翻訳論からみる谷崎純一郎・三島由紀夫・中村真一郎の『文章読本』(4)翻訳漢語の功罪(2)「関数」と「因数分解」(2)
(↑につづきです)
「関数」は、敗戦後に実施された国語改革以前には「函数」と書かれていました。
国語改革で「函」の字の使用が公的には禁止されたために、その代わりとして同音の「関」の字が当てられたのです。
「函数」はもともと中国生れの言葉で、英語のfunctionの訳語です。
中国語では「函数」を「ファンスー」にあたるような発音をするため、functionとは音が近いということで採用された
ようです[4]。
つまり、
「関」も「数」も、もともとfunctionとは意味的には無関係なのです。
そして種明かしをすれば、
なんと音合わせ、function→「ファンスー」→「函数」→「関数」
というわけでした。

☆☆☆
いっぽう
「因数分解」はといえば、それはfactoringの翻訳語
でした。

そして
「因数」はといえば、それはfactorの翻訳語
でした。
そうです。なんと、あの「ファクター」なのです!

factorはラテン語のfacereを語源とし、もともとは、なにかを作り出す→なにかを引き出すということです。
つまり
「因数分解」とは「それぞれの要素を引き出す」こと
でした。
そしてこの要素を引き出してまとめるという行為は、あらゆる科学の原点でもあります。
「因数分解」とは、じつはその訓練をしていたのです。
☆☆☆
このことを大人になってはじめて知ったとき、わたしは全身から力がすーっと抜けました。
中学生のときにあれほど真剣に悩んだのは、一体なんだったのだろうか。
function→「ファンスー」→「函数」→「関数」だって?
いくらなんでも、それはないだろう!

それだったら、なにも「関数」と書かないで、「カンスウ」でいいじゃないか。
いや、別に「カンスウ」でなくとも、「ファンスー」でも「ファンクション」でもいい。
なんだったら「ハックション」でもいい。
☆☆☆
「因数分解」だって「因数」などと書くから混乱するのであって、「要素」あるいは「ファクター」と書いてくれればいいじゃないか。
そして、それが科学の原点だと一言いってくれれば、少しはやる気もわいたことだろうに……。
そのうちに、なんだか怒りがこみあげてきました。
そして、こう思ったのです。
冗談ではない。
「関数」のために、「因数分解」のために失ってしまった、大切な青春の時間を、そして点数を返せ!
と。
(つづきは↓)
☆☆☆
☆☆☆
「ことさきく|成瀬由紀雄の日英文章・翻訳教室」では、このほかにも日本と日本人、英語・日本語・翻訳その他に関するコンテンツを数多くアップしてあります。総数は1000本を超えています。
いくつものマガジンを設定していますのでぜひチェックしてみてください。
