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スメルジャコフの本音を見事に引き出すドストエフスキー「カラマーゾフを読む」(38)

スメルジャコフの本音を見事に引き出すドストエフスキー「カラマーゾフを読む」(38)

第五編 プロとコントラ 二 ギターを持ったスメルジャコフ

リーズの家を出たアリョーシャは、ドミートリイに会うために例の隠れ家へと向かいました。

しかし、そこで出会ったのは目当てのドミートリイではなく、スメルジャコフでした。しかも彼は女性と一緒にいたのです。そんな二人のやりとりをこっそりと覗き見るアリョーシャ。誰かに見られているなんて想像もしていないスメルジャコフはカラマーゾフ家の面々に見せることのない素の姿を見せることになります。

これもさすがですよね。アリョーシャが偶然そこに居合わせてしまったことで、私たち読者もアリョーシャ視点でスメルジャコフの別の一面を覗くことになるのです。

スメルジャコフとしては不意をつかれたということで不本意でしょうが、彼の本音を自然に引き出すにはこれ以上ない書き方だと私も思います。

それにそもそもですが、この章は本当に必要だったのかということすら私は一瞬考えてしまいました。

なぜなら、この後の章でいよいよイワンとアリョーシャによる宿命的な会話がなされる居酒屋での場面が始まっていきます。話をスムーズにするなら、一気にそこに突入してもよかったのではないかとすら思えるのです。この章では物語を左右するような事件も言葉も出てきません。どちらかと言うと小休止的にすら感じさせられます。

しかし、ドストエフスキーはこの章を現に書いている・・・となればやはりそこに大きな意味があるはずです。

思うに、スメルジャコフの素の一面を読者に見せること。これは大きいですよね。スメルジャコフはカラマーゾフ家の召使としていつもヘコヘコせざるをえませんでしたが、自分を慕う女性の前では随分と気が大きいようです。

これは私たちの世界でもそうですよね。「目上の人に過剰にヘコヘコしている人は、逆に自分より下の人にはきつく当たる」というあれを思い出します。まあ、このスメルジャコフの場合は自分を好いてくれる女性の前ですので一概には言えませんが・・・。

そしてふと漏らした「この世にまるきり生れてこずにすむんだったら、腹の中にいるうちに自殺していたかったですよ」という言葉です。スメルジャコフは自分の生まれだけでなく、このロシアそのものを憎んでいます。その憎しみの深さや源泉をここで私たちは垣間見ることになります。

また、不覚にもくしゃみをしてしまったことでその存在がばれてしまったアリョーシャですが、そのおかげでドミートリイとイワンが居酒屋「都」で会う約束をしていることを聞き出すことに成功します。こうして「意図せず」ドミートリイの行方を知ることができたアリョーシャ。

こうしてアリョーシャは宿命の居酒屋へと向かうことになります。実に自然な流れです。やはりこの章があることで自然とリーザ(ホフラコワ夫人)邸から居酒屋への流れが出来ています。舞台と舞台の「つなぎ」としてこのスメルジャコフの章は実に効果的ということが言えそうです。

しかもそのつなぎを利用してスメルジャコフの新たな一面をこれまた自然に私たちの目の前に見せたのです。これは実に見事な展開です。

そして皆さんは前章で私が覚えておいてくださいと言った言葉を思い出すことができますでしょうか。

答えは「でも僕は、ひょっとすると、神を信じていないかもしれませんよ」という言葉なのですが、意外と思い出せないのではないかと思います。

それもこの章の効果なのではないかと思います。小休止的なこの章のおかげでアリョーシャのあの意味深な言葉がふっとどこかへ行ってしまうのです。

しかしです。次の章ではまさにこのアリョーシャの言葉と対になる言葉がイワンの口から語られることになります。

もしこのスメルジャコフの章がなければすぐにこの対の言葉が出てくることになり、アリョーシャのこの言葉がまだ頭に強く残っている状態でそれを読むことになります。

それはそれでよいのかもしれませんが、「あれ?この言葉って・・・?」と読者の頭にちょっとした混乱を起こすことをドストエフスキーは狙っていたのではないでしょうか。「わかる人にはわかる」、そうした細かいネタをドストエフスキーは施しているのではないかと私は思ってしまったのですがいかがでしょう。皆さんはどう思いますか?

続く

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