1日数分の「運動のつまみ食い」でがんになる人が少なかった|VILPAとがん予防
「がんになりたくないんですけど、運動って何したらいいんですか」
この質問、実はけっこう難しい。
がん予防の目安は、いちおうある。米国対がん協会は、成人に対して中等度の運動を週150〜300分、または高強度を週75〜150分すすめていて、できれば300分に届くか、それを超えるのが理想としている。
でも、運動習慣がない人にこれをそのまま言うのはいつも躊躇する。
「週300分を目指しましょう☺️」と言われた瞬間に、たぶん非現実的すぎてやる気をなくす。逆に運動から遠ざかってしまうかもしれない。
じゃあ、そういう方に何と言えばいいのか。ここでずっと悩んでいた。
このモヤモヤが少しとれたのがJAMA Oncologyへ出た1本の論文だった。
今回はその論文をもとに、ジムに行かない人のがん予防とVILPAについて書いてみる。
VILPAとは、生活の中に紛れこんだ、短いけど激しい身体活動のことだ。
「運動のつまみ食い」みたいなもの。
前に運動とがんの記事を書いた。大腸がんの手術と抗がん剤を終えた人を対象にしたCHALLENGE試験では、運動プログラムを受けた人たちで再発・死亡が少なかった²⁾。ただ、あれはがんに「なってから」の話だった。
今日の話は、がんに「なる前」の話だ。がんになる前に、どう予防するか。運動習慣がない人ほど、読んでみてほしい。
運動ゼロの2万人を、7年追いかけた
研究チームが対象にしたのは、「自分は運動していない」と答えた成人22,398人。ここでの「運動していない」は、ジムやスポーツの習慣がないという意味だ。 まったく動かない人、という意味ではない。
こういう「運動していない人」は、生活の中では意外に動いていることがある。たとえば、駅の階段を急いで上がる。重い買い物袋を運ぶ。子どもや犬と短く走る。バスに間に合うように早歩きする。
こういう1分前後の短い高強度の動きが、本人が気づかないうちに生活へ紛れこんでいる。これがVILPAだ。VILPAについては前に「全力1分と散歩53分の効果がほぼ同じだった」という記事で詳しく書いた。
ただし、「全力」といっても、最大の力を出し切るという意味ではない。
息がかなり上がって、 ひと息入れないと数語しか話せない くらいの強さだ。
今回の研究では、この人たちの手首にウェアラブルをつけて、実際の動きを記録している。本人の申告ではなく、機械で測ったデータだ。そのうえで平均6.7年追いかけ、がんと診断された人を数えた。
1日4.5分のVILPAがある人では、がん発症が2割少なかった
VILPAがほとんどない人を基準にすると、1日4.5分ほどのVILPAがある人では、がん全体の発症が少なかった。
ハザード比は0.80。ざっくり言えば、 発症のしやすさが約2割低かった³⁾。
4.5分といっても、連続でやる必要はない。
1回1分もかからない短い動きが、1日の中で何回か積み重なった合計だ。
エスカレーターを階段に変えて駆け上る。 駅まで少し小走りで急ぐ。 坂道で息が上がる。 それを一日何回か、という話だ。

さらに、身体活動と関連が深いとされる 13種類 のがんに絞ると、差はもう一段大きくなった。
この13種には、大腸・乳房・子宮体・肝臓・肺・腎臓・膀胱・食道・胃・頭頸部・血液系のがん(骨髄性白血病・多発性骨髄腫)が含まれる。
これらに限ると、1日4.5分ほどのVILPAがある人では、発症は 約3割少なかった 。ハザード比は0.69だった³⁾。
1日30分でもない。 1時間でもない。 合計で4.5分だけ。
これは運動が苦手な人にとってかなり大きい。
ちなみに、モデル上はもっと少ない量から関連が出ていて、1日3.4分のVILPAあたりでも、がん全体のハザード比は0.83(約1.7割減少)だった。
生活の中に、短く息が上がる活動がある人ほど、がんの発症が少なかった。
専門的になってしまうけれど、ここで少し注意点がある。
これは介入試験ではない。 VILPAをやらせたらがんが減った、という研究ではない。もともと生活の中にVILPAが多かった人を追いかけたら、がんが少なかったよ、という観察研究だ。だから、この研究だけから「数分の全力でがんは防げる」という因果関係までは言えない。
とはいえ、たとえジムに行けなくても、生活で何度かVIPLAすることはがん予防にかなり意味がありそうだと思わせる研究だ。
運動とがん予防は、この論文だけの話ではない
ここまでVILPAの数字を並べてきたけど、「よく動く人ほど、がんになりにくい」という話はぽっと出の仮説ではない。
