「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
個々人の思考スタイルは、「具体的知識」と「抽象化能力」の組み合わせで決まると私は考えています。
「具体的知識」にも「抽象化能力」にもそれぞれ0~4までのレベルがあり、たとえば具体的知識レベル3✕抽象化能力レベル1、具体的知識レベル4✕抽象化能力レベル3、などのように、バランスによってその人の思考スタイルが決まります。
自身の思考スタイルを知ること、コミュニケーション相手の思考スタイルを知ることは、円滑な人間関係、効果的なコミュニケーションを実現するためには重要です。
具体的知識と抽象化能力のレベルが2以下の組み合わせの思考スタイルだと誤解が生じたり、話が噛み合わなかったりとミスコミュニケーションが発生しやすくなります。レベル2以下同士の場合はなおさらです。
今回は具体的知識レベル2✕抽象化能力レベル1の思考スタイルについてご紹介します。

具体的知識2×抽象化能力1の思考スタイルの特徴
思考の利き手は具体にあります。具体的知識レベル2ということは、特定のある対象については全体像をしっかりと理解できている状態と言えます。ただし、その対象に外部から影響を与える要素や、その対象が含まれる系(システム)にまでは視野は広がっていません。
例えば、商品であれば、その機能や性能、使い方、価格など、商品そのものについての知識は十分にあります。ただし、その商品が使われる環境や、競合製品との関係性、市場動向といった外部要因についての理解は不十分です。
一方で抽象化能力はレベル1と低く、パターン認識が基本的なものに限られ、適用条件の判断も不十分です。そのため、目の前の事象を既知のパターンに当てはめようとしますが、その判断を誤ることが多くなります。
ビジネス実務やそれに付随するコミュニケーションの場面では、下記のような「困った人」として現れます。
「知識の持ち腐れな人」
担当分野については詳しい知識を持ち、定型的な業務、知識を問う業務はこなせる
与えられた手順や基準に従う作業は得意だが、例外的な事態、想定外の事態に対応できない
抽象的な話を自分の知識内の具体例に強引に当てはめて理解したつもりになることが多い
口ぐせは「それは私の知っている〇〇のことですね」「マニュアル通りにやります」「前例がありません」「研修ではそう習っていません」
やりとりの例:経理部のQさん
上司:「今回の案件は特殊なケースなので、通常の経理処理とは少し違う考え方が必要です」
Qさん:「あ、わかります。先月あった△△案件と同じように処理すれば良いんですね」
上司:「いや、△△案件とは状況が違います。もう少し広い視点で...」
Qさん:「でも似ているように見えますが...私なら△△案件と全く同じ処理方法で対応できます」
「知識の持ち腐れな人」の特徴
このタイプの人は、学校の定期テストや資格試験で優秀な成績を収めることが多く、知識そのものは豊富です。
教科書やマニュアルに書かれている内容はきちんと理解し、定型的な問題も正確に解くことができます。
しかし、その知識を実務で活用する際に困難を感じます。なぜなら実務では、基本的な知識を土台としながらも、状況に応じた応用や調整が必要になるからです。
教科書やマニュアルに書かれていない状況に直面すると、持っている知識を柔軟に活用することができず、立ち往生してしまいます。
また、複数の知識を組み合わせて新しい解決策を考え出すことも苦手です。一つ一つの知識は正確に理解していても、それらを関連付けて活用することが難しいのです。このタイプの人は、担当業務については豊富な知識を持ち、通常の業務では高い精度で仕事をこなすことができます。しかし、その知識を異なる状況に応用することが苦手です。
せっかくの知識も、自在に活用できなければまさに「持ち腐れ」でしょう。
特に注目すべき特徴は、抽象的な概念や新しい考え方を理解する際の独特のパターンです。自分が持っている具体的な知識に無理やり当てはめて理解したつもりになってしまいます。実は全く異なる文脈の話なのに、自分が思う過去の似た事例と同一視してしまい、その結果、誤った対応をしてしまうわけです。
抽象化能力の低さゆえ、自分の知識の限界や応用の難しさに気づくことができないため、「知っている」ことを「理解している」と勘違いしているケースも見られます。
具体的知識レベル1✕抽象化能力レベル1の「何でも単純化する人」と似た症状ですが、こちらの方が自分は理解できていると思っているために再考することが少ないのです。
