熊野久須毘命と「八」の数霊――符号遊びから意識の核へ
前回、神武天皇の熊遭遇譚について書いた。
その記事を書いたあと、僕はもう少し熊野について調べてみた。
そこで、あらためて気になった神がいる。
熊野久須毘命(くまのくすびのみこと)。
なぜ、この神に惹かれたのか。
まず、名前に突然、「熊」が現れるからだ。
天照大御神と須佐之男命が誓約を交わし、そこから生まれた神々の中に、なぜ「熊野」という名を持つ神がいるのか。
八柱の中でもひときわ異質な名を持っている。
しかも、この神には複数の異伝名があり、『日本書紀』では熊野櫲樟日命、熊野忍蹈命、熊野忍隅命、熊野大角命など、名前そのものが揺れている。
『古事記』の「久須毘」は、「奇(くす)し」の語幹と神霊を意味する「毘」から、「奇しい神霊」と解する説もある。
つまり、
熊野・奇霊。
なんとも不思議な名前だ。
さらに気になるのが、この神が誓約から生まれた五柱の男神の最後に置かれていることだ。
三柱の女神を合わせれば、誕生順では第八番目になる。
そして、その神々が生まれるきっかけとなったのが、天照大御神の八尺瓊勾玉だった。
八尺瓊勾玉。
そこから神々が生まれる。
そして最後に、熊野久須毘命が生まれる。
ここで、僕は「八」という数字を意識するようになった。
さらに調べていくと、出雲の熊野大神との関係が見えてくる。
熊野久須毘命と熊野大神・櫛御気野命を同一神格と見る説もあれば、別神とする説もあるので、ここは簡単には断定できない。
ただ、「熊野」という名を持つ神と、各地に祀られ、人々の信仰を集めてきた熊野大神の姿が重なったとき、国中を巡視し往還して、災いを鎮める神というイメージが僕の中に立ち上がってくる。
熊野は神武天皇の物語とも深くつながっている。
前回書いたように、神武は熊野で大熊に遭遇し、倒れる。
神剣を受け取ることで再び立ち上がり、その後、八咫烏に導かれて大和へ向かう。
熊野は、神武にとって一つの大きな転換点だった。
死と再生。
そして、意識の変容。
熊野久須毘命と神武天皇は、直接の祖先・子孫という関係ではない。
けれど、「熊野」という場所を介して、両者の物語が不思議なほど近づいてくる。
そして、ここでも「八」が出てくる。
八咫烏。
熊野で現れ、神武を導く鳥。
さらに神武東征の物語を追っていくと、「八」を含む言葉がほかにも現れる。
八十梟帥。
八十建。
『日本書紀』には、神々を祀るための八十枚の平瓮も登場する。
「八」が、単なる数としてではなく、物語の重要な局面に何度も現れてくるように見える。
もちろん、これは慎重に考えなければならない。「八十」は「多数」を意味する場合もあるようだから。
そして、記紀では、「八十」はほぼ例外なく敵方の多数の暴力として現れるようだ。
八十とは――八の祝福を十の閉塞で封じた数なのではないか。
開かれた力が塞がれ、「祝」が「呪」へと転化して増殖する。
「八」が出てくるからといって、すべてを一つの霊的原理で説明できるわけでもない。
それでも僕は、ここに数霊というものを感じる。
神話や記紀には、数字そのものが物語の中で働いているのではないか。
建国神話。
国を開いていく物語。
その重要な局面に、繰り返し「八」が置かれている。
そして、ここからは僕の仮説だ。
物語に「数」を置くことは、古代の人々にとって、世界を構成し、秩序づけ、守護するための何らかの原理だった。
思念の依代となった数――数霊は、数字そのものに宿るのではない。
それを見つけた人間の意識の中で、作動する。
八尺瓊勾玉。
第八番目の熊野久須毘命。
八咫烏。
八十梟帥。
八十建。
八十枚の平瓮。
「八」という数霊が、物語の事象を引き寄せ、接着し、意識の中に鮮明な像を刻んでいく。
ふと思えば、
僕自身の現実にも「八」が現れてくる。
僕の車のナンバーは、8888。
これは八年前に僕が恣意的に選択したものだが、僕はこの車で秋田、岩手、山形、山梨、和歌山を何度も往還している。
アルファベットの八番目は、H。
HIGUMA KARMAのH。
これは「八」を意識してつけたものではない。
そして僕自身の名前は、HidekiのH。
親父が名付けてくれた。
もちろん、これは僕の思考遊びであり、符号遊びだ。
でも、遊びもバカにできない。
人間は、世界に散らばった断片を拾い、そこに関係を見つけようとする。
その関係を何度も考えているうちに、符号は強度を帯びて意識の奥へ沈んでいく。
そして、いつの間にか、その人の意識の核となり、ものの見方を変えている。
数霊は、物語の中で作動するだけではない。
それを見いだした人間の意識の中でも作動する。
だから、僕はカメラを置く。
そして、そこに何があったのかを見る。
自分が意味を与えるのではなく、世界の側から意味が立ち上がってくる。
それは神秘との遭遇である。
▼このテーマに関連する記事
いいなと思ったら応援しよう!
『ヒグマカルマ』は現在も北海道・東北で取材と撮影を続けています。
もし活動を応援していただける方がいましたら、サポートいただけると制作継続の力になります。
いただいた支援は、移動費・撮影費として大切に使わせていただきます。