銀河漂流記 ーー1冊目のファイル(4話)
絶望の隣の希望と、生産性の隣にある夢
今日学ぶのは1冊目のクリアファイルの第3章、テーマは「生産性を最大化するための秘策」だ。
その目的はユートピアを動かすシステムの高効率化にある。
リョウさんによれば、このステップの成功こそが、高効率化、そしてその先にあるユートピア実現の鍵となるようだ。
効率化へのアプローチは3つある。
昨日は1つ目の「パワーを効率的に最大化する」秘策を学んだ。
そして今日が2つ目のアプローチだ。
ちなみに3つ目は「都市の効率を高める」こと。
だが、明日中に3つ目に辿り着くのは、まず無理だろう。
その前に、2つ目のアプローチに含まれる課題を解決する章が、さらに4つも控えているからだ。
とても一気に読み切る自信はない。
時間も、体力も、気力も、今のボクには一切余裕がないのだ。
情けないが、60年もの冷凍睡眠によって、あらゆるものが弱ってしまった。
まず、時間がない。
昨日と同様に、10時からタニタ医師の診察、午後にはリハビリが控えている。
朝食を終え、すでに8時30分。かつては無意識にこなせた身支度も、今は看護師の手を借りて倍以上の時間がかかる。そのせいで、ノートを読む時間は削り取られ、わずかしか残らないのだ。

次に、体力の問題。
筋力の低下した今のボクには、この薄いクリアファイルを持つのすら辛い。読むために上体を起こし続けるのも一苦労だ。
60年も動かさなかったせいで関節は固まり、ページをめくる作業さえ、健康だった頃のスクワット300回よりきつく感じる。
おまけに、昨日のリハビリによる筋肉痛もひどい。
骨が脆くなっているため、ごく軽いメニューだったはずだが、今のボクにはフルマラソンに挑戦したかのような激しい運動に感じられた。
その疼きのせいで昨夜は熟睡できず、今は重い瞼を支えることさえ困難なほどの眠気が頻繁に襲ってくる。
この章も最後まで読み切れるかどうか……。
気力的に参っている理由は、3つある。
1つ目は、ノートに記されたリョウさんの「秘策」が冷徹なまでに合理的すぎることだ。
今日もまた、天地がひっくり返るような大胆な発想に出会うかもしれない。そう思うと、衝撃への恐怖が楽しみを上回ってしまう。
いまの衰弱した精神状態では、一章分の衝撃を受け止めるのが限界である。
2つ目は、これから受けるリハビリへの恐怖だ。
固まった関節を作業療法士にこじ開けられる時の激痛は、無理やり関節を引き剥がされるようで、冗談抜きで地獄だ。
かつて受けた宇宙飛行士の過酷な訓練以上に、辛いことがこの世にあったとは思いもしなかった。

そして3つ目は、自分の力でミタさんに会いに行ける日が遠のいてしまったこと。
昨日のリハビリを受けるまでは、少し頑張ればすぐに歩けるようになり、彼女の当番日を待たずとも自力で会いに行けるものだと楽観視していた。
だが、現実は足の関節をわずかに曲げることすら命がけだ。
亡き母の面影を持つ彼女に、自由に会える日をあんなに楽しみにしていたのに、何てことだろう。
作業療法士は、元の状態に戻るまで、下手をすれば1年はかかると告げた。
1年――。
健康だった頃なら、あっという間だったはずの期間だ。
だが、今のボクにとっての1年後は、窓の外に白く浮かんでいる中星までの距離と同じくらい遠く感じる。

……ダメだ。くよくよしてはいられない。そんな時間の使い方をしているから、1日が長く感じるんだ。
ボクは思考を止める暇をなくすことで、鈍重な時間の体感速度を強引に引き上げようと、痛みを無視して第3章のページをめくった。
第3章:生産性を最大化するためのアプローチと克服すべき課題
生産性の最大化が持続可能な社会に不可欠な理由
生産性の最大化に成功すれば、経済規模の適正化は極めて容易になる。
効率的に高収益を上げられる構造を築くことで、経済規模を無駄に膨張させる必要がなくなるからだ。
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