また、このタイプの人は定型通りにやったことによって成功体験を得られ、定型から外れたことによって失敗の体験を得たことから、定型業務からの逸脱を恐れる傾向があります。マニュアルや規則を厳格に守ったり、前例のないことには強い抵抗を示したりする一方、状況の変化にも対応できないなど柔軟性に欠けた対応が見られます。
「知識の持ち腐れな人」の取り扱い説明書
このタイプは、今持っている専門知識を得るために、時間をかけて努力を重ねてきた人の割合が高く、真面目な人が多いです。ただ、抽象化能力が低いために、その努力も非効率的なものだった可能性が否定できません。
若い頃は優秀な人材として認識されますが、ある程度時間が経つと「あれ、何か違うな。期待ほどではない。」という評価を受けがちです。基本的に真面目で一生懸命な人が多く、そういった評価に対してショックを受けたり、評価者が間違っていると考え上司とギクシャクすることもあります。
こういう人が上司の場合は、大局観のない対症療法的な指示に注意する必要があります。
指示が降りてきたときは、いったん、「自分の成長のために、今やっている活動の目的を私の言葉で確認させてください」と言ってみるのが良いでしょう。
自分の言葉で今やっている活動の目的を話すことでその上司にも発見があるかもしれませんし、近視眼的になりがちな上司の目を全体に向けるように促してみる効果もあります。
「そのやり方は対症療法なので、こちらの方法の方が良いです」と直球で勝負する手も無くはありませんが、上司のプライドを損ね、関係が悪化するのはお互いにとって良いことではありません。
今やっている活動の目的と、指示の内容にミスマッチがあるとわかった時は、「◯◯さんの仰る活動の目的を考えたら、こちらの方法もアリですね。そちらの方法を試してみても良いでしょうか?」と代替案を提案します。活動の目的について、自分の言葉をあたかも上司が発言したかのようにすることがミソです。お互いが合意できるレベルの活動目的をスタートポイントとし、それを満たすための代替案を一緒に考えた形に落とし込むわけです。
このタイプの人が同僚や部下の場合、抽象的な概念を伝える際は、まず具体例を示してから説明することが効果的です。その人の専門分野に関連した具体例を使って、新しい考え方を説明すると理解が進みやすくなります。
部下・同僚への指導例
悪い例 「この案件はいつもと違う対応が必要です」
良い例 「この案件とマニュアルの記載例では、○○という点が異なります。そのため、△△という対応が必要になります」
悪い例 「もっと柔軟に考えましょう」
良い例 「マニュアルのAという対応とBという対応を組み合わせると、このケースにも対応できそうですね」
また、理解度を確認する際は「わかりましたか?」という質問は避け、具体的にどう実践するかを説明してもらうようにします。理解が不十分な場合は、さらに具体例を示しながら、段階的に説明を進めていく必要があります。
その上で、実務での応用力を育てていくためには、定型的な業務の「なぜそうするのか」という理由を説明してもらったり、似ているように見える複数のケースの違いを比較検討させたり、標準的な手順を少しだけ変更した場合どうなるかを考えさせたりすることが重要です。
そして、失敗しても大丈夫な小さな範囲で、応用的な判断を任せてみるというステップを踏むことで、徐々に応用力を身につけられるよう支援していきます。
このタイプの人々は、コツコツを努力を重ねていくことができるという長所を持っています。しかし、その努力が知識の蓄積に偏り、応用力の向上につながっていないことが課題です。大切なのは、知識を否定するのではなく、その知識を活かしながら、少しずつ応用できる範囲を広げていくことです。
今回は具体的知識レベル2✕抽象化能力レベル1の思考スタイルについてご紹介いたしました。
次回はこれ以外の「困った人」が見られる思考スタイルについてご紹介いたします。
参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1
18 「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2
19 「困った人」への対処法3~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力1
20 「困った人」への対処法4~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識2✕抽象化能力2
21 「知っている」と「理解している」の決定的な違いとは