さっき出てきた13種類のがんも、もとはもっと大きな研究から来ている。 144万人 分のデータをまとめた解析で、26種類のがんを調べたところ身体活動が多い人ほど発症が少ないがんが13種類あった⁴⁾。
VILPA研究は、その流れを今度はウェアラブルで実際に確かめた形になる。
ただし、この13種すべてで証拠が同じ強さ、という意味ではない。
WCRF/AICR(世界がん研究基金・米国がん研究所)は、中等度から高強度の身体活動によって大腸がんのリスクが低くなることを「確実」 と評価している。閉経後乳がんや子宮体がんは 「ほぼ確実」。高強度の身体活動による閉経前乳がんのリスク低下も「ほぼ確実」とされている⁵⁾。
つまり、エビデンスがいちばん強いのは大腸がんだ。
日本人のデータに絞ると、評価は少し慎重になる。国立がん研究センターは、身体活動によって大腸がんのリスクが低くなることを「ほぼ確実」、乳がんを「可能性がある」としている⁶⁾。世界の評価ほど、広くは言い切っていない。
ただ、その大腸がんは、 日本人のがん罹患数が最も多いがん だ⁷⁾。 そして、運動との関連がいちばん強い。
外来でも大腸がんが心配だという人は多いのだけど、自分は大腸内視鏡検査に加えて、かなり自信を持って運動をすすめている。
このように、「動いている人ほど、がんになりにくい」という大きな流れはかなり明確になってきている。 VILPAが新しいのは、そこに「ジムに行かない人の、生活の中の数分でも」という現実的な解を作ったことだと思う。
なぜ、たった数分で差がつくのか
この研究は、理由まで証明したわけではない。
だからここからは今までの基礎研究を踏まえた仮説だ。

まず、インスリンだ。
インスリンは血糖を下げるホルモンだが、細胞に「増えろ」と命じる顔も持っている。IGF-1という近い仲間も、細胞増殖に関わる。
運動すると、筋肉が糖を取り込みやすくなる。 インスリンの効きがよくなる。 すると、血糖を下げるために大量のインスリンを出し続けなくてよくなる。がん細胞にとっての増殖シグナルが、少し弱まるかもしれない。
次に、筋肉そのものだ。
筋肉は、ただ体を動かす部品ではない。動くたびに、 マイオカイン と呼ばれるさまざまな物質を血液中へ放出する臓器でもある。筋肉が動くことで、炎症、免疫、代謝が変わる。 がんの芽が育ちやすい環境を、少し変える可能性がある。
もうひとつは、慢性炎症だ。
運動不足や内臓脂肪が多い状態が続くと、体の中で 弱い炎症がくすぶる。 このくすぶりは、がんにとって都合が悪くない。
運動は、そのくすぶりを鎮める方向に働く。
もちろん、1日数分のVILPAで、これらがどこまで変わるのかはまだわからない。強度が効いているのか、総活動量が効いているのかも、まだ決着していない。別のUK Biobank解析では、総活動量や歩数でも同じ方向の関連が報告されている⁸⁾。
ただ、「痩せたからでしょ」だけでは説明しきれない。 今回のVILPAは、体重を大きく動かすほどの量ではないからだ。体重が変わらなくても、筋肉が動き、血糖が動き、炎症が減る。数分でも、体の中では何かが動く。
それでも、観察研究の限界がある

ここは大事なのでもう一度だけ書いておきたい。この研究は、VILPAをやらせてがんが減るかを見た研究ではない。 もともとVILPAが多かった人を追ったら、がんが少なかったという研究だ。がんの場合、特にややこしい。
がんは、見つかるずっと前から静かに育っていることがある。
まだ診断されていないがんが、すでに体力を削っていたとする。
すると、その人は階段を急いで上がらなくなる。 早歩きもしなくなる。 息が上がる動きを避けるようになる。結果として、「VILPAが少ない人にがんが多い」ように見える。つまり、 原因と結果が逆かもしれない。
研究側も、すでにがんがあった人や、ウェアラブル測定後1年以内にがんになった人を除くなど、できる対策はしている³⁾。それでも完全には消せない。
さらに、生活の中で息が上がる動きができる人は、そもそも体力がある。
健康意識も高いかもしれない。食事や睡眠や喫煙も違うかもしれない。
だから、この記事の結論はこうだ。
「VILPAをやればがんが防げる」ではない。
「生活の中にVILPAがある人では、がんが少なかった」だ。
この差は大きい。でも、自分はそれでも十分だと思っている。
階段を少し速く上がるのに、お金はいらない。 ジムもいらない。
特別な道具もいらない。 薬のような副作用もない。
もちろん、心臓病がある人や血圧が高い人が、いきなり全力を出すのは別だからそこは注意がいる。でも多くの人にとって、生活の中にVILPAを足すことは、現実的で、タダで、今日からできる。
そこに意味がありそうなら、やらない理由はあまりない。
じゃあ、何をすればいいか
特別なことはいらない。ゼロを1にする こと。
