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父の会社は、継げなかった。だから今、中小企業を支援している。|仕事の部屋

「いやいや、親父に比べたらまだ何十年もかかりますよ」

先日、大阪に帰って父の昔の取引先に挨拶に行った時のことです。

社長さんを見ながら、

お兄ちゃんに「本当、よく頑張っているよ」と声をかけた。

するとお兄ちゃんは目を輝かせながら、そう言いました。

その言葉を聞いた時、胸が詰まりました。


父が死んだのは、19歳の冬だった。

突然でした。

「ありがとう」も「ごめんね」も言えなかった。

成人してからの姿を、何一つ見せることができなかった。

父は口数の少ない人でした。

職人気質で、感情を言葉にするタイプじゃなかった。

でも、自分の会社を子どもに継いでほしいと、ずっと思っていました。

お兄ちゃんが父の会社で修行していた時期がありました。

でも当時、きつい、しんどい、安い給料。

継ぐ自信もないという思い。

昔気質の父との意見の不一致も重なって、

結局喧嘩して辞めてしまった。

父はその時、深く落胆していた。

でも「戻ってこい」と言うのは負担になるからと、押しつけなかった。

そのまま父は逝ってしまいました。

商売は続きましたが、継ぐ人がいなくて結局閉鎖した。

当時まだ19歳で、知識も経験も何もなかった私には、

父が大切にしてきた会社をどうやったら残せるのか、

何もわからないまま、何もできなかった。


遠回りして、父の仕事に戻った。

それから何年か経って、お兄ちゃんが結婚して子どもができました。

親になって何かが見えたのか、突然、

父の昔の取引先に頭を下げて就職しました。

仕事は同じでも、会社は継げなかった。

あの時の状況が違っていたら、

父の会社はお兄ちゃんの手で続いていたかもしれない。

一度離れて、親になって、また戻ってきた。

父の仕事の意味が、自分が親になってやっとわかったのかもしれない。

お兄ちゃんが今、旋盤技師として修行を積んでいます。

機械では対応できない歪みやズレを手で調整する。

まさに父と同じ職人の仕事です。

でも、それは父の会社じゃない。


「きつい・しんどい・安い」が次世代を遠ざけている。

同じような境遇の地方の会社って、多いんじゃないかと思っています。

きつい、しんどい、安い給料。

継いでも父と同じになると思わせてしまっている。

だから若手が辞めていく。新卒が来ない。

次の世代が夢を持てない。

地方の中小企業の社長さんって、

自分の会社を次の世代に継いでほしいと思っている方が多い。

でも「継ぎたい」と思わせられるかどうかは、

会社の状況や未来が見えるかどうかにかかっている気がしていて。

その問いへの一つの答えが、海外進出だと思っています。


だから、海外に出てほしい。

このまま日本の人口が減少していく一方で、

減っていくものを取り合う将来を次の世代に引き継ぐなら。

海外で必死に挑戦するかっこいい背中を見せてほしい。

海外からの新しい風を吹き込んで、

「自分たちも挑戦していいんだ」と次の世代に思わせてほしい。

頑張れば給与は倍になるんだって、夢を見させてほしい。

今の日本に一番足りないのは、技術でも質でも競争力でもない。

無茶だと思うくらい大きな夢を持つことと、

それを必死に追いかけていいんだという、安心して挑戦できる場所だと思う。

例えば、先祖代々同じ売れ筋のカバンを作り続けてきた会社。

いいものを作っているけれど、日本の市場だけだと

新しいものを作る機会は減っていく。

そういう会社が海外向けのビジネスを始めたら何が起きるか。

新しい売り場が広がる。

海外のバイヤーやデザイナーとの情報交換が増える。

そういう新しいことへの挑戦が、次の世代への希望や夢になっていく。

経済成長が著しい東南アジアには、それがあふれています。

明日は今日より必ずよくなる。

来年の給与は今年より上がるのが当たり前。

そんな空気の中で働く経験が、人を変えます。

その風を日本の会社に吹き込んでほしい。


海外に出て、「当たり前」が壊れた。

30歳でベトナムに飛び込んで、5カ国以上に住んで、40カ国以上を旅してきた中で、

一番大きな気づきは「当たり前は場所によって全部違う」ということでした。

「海外に売るのは大企業がやること」

「小さな会社が外に出るのはリスクが高い」

「まず国内を固めてから」

そういう当たり前が、地方にいると特に強く根付いている気がします。

でも海外に出てみると、

ベトナムの小さな食堂が東南アジア全土に展開していたり、

家族経営の職人が欧米のバイヤーに直接売っていたり、

当たり前じゃない景色がたくさんある。

その景色を一度見るだけで、

「うちにもできるかもしれない」という感覚が生まれることがあります。


地方経営者に一番足りないのは、情報じゃなく視点。

地方の経営者と話していて感じるのは、

情報が足りないわけじゃないということです。

欲しいのは情報じゃなくて、

「自分の会社の場合はどうなんだろう」という問いに

一緒に向き合ってくれる人なんじゃないかなと思っています。

正しい答えを教えてくれるコンサルタントじゃなくて、

腹を割って一緒に考えてくれるパートナー。

大手企業ならリソースがあって、専門部署があって、分業ができる。

でも地方の中小企業は、

社長が営業も財務も人事も全部抱えていることが多い。

そこに「正解を持ってきます」という人間が来ても、

あまり意味がないんじゃないかと思っています。

私がやりたいのは、答えを渡すことじゃありません。

今あるリソースで、今のフェーズで、何から始めるのが一番いいか。

そういうことを、社長の隣に座って一緒に考えたい。


父の会社に、渡せなかった視点がある。

海外の視点を持つことで「当たり前」が壊れる。

その瞬間に、今まで見えていなかった可能性が広がる経営者を

たくさん見てきました。

父の会社に、その視点を渡してあげられなかった。

お兄ちゃんが「親父に比べたらまだ何十年もかかりますよ」と

目を輝かせて言えるような場所を、

もっと早く作れていたら、父の商売は違う形で続いていたかもしれない。

その後悔が、今私が中小企業に特化してコンサルをやっている

理由の一つです。

父にしてあげられなかったことを、誰かの父親にやってあげたい。

ずっとそう思ってきました。

だから今、同じような想いを持って頑張っている経営者の皆さんに、

少しでも早くその視点を渡したいと思っています。

海外への挑戦を、先延ばしにしないでほしい。


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【この記事を書いた人】まなラボの紹介

ベトナム在住10年・ダナン在住。4言語(日英仏西)、5カ国居住、約40カ国経験。

音大中退後、学位も貯金もゼロからパスポート一枚で海外へ。

物流・金融・コンサルとキャリアを積み、2016年にベトナムでコンサル会社を立ち上げ・売却。

ジェトロや中小企業基盤機構、公的機関の現地アドバイザーや、日系企業2,000社超の相談・支援に関与。

証券外務員/米国MBA保有。

ベトナムで息子を出産したことをきっかけに、日本経済の将来を人任せにするのをやめようと決めた。

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