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【小説】ザ・サン・インザレイン #14|月

 馬の蹄の音で、目を覚ました。
 あたたかく、薄暗い中にいた。

 目の前にはカレンの豊満な胸。
 カーテンを閉めきった部屋は、何かの巣の中みたいだった。
 窓の隙間から、細い日射しが差し込んでいる。
 
 ずいぶん長い間、正気を失っていたらしい。
 カレンの腕の中で、身じろぎした。

「気がついた?」
 カレンが少し怯えたようにこちらを見ている。
「ごめん……俺、君に何かした?」
「まさか。あなた、ずっと怖がってただけよ」

 カレンが起き上がり、Tシャツを羽織る。Tシャツでも隠しきれない、抜群のプロポーションだった。
「カレンは、綺麗だね」
 カレンは笑いながら部屋を出ていった。

 頭が痛い。
 アシッドでバッドに入るのははじめてだった。
 どれほど自分のコンディションが悪かったのか、自覚させられる。

「飲んで」
 戻ってきたカレンが、コップに入った水を手渡す。
 ただの水が、染み渡るように身体に広がった。

「で、なにかあったのよね?」
 水を飲み干し、グラスをサイドテーブルに置いた。
「……いや、べつに」
「カイってだれ?」


「そんなことで悩んでいたの?」 
 俺は降参して、教会で懺悔するみたいにカレンに告白した。
 アシッドのせいでぼーっとする頭が、口を緩ませてしまったせいだとも思う。

「そんなことって。俺、ゲイかもしれないんだけど」
「バカバカしい。さっきあなた、私とファックしたじゃない」
「いやまあ、そうなんだけど」
「つまり、女も男もいけるってことでしょ? お得じゃない」
 お得?
「でも、親友にそんな感情抱くなんて……」
「あなた、そのエリックとやらみたいに、欲情したからって友達に手を出すの?」
「するわけないだろ、そんなこと」
「じゃあ問題ないじゃない。僧侶でもあるまいし」
 カレンと話していると、なんだかほんとうにバカバカしくなってきた。

 カレンは俺のマルボロを一本取り出し、火をつけて吸うと、煙を俺に吹きかけてこう言った。
「人を好きになるって、悪いことじゃないわ」
 

 シャワーを借りて、仕事へ行く準備をした。今夜も泊めて欲しいと懇願したけれど、帰って克服してこいと拒否されてしまった。
 まあ、他の女の子のところへ行けばいいし。


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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
Sweet Jackie - Sugarplum Fairy 
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 まだなんとなく気持ち悪い。
 バスや地下鉄に乗りたくなくて、カナル沿いを歩いていた。

 夏が本格的になり、晴天が続いている。
 ほんの一瞬で終わってしまうけれど、青い空に緑の芝生、太陽に乾いた風。
 ロンドンの夏は、刹那的で最高だった。
 

 日差しが水面に反射するカナルには、ボードがたくさん停まっていて、洗濯物を干しているものさえある。 
 ちんたら歩く俺を、ジョギングする人や、犬の散歩をする人たちが追い越していく。
 今日が晴れでよかったと、心の底から思った。


 仕事が終わると、女の子の家には行かず、自分の家に帰ることにした。

 バスを降りて空を見上げると、青空に白い月が出ていた。


 ドアを開けると、カイが走って出迎えに来た。

「おかえり! 今日も帰ってこないのかと思ったわ」
 うれしそうに笑うカイの顔を見たら、ふいに涙がこぼれた。
「え、なに、どした」
 カイがオロオロしている。
「なんかあったん? ティッシュいる?」
 涙があとからあとから湧いてきて、止まらない。

 俺はただ、この笑顔を守りたかっただけなんだ。


𝙉𝙚𝙭𝙩 →


【CHAPTERS】

#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅

【MAGAZIE】

|ザ・サン・インザレイン(スピンオフ)

|ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ(本編)

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