【小説】ザ・サン・インザレイン #04|ノッティング・ヒル
「え。めっちゃ行きたい」
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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
Sugarplum Fairy —
"[And Please] Stay Young"
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カイが問題を解く手を止めて、顔を上げた。
手元にはマーフィーの青本と、学校のプリントが広がっている。
宿題を見てやっていたら、問題でホットドッグが出てきて、そこからロンドンの街でよく売っているホットドッグは、あんなにいい匂いがするくせになんでまずいんだ、という話になったのだ。
俺が、うまいホットドッグ屋がポートベローマーケットにある、と言ったところだった。
「行きたい! 絶対行く!」
駄々っ子みたいに騒ぎだした。
「でもあれ土曜だからなあ。休み取れたらな」
「土曜日かあ……。じゃあ無理しないでね」
そういうの、俺が弱いのわかって言ってるよな、こいつ。
「まあ、一応聞いてみるけど」
「来週ならいいよ。みんな出てるから」
あっさりとオーナーにそう言われてしまい、思わず掃除の手を止めた。
「え、もしかして、俺って人気ないですか?」
「Maybe?」
オーナーはそう言って大笑いしながら、ドライヤーのコードを巻いている。
釈然としないけれど、土曜に休みが取れてしまった。
ホウキで集めた髪の毛を、ゴミ箱に捨てる。
まあ、カイは喜ぶだろう。
それにあのホットドッグは、本当にうまいし。
土曜日の朝。
「起きろって! マーケット終わるじゃん!」
すっかり準備万端のカイに叩き起こされる。
「服は? どれ着るの? これとこれでいいんじゃない?」
勝手に服までコーディネートして放り投げてくる。
「見ろよ! ほら、なんと、今日は晴れです!」
カーテンを全開にされ、太陽の光が俺を直撃した。まぶしすぎて余計に目が開かない。
「……おん」
「ほんっと朝弱いよな。やっぱ走ったほうがいいんじゃない?」
「朝から、走る話とか、やめて……」
*
「ノッティング・ヒル? まじで? あの映画の?」
土曜日の地下鉄は、いつもと違う空気が流れていた。
スーツ姿の通勤客の代わりに、これから週末を楽しもうとする人たち。
目の前の席では、あきらかにドラッグでキマった男が、真上を向いたまま窓に頭を押しつけてぶっ飛んでいる。
そのとなりでは、小さな子どもがしきりに母親に話しかけていた。
足元には誰かが食い散らかしたマックの紙袋。
ドアの上の路線図を眺めていると、カイが降りる駅をたずねてきた。
「あの映画のノッティング・ヒル」
「すげー。俺あの映画好きなんだよね」
ノッティング・ヒルという響きには、みんな何か特別なものを感じるようだった。あの映画のおかげで。
他の街と、特に変わりはないのだけれど。
「降りるぞ」
電車がホームに入りドアが開くと、「MIND THE GAP」とアナウンスが流れる。
「これさ、ほんとおもしろいよね」
「なにが?」
「マインドザギャップ。最初意味わかんなかったもん。めっちゃおみやげにもなってるし」
ロンドンチューブの有名な警告アナウンス。
確かによくTシャツとかグッズにもなっているけれど、深く考えたことはなかった。
確かに、イギリス以外では何て言うんだろ。
カイといると、慣れてしまい日常になっていたロンドンの生活が、また彩りを取り戻すような気がする。
𝙉𝙚𝙭𝙩 →
【CHAPTERS】
#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅
