ハラスメント対策の「空白地帯」――病と闘う人々を言葉の暴力から守る指針を
言葉が持つ力は、私たちが想像する以上に強大です。
発した本人に悪意がなくても、受け取った人の心に深い傷を負わせることがあります。口にされた言葉が「暴力」と化して相手を打ちのめし、その傷が一生の重荷になったり、人生を狂わせたりすることさえあるのです。
近年、こうした言葉の暴力を防ぐため、「セクシャルハラスメント」や「パワーハラスメント」、「カスタマーハラスメント」など、立場が弱い人々を保護するための法整備や環境づくりが急速に進められました。
違反者への罰則が明確化されたことは、大きな抑止力となっています。
しかし、社会的弱者を守るという視点に立つならば、もうひとつ視点を増やしてもらいたいです。
どの弱者に目を向けてもらいたいかというと、重い病を患っている方や、その傍らで懸命に支える家族です。
命にかかわる困難に直面し、心がひどく消耗している彼らこそ、最も守られるべき存在ではないでしょうか。
私には、90歳の父がいます。
今年4月7日、父は救急搬送された先の病院で前立腺がんであると診断されました。父は23日に退院し、今は自宅療養をしています。私は唯一の家族として、父の看病と介護に当たる毎日です。
その中で痛感したのは、何気ない一言で容易に傷ついてしまうほど、患者の家族も心が弱っているということでした。
主治医からは、副作用の少ないホルモン療法という選択肢が示されました。
効果が期待できるという言葉を支えに、私は「父が少しでも長く、穏やかに過ごせるように応援しよう」と必死に気持ちを立て直していましたが、退院から5日後、見舞いに訪れた叔母が口にした言葉に、力を失ってしまいました。
「お父さんが亡くなっても寂しくないように、何か趣味を持ったほうがいいわよ」
「またすぐ入院することになると思うけど、頑張ってね」
叔母に悪気はなく、彼女なりの励ましだったのかもしれません。しかし、その言葉は鋭い刃となって私の心に突き刺さりました。
その日の夕食を作る気力さえ奪われるほど、落ち込んでしまいました。
相手の元気を奪う言葉は、単なる不注意では済まされません。それは患者や家族の心身に悪影響を及ぼす、いわば「毒」です。患者の寿命を縮めるリスクすら含んでいます。
だからこそ、言わなくてもいいことを慎むという配慮が必要になるのです。
病に苦しむ人々やその家族を言葉の暴力から守るための指針や施策が進められるようになれば、「どのような言葉が相手を傷つけるのか」という具体的な事例が世に示されるでしょう。
「良かれと思って言った言葉」が、実は相手を追い詰める「毒」になりうる。その認識が広まるだけでも、配慮のない言葉は減り、闘病や看病の気力を削がれる事態を防ぎやすくなります。
ハラスメント対策の光が、病という暗闇の中で必死に生きる人々の元にも届くことを切に願っています。
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