健康格差がエグいことになってきている
健康格差が、えげつない勢いで開いている。
AIで加速する資本主義は、金融資産にとんでもない差を生んでいる。同じことが「健康」という資産でも起きている。
都心の交差点で信号待ちをしていると、健康そうに見える人と、かなり疲れて見える人がいる。肌の質感。姿勢。歩く速さ。服の上からでもわかる体つき。たしかに、見た目に出るものはある。
ただ、見た目だけでその人の健康状態は決められない。夜勤明けかもしれない。家族の介護で眠れていないのかもしれない。再検査を受けたくても、平日に仕事を休めないのかもしれない。
健康格差は、意志の差だけではない。食事を選べるか。眠る時間があるか。医療機関へ行けるか。運動したあとに回復する余裕があるか。
こうした条件の差が何年も積み重なり、病気のなりやすさや寿命の差として表れる。それでも、自分の条件の中で健康を崩しにくくする行動はある。
健康格差は、寿命にまで出る
感覚だけの話ではない。JAMAに掲載された米国の大規模研究では、所得が最も高い層と低い層で、40歳から先の平均余命に最大約15年の差があった¹⁾。
15年だ。
これは、一度の健診や短期間の生活改善だけで埋まるような差ではない。
食事や喫煙。住む地域。教育や仕事。周囲とのつながり。医療機関へのかかりやすさ。所得と寿命の関係には、こうした生活条件の違いも重なっている。

この研究だけで、所得の低さが寿命を縮めたとは言い切れない。同じ所得層でも、暮らす地域によって寿命には差があった。
「お金持ちは健康に気をつけているから長生きする」だけでは、説明が足りない。日本も無関係ではない。全国の健診記録を使った研究では、所得水準が低い群ほど高血圧の割合が高かった。運動や肥満、喫煙、飲酒だけでは、その差の一部しか説明できなかった²⁾。
もちろん、これも観察研究だ。仕事や住環境、受診しやすさなど、捉えきれていない条件もある。それでも「血圧が高いのは自己管理が足りないから」で片づけられる結果ではなかった。
WHOも、健康を左右するのは医療だけではないとしている。生まれ育った環境。教育。仕事。住まい。使えるお金や時間。健康な行動を選びやすい条件そのものが、人によって違う³⁾。
「普通に食べる」が難しくなった(超加工食品と死亡リスク)
自分がこの話に関心を持ったきっかけは、ある経営者の一言だった。たしか2年ほど前。40代の経営者と健康相談をしていたときのことだ。その人は健診結果だけでなく、食品の原材料までかなり細かく確認していた。
「先生、コンビニの食品棚って、よく見ると植物油脂と果糖ぶどう糖液糖が多いですよね」
外来で原材料表示の話になることは、そう多くない。その人は、投資先の財務諸表を読むのと同じくらい、自分の体に入れるものを細かく確認していた。この視点は大事だと思う。
とはいえ、植物油脂や果糖ぶどう糖液糖が入っているだけで、その食品が悪いと決まるわけではない。原材料名だけで白黒をつけるのも違う。確認したいのは、食事全体に占める超加工食品の割合だ。
BMJに掲載されたレビューでは、超加工食品を多く食べる人ほど、心血管疾患や代謝疾患などの健康問題が多い傾向が報告されている⁴⁾。ここは慎重に読みたい。
含まれる研究の多くは観察研究だ。超加工食品を食べたから病気になったと証明した研究ではない。超加工食品を多く食べる背景には、喫煙や運動不足だけでなく、仕事の忙しさや所得も関わる。統計的に調整しても、その影響をすべて取り除くことは難しい。
それでも、国や対象者が変わっても、同じ傾向が繰り返し報告されている。無視してよい話ではない。忙しい日に、安くてすぐ食べられて保存できる食品へ手が伸びるのは自然だ。
帰宅が遅ければ、魚を焼いて野菜を切る気力は残りにくい。コンビニが第二の台所になる人もいる。ここでも、知識だけでなく時間と生活条件が関わっている。昨日の昼、何を食べただろうか。
一食だけで反省する必要はない。袋や容器を開けて、そのまま食べる食事ばかりになっていないか。そのくらいから確認すればいい。超加工食品と血管の話は、別の記事で詳しく書いた。
「異常なし」は、将来の保証ではない
会社の健診でA判定が並ぶと、かなり安心する。安心していい部分もある。健診には、高血圧や糖尿病、肝機能障害などを見つける役割がある。問題は、A判定を「これからも病気にならない証明」と受け取ってしまうことだ。
健診の判定は、測った項目がその時点で基準から大きく外れていないという意味に近い。前年からどう動いたかは、AかBかだけではわからない。自分なら、追加検査を探す前に今年と前年の健診票を並べる。
血圧と腹囲。血糖と脂質。肝臓と腎臓。細かな基準値を暗記する必要はない。まずは、同じ項目を前年と比べる。一つの数字だけで病気かどうかは決められない。ただ、複数の項目がそろって悪化しているなら、基準値内でも医師へ相談する材料になる。
再検査を指示されているときは、別の検査を追加する前に、まずそちらを受ける。一般的な健診に含まれない検査が役立つ場面もある。全員が毎年、同じ項目を増やせばよいわけではない。
年齢や家族歴、症状、服薬状況で、必要な検査は変わる。前年との変化も判断材料になる。検査項目を増やすことと、健康状態を正しくつかむことは同じではない。
再検査のために平日の予定を空けられるか。結果を持って受診できるか。別の医師に相談する余裕があるか。ここにも格差がある。
健康情報は無料になった。でも、判断は無料ではない
格差を広げているものがもう一つある。情報だ。論文や公的機関の資料は、インターネットで読めるものが増えた。読めることと、使えることは別だ。その研究は観察研究なのか。介入試験なのか。対象は健康な若者なのか、病気のある高齢者なのか。
自分にも当てはまるのか。持病がある人や薬を飲んでいる人にも、同じことが言えるのか。一つの記事を読んで、自分ならどうするかを決めるまでにかなりの時間がかかる。英語力だけの問題でもない。研究に慣れていなければ、何を信用してよいかを調べるだけで疲れてしまう。

