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実践ゼミ#13:糖尿病の人の筋トレ入門 ─ 「運動しましょう」の先にある具体策

📗 実践ゼミ #13

初めての方 → 実践ゼミ#1「食後10分ウォーク」
前回 → 実践ゼミ#12「自炊のゆる血糖レシピ」


「運動しましょう」

外来で何度も言われた。わかってる。でも具体的に何を、どれくらい、どうやるのか、誰も教えてくれない。

今回はその「具体策」を、あなたの今の状態に合わせてお伝えします。

筋トレは血糖管理の強力な味方です。筋肉は血糖の最大の受け皿。筋肉が増えれば、食後の血糖を取り込む力が上がる。⚠️ぜんぶ代謝のせい#7で見たように、痩せ型の方にとっては「血糖の受け皿を作る」ことが最優先課題です。

JSH2025でも、有酸素運動に加えて週2〜3回の筋力トレーニングが血圧を下げる効果があると明記されました。血糖にも血圧にも効く「一石二鳥」のセルフケアです。

でも、いきなりジムに行く必要はありません。 まずは自宅で、自分の体重だけで始められるメニューから。


始める前に──安全チェック

筋トレを始める前に、以下の項目を確認してください。

  • HbA1cが極端に高い(おおむね10%以上)方は、まず主治医に相談。運動で血糖がかえって上がることがあります

  • 増殖性網膜症がある方は、いきむ動作(重いものを持ち上げる等)で眼底出血のリスクがあります。主治医の許可を得てください

  • 足に傷や感覚異常がある方は、足に負荷がかかる運動は慎重に

  • 膝や腰に痛みがある方は、痛みが出ない範囲で。椅子を使った運動から始めてください

不安な方は「主治医に、筋トレを始めたいんですけど大丈夫ですか?」と聞いてください。 この一言で、あなたに合った運動の範囲を教えてもらえます。


あなたはどのタイプ?

筋トレは「全員同じメニュー」ではうまくいきません。今のあなたの状態に合わせたスタートラインがあります。

以下のタイプから、自分にいちばん近いものを選んでください。


タイプA:運動経験がほとんどない+肥満気味の方

いちばん多いタイプです。 そして、いちばんハードルが高いと感じている方。

「運動なんて学生以来してない」「膝が痛いから無理」「何をしていいかわからない」—全部わかります。

このタイプの方に大事なのは、「筋トレ」という言葉を忘れることです。
まずは「体を動かす習慣を作る」ことだけを目標にします。

メニュー:椅子スクワット(週2〜3回)

やり方:

  1. 椅子に座る

  2. 足を肩幅に開く

  3. 手を胸の前で組む

  4. お尻を少し浮かせて、ゆっくり立ち上がる

  5. 立ったら、ゆっくり座る

  6. これを5回×2セット

ポイント:

  • 立ち上がれなくてもいい。お尻が椅子から浮けば、それが筋トレ

  • 膝が痛い方は、浮かせる高さを低くする。1cmでもいい

  • 息を止めない。 立ち上がるときに「ふーっ」と吐く

  • 椅子の背もたれを持って補助してもOK

「たった5回?」と思うかもしれません。 でもこのタイプの方にとって、5回を週2回続けることが、今いちばん大事なことです。2週間続いたら、8回に増やしてみてください。

追加メニュー:壁プッシュアップ

やり方:

  1. 壁に向かって腕の長さ分離れて立つ

  2. 両手を壁につく(肩幅)

  3. 肘を曲げて体を壁に近づける

  4. 押し戻す

  5. 10回×2セット

床での腕立て伏せが無理でも、壁なら負荷が軽くできます。慣れてきたら壁から離れる距離を少しずつ伸ばす。


タイプB:運動経験が少ない+若い方(20〜40代)

体力はあるけど、運動習慣がない。仕事が忙しくて時間がない。ジムに行くのは面倒。

このタイプの方は、「時間がない」が最大の壁です。だから、5〜10分で完結するメニューにします。

メニュー:自重サーキット(週2〜3回、所要時間7分)

以下の4種目を、休憩なしで順番にやる。1周が終わったら1分休んでもう1周。

① スクワット 10回
足を肩幅に開き、お尻を後ろに引くように腰を落とす。太ももが床と平行になるまで。立ち上がる。

② 腕立て伏せ 10回(膝つきでもOK)
肩幅より少し広く手をつき、胸を床に近づけて押し戻す。きつければ膝を床につけた状態で。

③ プランク 20秒
うつ伏せから、前腕と爪先で体を支える。お腹に力を入れて、体を一直線に保つ。

④ かかと上げ(カーフレイズ) 15回
両足で立ち、かかとを持ち上げて爪先立ちに。ゆっくり下ろす。

2周で約7分。 朝起きてすぐ、または夕食前にやる。着替えもシューズも不要。

進め方

  • 最初の2週間:1周だけ

  • 3週目〜:2周

  • 1ヶ月後:回数を増やす(スクワット15回、腕立て15回、プランク30秒)


タイプC:運動経験が少ない+高齢の方(65歳以上)

高齢の方にとって、筋トレは「血糖のため」だけでなく**「転倒予防」と「フレイル(虚弱)予防」**のためにも極めて重要です。

ただし、安全がいちばん大事。 バランスを崩して転ぶリスクがある動作は避けます。

メニュー:椅子トレーニング(週2〜3回、所要時間10分)

すべて椅子に座って、または椅子を支えにして行います。

① 椅子スクワット 5回×2セット(タイプAと同じ)
椅子の背もたれを持って立ち上がってもOK。

② 座ったまま膝伸ばし 10回(左右各)
椅子に座り、片足を前にまっすぐ伸ばす。3秒キープして下ろす。太もも前面(大腿四頭筋)を鍛える。

③ 座ったまま足上げ 10回(左右各)
椅子に座り、太ももを持ち上げる(膝を曲げたまま)。3秒キープして下ろす。腸腰筋(歩くときに使う筋肉)を鍛える。

④ 椅子を持ってかかと上げ 10回
椅子の背もたれを持ち、両足でかかとを上げる。ゆっくり下ろす。ふくらはぎを鍛え、バランス能力を維持。

ポイント:

  • 無理に頑張らない。 「ちょっときついけど、できる」くらいが適切な負荷

  • 呼吸は止めない。 力を入れるときに吐く

  • テレビを見ながらでOK。「ながら筋トレ」が続ける秘訣

  • 体調が悪い日はスキップ。翌日やればいい


タイプD:全く運動経験がない方

学生時代も体育が苦手だった。運動会で走った記憶がトラウマ。「運動」という言葉を聞くだけで気が重い。

このタイプの方には、**「筋トレ」ではなく「生活の中の動き」**から始めてもらいます。

メニュー:日常動作の「筋トレ化」

特別な運動をしなくても、日常の動作を少し変えるだけで筋肉は使えます。

① 座るとき、ゆっくり座る
ドスンと座らず、3秒かけてゆっくりお尻を下ろす。これだけで太ももの筋肉を使っています。

② 歯磨き中にかかと上げ
朝晩の歯磨き(約2分間)の間、かかとの上げ下げを繰り返す。1日2回で合計4分の筋トレになる。

③ テレビのCM中に立ち上がる
CMが始まったら椅子から立って、CMが終わったら座る。1時間のテレビで3〜4回立ち上がることになる。

④ 買い物の荷物を腕で持つ
カートではなく、カゴを手で持つ。腕の筋肉を使う機会になる。重すぎるときは半分だけ。

「これが筋トレ?」と思うかもしれません。 でも、今まで0だった人にとっては、これが最初の一歩。2〜3週間続いたら、タイプAの椅子スクワットに進んでみてください。


🎁 おまけ:学生時代に運動をやっていた方へ

部活をバリバリやっていた。でも社会人になってからは全く動いていない。「昔は運動してたんですけどね……」という方。

朗報があります。「筋肉メモリー」という現象が、あなたの味方です。

筋肉メモリーとは?

一度しっかり鍛えた筋肉は、長期間トレーニングを休んでも、再開したときに回復が早いことが知られています。

これは筋繊維の細胞核が、トレーニングで増えた状態のまま保存されているため。筋肉自体は衰えても、「設計図」が残っている。だから再開すると、ゼロから始めた人より早く筋肉がつく。

このタイプの方のメニュー

タイプBの「自重サーキット」から始めて、2〜3週間で回数を増やしていけるはずです。

慣れてきたら:

  • スクワットを片足ずつ(ブルガリアンスクワット)

  • 腕立て伏せを足を台に載せた形

  • プランクを30秒→1分

ただし、注意点が1つ。 「昔はできた」感覚で最初から飛ばすと、膝や腰を痛めます。最初の2週間はタイプBのメニューをそのままやる。 体が「あ、この動き覚えてる」と反応してくるのを待ってから、負荷を上げてください。


全タイプ共通:続けるための3つのコツ

コツ① 曜日を決める

「週2〜3回」は、曜日を決めないと「今日はいいか」が毎日続いて結局0回になります。

「月・木にやる」「火・金にやる」と決めてしまう。
スマホのリマインダーを設定するのも有効。

コツ② 記録する

カレンダーに「やった日」に丸をつける。アプリでもノートでもいい。
「丸が並んでいる」のを見ると、途切れさせたくなくなる。

コツ③ 完璧を求めない

「今日は5回のところ3回しかできなかった」——それでいいんです。0回と3回の差は、3回と5回の差よりはるかに大きい。

体調が悪い日、気分が乗らない日はスキップ。翌日やればいい。
「続けるためにサボる」くらいの気持ちでちょうどいい。


まとめ

  • タイプA(肥満+運動なし): 椅子スクワット5回×2セット+壁プッシュアップから

  • タイプB(若い+運動なし): 自重サーキット4種目×2周=7分で完結

  • タイプC(高齢): 椅子トレーニング4種目。安全第一、「ながら筋トレ」で続ける

  • タイプD(運動経験ゼロ): まず日常動作の「筋トレ化」から。ゆっくり座る、歯磨き中のかかと上げ

  • おまけ(元運動部): 筋肉メモリーが味方。ただし最初の2週間は飛ばさない

  • 共通: 曜日を決める、記録する、完璧を求めない

「運動しましょう」の先にある具体策を、今日ひとつだけ試してみてください。椅子から5回立ち上がるだけでも、それは立派な筋トレです。


参考情報

・日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』運動療法
・厚生労働省『身体活動・運動ガイド2023』
・日本高血圧学会『JSH2025』(筋力トレーニングの降圧効果を明記)


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※この記事は一般的な情報提供を目的としています。運動を始める前に、合併症のある方は必ず主治医にご相談ください。


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