見出し画像

マルクス・クレシェ(Markus Krösche):アイントラハト・フランクフルトを変革する、新時代のスポーツディレクター:キャリア編 #54


アイントラハト・フランクフルトの変革者

スコットランドの名門レンジャーズFCを破り、2022年のUEFAヨーロッパリーグで優勝したアイントラハト・フランクフルトを知る人にとって、現在の同クラブはまったく違ったチームに映るかもしれない。2021年時点ではベテラン選手を中心に強烈なカウンターを武器としたクラブが、現在では若手を中心によりアグレッシブなサッカーをするチームへと変貌したのだ。

顕著だったのが、2023年夏の移籍市場での立ち回り。ナムディ・コリンズカウアン・サントスアンスガー・クナウフジュニオール・ディナ・エビンベウーゴ・ラーションファレス・シェイビ(シャイビ)ウィリアン・パチョなど、計7人の21歳以下の選手を獲得して、成長させたのだ。「変革」するフランクフルトの中心人物は、マルクス・クレシェである。

本テキストでは、、ディノ・トップメラー監督率いるフランクフルトのスポーツ・ディレクターであるクレシェのこれまでのキャリアを振り返るとともに、彼が率いるスカウティング部門がどのような仕事を行っているのかを探っていく。




マルクス・クレーシェ

Markus Krösche
生年月日:1980年 9月17日(44歳)
出身:ハノーヴァー, ドイツ

選手経歴:
1998–2001 ヴェルダー・ブレーメンⅡ
2001–2014 SCパーダーボルン

指導者経歴:
2014-2015 SCパーダーボルンⅡ
2015-2017 
バイエル・レバークーゼン(Asst)
2017-2019 SCパーダーボルン(SD)
2019-2021 
RBライプツィヒ(SD)
2021-    フランクフルト(SD)


クレーシェの選手キャリア

クレーシェの初期キャリア

ニーダーザクセン州の州都ハノーファー郊外のクラブ、シュポルトフロインド・リックリンゲンでプレーしていたクレーシェは、1996年に強豪SVヴェルダー・ブレーメンのユースチームに移籍した。中盤あるいは右サイドバックを主戦場としたクレーシェは、1998/99シーズンには同クラブのキャプテンとしてU-19ブンデスリーガ優勝を果たすなど活躍する。

ジモン・ロルフェスアレクサンダー・ヌーリとともにブレーメンⅡで安定した出場機会を得ていたクレーシェに2001年、あるオファーが舞い込む。オファー元のクラブは、同じくレギオナルリーガ・ノルトでプレーするSCパーダーボルン07だった。


SCパーダーボルン07での選手キャリア

クレーシェのキャリアを語るうえで、パーダーボルンほど重要なクラブはない。クレーシェは、2001年の加入から引退する2014年までの13年間にわたってパーダーボルンでプレーした事実上の「ワン・クラブマン」であり、クラブでのリーグ戦最多出場記録まで保持するレジェンド的存在であるためだ。

パーダーボルンへ移籍したクレーシェは、加入1年目でリーグ戦33試合に出場するなど、すぐに出場機会を獲得する。クレーシェにとって移籍後4シーズン目となった2004/05シーズン、レギオナルリーガを2位で終えたパーダーボルンは、翌シーズンの2.ブンデスリーガ昇格の権利を獲得した。

昇格1年目はエースのルネ・ミュラーの活躍もあり、クラブは9位と躍進したが、ライバルの加入も影響して、クレーシェの出場時間は減少した。翌シーズンも2部に踏みとどまったパーダーボルンだったが、2007/08シーズンを17位で終え3部に降格してしまう。

しかし降格したクラブで再び出場機会を得たクレーシェは、主力として活躍。2008/09シーズンを3位で終えたパーダーボルンは、VfLオスナブリュックとの昇格プレーオフで、ホーム・アウェーともに勝利し、わずか1シーズンでの2部返り咲きを果たした。


名将たちとの出会い

クレーシェがクラブ内で存在感を発揮しはじめた2009年~2014年にかけてのパーダーボルンは、当時のドイツ国内でも少なからず注目を集めたクラブだっただろう。同時期のパーダーボルンを率いた監督たちが、その後ドイツで大きな注目を集める人物だったためだ。

その1人がアンドレ・シューベルト。パーダーボルンのアカデミーの監督から2009年5月にトップチームの監督に昇格したシューベルトは、クラブを2部昇格に導き、2部での1シーズン目にはクラブを5位躍進に導いた。そしてもう1人が元チームメイトでもある、新進気鋭の監督ロジャー・シュミット。前線から強烈なプレスをかけるスタイルで2011/12シーズンのパーダーボルンを再び5位に導いたシュミットは、翌シーズン、ラルフ・ラングニックがSDを務めるレッドブル・ザルツブルクに引き抜かれることとなる。

