卒業の日 #12 物語が始まる日
3/20 朝5:30。
春分の日。
今日から三連休だ。
机の前で、私は考え込んでいた。
昨日、ネットの知り合いの『ごろう』さんと話した。
『ごろう』さんのコメントを見ると、
「卒業」をテーマに、何か書けそうな気になった。
悪くないと思った。
でも——。
イメージが湧いてこない。
いや、湧かないのではない。
卒業。
桜。
別れ。
涙。
頭に浮かぶのは、どこかで読んだような場面ばかりだった。
「うーん……」
私はペンを置いた。
構想ノートは白いままだ。
とりあえず、テレビを見にリビングに行く。
朝のニュースが流れていた。
「人手不足が続くコンビニ業界。いま、外国人スタッフの存在が欠かせません——」
画面には、レジに立つ若い外国人の店員が映っていた。
記者が尋ねる。
「日本で働くのは大変ですか?」
店員は少し考えてから、照れくさそうに笑った。
「タイヘン。デモ……」
しばらく間をおいてから、話し出す。
「マイニチ、デキルコト、フエテル」
「それ、ウレシイ」
彼は、何かをかみしめるかのように言った。
「マエ、……チチ、イッテタ。
マイニチ、チイサナ、ソツギョウ」
その言葉を聞いたとたん、
一気に頭の中に組みあがっていく物語。
私は、その場に立ち尽くした
卒業。
学校だけのものだと思っていた。
でも、そうじゃないのかもしれない。
子どもからの卒業。
仕事からの卒業。
家族からの卒業。
思い出からの卒業。
人生は、小さな卒業の連続。
そして、そのたびに——
新しい始まりがある。
*
私は、部屋に走って戻った。
転がっているペンを持ち、
ページに勢いよく書いていく。
まず、一人。
卒業式の日の、女子高生。
その子に話しかけるクラスメイト。
さらに、その父。
会社の同僚。
その婚約者。
その母。
式場のスタッフ。
病院の看護師。
思いつくまま、書いていく。
矢印でどんどんつながる人物。
線はどんどん増えていく。
ふと時計を見る。
もう1時間半も経っていた。
ペンを止める。
ページの上には、たくさんの人物がいた。
その上に、ゆっくりと書く。
呼吸を整えて、
タイトルを書く。
「卒業の日」
私は小さくうなずいた。
「これでいこう。」
ノートを閉じる。
そしてパソコンを開いた。
記事を書き始める。
新しい連作を書き始めます。
テーマは
「卒業」
学校だけではありません。
人生の中にある
小さな卒業の物語です。
書き終えると、投稿ボタンを押す。
画面に表示された。
公開しました
私は椅子にもたれた。
「さて——」
誰か読んでくれるとうれしいな。
*
それからしばらく経った日のこと。
ある町のどこかの部屋で、
一人の男が、スマートフォンの画面を見ていた。
タイトル。
「卒業の日」
男は、しばらくその文字を見つめていた。
そして、
ゆっくりと指を動かした。
画面を、開く。
(第12話了)
📚ZAPPING POINT
この物語のはじまり→#1 父の泣き顔
このコンビニ店員の話→#14 サヨナラ、ニッポン
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