男性不妊の40%の原因「精索静脈瘤」とは?【年間200件以上執刀する泌尿器科専門医が解説】
まず結論から!
・男性不妊の40%、二人目不妊の78%に精索静脈瘤がある
・手術で精子の「数・動き・形」だけでなく「質(DNA断片化率)」も改善
・自然妊娠の可能性が高まり、顕微授精の成功率もアップする
・無精子症の人でも精子が出現したり、精子回収率が改善する可能性
・顕微鏡下手術は「日帰り・局所麻酔・保険適応」、痛みもリスクも最小限

泌尿器科専門医のたま先生です。 大学病院と体外受精(不妊治療)専門クリニックで、日々男性不妊の診療を行っています。 昨年は約250件の男性不妊手術を執刀しました。
本日は、数ある不妊原因の中でも「唯一といっていい、劇的に改善する可能性がある疾患」である「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」について解説します。
1.精索静脈瘤とは?

精巣の周りにある静脈がコブ状に腫れてしまう病気です。
男性不妊の患者さんの40%、2人目不妊では78%の割合で見つかります。
静脈は通常、頭側に向かう1方向に流れますが、機能が低下すると逆流してしまいます。そういう静脈は人体ではコブ状に拡張します。
血液が逆流することで、精巣にストレスを与えます。
・温度ストレス: 精巣は本来、体温より2〜3度低い状態でフル稼働します。血流が滞ると熱がこもり、精子を作る工場がオーバーヒートします。
・酸化ストレス: 逆流した血液により「活性酸素」が発生し、精子のDNAを傷つけます。
結果として、精液検査の数値(濃度・運動率)が悪くなるだけでなく、精子の「質(DFI:DNA断片化率)」も低下してしまいます。
DFIについてもっと知りたい人は以下の記事を読んでください。
2.【セルフチェック】あなたの「玉」は大丈夫?
精索静脈瘤は、多くの場合、痛みなどの自覚症状がありません。 まずはご自身で以下の項目をチェックしてみてください。
・精巣に違和感や重い痛みがある
・左右で垂れ具合が明らかに違う(多くは左側が垂れます)
・精巣の近くに「うどん」のようなボコボコした感触がある
チェックのコツ
「暖かい部屋で、立った姿勢で」確認してください。 寒いと皮膚が収縮し、寝ていると静脈の腫れが引いてしまうため、見逃してしまいます。

注意点
診察に慣れていないと、手術が必要だけど、見た目では分からないgrade2を見逃してしまいます。grade2は専門医であっても超音波検査をしないと判断に迷うことがあります。セルフチェックだけで安心せず、専門の診察を受けましょう。
3.専門医はどう診る?(グレード分類と超音波)
セルフチェックで分からなくても、専門外来で見つかるケースが非常に多いです。
触診によるグレード(重症度)
Grade 1: お腹に力を入れたときだけ触れる
Grade 2: 普通に触って分かる
Grade 3: 見ただけでボコボコが分かる
超音波(エコー)検査が必須な理由
皮膚が厚い方や、grade2は触診だけでは確実な判断ができません。 「医者に指摘されるまで気づかなかった」という男性は多いですが、それは当たり前です。

「こんなに玉袋が変形しているのに、主人はなんで気づかなかったのですか?!」と奥様から質問を受けることが多々あります。これは女性からすれば不思議かも知れませんが、多くの男性は精巣の形などほぼ意識せずに暮らしています。
4. 治療が必要な精索静脈瘤とは?
ここが重要です。見つかったら全員手術、というわけではありません。
「Grade 2以上」であり、かつ「精子の状態が悪い」場合に手術が必要
Grade 2以上: 触診で明らかな静脈拡張があり、触診で触れる
精子の状態が悪い: 濃度や運動率が基準値以下である場合はもちろん、数値が基準内であっても「DFI(DNA断片化率)」が高い場合などは、手術によって改善するメリットが非常に大きいです。
またWHO基準値は超えているけど、そんなに良くない場合には要相談となります。(WHO基準値は超えていたら赤点じゃないという基準で、超えてれば良好な状態ではないのです。)
5. 治療方法は? → 「顕微鏡下低位結紮術」一択!
現在、最も推奨されているのが「顕微鏡下低位結紮術(けんびきょうかていいけっさつじゅつ)」です。顕微鏡を用いて、悪い静脈を処理する方法です。
顕微鏡下手術【第一選択】 再発率が最も低く、合併症も極めて稀。
カテーテル治療:再発率が高い、日本では普及していない。
サプリ・薬:静脈瘤そのものは治りません。精子改善率はとても低い。
手術のメリット
日帰り・局所麻酔で実施可能
保険適用(自己負担4万円程度)
術後、約70%の方で精子のパラメーターが1.5倍程度まで改善
年間200件以上執刀していますが、陰嚢水腫(リンパ不全)や精巣萎縮(血流不全)などの大きな合併症は一度も経験していません。非常に安全性の高い手術です。

かつては腹腔鏡・高位結紮術(大きく切開する)などもありましたが、体への負担が大きく治療成績は劣ります。
6. 顕微授精をするなら手術は不要?(よくある誤解)
「どうせ顕微授精(ICSI)をするなら、手術しなくてもいいですよね?」 という質問をよく受けますが、答えは「NO」です。
顕微授精は精子を1匹選ぶ技術ですが、選ぶ元の母集団が悪ければ、最高の受精卵は作れません。草野球のエースと、大谷翔平選手が全く違うようなイメージです。
精索静脈瘤を治すことで:
胚盤胞(良い状態の受精卵)への到達率が上がる
流産率が下がる
という明確なデータがあります。

7. 無精子症の場合でも、手術で精子が出現したり、精子回収率が上昇する可能性も
精液検査で「精子ゼロ(無精子症)」と診断されても、諦めるのはまだ早いです。 もしあなたが非閉塞性無精子症で精索静脈瘤がある場合、まず顕微鏡下低位結紮術を受けることで改善する可能性があります。(閉塞性無精子症では当てはまらない)
精液中に精子が出現する可能性:術後に射精した精液中に精子が出現する可能性があります。
micro TESE(精巣内精子採取術)の成功率上昇: 仮に精液中には出てこなくても、手術後にTESEを行うことで、精巣から精子を回収できる確率(精子回収率)が上昇する可能性があります。
無精子症についてもっと知りたい方は、以下の記事を読んでください!
8.どうしても手術は嫌な人へ 「生活習慣改善」
精子が悪くて、精索静脈瘤がある場合の最善の治療は手術です。しかし、「死んでも手術だけは嫌だ」という人もいるでしょう。そんな方は、手術と比べて劇的な効果は期待できませんが、せめて生活習慣の改善だけでもしましょう。
禁煙・節酒・BMI適正化・精巣を温めない・射精頻度を増やす・股間を圧迫しない・適度な運動・抗酸化サプリの内服など、精子改善のために有効な生活習慣があります。精子は3ヶ月サイクルで新しく入れ替わるので、コツコツと継続することが大切です。
また、手術を受けるとしても同時並行で生活習慣を改善することは、とても有効です。
詳細は下記の記事を参考にしてください。
まとめ
精索静脈瘤は、男性不妊の中で「原因がはっきりしていて、治療で改善が望める」数少ない疾患です。一人で悩まず、まずは専門医によるエコー検査を受けてみてください。
今回の記事が参考になった方は、ぜひ「スキ」や「シェア」をお願いします! 次回は、「顕微鏡下手術の具体的な流れとこだわり」について詳しくお話しします。
たま先生(泌尿器科専門医)
男性不妊とメンズヘルスのスペシャリスト
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