運動習慣がない人に、いきなり週300分は非現実的すぎる。
でも、1日数分なら話が変わる。
息がかなり上がる。 続けて話すのがきつい。 少し止まって呼吸を整えたくなる。そういう瞬間を、1日に何回か作る。 それだけでいい。
階段や坂道を少し速く上がる
平地を3分だけ少しきついペースで早歩きする
買い物帰りに少しだけ歩くペースを上げる
子どもや犬と、短く本気で遊ぶ
どれも、 ジムに行かなくても着替えなくてもできる。
「全力なんて無理」という人は、速歩からでいい。
3分だけ少し速く歩く。3分ゆっくり歩く。また3分速く歩く。これを繰り返すインターバル速歩でも、太ももの筋力がつき、血圧も下がっていた。やり方はこの記事に書いた。
⚠️ ただし、高強度の運動は全員に安全なわけではない。心臓に持病がある人、血圧が高いままの人、長く運動から離れていた人が、いきなり息が大きく上がる運動をするのは危ない。胸の痛み、強い息切れ、めまい、動悸がある人も同じ。当てはまる人は、まず数週間、早歩きで土台を作ってからにして、不安があれば、主治医に相談してから始めるようにしてください。
エスカレーターではなく階段。 ゆっくり歩きではなく、3分だけ早歩き。
だらだら坂道ではなく、少し息が上がる坂道。
がん予防の運動は、ジムから始めなくていい。
ゼロを1にする。 その1は、たぶん思っているより小さくていい。
まとめ
運動していない成人2.2万人を平均6.7年追うと、1日4.5分ほどのVILPAがある人では、がん全体の発症が約2割、身体活動と関連が深い13種では約3割少なかった
これは観察研究なので、「やればがんが減る」と証明したものではない。
それでも、身体活動とがん予防の関係は1本の論文だけの話ではない。
大腸がんを中心に、かなり強い証拠がある運動習慣がない人に大事なのは、まずゼロを1にすること。
1日に数分、息がしっかり上がる瞬間を作る。そこからでいい
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
1) Stamatakis E, Ahmadi MN, et al. Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity and Cancer Incidence Among Nonexercising Adults: The UK Biobank Accelerometry Study. JAMA Oncol. 2023;9(9):1255-1259. doi:10.1001/jamaoncol.2023.1830
2) Moore SC, Lee IM, Weiderpass E, et al. Association of Leisure-Time Physical Activity With Risk of 26 Types of Cancer in 1.44 Million Adults. JAMA Intern Med. 2016;176(6):816-825. doi:10.1001/jamainternmed.2016.1548
3) World Cancer Research Fund / American Institute for Cancer Research. Be physically active: evidence for our recommendations(physical activity and cancer). wcrf.org(2025更新).
4) Shreves AH, Small SR, Walmsley R, et al. Amount and intensity of daily total physical activity, step count and risk of incident cancer in the UK Biobank. Br J Sports Med. 2025;59(12):839-847. doi:10.1136/bjsports-2024-109360
5) Papadimitriou N, Dimou N, Tsilidis KK, et al. Physical activity and risks of breast and colorectal cancer: a Mendelian randomisation analysis. Nat Commun. 2020;11(1):597. doi:10.1038/s41467-020-14389-8
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