カフカ『変身』は引きこもりや介護の話として読めるし、グレゴール・ザムザが変わったことで、まわりの家族も変わってしまう物語なのである - フランツ・カフカという不条理④
今月のメンバーシップ限定記事では、「フランツ・カフカという不条理」をテーマに分析しています。
初回はフランツ・カフカの人生を振り返り、その面倒臭い性格と第一次世界大戦との独特な距離感について見ていきました。
次に矛盾に満ちたカフカのあり方を確認しました。
生きているときも面倒くさい人だったのに死んでからも面倒くさい存在であり続けるフランツ・カフカ。普通だったらカフカを嫌いになりそうですよね。
ところが親友マックス・ブロートにしても、2回婚約を破棄された運命の恋人フェリーツェにしても、カフカのことを大好きだったっぽい。
なぜ? と驚きつつも、手紙や日記を参照しながらそれぞれの作品を読み解いていくとわかりそうでわからないけど、少しわかるような気がしてきます。加えて、カフカは現代人みたいだなぁと共感の念すら湧いてきます。
なので、ここで目的を変更し、カフカが現代人っぽく見える謎を解明すべく、その作品を掘り下げていくことにしました。前回はそんな陰気な青年カフカが小説家フランツ・カフカに生まれ変わったきっかけの作品『判決』を読み解きました。
そして、今回はそんな小説家カフカの圧倒的な代表作『変身』について、現代の問題をいち早く先どっていた点にも注目しながら見ていきます。
☆『変身』あらすじ
主人公のグレゴール・ザムザは布地を販売する営業マンとして、出張で各地を飛び回りながら、忙しい日々を送っていた。彼の父親はもともと商売をやっていて、社長らしく裕福な暮らしをしていたけれど、景気の波に飲まれ、破産してしまったせいでお金がなくなってしまったのだ。これまで頑張ってきた父親をいまさら外で働かせるのは申し訳ないということで、グレゴール・ザムザは父親と母親と妹、それから二人のメイドで暮らせる部屋を探し、父親がお金を借りていた会社で働き始めた。そのため、借金を返しつつ、家族の生活を維持し、ヴァイオリンが好きな妹を音楽大学に入れるため、グレゴール・ザムザはボロボロになりながら、仕事に一生懸命だった。
ところが、ある朝、目を覚ますと自分が巨大な虫になっていることに彼は気がつく。
物語はここから始まっていきます。
ちなみにこの虫に関して、カフカはめちゃくちゃ曖昧な書き方をしています。
先述の通り原語”Ungeziefer”(ウンゲツィーファー)は、ネズミを想起する可能性が込められているなど、カフカはとにかく虫のビジュアライズを拒否しています。表紙についても虫を書いた最初の案を拒否し、ドアの向こうになにかがいることを暗に匂わせるものへ変更させているほど。
なので映像化は不可能とされ、着ぐるみなどを用いた試みは悉く失敗と酷評されてきました。しかし、2002年、ロシア演劇の芸術監督ワレーリイ・フォーキンは斬新な手法で映画化に成功した点は注目に値します。
その演出はぜひ実際に見て確認してもらいたいのですが、端的に言うなら、人間のままコンテポラリーダンスのように肉体を動かし、虫になったことを表現したのです。これによって人間が虫に変わる滑稽さと悲哀を同時に示すことに成功。着ぐるみやSFXだと恐ろしくなってしまう虫への変身に新たな光を当てました。
閑話休題。
巨大な虫になったグレゴール・ザムザは自分のモゾモゾうごめく無数の足にゾッとしながら、早く出勤しないと会社をクビにされるんじゃないかと焦り始める。だけど、いつもと違う虫の身体は自由に動かず、仕事の不満ばかりが頭に浮かぶ。
ところが時計を見ると6時半だった。遅刻が確定し、今度はどうやって言い訳をすればクビにならないで済むか、あれこれ考えているうちに時間が経ち、両親や妹に心配されてしまう。
巨大な虫となったグレゴール・ザムザを見て、上司は悲鳴をあげて逃げ出し、母親は卒倒し、父親は怒り狂って虫を部屋に戻そうとした。
それからというもの、虫となったグレゴール・ザムザに家族は悩まされるようになる。
両親は虫になったグレゴール・ザムザを気落ち悪がって、部屋に閉じ込め、絶対に出てこれないようにしてしまった。収入源がなくなってしまったので、父親はなんとか外で仕事を探し、母親は内職で裁縫を始め、それぞれ生きるために頑張り始める。メイドの一人は巨大な虫と一つ屋根の下にいることを怖がり、逃げ出してしまった。
結果的に心優しい妹だけが巨大な虫の面倒を見ることになる。食事を用意してあげるも、グレゴール・ザムザは虫になったことで味覚が変わり、これまで好きだった新鮮な野菜や牛乳を嫌がり、腐りかけの野菜やチーズを好んだ。
また、部屋の中をサササッと動き回ることに喜びを感じ、ネバッとした粘液で跡をつけながら、壁や天井を這い回り始めた。その様子を見て、妹はもっと自由に動けるようにしてあげようと、母親の協力を得て、兄の部屋から家具をどかしてあげることに。
最初は喜んでいたグレゴール・ザムザだったが、タンスや机、洋服、思い出の品が運び出されるにつれ、自分が人間だった証拠が失われていくような不安に襲われる。人間だった頃、額縁を自分で作った大好きな絵だけは守りたいと、壁に飾ってある絵に張り付いたところ、その姿を目撃した母親があまりの気持ち悪さに気を失ってしまう。
なお、この絵はマゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』がモチーフという説もあります。カフカはマゾッホが好きだったようで、マゾヒスムの語源になるような世界観にシンパシーを感じていたんだとしたら、カフカの小説に流れる救いのなさにも納得ですね。
さて、そこに仕事終わりの父親が帰ってきて、大騒ぎが起きていることに怒りを爆発、巨大な虫となったグレゴール・ザムザに向かってリンゴを投げつける。
そのうちのひとつが背中に命中。めり込むほどの傷になり、父親はとどめを刺そうとするけれど、母親が「あれは息子なのよ!」と涙ながらに止める。
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