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【小説】ザ・サン・インザレイン #05|ポートベロー・マーケット

 ポートベローマーケットは人であふれかえっていた。
 げんなりしたけど、行くしかない。

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◀︎ 𝙉𝙤𝙬 𝙋𝙡𝙖𝙮𝙞𝙣𝙜
The Boo Radleys — "Wake Up Boo! " 
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 道の両端にずらっと出店が並んでいる。歩きながらカイは、キョロキョロと首を動かしあちこち見ている。
 
「なんか、古いものばっかだね。なにあのカップ、200ポンドだって」
「アンティークのマーケットだからな」
 
 年配の女性が、用途のわからない陶器製の小物を手に取り、店員と値引き交渉している。
 オーガニックフードのエリアでは、いろんな種類の豆腐を売る人がいた。
「スモークドトーフだって」
「うまそうだな。あとで買って帰るか」
 こっちでは豆腐を「トフー」と呼ぶ。「トーフ」と言うと通じなかったりするから、不思議だ。

「めっちゃスタスタ歩くじゃん。見ないの?」
「いや、そういうのはいいから、早くホットドッグ行こう。あれ、並ぶんだよ」

 正直、このマーケット自体にさほど興味はなかった。買い物するならカムデンのほうがいい。 
 アンティークの食器や家具、古着なんかを素通りして、先へと進む。

「ふーん。あ、ホットドッグの屋台。あれ?」
 目の前に、客のいないホットドッグの店があらわれた。
「いや、それじゃなくて、もっと先の」   
 似たようなホットドッグの店はいくつかあるが、味はまったく違う。
 前に、お目当ての店が閉まっていたので、別の店で食べたことがあるけれど、別物だった。

 しばらく歩くと、「GERMAN FOOD」と書いたキッチンカーが見えてきた。
「お、あれだ」
「ほんとだ、並んでるね」
 玉ねぎを焼く芳ばしい香りが、胃袋を刺激してくる。
 ロンドンの町中では、この匂いをさせるホットドッグ屋をよく見かけるが、たいがい粘土みたいにまずいソーセージを挟んだやつだった。

「めっちゃいい匂い。腹減った〜」
 列の最後尾に並ぶと、カイは背伸びをしてのぞき込んでいる。
「ソーセージ、赤いのと白いのがある」
「どっちか選ぶんだよ」
「へえ、どっちがうまいの?」
「どっちもうまい」
「えー、参考にならねえ。あ、なんか、チキンも焼いてる。あ、バーガーみたいにしてる!」
 カイの実況と共に、うまそうな香りが増していく。

「あのチキンバーガーは? うまい?」
「いや、食ったことない。いつもソーセージの誘惑に負けて」
「あれもうまそうだよなー。どっちもってのもありだよな」
「ありっちゃありだけど、あのホットドッグ、でかくて結構くるんだよ」
「おっさんみたいなこと言うなよ。いけるって」

 順番が回ってきた。
 目の前に、巨大なソーセージがパチパチと音を立てて、こんがりと焼けている。見るからにジューシーなブリっとしたソーセージ。そのとなりでは、大きなチキンが、こちらもうまそうな焼き目をつけている。
 もうその、匂いといったら。

 悩んで、白いソーセージのホットドッグを頼んだ。店の人が、大ぶりに切ったバゲットみたいなパンを手に取り、見るからに汁の滴るソーセージを挟み、炒めたオニオンを乗せて渡してくれた。

 キッチンカーの前には、サルサソースやケチャップ、マスタードが並べてある。
 四角い銀色の容器に入ったサルサソースを、スプーンですくって、たっぷりかけ、ケチャップとマスタードもかけた。

 片手では収まりきらないぐらいの大きさの、ホットドッグ。
 正直、これをホットドッグと言うのかどうかはわからないけど。
 大きなバゲットのようなハード系パンに、ドイツのソーセージ。
 まあ、とにかくうまい。

 かぶりつくと、カリッとしたパンに、ソーセージの皮がはじけ、中から肉汁が溢れ出す。グリルされた玉ねぎの甘みが、口の中いっぱいに広がった。
 これこれ。この味。ほんとうまい。

 夢中で頬張っていると、カイが両手にどでかいホットドッグとチキンバーガーを抱えてやってきた。

「見て! どっちも買っちゃった」
 両手が完全にふさがり、どうやって食べるつもりなのかと見ていたら、バーガーを俺に渡してきた。

「やばい、めっちゃうまそう。いただきます」
 ホットドッグにかぶりつくと、カイは目を丸くした。何か言いたそうにこっちを見て、口をもぐもぐ動かしている。やっと飲み込むと、
「うまー! 何これ。こんなホットドッグあったん?」
 カイは赤いやつを選んでいた。

「ミキヤ、そっち食べてていいよ」
 そう言われたのでチキンバーガーをひとくちかぶると、これもうまい。買っちゃったカイに感謝かもしれない。
 
 全部食べ終わるとカイは、「白いやつも買おうかな」と言い出したので、「太るぞ」と止めてやった。

𝙉𝙚𝙭𝙩 →

【CHAPTERS】

#00│プロローグ
#01|カルボナーラ
#02|キャッツ
#03|チャイナタウン
#04|ノッティング・ヒル
#05|ポートベロー・マーケット
#06|Fox in Fog
#07|Angel
#08|38番
#09|エリック
#10|香水
#11|クリスプ
#12|カムデン・マーケット
#13|Purple Turtle
#14|月
#15|最終話|邂逅

【MAGAZIE】

|ザ・サン・インザレイン(スピンオフ)

|ア・リトル・ビット・クレイジー・デイズ(本編)



 








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