SNSを開けば、同じ食品を「食べるべき」と言う人と「やめるべき」と言う人が同時に流れてくる。自分も医学部を出た時点で、健康情報を何でも正しく判断できたわけではなかった。
病気の診断や治療は学んだ。ただ、食事や運動、睡眠を日常にどう組み込むかは、医師になってからかなり学び直した。今も新しい研究を確認するたびに、以前の考えを変えることがある。
専門家に相談する利点は、検査やサプリを増やせることだけではない。「これは自分には当てはまらない」「今はここまででいい」。そうやって、何をやらなくていいかを早めに決められる。
情報が多い時代ほど、この差は大きい。集団の平均は、自分一人の未来をそのまま示すものではない。この違いは別の記事で書いた。
運動という「投資」と「消耗」の違い
運動にも格差がある。仕事で一日中体を使っている人と、自分で時間や強度を選んで運動している人では、体への負担が同じとは限らない。長時間の立ち仕事。同じ動作の繰り返し。重い物を運ぶ。休む時間を自分で決められない。
こうした働き方では、身体活動が多くても、余暇の運動と同じ恩恵を得られない可能性がある。余暇の運動が多い人では、心血管疾患や死亡が少なかった。仕事中の身体活動が多い人では、同じ傾向が確認されなかった研究もある⁵⁾。言い換えると、仕事で体を動かしているからといって、余暇で運動しているのと同じ健康効果は得られない可能性がある。

肉体労働は体に悪いと決めつける話ではない。この研究は観察研究だ。仕事の種類や社会経済的な条件も違うため、因果関係まではわからない。でも、仕事で体を使っていても、それだけで健康のための運動が足りるとは限らないことは意識する必要がある。
自分はトレーニングを17年続けている。運動を続けられている理由は、習慣だけではない。時間と環境に恵まれてきた面も大きい。全員に同じ回数や強度を求めるのは無理がある。
まとまった時間が取れなければ、昼休みに少し歩く。ジムへ行けなければ、自宅で体を動かす。それも難しければ、座り続ける時間を短くする。生活に合わない方法は、研究上どれだけ優れていても続かない。
健康資産も、世代を超える
もっと怖いのは、この差が一人の人生だけで終わらないことだ。親が食べているものを、子どもも食べる。家の中で喫煙があれば、子どもも煙にさらされる。体調が悪いときに早めに受診する家庭もあれば、我慢するのが普通になっている家庭もある。
休日に家族で歩く習慣がある家庭もあれば、安全に運動できる場所が近くにない家庭もある。生まれ育つ環境は、その後の健康と切り離せない。WHOも、生涯を通じた生活条件が健康格差につながるとしている³⁾。
金融資産と同じように、健康に関わる習慣や環境も世代をまたいで受け渡される。しかも、健康に相続税はかからない。子どもは最初の条件を選べない。健康を本人の努力だけで語れない理由が、ここにもある。
じゃあどうすればいいのか
ここまで読んで「怖い話だった」で終わったら、ただの評論になる。
自分なら、次の中から一つ選ぶ。

食事は一食だけ変える
超加工食品を完全にゼロにする必要はない。忙しい日のコンビニや冷凍食品に助けられることもある。自分も使う。変えるなら、全部ではなく一食だけでいい。
菓子パンだけの朝に、卵やヨーグルトを足す。カップ麺だけの昼に、魚や野菜を追加する。毎食原材料表示をにらむ必要はない。素材に近い食品を一つ増やすくらいでいい。
健診票は前年と比べる
追加検査より先にできる。A判定かどうかではなく、検査値が前年からどう変わったかを確認する。複数の項目がそろって悪化しているなら、基準値内でも医師へ相談する材料になる。再検査の指示があるなら、結果の紙をしまう前に予約日を決める。
運動の最低ラインを下げる
理想どおりに運動できない時期もある。少し歩く。階段を使う。自宅でスクワットをする。まとまった時間が取れなければ、座りっぱなしの時間を少し減らす。自分の生活に合わない方法は、どれだけ正しくても続かない。
この三つで健康格差が消えるほど、話は単純ではない。時間がない人に「運動してください」と伝えるだけでは足りない。お金に余裕がない人に「食事の質を上げてください」と言うだけでも足りない。健康のために使える時間もお金も、人によって違う。そこは忘れたくない。
それでも、個人の行動に意味がないわけではない。 条件が違うからこそ、自分の生活で続けられる一手を選ぶ。 今日できるのは、去年の健診票を探すことかもしれない。昼食に一品足すことかもしれない。少し歩くことかもしれない。そのくらいからでいい。
まとめ
所得による健康格差は寿命にまで表れ、米国では最大約15年の差が報告されている
健康格差は、本人の意志や生活習慣だけでは説明できない
食事、仕事、住環境、使える時間、医療機関へのかかりやすさが関わっている
健診票を前年と比べる。食事を一つ変える。少し体を動かす
完璧な健康法より、自分の生活で続けられる行動を一つ選ぶ
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
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