地獄の底から響いてくる叫びのなかで
和歌山のYさんが営む平飼いの養鶏場で、連日、数時間にわたり鶏たちを撮影した。
耳をつんざくような鳴き声の重奏だった。決して心地よい音ではない。もし数日間ここに閉じ込められたら、発狂してしまうかもしれない。そう思えるほど、不快で、不協和な響きに包まれていた。
しかし、しばらくすると耳が慣れてきた。
よく聞けば、その鳴き声は決して一様ではない。
「コッコッコッ……」 「クックックッ……」 「コケーッ!」 「グルルルル……」 「クォッ、クォッ……」
さまざまな声が折り重なり、ひとつの音の風景をつくっている。
東京大学の鈴木俊貴教授は、シジュウカラが意味を持った鳴き声を組み合わせて仲間とコミュニケーションをとっていることを明らかにした。
それなら、鶏の鳴き声にも、まだ僕たちが気づいていない意味があるのではないか。
そんなことを考えながら耳を澄ませていた。
そして、少しずつ自分なりの感覚が生まれてきた。
これは会話ではないのかもしれない。
同じ鶏舎の仲間に向かって話しているというより、それぞれが一羽の「個」として、世界に向かって声を放っているように感じられた。
何のために。
自分の声を響かせることで、自分がここにいることを確かめているのではないか。
生きていることを。
存在していることを。
どの声も全身で絞り出されていた。
地獄の底から響いてくる叫びのようにも聞こえる。
それでも、その叫びこそが、生きている証なのではないか。
ふとそう思った。
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