文字を持たなかった昭和 続・帰省余話17~元気でね

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。

 あらたに、先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、印象に残ったことのまとめに続きいくつかエピソードを書いた。次にミヨ子さんを連れてのお出かけを順に振り返っている。お出かけの準備をし、桜島を臨むホテルにチェックインミヨ子さんをお風呂に入れてあげたあとから到着したミヨ子さんのいちばん下の妹・すみちゃんも交えてフレンチのディナーを楽しみ、ちょっぴりワインも飲んだミヨ子さんは早々に寝入った

 夜中、ミヨ子さんの様子が気になって熟睡できなかった二三四(わたし)は早めに目覚めた。もうすぐ6時、大浴場が始まる。いつもは温泉に行ってもめったに朝風呂しないのだが、顔を洗うついでにちょっと浸かってくるか。すみちゃんはまだ寝ている。大浴場嫌いなのでどのみち朝風呂には行かないはず、ミヨ子さんが起きたらちょっとだけ見ててもらおう。

 ということにして、顔を洗いちゃぷんと浴槽に浸かる。朝焼けの桜島がきれいだ。山肌から赤い大きな朝日が昇るところを初めて見た。

 が、見とれるヒマもなく急いで帰ってきたのに、客室内は賑やかなことになっている。ミヨ子さんが起き出して、トイレに行こうとしているのだ。
「車椅子には載せたんだけどね」
とすみちゃん。タッチして、二三四(わたし)がトイレの介助をする。一晩ぐっすり眠って起きなかったせいか、パッドも紙おむつもたっぷり吸水している。もちろん交換だ。用を足したミヨ子さんに洗顔させ、前の晩外した入れ歯を入れさせて、車椅子をソファの脇に固定する。

 紙おむつ類はお義姉さんが持たせてくれた新聞紙に包む。昨晩入浴後換えた分を入れて3包み、トイレの汚物入れに入る程度だ。換えたおむつを置いていっていいかフロントに尋ねたら、問題ないとの回答。ホテルで処理してくれるならありがたい。

 続いてすみちゃんが洗顔して着替える。朝食は昼兼用にもなるよう、あえて遅めに行くことにしてあるので、客室にある緑茶ティーバッグで温かいお茶をいれ、しばらく客室でおしゃべりする。またここでも、昨日のように昔話に花が咲く。すみちゃんから、二三四(わたし)が知らなかった時代の郷里や家族の話も出て、興味深く聞いた。

 二三四も身支度して、次にミヨ子さんを着替えさせる。シングル部屋に隔離(?)されている家人にも声をかけ、バイキングの朝食へ赴く。

 バイキングは、忙しい。ミヨ子さんの分をひととおり確保し食べさせてから、自分の分を取りにいかなければならない。自分の分を食べようとするとミヨ子さんがあらかた食べていて、追加をとりに行くため、なかなか落ち着いて食べられない。複数でつきそっていると、誰かがミヨ子さん分の追加に行ってくれるのは助かる。

 二三四はここで重要なミッションを思い出す。次の宿泊先で利用できる温泉の、家族湯を予約しておかねばならないのだ。2月の帰省では予約でしくじったので、今度こそ確保せねば。幸い希望の時間に予約できほっとする。

 朝食後は再び客室へ戻り、チェックアウト時間の11時近くまでゆっくりする。昼過ぎの船で離島へとんぼ返りするすみちゃんとは、ホテルから港へ送ったらお別れなのだから。

 チェックアウト後、もう一度ミヨ子さんをトイレに行かせたらいよいよ出発だ。港から近いホテルを選んだこともあり、港まではすぐだ。港附近らしい、倉庫が多くだだっ広いエリアで行く先向けのターミナルを探す。あった、あった。出発まで1時間以上あるのにお客さんがけっこういる。

 入口で駐車はできないので、すみちゃんを下ろしたらすぐに発車せねばならない。
「姉ちゃん、元気でね」とすみちゃん。
「すみちゃんはここまでだよ。ここから島に帰るからね」
ミヨ子さんにお別れの挨拶を促すと車の窓から手を振っていた。あわただしいお別れ。二人がもう一度会える機会があるだろうか。二三四の胸中は複雑だった。

※前回の帰省については「帰省余話」127

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