見出し画像

「あの黄色いタクシー、なに?」人口最少の県が、タクシーの当たり前を変えた話

鳥取に遊びに来た友人が、車の窓から外を指さして言いました。

「ねえ、あの黄色いタクシー、なに?」

出典: https://www.taxi-tottori.jp/top/guide.html

「ああ、あれUDタクシーだよ。鳥取では普通に走ってるよ」

そう答えた瞬間、ふと気づきました。

「普通に走っている」と言えること自体が、実は普通じゃないのかもしれない。


UDタクシーとは何か

UDタクシーとは、ユニバーサルデザインタクシーのことです。足腰の弱い高齢者、車いすを使用する方、ベビーカーを持つ親子、妊娠中の方など、誰もが利用しやすいように設計された「みんなにやさしいタクシー」です。運賃は普通のタクシーと変わりません。

わたしも何度か乗ったことがあります。

ドアが開くと同時に、足元からステップがするりと出てきます。たったそれだけなのに、乗り込む時の気持ちが全然違う。よっこいしょ、という感じではなく、すっと乗れる。車内は縦にも横にもゆったりしていて、大きな荷物があってもラゲッジスペースに余裕があります。

特別な乗り物ではなくて、ただ乗りやすい、普通のタクシー。それがわたしのUDタクシーへの印象でした。UDタクシーが導入され始めた2016年頃こそ、「おお!UDタクシーが走っている!」と目を引いていましたが、あれから10年が経ち、気づいたら黄色いミニバン型のUDタクシーが走っている風景が「あたりまえの風景」となっていたことに、友人の一言で気づかされました。

(公共交通といえば、鳥取をレンタカーなしで旅する記事も書いてますので、ご覧ください★)


なぜ鳥取で「当たり前」になったのか

友人の一言をきっかけに、改めて調べてみました。

鳥取県のUDタクシーは、県と日本財団の共同プロジェクトとして2016年から全県下への導入がスタートしました。「3年間で200台」という具体的な数値目標を掲げ、2018年には県内を走るタクシーのおよそ4分の1がUDタクシーになりました。この取り組みは、国土交通省バリアフリー化推進功労者として大臣表彰も受けています。

たしかに、言われてみれば他の都道府県に行ってもこの黄色いUDタクシーがたくさん走っている光景はみたことがなく、やはり他の都道府県に先行する事例でした。改めて知ると驚くことも多いものです。

なぜ鳥取でできたのか。わたしなりの仮説が、3つあります。


仮説① 「詰む環境」が推進力になった

鳥取は車社会です。車がなければ生活が難しいエリアが、県内の各地にあります。

これは裏を返すと、「車に乗れない人が詰む」という環境でもあります。高齢で運転をやめた方、障害があって運転できない方、妊娠中の方。そうした人たちにとって、移動手段は生活に直結する問題です。バスや鉄道のような大きなインフラは維持コストがかかり、本数を増やすことも簡単ではありません。そのような環境の中で、UDタクシーという選択肢はかなり合理的な交通インフラだと感じています。

切実さが、動く力になった。そう思います。


仮説② 「スモール」メリットが一気に動かした

鳥取県は人口最少の県です。タクシー台数も、全県でおよそ700台ほど(2017年時点)。

小さく見えますが、これが強みになりました。事業者が少ないということは、県とハイヤータクシー協会が一体となって動きやすいと想像します。ドライバーへの研修も、全体に行き渡らせやすい。200台という目標値も、規模の大きな都府県と比べれば現実的に達成できるラインに感じられます。

全体をひとつとして動かせる。小さな県だからこそ、全体を変えることができた。そう考えると、人口最少というコンプレックスが、そのまま推進エンジンになっていたことになります。

このような、小さいが故のメリットを、鳥取県庁は「スモール」メリットと呼んでいたりします。

「スモール」メリットは、宇宙産業にも生かされています!



仮説③ 「県の本気」が下支えした

数値目標は、最初から明確でした。

そして車両の整備だけで終わりにしなかった。ドライバーを対象にしたユニバーサルドライバー研修の実施、UDタクシーが使いやすくなるための環境整備も、事業の中に組み込まれていました。「台数を揃えたらおしまい」ではなく、普及するための条件を同時につくっていった。ハードとソフト、両輪で進めたことが、「当たり前の景色」につながったのではないかと思います。


弱さが、そのままメリットになることがある

UDタクシーを深掘りしてみると、「あたりまえ」の中に実は重要なエッセンスが隠れていることがあると改めて思っています。

鳥取のUDタクシーは、条件が揃ったから、なるべくしてなった話。詰む環境があって、動きやすいスモールサイズで、県が数字を持って本気で動いた。それらが重なった結果、「あたりまえ」の風景になったのだと思います。

だとすれば、この話は「弱い地域だから実現した先進事例」という逆説を内包しています。

小さい、不便、車がないと詰む。それが、そのまま推進力になることがある。弱さがメリットになることがある。そういう見方を持っておくと、地方の話を聞くときの解像度が少し変わるかもしれません。

「あの黄色いタクシー、なに?」

友人はそのあと、鳥取を気に入って帰っていきました。わたしは、あの一言に少しだけ感謝しています。


最後までお読みいただきありがとうございました。
他の記事も是非ご覧ください!

交通系の記事で、空港についても書いています!

鳥取も、視点を変えるとUDタクシー普及に最高の環境だったのかもしれません

鳥取のいいものから学ぶいいものインサイトはこちらから


いいなと思ったら応援しよう!