「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か? ~「具体的知識」のレベル
私は本質思考を探究する中で、抽象化能力と具体的知識の2軸と自己認識(メタ認知)の度合いから、様々なコミュニケーション、対人関係の問題を説明できることに気づきました。
今回は、「具体的知識」についてお話ししたいと思います。
具体的知識=解像度✕視野
会話において、話の対象についての知識が多いか少ないかは、当然、重要な要素となります。話し手と聞き手の知識がアンバランスだと、噛み合わない会話の原因となります。
ある対象についてとても詳しくても、他の対象については詳しいとは限りません。
つまり、同じ人の組み合わせであっても話題によっては噛み合わない会話になり得ます。
しかし、実際はあまりそういうことは起こりません。噛み合わない会話のほとんどがある特定の人と発生してしまうのです。
なぜならば、多くの噛み合わない会話の原因は、会話の主のどちらかに抽象化能力が不足しており、相手の具体的な知識の質・量がどの程度かを把握できていないことにあるからです。こういった人は会話の相手の知識の質・量がどうであっても、自分の話したいことを話す傾向があります。
コミュニケーションの目的は、言葉を発することではなく、相手に伝わることだという理解ができず、「話したい言葉を発する」という手段に囚われてしまうのです。
仮にどちらかが具体的な知識が不足していても、抽象化能力が十分にあれば、それを察知し、齟齬が起こらないように配慮することができます。
とは言え、具体的知識が十分でないと、せっかく高度な抽象化能力を有していたとしても、適切な抽象度で会話することは困難です。抽象化は、具体的な知識と抽象化能力の両方があってはじめて適切に行うことができるのです。
具体的知識は、一言でいうと、対象をどのような解像度で、どこまでの視野で見ているかで決まります。つまり高い解像度で広い視野で見られていれば、その対象のことをよく理解しているということになります。
では、具体的知識はどのように習得していくものなのでしょうか?
私はその進化過程はある程度モデル化ができると考えています。
具体的知識のレベル
レベル0:低次元
「具体的な知識」と呼べる水準に達していないのが、レベル0です。
見ているものが事象の全体なのか部分なのかを把握できておらず、そもそも「全体」や「部分」といった意識自体が薄いとも言えます。
解像度が低いため、詳細な情報を正確に掴めません。結果として事実誤認も多いのですが、その自覚もありません。
いわば、茶トラのネコの一部だけをぼんやり見て、茶色い毛玉だと思い込んでいるような状態です。

私はド近眼で、乱視もひどく、最近は老眼もひどくなっています。メガネを外してネコを見ればきっと茶色い物体で何かはわからないと思います。そして、視野がもっと狭まって、ネコの一部だけを見てそれを全体だと勘違いしてしまったら、きっとネコとは程遠いモノだと思うでしょう。
レベル1:不十分な観察
レベル1は、2パターンあります。
1つ目は、解像度が高くはっきり見えているのですが、見ているものが全体なのか一部なのかの判別は怪しい状態です。ある程度の抽象化能力を有していれば、全体を把握することを心がけるので、自分が見ているのが全体なのか、一部なのかは判断できるようになってきますが、抽象化能力が低い場合は見ているものが対象のすべてだと勘違いしがちです。このように抽象化能力と具体的知識の組み合わせで思考スタイルが決まってくるのです。
2つ目は、解像度は低いままだが、対象の全体を捉えられている状態です。こちらは解像度が低いため詳細は見えていません。こちらのケースだと詳細が見えていない自覚はあるので、おかしな行動をすることはありませんが、対象に対して深い知見を持つことはできません。自信も持てないので、誰かに頼ろうとする傾向が強くなります。
視力を矯正した上で望遠鏡を覗くときっと1つ目のパターンのようになるでしょう。茶色い毛が密集しているのが見えます。それを全体だと思うときっと茶色い毛玉だと確信するでしょう。
一方で、私のような視力の人が少し近づいて見ているのが2つ目のパターンでしょう。こちらはネコっぽい動物ということはわかりますが、種類はわかりませんし、それが自分の飼いネコなのか、よそのネコかの判別はできません。


