帰りのトランクが閉まらない
実家に行くときは、鞄ひとつでいい。帰りはトランクが閉まらない。
断っても増えていくタッパーの話を、4コマ漫画にしました。
たぶん、どこの台所にもある光景だと思う。

実家に行くときは、鞄ひとつで済む。帰るときは、そうはいかない。
台所に立った母は、こちらが座っても座らない。冷蔵庫を開けて、閉めて、また開ける。保存容器の蓋を探して、引き出しをがたがた言わせている。
「これ持っていかんね。あと煮しめも入れとくけん」
いらん、と言った。もう入らん、とも言った。母は手を止めない。断られたことに気づいていないのではなく、気づいた上で詰めている。そういう詰め方だった。
紙袋がふたつになり、みっつになった。ひとつは持ち上げると底が抜けそうで、両手で抱えて運んだ。
車のトランクを開けて、押し込む。上から体重をかけても、扉が浮く。ひとつ降ろして後部座席に移した。それでもまだ余った。
腕がだるかった。帰省というより、引っ越しの日みたいだと思った。
走り出してしばらくして、ミラーを見た。母がまだ手を振っていた。曲がり角に入るまで振っていた。人が見えなくなるまで手を振る、というのは、どこで覚えるものなのだろう。
毎回、大げさなんよ。声には出さず、そう思った。
翌朝、冷蔵庫を開けた。詰め込んだまま寝たので、扉の内側までいっぱいだった。冷気が足元に落ちてくる。素足が冷たい。
いちばん上の容器を出して、蓋を開けた。中身は炊き込みご飯だった。ひじきも入っている。その下の容器は、鶏の唐揚げ。次はかぼちゃの煮物。全部、こちらが好きなものだった。
頼んでいない。何が好きか、この十年ほど言った覚えもない。
蓋の裏に、付箋が貼ってあった。
「冷凍は一か月まで ちゃんと食べんばよ」
字が、少し右上がりになっていた。書いたのは、たぶんこちらが玄関で靴を履いている間だ。あの短い時間に、蓋を一枚ずつめくって貼ったのだと思う。
昨日、トランクを閉めるのに十分かかった。開けるのは三十秒で済んだ。
炊き込みご飯を茶碗によそって、そのまま食べた。温めるのを忘れていたことに、半分食べてから気づいた。冷たいままの米が、口の中でほろほろした。
腹の底があたたかくなった、というほどのことはない。ただ、二膳食べた。
容器は、洗って返さないといけない。返しに行けば、また詰められて帰ってくる。それがわかっていて、たぶん来月あたり、私はまた実家の台所に立っている。
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