この2人の監督のもとでキャプテンとして活躍したことは、おそらくクレーシェのキャリアにとって重要な機会だっただろう。さらに、もう1人。クレーシェのキャリア最終年となった2013/14シーズンにパーダーボルンの監督を務めた人物がアンドレ・ブライテンライターだった。

1.FCケルン戦やインゴルシュタット戦で得点するなどブライテンライター監督のもとでも活躍したクレーシェは、クラブ初の1部昇格に貢献した。クレーシェが引退後すぐに監督としてのキャリアを歩み始めた点には、この3人の監督の存在があったと考えると非常に合点がいくだろう。


クレーシェの指導者キャリア

指導者としての初期キャリア

引退後、クレーシェが最初に就いた仕事は、逸材アレクサンダー・ニューベルなどを擁するパーダボルンⅡの監督だった。実質6部のヴェストファーレンリーガに所属した同チームを率いたクレーシェは、13試合で9勝1分3敗という驚異的な成績を残して昇格に貢献し、確かな監督としての才能を証明する。そんなクレーシェに、2015年、アシスタントコーチ就任をオファーしたのは、かつての恩師ロジャー・シュミットだった。

2015年7月から2017年3月にわたり、クレーシェはレバークーゼンの指揮官に就任したシュミットのアシスタントを務めた。クレーシェにとって、2015/16シーズンはリーグ戦を3位で終える充実のシーズンを経験し、2016/17シーズンは解任こそされたものの、カイ・ハヴァーツなどのタレントの起用法などを見定める重要な体験が得られただろう。


古巣パーダーボルンでのSD就任

レバークーゼンでアシスタント解任の憂き目にあった2017年3月、クレーシェはパーダーボルンのスポーツ担当ディレクターに就任する。そこでクレーシェは辣腕を発揮する。クレーシェがSDとして最初に行った大仕事は監督の交代だった。就任1ヶ月後の2017年4月、成績が下降線を辿った前任の監督を解任し、後任としてシュテファン・バウムガルトを抜擢したのだ。

2016/17シーズン、18位となりながらも奇跡的に3部からの降格を免れたパーダーボルンにおいて、クレーシェが次に手を加えたのは選手だった。2017年夏にはクリストファー・アントウィ=アジェイレオポルド・ツィンガーレなどの実力者をフリーで獲得し、冬にも中盤のフィリップ・クレメントやストライカーのフィリップ・ティーツを加えたことで、パーダーボルンは2017/18シーズンを2位で終え、2部昇格を果たした。


続く2018/19シーズンも前季のチームを踏襲しつつ、ベルナール・テクペティクラウス・ジャスラなどの新戦力を加えて戦ったパーダーボルンは躍進。クレメントが16ゴールを挙げる大活躍をみせるなど、チーム総計76ゴールを挙げる高い攻撃力を披露し、シーズンを2位で終えてブンデスリーガ昇格の切符を手にした。

当然の如く、低予算のパーダーボルンをわずか2シーズンで3部からブンデス1部昇格にまで導いたクレーシェの手腕は高く評価され、2019年夏にRBライプツィヒのスポーツディレクターとして引き抜かれることになる。


RBライプツィヒでのキャリア

2019年夏、RBライプツィヒはそれまでSDを務めたラングニックがサッカー開発部門の責任者に就任することに伴い、後任としてクレーシェを招聘した。クラブのCEOオリバー・ミンツラフによれば、クレーシェを後任に指名したのはラングニックだった。またクレーシェのSD就任と同時期にユリアン・ナーゲルスマンがクラブの監督に就任した。

コロナ禍に見舞われたことでも印象深い2019/20シーズンのヨーロッパサッカー界隈を追っていた人であれば、当時のRBライプツィヒがどれだけ興味深いサッカーを披露したかよく覚えているだろう。とくに冬の移籍市場でダニ・オルモアンへリーニョがスカッドに加わって以降のサッカーは欧州でも指折りだった。オルモは、加入の決め手をクレーシェとナーゲルスマンの説得だと語っている。

チャンピオンズリーグではベスト16でトッテナム・ホットスパーFC、ベスト8でアトレティコ・デ・マドリードを破るなど、絶大な存在感を発揮した。翌2020/21シーズンのRBライプツィヒもリーグで2位になるなど躍進した。しかしクレーシェとしては、もの足りなさが残ったかもしれない。移籍市場での立ち回りは悪くなかったものの、移籍した選手の補填にとどまったという印象だった。

加えて、チーフスカウトのクリストファー・ヴィヴェル氏とメディアディレクターのフロリアン・ショルツ氏がスポーツマネジメント部門でクレーシェと同等の立場に昇進。立場が難しくなったことを受け、クレーシェは2020/21シーズン限りでのクラブからの退団を決断する。


FOKUS Bundesliga!!! サイトマップ


読了していただき、ありがとうございます!
そのほか
アイントラハト・フランクフルトに関するおすすめ記事はこちら


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集