2パターン目。全体を見られているものの解像度は低い。解像度が低いため飼いネコのミースケかどうかはわからない。
レベル2:詳細観察
レベル2は、解像度も高く、きちんと対象全体が見られている状態です。一般にきちんとその対象について理解していると評価される状態だと思います。また、本人もその領域における具体的知識には自信を持っています。
しかし、このレベルでは不十分です。
その対象自体についての理解はされているのですが、その対象に影響を与えているものが見えていなかったり、時代背景や前提となる技術、文化などが見えていません。
そのため、内部要因については予測できるのですが、外部要因による事象は予測できません。
全ての人がそうとは言いませんが、レベル2の人の多くは「自分は対象のことが良くわかっている」と自分のことを認識しているので、自説を押し通そうとする傾向があります。その結果、その対象に影響を与えている要素への対応が不十分になってしまうことがあるのです。
このレベルになれば、眼の前にいるのがうちのミースケだということがわかります。現在のミースケの好物やクセも理解しています。しかし、放し飼いにしている間にどんなネコとつるみ、どんなネコと敵対しているかは理解していません。外出している時に何を口にしているかもわかりません。学生時代の私のミースケについての理解はこのレベルだったと思います。

レベル3:背景・文脈理解
レベル3は、レベル2よりさらに視野が広がり、対象に対して影響を与える外部要因にも目を向けるようになります。抽象化能力が低いとその意識になかなかなれません。つまり、具体的知識のレベルが3なのに、抽象化能力が著しく低いという人は稀です。
ある程度の抽象化能力があるがゆえに、対象物だけではなく、その背景、文脈を見ようとする。その結果、対象物の周辺のことも詳しくなるという相互依存関係があるように思えます。
対象に対して影響を与えているものも詳しくなると、その領域の専門家を名乗れるようになります。
ただ、ここが究極の具体的知識のレベルではありません。
レベル3では、対象に直接影響を与えることについてまで視野が広がっていますが、間接的に影響を与えうる「環境」とか「系(システム)」までの視野は広がっていません。

レベル4:システム構成要素理解
レベル4は「環境」や「系(システム)」まで視野が広がっている状態です。レベル4の具体的知識を得るためには、実は抽象化能力のレベルもかなり上がっている(抽象化能力のレベルは次回以降に詳しく話します)状態になっている必要があります。偶然、そこまで視野が広がることはまずありえません。対象が存在する「環境」や「系(システム)」まで視野が広がっており、そこに存在する構成要素にまで具体的知識がある状態になっているのです。
このレベルまで詳しくなっていると、周囲からその領域については一流だと認められていても不思議ではありません。
ミースケについてのレベル3の理解というのは、ミースケの日常生活で接している他のネコや彼にとっての脅威となるであろう犬などの動物、口にする食べ物、遊んでいる環境、成長と共に表れてくるであろう身体の変化などもわかっている状態でしょう。現在だけではなく、これまでのミースケの歴史も理解しています。飼いネコ一般の知識もかなり充実しているはずです。具体的知識がレベル3に到達するということは、抽象化能力もある程度まで達しているはずなので、ミースケの事象が他のネコに当てはまるだろうということもわかっていて自然です。
レベル4の理解になってくると、ネコ一般への理解もより深まり、さらにミースケの行動範囲の状況、自然の状態や交通量、公害の度合、私が住んでいた住宅街の治安など、ミースケを取り巻く環境への理解も深まっている状態です。ペット業界についても詳しくなっていても不思議ではありませんし、ペットという文脈でネコ以外のペットについても詳しくなっている可能性もあります。



今回は具体的知識とそのレベルについてお話ししました。
次回は、具体的知識のレベルを上げていくためのヒントをご紹介できればと思います。
参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは
