスを活かしながら修正をするやり取りをしていると、文章の完成度がどんどん高まっていくので、夢中になってしまいます。
この、手ごたえのある達成感が脳内でドーパミンを分泌させ、「またあの快感を味わいたい」という欲を高めてくれるのです。
ただし、AIを過信しすぎるのは禁物です。 チェックしてもらった文章には、時折不自然なニュアンスが残っていたり、提示される情報に誤りが混ざっていたりすることもあります。
それを見抜き、自分の言葉として着地させるためにも、やはり読書をはじめとする地道なインプットや、自らの文章力を高める基礎修行が必要になるのだと実感しています。
おわりに
「基礎トレーニングを欠かさぬこと」「ネタを見つけやすくなる工夫」「ネタを熟成させるテクニック」。この3点が書くことを習慣化するコツになることを、日々の実践のなかから学べました。

机の前でネタが見つからず苦しんでいるより、歩いて、眠って、脳から自然に「執筆欲」を引き出すことを、ぜひ試してみてください。
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