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頭と心に隙間を作る [第41回]


多忙な日常を送っていると、私たちはつい「効率」や「インプット」に追われてしまいます。移動時間はスマホでニュースをチェックし、隙間時間があればスケジュール帳を開く。それが現代のビジネスパーソンや専門職の「正しい過ごし方」だと信じられているからです。

しかし先日、地方の学会へ向かう道中、私は少し実験的な試みをしてみました。

飛行機とバスを乗り継ぐ片道約3時間、往復で計6時間ほどの間、あえてパソコンも、スケジュール帳も、スマホも一切触らず、本すら読まないという時間を作ってみたのです。

1. 情報の遮断と、思考の結晶化

最初は、手持ち無沙汰で少し落ち着かない感覚がありました。しかし、あえて眠ることもせず、ただ座って過ごしていると、不思議な変化が起き始めました。

考えごとをしたり、窓から見える景色をぼんやり眺めたり、あるいは乗り物の中の周囲の音にふと集中してみたり、時々は眠くなってウトウトしたり……。そんなことを、おそらく何度も繰り返していたのだと思います。

そうした緩やかな思考と感覚の波を繰り返すうちに、これまでバラバラに考えていたことが不思議と一つにまとまったり、新しいアイデアが、まさに心の奥からじわじわと湧いてきたりしたのです。

インプットを完全に断ったことで、むしろ脳が自発的に、本来のクリエイティビティを取り戻していく。それは、私にとって新鮮な驚きでした。

2. キャンパスのベンチで、ただ自然を感じる

目的地に到着し、学会に参加して知識を吸収した後の夜には、学会で久々に再会した先輩、後輩たちと楽しくお酒を酌み交わし、とても良い時間を過ごす事ができました。

そしてその翌日、私は学会の空き時間に、街を1人でしばらく歩いてみました。

せっかくだからと足を延ばして訪れてみたのが、その地にある国立大学のキャンパスでした。そこは自然が豊かで、歴史を感じさせる建物が点在するとても美しいキャンパスでした。天気もよく、新緑のなかにタンポポが咲き乱れ、広々とした芝生では家族連れがピクニックを楽しんでいるような、素晴らしい環境でした。

私はキャンパスのベンチに腰掛け、 ここでも何もせずしばらく時間を過ごしました。

そこでの時間は、移動中の機内とはまた違うものでした。何かを深く考えるというよりは、目の前の美しい景色を眺め、肌をなでる風や光、周囲の音をただ全身で感じていたのです。

そうしているうちに、かつて自分が海外留学をしていた頃の景色が鮮やかに脳裏に蘇ってきました。当時の青い志や、異国の地でひたむきに過ごしていた空気感が、目の前の情景と重なり、昔を思い出したり、また少し考え事をしたり……。
ただそれだけの、本当に幸せな時間を過ごすことができました。

日々の仕事の中では、重症な患者さんの方針を検討したり、手術で神経を研ぎ澄ますことが多くなる為、帰宅しても神経が高ぶっていると感じる事がよくあります。そして、睡眠でなんとかそれをリセットしてまた翌日の仕事に向かう、と言うことを毎日繰り返しています。

私にとって、この2日間であえて何もしない「空白の時間」を作ったことは、驚くほど頭をスッキリとさせてくれました。まさに、心身の「究極のデトックス」となったのです。

3. 人生をロングランさせるための「余白」という投資

投資の世界では「機会損失」を恐れて常に資金を働かせようとしますが、人間の脳や心においては、「あえて何も働かせない空白の時間」を持つことこそが、のちに大きなリターンをもたらすのだと実感しました。

私は50代になり、70歳まで現役で健やかに走り続けることを一つの目標に掲げています。そのロングランを成功させるために必要なのは、身体のメンテナンスだけではありません。

ときには意図的に「何もしない時間」を作り、「頭と心の隙間」を確保すること。それもまた、人生の後半戦を主体的に、豊かに生きるための重要な「投資」なのだと思います。

最後に

次の移動時間、あるいは週末のひととき。スマホをカバンの奥にしまい、ただ近くのベンチに座って景色を眺め、周囲の音に耳を澄ませてみませんか?

日常から少しだけ視線をずらして作った「贅沢な隙間」が、あなたの人生に思いがけない、温かで一歩先のアイデアをもたらしてくれるかもしれません。



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